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ロイス side
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「あ、この花知ってる!異世界でも咲いてる花は同じなんだな…いや、違う花か?花って見分けつかないよな」
リトは自分では気づいていないようだが、考えてる事が全部顔に出る。ときどき口に出してもいる。
コロコロと表情が変わり目が離せない。夜闇の中でさえ煌めく黒髪に、思わず見惚れてしまった。
黒は人を魅力的に見せる色だ。貴族の中には染粉で髪を黒に染める者もいるが、リトほど見事な黒髪にはならない。
「リトは花に詳しいのか?」
「俺早くに両親を亡くしてばーちゃんに育てられたんだけど、ばーちゃんの趣味が家庭菜園でさ。色んな草育ててたな。庭にいっぱい花咲かせて、花の名前とか花言葉とか嬉しそうに話すんだ」
ふふ、と笑いながらリトが続ける。
「花の世話する時のばーちゃんの背中、めちゃくちゃ丸くなるんだよ。あれ可愛くて好きだったな」
リトの表情が柔らかい。
そうか、リトは祖母君にとても愛されて育ったのだな。
この屋敷にいる人間のほとんどは愛を知らずに育った者達だ。皆多かれ少なかれ心にも体にも癒えぬ傷を抱えてここへ来る。
ここに来た頃のレオンハルトなど酷い状態だった。あれからもう十三年になるんだな。
「それでは、祖母君に会いたいのではないか?」
ううん、と寂しそうに首を振る。
「ばーちゃんももういないんだ。風邪拗らせて死んじゃったから」
「そうか…辛い事を思い出させてしまったな」
でも、と花を眺めていたリトが振り返る。
「ばーちゃんにはいっぱい可愛がってもらった。一緒に美味しいものいっぱい食べれたし、一緒に旅行も行けた。良い思い出がたくさんあって、思い出すだけで笑顔になれるんだ」
だから寂しくないよ、と。
ああ……レオンハルトがリトに強く惹かれるのは、この柔らかい心のせいだろうか。
そして私もまた、彼といると、心に灯る確かな感情がある。そっと、心臓のあたりに手を当てた。
「ばーちゃん、ロイスとかレオンハルト見たらイケメンすぎてひっくり返っちゃうんじゃねぇの」
にしし、とリトが笑う。こちらに顔を向けたまま歩くから、転んでしまわないか心配になる。ああ!ほら、躓いている。リトの腕を支えると、こんなに華奢な男がいるのかと驚く程に細い。力を入れたら折れてしまいそうだ。
「そのイケメンとは何だ?」
「イケメンはかっこいい人って意味だよ」
「かっ…こいい…」
あまりに言われ慣れない言葉に全ての思考が停止する。
落ち人は美醜の感覚がこちらとは違うようだと文献にも記載されていだが、やはりあれは本当だったのだな。
庭の小道をリトと並んで歩く。
リトは醜い私とも当然のように肩を並べて歩いてくれる。それがどれ程嬉しい事か、リトにはわからないだろうな。
「俺、この森にいたんだな…何か不思議な感じがする」
リトの視線の先には西の森がある。
うわぁ夜の森って不気味だよな、と呟く声がする。
「ああ、先程もこの周辺の様子を確認に来ていたんだ」
リトがいたという森の周辺はすでに部下達に調査させている。特に変わった所はないと報告を受けていた。
「そっか、だからロイスはあそこにいたのか。今までもこの森から落ち人が見つかったことあるのか?」
「いや、この西の森で見つかったのはリトが初めてだ。今までの落ち人の情報も詳しくは文献に残されているはずだから、気になるなら調べておくよ」
いや…あのさ、とリトが言いにくそうに口籠る。
何だ?何でも話してほしい。リトのことは何から何まで全て知っておきたいと考える自分に驚く。
「実は俺の友人が、昔この世界に来たことがあったらしくて。そいつも最初は森にいたって話してたから、この森かなって気になって」
それだけ!と笑って話しているが、聞き逃せない情報だ。
リトの友人は落ち人だったのか?リトに話をしたという事は、その友人は元の世界に戻ったということになる。
ーーふと、十年前の式典で見かけた落ち人のことを思い出す。
式典で一度だけ遠くから見ただけだったが……煌びやかな王族達の隣ではなく、壇上の隅の方に無理矢理座らされていて、ひどく顔色が悪かった。
保護した王族達はほとんど世話を使用人に任せて放置していたと知ったのは、彼が元の世界に戻ってしまった後だった。いくら容姿が悪くとも落ち人だ。大切にされているものと思っていたのに。
「それはもしや十年前の落ち人のことか?」
疑問を口にすると、
「あ!そっか、そうかも」
リトは納得したと言う顔で頷いている。
「絵姿が王城に残っているから、今度見せてもらおう」
「うん!」
「その友人は…戻った先で幸せに過ごしているか?」
私の質問にきょとんとなったリトだったが、次の瞬間ふははっと笑って言った。
「幸せかどうかはわからないけど、滅茶苦茶な奴なんで。うん、幸せそうではあったかな」
幸せに過ごせているなら良かったと思う。叶わない願いだが、この世界の人間が彼にしたであろう冷たい仕打ちを、謝りたいとずっと思っていた。
「弟のことだが…バシリオの非礼を詫びる。本当にすまない」
あれは両親に甘やかされて育ったせいか、我儘で傲慢で、醜い者を殊更蔑むような人間になってしまった。
立ち止まって頭を下げる。
「ロイスが悪いわけじゃない。俺も言い過ぎちゃったかなって思うし」
「そんな事はない。リトの言葉はとても嬉しかった。私達をあのように庇ってくれる人は今までいなかったからね」
それに…レオンハルトがリトには笑顔を見せている。それだけでも私はリトに感謝しなければならない。
「レオンハルトのことも礼を言う。あんなに表情豊かなレオンハルトは初めて見た」
え?とリトが首を傾げる。
「レオンハルトはいつも笑顔だよ?」
ふっと体の力が抜けていく。そうか、レオンハルトはリトの前ではいつも笑顔なのか。
「リトに出会うまで、レオンハルトは笑わない人間だったんだよ」
「えぇ、そんなの嘘だぁ」
「レオンハルトの事だが…その…」
レオンハルトの事情を説明しようか迷っていると、リトに止められた。
「あ、言わなくても大丈夫だよ。俺、レオンハルトの事はレオンハルトから聞きたいから」
リトならそう言うと思った。
私は、醜いというだけで虐げられ居場所を無くした者達の受け皿になりたくて、これまでずっと努力してきた。
でも、と思う。でもこれ程誰かを守りたいと思った事があっただろうか。
そっと深呼吸して、膝を折る。
こんな醜い私でも許されるのであればーー。
「リト、改めてお願いしたい。私をあなたの世話役に任命してくれないか?」
声が震える。こんな事は生まれて初めてだ。
見上げると、夜闇の色をした美しい瞳に一人の醜い男が映っていた。情けない顔だな、と思う。
「うん、いいよ。こちらからもよろしくお願いします」
はにかむ笑顔に、ただただ胸が苦しい。
リトを部屋へ送り届けた後、執務室に戻るとすでにセバスチャンがいた。
「リト様はお休みになられましたか」
「やはり知っていたか。ああ、気分転換になったと言っていた」
セバスチャンはどうやっているのか謎なのだが、屋敷内での出来事を全て把握している。まるで見聞きしていたように話すので、子供の頃は戦々恐々としたものだ。
「王家には使いの者を送りました」
「ユアンか?」
「はい、彼が適任かと」
「それでいい」
公爵家の騎士団は表向きの顔で、その実は王家の影として存在している。
ユアンはその影の中でも実力はトップクラス。剣の腕はレオンハルトと同等だが、色んな意味で世慣れしているのはユアンの方だろう。
「リトを王家に渡すつもりはない」
勿論でございます、とセバスチャンが同意を示す。
「リト様は素敵な方ですね」
「ああ」
「ほほほ、レオンハルト様は変わられましたな」
本当にな。訓練場に入ってきたレオンハルトを見た時は心底驚いた。それまで感情の無い人形のようだったレオンハルトが、リトを前にまるで子犬のように戯れついているではないか。
「レオンハルトは、あんな顔で笑えるのだな」
ほほほ、とまたセバスチャンが笑う。
「ロイス様もでございますよ」
やはりセバスチャンには隠せはしないか。思わず苦笑いが漏れる。
「私も初めての感情なんだ。揶揄うのはもう少し待ってくれ」
私の言葉にセバスチャンが抑揚に頷く。
「ようございました。ようございましたな」
だからやめてくれと言っているだろう。まったく。
「……世話役になることを了承してくれた」
少し言い方が素っ気なくなってしまうのは仕方ないだろう。セバスチャンは涙ぐみながら、だが今度は静かに「ようございました」と呟いた。
きっと王家は美しいリトを欲するだろう。今までだって落ち人が現れたら保護という名目で王家に囲い込んできたのだ。あの絶世の美貌を見たらどう動くかなど想像に容易い。
だが世話役の一人は王族から選ばなければ他の貴族連中が黙っていないだろうな。
「王族から世話役を出したがるはずだ。先にあいつに会わせておきたい」
「第二王子殿下ですか?」
「ああ、裏の駆け引きならあいつの得意分野だ。ただ…リトを会わせるのは気が進まないがな」
会わせたら最後、あいつとてリトを求めるようになる。自分がそうだったからわかるのだ。
「ではそのように」
セバスチャンが去り、一人になった執務室で目を閉じる。
これからの事を考えようとするが、思い出すのはリトの事ばかりだ。
明日は仕立て屋が来る。今夜はレオンハルトに役を取られてしまったが、明日は私もリトの身につける物を選びたい。
どんなに気を張っても、顔が緩んでしまう。
『ようございましたな』
どこからかセバスチャンの幻聴が聞こえ、勘弁してくれ、と心の中で独りごちた。
リトは自分では気づいていないようだが、考えてる事が全部顔に出る。ときどき口に出してもいる。
コロコロと表情が変わり目が離せない。夜闇の中でさえ煌めく黒髪に、思わず見惚れてしまった。
黒は人を魅力的に見せる色だ。貴族の中には染粉で髪を黒に染める者もいるが、リトほど見事な黒髪にはならない。
「リトは花に詳しいのか?」
「俺早くに両親を亡くしてばーちゃんに育てられたんだけど、ばーちゃんの趣味が家庭菜園でさ。色んな草育ててたな。庭にいっぱい花咲かせて、花の名前とか花言葉とか嬉しそうに話すんだ」
ふふ、と笑いながらリトが続ける。
「花の世話する時のばーちゃんの背中、めちゃくちゃ丸くなるんだよ。あれ可愛くて好きだったな」
リトの表情が柔らかい。
そうか、リトは祖母君にとても愛されて育ったのだな。
この屋敷にいる人間のほとんどは愛を知らずに育った者達だ。皆多かれ少なかれ心にも体にも癒えぬ傷を抱えてここへ来る。
ここに来た頃のレオンハルトなど酷い状態だった。あれからもう十三年になるんだな。
「それでは、祖母君に会いたいのではないか?」
ううん、と寂しそうに首を振る。
「ばーちゃんももういないんだ。風邪拗らせて死んじゃったから」
「そうか…辛い事を思い出させてしまったな」
でも、と花を眺めていたリトが振り返る。
「ばーちゃんにはいっぱい可愛がってもらった。一緒に美味しいものいっぱい食べれたし、一緒に旅行も行けた。良い思い出がたくさんあって、思い出すだけで笑顔になれるんだ」
だから寂しくないよ、と。
ああ……レオンハルトがリトに強く惹かれるのは、この柔らかい心のせいだろうか。
そして私もまた、彼といると、心に灯る確かな感情がある。そっと、心臓のあたりに手を当てた。
「ばーちゃん、ロイスとかレオンハルト見たらイケメンすぎてひっくり返っちゃうんじゃねぇの」
にしし、とリトが笑う。こちらに顔を向けたまま歩くから、転んでしまわないか心配になる。ああ!ほら、躓いている。リトの腕を支えると、こんなに華奢な男がいるのかと驚く程に細い。力を入れたら折れてしまいそうだ。
「そのイケメンとは何だ?」
「イケメンはかっこいい人って意味だよ」
「かっ…こいい…」
あまりに言われ慣れない言葉に全ての思考が停止する。
落ち人は美醜の感覚がこちらとは違うようだと文献にも記載されていだが、やはりあれは本当だったのだな。
庭の小道をリトと並んで歩く。
リトは醜い私とも当然のように肩を並べて歩いてくれる。それがどれ程嬉しい事か、リトにはわからないだろうな。
「俺、この森にいたんだな…何か不思議な感じがする」
リトの視線の先には西の森がある。
うわぁ夜の森って不気味だよな、と呟く声がする。
「ああ、先程もこの周辺の様子を確認に来ていたんだ」
リトがいたという森の周辺はすでに部下達に調査させている。特に変わった所はないと報告を受けていた。
「そっか、だからロイスはあそこにいたのか。今までもこの森から落ち人が見つかったことあるのか?」
「いや、この西の森で見つかったのはリトが初めてだ。今までの落ち人の情報も詳しくは文献に残されているはずだから、気になるなら調べておくよ」
いや…あのさ、とリトが言いにくそうに口籠る。
何だ?何でも話してほしい。リトのことは何から何まで全て知っておきたいと考える自分に驚く。
「実は俺の友人が、昔この世界に来たことがあったらしくて。そいつも最初は森にいたって話してたから、この森かなって気になって」
それだけ!と笑って話しているが、聞き逃せない情報だ。
リトの友人は落ち人だったのか?リトに話をしたという事は、その友人は元の世界に戻ったということになる。
ーーふと、十年前の式典で見かけた落ち人のことを思い出す。
式典で一度だけ遠くから見ただけだったが……煌びやかな王族達の隣ではなく、壇上の隅の方に無理矢理座らされていて、ひどく顔色が悪かった。
保護した王族達はほとんど世話を使用人に任せて放置していたと知ったのは、彼が元の世界に戻ってしまった後だった。いくら容姿が悪くとも落ち人だ。大切にされているものと思っていたのに。
「それはもしや十年前の落ち人のことか?」
疑問を口にすると、
「あ!そっか、そうかも」
リトは納得したと言う顔で頷いている。
「絵姿が王城に残っているから、今度見せてもらおう」
「うん!」
「その友人は…戻った先で幸せに過ごしているか?」
私の質問にきょとんとなったリトだったが、次の瞬間ふははっと笑って言った。
「幸せかどうかはわからないけど、滅茶苦茶な奴なんで。うん、幸せそうではあったかな」
幸せに過ごせているなら良かったと思う。叶わない願いだが、この世界の人間が彼にしたであろう冷たい仕打ちを、謝りたいとずっと思っていた。
「弟のことだが…バシリオの非礼を詫びる。本当にすまない」
あれは両親に甘やかされて育ったせいか、我儘で傲慢で、醜い者を殊更蔑むような人間になってしまった。
立ち止まって頭を下げる。
「ロイスが悪いわけじゃない。俺も言い過ぎちゃったかなって思うし」
「そんな事はない。リトの言葉はとても嬉しかった。私達をあのように庇ってくれる人は今までいなかったからね」
それに…レオンハルトがリトには笑顔を見せている。それだけでも私はリトに感謝しなければならない。
「レオンハルトのことも礼を言う。あんなに表情豊かなレオンハルトは初めて見た」
え?とリトが首を傾げる。
「レオンハルトはいつも笑顔だよ?」
ふっと体の力が抜けていく。そうか、レオンハルトはリトの前ではいつも笑顔なのか。
「リトに出会うまで、レオンハルトは笑わない人間だったんだよ」
「えぇ、そんなの嘘だぁ」
「レオンハルトの事だが…その…」
レオンハルトの事情を説明しようか迷っていると、リトに止められた。
「あ、言わなくても大丈夫だよ。俺、レオンハルトの事はレオンハルトから聞きたいから」
リトならそう言うと思った。
私は、醜いというだけで虐げられ居場所を無くした者達の受け皿になりたくて、これまでずっと努力してきた。
でも、と思う。でもこれ程誰かを守りたいと思った事があっただろうか。
そっと深呼吸して、膝を折る。
こんな醜い私でも許されるのであればーー。
「リト、改めてお願いしたい。私をあなたの世話役に任命してくれないか?」
声が震える。こんな事は生まれて初めてだ。
見上げると、夜闇の色をした美しい瞳に一人の醜い男が映っていた。情けない顔だな、と思う。
「うん、いいよ。こちらからもよろしくお願いします」
はにかむ笑顔に、ただただ胸が苦しい。
リトを部屋へ送り届けた後、執務室に戻るとすでにセバスチャンがいた。
「リト様はお休みになられましたか」
「やはり知っていたか。ああ、気分転換になったと言っていた」
セバスチャンはどうやっているのか謎なのだが、屋敷内での出来事を全て把握している。まるで見聞きしていたように話すので、子供の頃は戦々恐々としたものだ。
「王家には使いの者を送りました」
「ユアンか?」
「はい、彼が適任かと」
「それでいい」
公爵家の騎士団は表向きの顔で、その実は王家の影として存在している。
ユアンはその影の中でも実力はトップクラス。剣の腕はレオンハルトと同等だが、色んな意味で世慣れしているのはユアンの方だろう。
「リトを王家に渡すつもりはない」
勿論でございます、とセバスチャンが同意を示す。
「リト様は素敵な方ですね」
「ああ」
「ほほほ、レオンハルト様は変わられましたな」
本当にな。訓練場に入ってきたレオンハルトを見た時は心底驚いた。それまで感情の無い人形のようだったレオンハルトが、リトを前にまるで子犬のように戯れついているではないか。
「レオンハルトは、あんな顔で笑えるのだな」
ほほほ、とまたセバスチャンが笑う。
「ロイス様もでございますよ」
やはりセバスチャンには隠せはしないか。思わず苦笑いが漏れる。
「私も初めての感情なんだ。揶揄うのはもう少し待ってくれ」
私の言葉にセバスチャンが抑揚に頷く。
「ようございました。ようございましたな」
だからやめてくれと言っているだろう。まったく。
「……世話役になることを了承してくれた」
少し言い方が素っ気なくなってしまうのは仕方ないだろう。セバスチャンは涙ぐみながら、だが今度は静かに「ようございました」と呟いた。
きっと王家は美しいリトを欲するだろう。今までだって落ち人が現れたら保護という名目で王家に囲い込んできたのだ。あの絶世の美貌を見たらどう動くかなど想像に容易い。
だが世話役の一人は王族から選ばなければ他の貴族連中が黙っていないだろうな。
「王族から世話役を出したがるはずだ。先にあいつに会わせておきたい」
「第二王子殿下ですか?」
「ああ、裏の駆け引きならあいつの得意分野だ。ただ…リトを会わせるのは気が進まないがな」
会わせたら最後、あいつとてリトを求めるようになる。自分がそうだったからわかるのだ。
「ではそのように」
セバスチャンが去り、一人になった執務室で目を閉じる。
これからの事を考えようとするが、思い出すのはリトの事ばかりだ。
明日は仕立て屋が来る。今夜はレオンハルトに役を取られてしまったが、明日は私もリトの身につける物を選びたい。
どんなに気を張っても、顔が緩んでしまう。
『ようございましたな』
どこからかセバスチャンの幻聴が聞こえ、勘弁してくれ、と心の中で独りごちた。
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