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もう一回言ってもらってもいいですか
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ーー居酒屋の外の赤提灯の光が、窓の隙間からこっちの席まで漏れている。俺も山田も酒で赤くなってるのか赤提灯のライトで赤くなってるのかわからない。
酔って境界線がぼやけた俺の視界は、山田の後ろの壁に貼ってある水着のお姉さんのポスターしか見ていなかった。
「そうそう!それでさ、面白いのはここ!その異世界って男しかいないんだぜ。つまりボーイズラブってやつだよな?でも男しかいかなかったら、ボーイズもガールズもないわけだから…ん?あれ?俺何の話してたっけ?」
知らねぇよ。ポスターのお姉さんのおっぱいのことしか考えてなかったから、知らねぇよ。ビール片手に爽やかな笑顔ですね。あ、すみません、生追加で!って何で今思い出すかな俺。こんな大切な事、何で忘れてたかな俺。
「あ、あのぉ…もう一回言ってもらってもいいですか?」
質問しながら、走馬灯のようにあの日のおっぱいを思い出していた。あ、間違えた、山田の言葉を思い出していた。
「リトが説明してくれたような女性というものは、この世界に存在しないよ?」
第二王子の言葉に俺の将来設計図がボロボロと崩れ去っていく。目の前が真っ暗だよ。別にエロハーレムなんてなくていいんだ。そもそも俺、純愛派だし。だけど女の子がいないなら、俺がずっと夢見ていた幸せな結婚生活は何処へ?ご飯にする、お風呂にする、それともわ・た・し?のあの甘い日々は何処へ?地球ではモテた事のない俺だけど、異世界でならと夢見ていた俺可哀想。涙で前が見えないよ。
「そういえば落ち人の文献にそのような記載があったような気がする…」
ロイスは顎に手を当てて思案顔だ。そうなの?もっと前にその話してくれる?
「はい、古い文献に確かに記載されていました。リトの世界では男性という性と女性という性に別れていると」
「レオンハルトが言うのであれば間違いないな」
「ちなみに動物は雄雌と言うそうです」
そうですよね?って感じで俺の同意を求めながらキリッと話してるレオンハルト。いや、動物の事は今はいい!そこじゃない!
ロイスとレオンハルトが二人で女性とはって語り始めたけど、もういいよ。
俺は再び無心になるべく、脳内の彼女達に手を振る。俺のことなんて忘れて幸せになっておくれよ。あ、やっぱりイヤだ!行かないで!可愛い女の子達がさらさらと砂になって消える幻覚を見ている間に、「そんな事より」って俺の今後について三人で話しはじめた。
そんな事とはなんだ!俺にとってはめちゃくちゃ大切な事なんだぞ!
「リトの今後について話しておきたい。来月兄上の婚約披露の舞踏会が開かれる。そこをリトのデビュタントとしたい」
「首尾は整っているのか?」
「ここに来るまで少し時間がかかってしまったのはその為だよ。貴族共の根回しは済んでいる」
「……そいうい所はさすがです」
「レオンハルト、私をお兄様と呼ぶ気に…」
「なってないです」
なになに、これまた不穏なワードが飛び出した。舞踏会?また人見知り発動しそうなワード出てきたじゃん。まだ女の子がいないって事実も受け止めきれてないんだ。やめてよね、もう。
「確か王太子の婚約者は侯爵家の令息だったか?」
令息と聞いて、あぁやっぱりそういう事なんだよなって思う。山田、お前の言ってた通りボーイズラブの世界みたいたぜ、ここ。
「兄上の婚約者はとても嫉妬深い人でね。ハーレム反対派なんだ。だから兄上は婚約者の前ではリトをどすることもできないはずだよ」
ふふっと第二王子が笑いながら言う。今めちゃくちゃ悪い顔になってるよ。怖いんですけど。ロイスとレオンハルトも納得したように頷いた。会話について行けてないのは俺だけか。
「あ、あの第二王子殿下…」
「リト、お願いだ。私のことも名前で呼んで欲しい。せめてこうして私用で会っている時だけでもいいから」
我が儘な子供に言い聞かせるような落ち着いた声が部屋に響く。決して無理強いするような重さはないのに抗えない。これが王族というものだろうか、と俺は震えた。レオンハルトが俺の様子に気づいて、ぎゅっと抱きしめてくる。
「殿下、リトが怯えています」
「ああ、ごめんね。怖がらせるつもりはなかったんだ。愛しい人に囁く方法だけは私もまだ知らないんだ」
第二王子は心底困ったって顔してる。さっきの威圧感が嘘のように消えて、今はただ弱々しい一人の男って感じだ。「でもそうだね…」と静かに目を閉じて、それから視線が真っ直ぐ俺に絡んだ。
「これから私がする事は、王族としては褒められたことではないのだけれど…」
第二王子が俺の前まで来て、そっとレオンハルトから俺を引き離す。最初は抵抗していたレオンハルトだけど、しばらくじっと第二王子と睨み合った後、溜息をついて離れた。なになに?何が始まるの?
「リト…私は王族として、一人の人間として、強くあらねば生きてこられなかった。人に弱さを見せるのは苦手なんだ。それでも愛しい人を怯えさせる人間になるくらいなら、そんな強さはいらないと思っている」
徐に第二王子が跪く。なんか、どこかで見た光景だな。
「「「で、殿下」」」
部屋の隅に控えていた第二王子の護衛らしき騎士達が俄かに慌て出す。それを目線だけで制して、ゆっくりと俺を見上げた。金色の瞳はどこか悲しそうだ。
「ロイスから君の話を聞いて、会う前から守るつもりでいたんだ。でも…信じてもらえないかもしれないけど、会った瞬間に愛しいと思ってしまった。どうか、私にリトの世話役をさせてほしい」
「……はい、わかりました」
気づいたら、そう答えていた。
自分でもちょっとびっくりして、でも戸惑いも逡巡もなかった。それが正しいってはっきり思ったんだ。
「ありがとう…リト。それから出来れば、私も名前で呼ばれたい。砕けた調子で話して欲しい。せめてこうして二人きりの時くらいは…」
「おい、俺達もいるんだが」
ロイスのうんざりした声が聞こえていないかのように、その金色の瞳には俺しか映していない。
「わかり…わかった。公的な場では無理かもしれないけど…オーランド…様…」
「様はいらない」
「…オーランド」
その瞬間、ふわりと花が咲くように微笑んだ。そうすると、すごく幼い顔になるんだな。何の裏表もない子供みたいな無邪気な笑顔だ。
さっきまでの第二王子の笑顔って綺麗な笑顔だけど、貼り付けたみたいにずっと同じでどこか胡散臭く感じてたんだよな。
「オーランド、その笑顔の方がいいな!」
俺の言葉に一瞬目を見開いて、それからすごく情けない顔になった。「君には敵わないな」って頬を掻きながら。あ、また可愛い笑顔だ。こっちがこの人の素なんだな。
「もういいでしょうか」
空気をぶち壊すように、レオンハルトが俺を抱き寄せる。そんなにぎゅっとしがみつかれたら折れる折れる!
「い、痛い!おいレオンハルト、離れろ!」
レオンハルトの胸を押してもぴくりともしないんですけど。レオンハルトは細く見えるけど、実はムキムキなんだよ。くそ、俺だって努力すればこれくらい…あ、駄目だ。一生懸命筋トレしてプロテインがぶ飲みして腹壊した記憶が一瞬で駆け巡った。
おいおい、またむすーんてするんじゃありませんよ、まったく。あ、そうだ、ちゃんと聞いとかないと。
「それであの…舞踏会…とは」
レオンハルトを引き剥がすのは諦めて、そのままの体勢で気になっていた事を聞くことにした。
「君の落ち人としての披露目をどこかでしなければならないからね」
この前セバスチャンにも言われたな。落ち人としてのお披露目ってのがあるって。でも何か理由があって先送りになってたらしい。
「ロイス、王家からも度重なる催促が来ているはずだよ。この辺りが落とし所だろう?」
「ああ…そうだな。王太子が手を出せないうちに動きたい」
ロイスと話し込んでいたオーランドがいい笑顔で振り向き、レオンハルトに抱きつかれたままの俺の手を取る。
「君のエスコートは私がするよ。良い牽制にもなるから了承してほしい」
は、はぁ。俺は大丈夫だけど…ロイスに目線だけで問いかけると、
「…不本意だが、これでも一応王族だからな。それが一番いいだろう」
そっか、じゃあ、そうするよ。俺には難しい事はよくわからない。でもさっきの話聞いてると、三人は王太子って奴を警戒しているようだ。
「リト、正直に迷惑って言っていいんですよ」
「ふふ、レオンハルトはそんなに私にかまわれたいのかな?」
レオンハルトから注がれる冷たい視線も嬉しいとばかりに、オーランドの朗らかな笑い声が響く。
「落ち人の披露目が終われば外出もできるよ。その時は絶対二人でデートしようね」
「え!」
デートはいらないけど、外出できるのは嬉しい。そうなんだよ、王家から落ち人としての正式な発表があるまで、俺は外出禁止なんだ。公爵邸も宮殿みたいに広いから、そんなに困ってなかったけど、やっぱり異世界の街並みとか中二の血が騒ぐよな。どんだけファンタジーな世界なんだろう。楽しみだ。
「二人で行かせるはずがないだろう」
「絶対に二人では行かせません」
ロイスとレオンハルトの不機嫌そうな声が重なる。そうだよな!
「うん!ロイス、レオンハルト、いっぱいお出かけしような!」
俺の言葉に二人は呆れとも喜びともつかない変な表情で頷き返した。
その日はその後みんなでお茶して、俺やレオンハルトに散々絡んで満足したのかオーランドは愉快でたまらないといった様子で城へと戻って行った。台風みたいな人だよな、オーランドって。
レオンハルトとロイスが騎士団の訓練場へ行くと言うので、俺は本を持ってお気に入りの場所へと足を進める。庭園の隅の四阿は今くらいの時間帯すごく綺麗なんだ。石造りの白い屋根に夕日が反射して、オレンジ色に染まってる。柔らかい風が吹いていて、草花の色が濃く見える。
俺、この世界のこと何も知らないんだな。冒険譚とかは読むけどさ、基本的なことが何もわかってないよな。今度セバスチャンに教えてもらおうかな。
今は外出禁止だけど、そのうち仕事見つけて自立だってしたい。やっぱり社会人だった習性なのか、人にお世話になりっぱなしは落ち着かない。お金も少しづつ返したいしな。
四阿の椅子にはいつの間にかクッションが置かれていた。この前はなかったのになと思って寝転がると、自然と瞼が落ちてくる。フリフリのクッション…このセンスはきっとレオンハルトだな。せっせとフリフリクッションを敷き詰めてるレオンハルトを想像して、ふふふと笑いが溢れた。
「リトちゃーん、こんな所で寝たら風邪ひくよぉ?」
この声は誰だろう?眠りに落ちる直前、視界の隅に燃えるような赤い髪が揺れたような気がした。
酔って境界線がぼやけた俺の視界は、山田の後ろの壁に貼ってある水着のお姉さんのポスターしか見ていなかった。
「そうそう!それでさ、面白いのはここ!その異世界って男しかいないんだぜ。つまりボーイズラブってやつだよな?でも男しかいかなかったら、ボーイズもガールズもないわけだから…ん?あれ?俺何の話してたっけ?」
知らねぇよ。ポスターのお姉さんのおっぱいのことしか考えてなかったから、知らねぇよ。ビール片手に爽やかな笑顔ですね。あ、すみません、生追加で!って何で今思い出すかな俺。こんな大切な事、何で忘れてたかな俺。
「あ、あのぉ…もう一回言ってもらってもいいですか?」
質問しながら、走馬灯のようにあの日のおっぱいを思い出していた。あ、間違えた、山田の言葉を思い出していた。
「リトが説明してくれたような女性というものは、この世界に存在しないよ?」
第二王子の言葉に俺の将来設計図がボロボロと崩れ去っていく。目の前が真っ暗だよ。別にエロハーレムなんてなくていいんだ。そもそも俺、純愛派だし。だけど女の子がいないなら、俺がずっと夢見ていた幸せな結婚生活は何処へ?ご飯にする、お風呂にする、それともわ・た・し?のあの甘い日々は何処へ?地球ではモテた事のない俺だけど、異世界でならと夢見ていた俺可哀想。涙で前が見えないよ。
「そういえば落ち人の文献にそのような記載があったような気がする…」
ロイスは顎に手を当てて思案顔だ。そうなの?もっと前にその話してくれる?
「はい、古い文献に確かに記載されていました。リトの世界では男性という性と女性という性に別れていると」
「レオンハルトが言うのであれば間違いないな」
「ちなみに動物は雄雌と言うそうです」
そうですよね?って感じで俺の同意を求めながらキリッと話してるレオンハルト。いや、動物の事は今はいい!そこじゃない!
ロイスとレオンハルトが二人で女性とはって語り始めたけど、もういいよ。
俺は再び無心になるべく、脳内の彼女達に手を振る。俺のことなんて忘れて幸せになっておくれよ。あ、やっぱりイヤだ!行かないで!可愛い女の子達がさらさらと砂になって消える幻覚を見ている間に、「そんな事より」って俺の今後について三人で話しはじめた。
そんな事とはなんだ!俺にとってはめちゃくちゃ大切な事なんだぞ!
「リトの今後について話しておきたい。来月兄上の婚約披露の舞踏会が開かれる。そこをリトのデビュタントとしたい」
「首尾は整っているのか?」
「ここに来るまで少し時間がかかってしまったのはその為だよ。貴族共の根回しは済んでいる」
「……そいうい所はさすがです」
「レオンハルト、私をお兄様と呼ぶ気に…」
「なってないです」
なになに、これまた不穏なワードが飛び出した。舞踏会?また人見知り発動しそうなワード出てきたじゃん。まだ女の子がいないって事実も受け止めきれてないんだ。やめてよね、もう。
「確か王太子の婚約者は侯爵家の令息だったか?」
令息と聞いて、あぁやっぱりそういう事なんだよなって思う。山田、お前の言ってた通りボーイズラブの世界みたいたぜ、ここ。
「兄上の婚約者はとても嫉妬深い人でね。ハーレム反対派なんだ。だから兄上は婚約者の前ではリトをどすることもできないはずだよ」
ふふっと第二王子が笑いながら言う。今めちゃくちゃ悪い顔になってるよ。怖いんですけど。ロイスとレオンハルトも納得したように頷いた。会話について行けてないのは俺だけか。
「あ、あの第二王子殿下…」
「リト、お願いだ。私のことも名前で呼んで欲しい。せめてこうして私用で会っている時だけでもいいから」
我が儘な子供に言い聞かせるような落ち着いた声が部屋に響く。決して無理強いするような重さはないのに抗えない。これが王族というものだろうか、と俺は震えた。レオンハルトが俺の様子に気づいて、ぎゅっと抱きしめてくる。
「殿下、リトが怯えています」
「ああ、ごめんね。怖がらせるつもりはなかったんだ。愛しい人に囁く方法だけは私もまだ知らないんだ」
第二王子は心底困ったって顔してる。さっきの威圧感が嘘のように消えて、今はただ弱々しい一人の男って感じだ。「でもそうだね…」と静かに目を閉じて、それから視線が真っ直ぐ俺に絡んだ。
「これから私がする事は、王族としては褒められたことではないのだけれど…」
第二王子が俺の前まで来て、そっとレオンハルトから俺を引き離す。最初は抵抗していたレオンハルトだけど、しばらくじっと第二王子と睨み合った後、溜息をついて離れた。なになに?何が始まるの?
「リト…私は王族として、一人の人間として、強くあらねば生きてこられなかった。人に弱さを見せるのは苦手なんだ。それでも愛しい人を怯えさせる人間になるくらいなら、そんな強さはいらないと思っている」
徐に第二王子が跪く。なんか、どこかで見た光景だな。
「「「で、殿下」」」
部屋の隅に控えていた第二王子の護衛らしき騎士達が俄かに慌て出す。それを目線だけで制して、ゆっくりと俺を見上げた。金色の瞳はどこか悲しそうだ。
「ロイスから君の話を聞いて、会う前から守るつもりでいたんだ。でも…信じてもらえないかもしれないけど、会った瞬間に愛しいと思ってしまった。どうか、私にリトの世話役をさせてほしい」
「……はい、わかりました」
気づいたら、そう答えていた。
自分でもちょっとびっくりして、でも戸惑いも逡巡もなかった。それが正しいってはっきり思ったんだ。
「ありがとう…リト。それから出来れば、私も名前で呼ばれたい。砕けた調子で話して欲しい。せめてこうして二人きりの時くらいは…」
「おい、俺達もいるんだが」
ロイスのうんざりした声が聞こえていないかのように、その金色の瞳には俺しか映していない。
「わかり…わかった。公的な場では無理かもしれないけど…オーランド…様…」
「様はいらない」
「…オーランド」
その瞬間、ふわりと花が咲くように微笑んだ。そうすると、すごく幼い顔になるんだな。何の裏表もない子供みたいな無邪気な笑顔だ。
さっきまでの第二王子の笑顔って綺麗な笑顔だけど、貼り付けたみたいにずっと同じでどこか胡散臭く感じてたんだよな。
「オーランド、その笑顔の方がいいな!」
俺の言葉に一瞬目を見開いて、それからすごく情けない顔になった。「君には敵わないな」って頬を掻きながら。あ、また可愛い笑顔だ。こっちがこの人の素なんだな。
「もういいでしょうか」
空気をぶち壊すように、レオンハルトが俺を抱き寄せる。そんなにぎゅっとしがみつかれたら折れる折れる!
「い、痛い!おいレオンハルト、離れろ!」
レオンハルトの胸を押してもぴくりともしないんですけど。レオンハルトは細く見えるけど、実はムキムキなんだよ。くそ、俺だって努力すればこれくらい…あ、駄目だ。一生懸命筋トレしてプロテインがぶ飲みして腹壊した記憶が一瞬で駆け巡った。
おいおい、またむすーんてするんじゃありませんよ、まったく。あ、そうだ、ちゃんと聞いとかないと。
「それであの…舞踏会…とは」
レオンハルトを引き剥がすのは諦めて、そのままの体勢で気になっていた事を聞くことにした。
「君の落ち人としての披露目をどこかでしなければならないからね」
この前セバスチャンにも言われたな。落ち人としてのお披露目ってのがあるって。でも何か理由があって先送りになってたらしい。
「ロイス、王家からも度重なる催促が来ているはずだよ。この辺りが落とし所だろう?」
「ああ…そうだな。王太子が手を出せないうちに動きたい」
ロイスと話し込んでいたオーランドがいい笑顔で振り向き、レオンハルトに抱きつかれたままの俺の手を取る。
「君のエスコートは私がするよ。良い牽制にもなるから了承してほしい」
は、はぁ。俺は大丈夫だけど…ロイスに目線だけで問いかけると、
「…不本意だが、これでも一応王族だからな。それが一番いいだろう」
そっか、じゃあ、そうするよ。俺には難しい事はよくわからない。でもさっきの話聞いてると、三人は王太子って奴を警戒しているようだ。
「リト、正直に迷惑って言っていいんですよ」
「ふふ、レオンハルトはそんなに私にかまわれたいのかな?」
レオンハルトから注がれる冷たい視線も嬉しいとばかりに、オーランドの朗らかな笑い声が響く。
「落ち人の披露目が終われば外出もできるよ。その時は絶対二人でデートしようね」
「え!」
デートはいらないけど、外出できるのは嬉しい。そうなんだよ、王家から落ち人としての正式な発表があるまで、俺は外出禁止なんだ。公爵邸も宮殿みたいに広いから、そんなに困ってなかったけど、やっぱり異世界の街並みとか中二の血が騒ぐよな。どんだけファンタジーな世界なんだろう。楽しみだ。
「二人で行かせるはずがないだろう」
「絶対に二人では行かせません」
ロイスとレオンハルトの不機嫌そうな声が重なる。そうだよな!
「うん!ロイス、レオンハルト、いっぱいお出かけしような!」
俺の言葉に二人は呆れとも喜びともつかない変な表情で頷き返した。
その日はその後みんなでお茶して、俺やレオンハルトに散々絡んで満足したのかオーランドは愉快でたまらないといった様子で城へと戻って行った。台風みたいな人だよな、オーランドって。
レオンハルトとロイスが騎士団の訓練場へ行くと言うので、俺は本を持ってお気に入りの場所へと足を進める。庭園の隅の四阿は今くらいの時間帯すごく綺麗なんだ。石造りの白い屋根に夕日が反射して、オレンジ色に染まってる。柔らかい風が吹いていて、草花の色が濃く見える。
俺、この世界のこと何も知らないんだな。冒険譚とかは読むけどさ、基本的なことが何もわかってないよな。今度セバスチャンに教えてもらおうかな。
今は外出禁止だけど、そのうち仕事見つけて自立だってしたい。やっぱり社会人だった習性なのか、人にお世話になりっぱなしは落ち着かない。お金も少しづつ返したいしな。
四阿の椅子にはいつの間にかクッションが置かれていた。この前はなかったのになと思って寝転がると、自然と瞼が落ちてくる。フリフリのクッション…このセンスはきっとレオンハルトだな。せっせとフリフリクッションを敷き詰めてるレオンハルトを想像して、ふふふと笑いが溢れた。
「リトちゃーん、こんな所で寝たら風邪ひくよぉ?」
この声は誰だろう?眠りに落ちる直前、視界の隅に燃えるような赤い髪が揺れたような気がした。
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