3 / 44
俺は落ち人
しおりを挟む
噴水の前まで来ると、レオンハルトが立ち止まる。若干気まずい空気が流れてる。え、この腕外していいの?いいんだよな?
そっとレオンハルトの腕から自分の腕を引き抜くと、目線が残念そうに俺の腕を追いかけてくる。そんなに俺と腕組みたかったのか。
「もしやリト様は……」
気を取り直して俺に視線を合わせた。
「あ、リトでいいよ。様付けられるような人間でもないし、落ち着かない」
あ、もしかしてレオンハルト様って言わないと駄目だったか?
考えてる事が顔に出ていたのか、
「私のことも出来ればこのままレオンハルトと呼んでいただきたいです。レオでも良いです」
と、恥ずかしげに上目遣いで言われる。身長が俺より高いから、なんかよくわからない表情になってるけどな。
だから乙女かって。だんだんこの人が可愛く見えてきた。大きな銀色の犬みたいだ。
「リト…は、もしかして別の世界から来たのでは?」
「え、何でわかったんだ?」
「この世界に黒髪黒目は存在しません。別の世界から来た落ち人のみがその色を纏っています」
落ち人。ーー何か山田がそのようなことを言ってた気がする。
じゃあ、この世界では俺目立つ存在なの?脱平凡?
「へえ。じゃあ、黒髪黒目って俺だけなのか?」
「いえ、染粉で黒く染めている者も少数ですがいます。黒は高貴な色なので」
駄目じゃねーか。
「じゃあ、何で俺が別の世界から来たって思ったの?」
それはその……と一瞬口籠もり、
「私のような醜男にも優しく接してくださるからです。別の世界から来た人間は醜い者にも寛大だと文献で読んでいたので。落ち人に直接お会いできたのはこれが初めてですが…そうではないかと」
なるほど……。俺はここでひとつ重大な事実を忘れていた事に気づいた。
ーーあの日山田は何と言っていた?
『そこではさ、美醜の感覚っての?それがこっちの世界とは逆でさ、俺みたいなはっきりした濃い顔のイケメンは不細工だったんだよ』
思い出した!山田がイケメンじゃないってことだ。いや、違う。そう、美醜の感覚が俺たちとは違うってこと。
異世界では濃い顔が不細工で、薄い顔がイケメンってことだったか?
……あー、だから俺美しい人とか言われてんの?何それ、意味わからなすぎて笑うしかないんですけど。
山田は他に何を話してた?よく思い出せない。くそっ、もっとよく聞いときゃ良かったぜ!くそっ。山田くそっ。
「もっとも、リトのように美しい落ち人はいなかったはずです」
ううっ……。その美しいって響きが自分に向けられるのは慣れない。しかもそれを目の前の彫刻のように完璧な顔の男に言われるのは尚更居た堪れない気分になる。だって俺だぜ?
「リト、お願いがあります」
はい、何でしょうか。美しい以外の言葉が聞きたくて頷く。
徐にレオンハルトが跪いた。はい?何これプロポーズ?
「どうか私をあなたの世話役に任命して欲しいのです」
「世話役?」
「はい、落ち人は国で丁重に保護されます。出来るだけ早くこの世界に馴染んでいただけるよう、落ち人には数人の世話係が付けられます」
なるほど。俺、捕まるんじゃなくて保護されるってことね。そういえばさっきもレオンハルトが保護するって言ってたな。
俺が考え事をしてたからか「やはり私のような醜い男では…」と言い出したレオンハルト。
「俺、レオンハルトのこと醜いなんて思ってないよ」
「リトは本当にお優しいのですね」
いや、本当に思ってないんだけど、何故か感激されてる。俺の言葉を一ミリも信じてない感じだ。
レオンハルトのこの態度や、山田が言ってた事を総合して考えてみる。本当にこの世界では地球と美醜の感覚が違うんだな。
「俺は本当にレオンハルトを醜いと思ってない。むしろかっこいいって思ってる」
「かっ、かっこいい……」
「うん。この銀色の髪も、月の光を集めた糸みたいでめちゃくちゃ綺麗じゃん」
さらさらと風に靡く長い髪を一房取って指で梳く。指通りなめらか。シャンプーのモデルでも出来るんじゃないの?
「ありがとう…ございます…」
今にも泣きそうな笑顔だ。今日何度この笑顔を見ただろう?
俺は特別なことなんて何もしてない。ただ、普通に接していただけなのに、レオンハルトはそれをこんなに喜んでる。
この優しい人は、今までどれだけひどい扱いを受けてきたんだろう。
「その世話役ってのにレオンハルトを指名したら、ずっと一緒にいられるのか?」
「はいっ。ずっとお側でリトをお守りします。この命にかえても」
「命はいらねーよ」
俺が言うと、レオンハルトはびくりと怯えたように体を強張らせた。
「生きててくれないと困る。ずっと一緒にいてくれんだろ?」
「…っ。はいっ」
俺さ、健気な生き物に弱いんだよ。特に犬。犬ってまあ性格にもよるけど、たいてい健気じゃん。一生懸命尻尾振って愛想振り撒いてかまってもらおうとするじゃん。
そういうのに、弱いんだよなぁ……。ほっとけなくなるっていうかさ。
だから、レオンハルトのことも、俺がこの世界にいられる間はずっと面倒見ようと思った。
まぁ、おそらく実際に面倒見られるのは俺の方なんだけどさ。
そっとレオンハルトの腕から自分の腕を引き抜くと、目線が残念そうに俺の腕を追いかけてくる。そんなに俺と腕組みたかったのか。
「もしやリト様は……」
気を取り直して俺に視線を合わせた。
「あ、リトでいいよ。様付けられるような人間でもないし、落ち着かない」
あ、もしかしてレオンハルト様って言わないと駄目だったか?
考えてる事が顔に出ていたのか、
「私のことも出来ればこのままレオンハルトと呼んでいただきたいです。レオでも良いです」
と、恥ずかしげに上目遣いで言われる。身長が俺より高いから、なんかよくわからない表情になってるけどな。
だから乙女かって。だんだんこの人が可愛く見えてきた。大きな銀色の犬みたいだ。
「リト…は、もしかして別の世界から来たのでは?」
「え、何でわかったんだ?」
「この世界に黒髪黒目は存在しません。別の世界から来た落ち人のみがその色を纏っています」
落ち人。ーー何か山田がそのようなことを言ってた気がする。
じゃあ、この世界では俺目立つ存在なの?脱平凡?
「へえ。じゃあ、黒髪黒目って俺だけなのか?」
「いえ、染粉で黒く染めている者も少数ですがいます。黒は高貴な色なので」
駄目じゃねーか。
「じゃあ、何で俺が別の世界から来たって思ったの?」
それはその……と一瞬口籠もり、
「私のような醜男にも優しく接してくださるからです。別の世界から来た人間は醜い者にも寛大だと文献で読んでいたので。落ち人に直接お会いできたのはこれが初めてですが…そうではないかと」
なるほど……。俺はここでひとつ重大な事実を忘れていた事に気づいた。
ーーあの日山田は何と言っていた?
『そこではさ、美醜の感覚っての?それがこっちの世界とは逆でさ、俺みたいなはっきりした濃い顔のイケメンは不細工だったんだよ』
思い出した!山田がイケメンじゃないってことだ。いや、違う。そう、美醜の感覚が俺たちとは違うってこと。
異世界では濃い顔が不細工で、薄い顔がイケメンってことだったか?
……あー、だから俺美しい人とか言われてんの?何それ、意味わからなすぎて笑うしかないんですけど。
山田は他に何を話してた?よく思い出せない。くそっ、もっとよく聞いときゃ良かったぜ!くそっ。山田くそっ。
「もっとも、リトのように美しい落ち人はいなかったはずです」
ううっ……。その美しいって響きが自分に向けられるのは慣れない。しかもそれを目の前の彫刻のように完璧な顔の男に言われるのは尚更居た堪れない気分になる。だって俺だぜ?
「リト、お願いがあります」
はい、何でしょうか。美しい以外の言葉が聞きたくて頷く。
徐にレオンハルトが跪いた。はい?何これプロポーズ?
「どうか私をあなたの世話役に任命して欲しいのです」
「世話役?」
「はい、落ち人は国で丁重に保護されます。出来るだけ早くこの世界に馴染んでいただけるよう、落ち人には数人の世話係が付けられます」
なるほど。俺、捕まるんじゃなくて保護されるってことね。そういえばさっきもレオンハルトが保護するって言ってたな。
俺が考え事をしてたからか「やはり私のような醜い男では…」と言い出したレオンハルト。
「俺、レオンハルトのこと醜いなんて思ってないよ」
「リトは本当にお優しいのですね」
いや、本当に思ってないんだけど、何故か感激されてる。俺の言葉を一ミリも信じてない感じだ。
レオンハルトのこの態度や、山田が言ってた事を総合して考えてみる。本当にこの世界では地球と美醜の感覚が違うんだな。
「俺は本当にレオンハルトを醜いと思ってない。むしろかっこいいって思ってる」
「かっ、かっこいい……」
「うん。この銀色の髪も、月の光を集めた糸みたいでめちゃくちゃ綺麗じゃん」
さらさらと風に靡く長い髪を一房取って指で梳く。指通りなめらか。シャンプーのモデルでも出来るんじゃないの?
「ありがとう…ございます…」
今にも泣きそうな笑顔だ。今日何度この笑顔を見ただろう?
俺は特別なことなんて何もしてない。ただ、普通に接していただけなのに、レオンハルトはそれをこんなに喜んでる。
この優しい人は、今までどれだけひどい扱いを受けてきたんだろう。
「その世話役ってのにレオンハルトを指名したら、ずっと一緒にいられるのか?」
「はいっ。ずっとお側でリトをお守りします。この命にかえても」
「命はいらねーよ」
俺が言うと、レオンハルトはびくりと怯えたように体を強張らせた。
「生きててくれないと困る。ずっと一緒にいてくれんだろ?」
「…っ。はいっ」
俺さ、健気な生き物に弱いんだよ。特に犬。犬ってまあ性格にもよるけど、たいてい健気じゃん。一生懸命尻尾振って愛想振り撒いてかまってもらおうとするじゃん。
そういうのに、弱いんだよなぁ……。ほっとけなくなるっていうかさ。
だから、レオンハルトのことも、俺がこの世界にいられる間はずっと面倒見ようと思った。
まぁ、おそらく実際に面倒見られるのは俺の方なんだけどさ。
930
お気に入りに追加
1,582
あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
第12回BL小説大賞に参加中!
よろしくお願いします🙇♀️

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる