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俺は落ち人
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噴水の前まで来ると、レオンハルトが立ち止まる。若干気まずい空気が流れてる。え、この腕外していいの?いいんだよな?
そっとレオンハルトの腕から自分の腕を引き抜くと、目線が残念そうに俺の腕を追いかけてくる。そんなに俺と腕組みたかったのか。
「もしやリト様は……」
気を取り直して俺に視線を合わせた。
「あ、リトでいいよ。様付けられるような人間でもないし、落ち着かない」
あ、もしかしてレオンハルト様って言わないと駄目だったか?
考えてる事が顔に出ていたのか、
「私のことも出来ればこのままレオンハルトと呼んでいただきたいです。レオでも良いです」
と、恥ずかしげに上目遣いで言われる。身長が俺より高いから、なんかよくわからない表情になってるけどな。
だから乙女かって。だんだんこの人が可愛く見えてきた。大きな銀色の犬みたいだ。
「リト…は、もしかして別の世界から来たのでは?」
「え、何でわかったんだ?」
「この世界に黒髪黒目は存在しません。別の世界から来た落ち人のみがその色を纏っています」
落ち人。ーー何か山田がそのようなことを言ってた気がする。
じゃあ、この世界では俺目立つ存在なの?脱平凡?
「へえ。じゃあ、黒髪黒目って俺だけなのか?」
「いえ、染粉で黒く染めている者も少数ですがいます。黒は高貴な色なので」
駄目じゃねーか。
「じゃあ、何で俺が別の世界から来たって思ったの?」
それはその……と一瞬口籠もり、
「私のような醜男にも優しく接してくださるからです。別の世界から来た人間は醜い者にも寛大だと文献で読んでいたので。落ち人に直接お会いできたのはこれが初めてですが…そうではないかと」
なるほど……。俺はここでひとつ重大な事実を忘れていた事に気づいた。
ーーあの日山田は何と言っていた?
『そこではさ、美醜の感覚っての?それがこっちの世界とは逆でさ、俺みたいなはっきりした濃い顔のイケメンは不細工だったんだよ』
思い出した!山田がイケメンじゃないってことだ。いや、違う。そう、美醜の感覚が俺たちとは違うってこと。
異世界では濃い顔が不細工で、薄い顔がイケメンってことだったか?
……あー、だから俺美しい人とか言われてんの?何それ、意味わからなすぎて笑うしかないんですけど。
山田は他に何を話してた?よく思い出せない。くそっ、もっとよく聞いときゃ良かったぜ!くそっ。山田くそっ。
「もっとも、リトのように美しい落ち人はいなかったはずです」
ううっ……。その美しいって響きが自分に向けられるのは慣れない。しかもそれを目の前の彫刻のように完璧な顔の男に言われるのは尚更居た堪れない気分になる。だって俺だぜ?
「リト、お願いがあります」
はい、何でしょうか。美しい以外の言葉が聞きたくて頷く。
徐にレオンハルトが跪いた。はい?何これプロポーズ?
「どうか私をあなたの世話役に任命して欲しいのです」
「世話役?」
「はい、落ち人は国で丁重に保護されます。出来るだけ早くこの世界に馴染んでいただけるよう、落ち人には数人の世話係が付けられます」
なるほど。俺、捕まるんじゃなくて保護されるってことね。そういえばさっきもレオンハルトが保護するって言ってたな。
俺が考え事をしてたからか「やはり私のような醜い男では…」と言い出したレオンハルト。
「俺、レオンハルトのこと醜いなんて思ってないよ」
「リトは本当にお優しいのですね」
いや、本当に思ってないんだけど、何故か感激されてる。俺の言葉を一ミリも信じてない感じだ。
レオンハルトのこの態度や、山田が言ってた事を総合して考えてみる。本当にこの世界では地球と美醜の感覚が違うんだな。
「俺は本当にレオンハルトを醜いと思ってない。むしろかっこいいって思ってる」
「かっ、かっこいい……」
「うん。この銀色の髪も、月の光を集めた糸みたいでめちゃくちゃ綺麗じゃん」
さらさらと風に靡く長い髪を一房取って指で梳く。指通りなめらか。シャンプーのモデルでも出来るんじゃないの?
「ありがとう…ございます…」
今にも泣きそうな笑顔だ。今日何度この笑顔を見ただろう?
俺は特別なことなんて何もしてない。ただ、普通に接していただけなのに、レオンハルトはそれをこんなに喜んでる。
この優しい人は、今までどれだけひどい扱いを受けてきたんだろう。
「その世話役ってのにレオンハルトを指名したら、ずっと一緒にいられるのか?」
「はいっ。ずっとお側でリトをお守りします。この命にかえても」
「命はいらねーよ」
俺が言うと、レオンハルトはびくりと怯えたように体を強張らせた。
「生きててくれないと困る。ずっと一緒にいてくれんだろ?」
「…っ。はいっ」
俺さ、健気な生き物に弱いんだよ。特に犬。犬ってまあ性格にもよるけど、たいてい健気じゃん。一生懸命尻尾振って愛想振り撒いてかまってもらおうとするじゃん。
そういうのに、弱いんだよなぁ……。ほっとけなくなるっていうかさ。
だから、レオンハルトのことも、俺がこの世界にいられる間はずっと面倒見ようと思った。
まぁ、おそらく実際に面倒見られるのは俺の方なんだけどさ。
そっとレオンハルトの腕から自分の腕を引き抜くと、目線が残念そうに俺の腕を追いかけてくる。そんなに俺と腕組みたかったのか。
「もしやリト様は……」
気を取り直して俺に視線を合わせた。
「あ、リトでいいよ。様付けられるような人間でもないし、落ち着かない」
あ、もしかしてレオンハルト様って言わないと駄目だったか?
考えてる事が顔に出ていたのか、
「私のことも出来ればこのままレオンハルトと呼んでいただきたいです。レオでも良いです」
と、恥ずかしげに上目遣いで言われる。身長が俺より高いから、なんかよくわからない表情になってるけどな。
だから乙女かって。だんだんこの人が可愛く見えてきた。大きな銀色の犬みたいだ。
「リト…は、もしかして別の世界から来たのでは?」
「え、何でわかったんだ?」
「この世界に黒髪黒目は存在しません。別の世界から来た落ち人のみがその色を纏っています」
落ち人。ーー何か山田がそのようなことを言ってた気がする。
じゃあ、この世界では俺目立つ存在なの?脱平凡?
「へえ。じゃあ、黒髪黒目って俺だけなのか?」
「いえ、染粉で黒く染めている者も少数ですがいます。黒は高貴な色なので」
駄目じゃねーか。
「じゃあ、何で俺が別の世界から来たって思ったの?」
それはその……と一瞬口籠もり、
「私のような醜男にも優しく接してくださるからです。別の世界から来た人間は醜い者にも寛大だと文献で読んでいたので。落ち人に直接お会いできたのはこれが初めてですが…そうではないかと」
なるほど……。俺はここでひとつ重大な事実を忘れていた事に気づいた。
ーーあの日山田は何と言っていた?
『そこではさ、美醜の感覚っての?それがこっちの世界とは逆でさ、俺みたいなはっきりした濃い顔のイケメンは不細工だったんだよ』
思い出した!山田がイケメンじゃないってことだ。いや、違う。そう、美醜の感覚が俺たちとは違うってこと。
異世界では濃い顔が不細工で、薄い顔がイケメンってことだったか?
……あー、だから俺美しい人とか言われてんの?何それ、意味わからなすぎて笑うしかないんですけど。
山田は他に何を話してた?よく思い出せない。くそっ、もっとよく聞いときゃ良かったぜ!くそっ。山田くそっ。
「もっとも、リトのように美しい落ち人はいなかったはずです」
ううっ……。その美しいって響きが自分に向けられるのは慣れない。しかもそれを目の前の彫刻のように完璧な顔の男に言われるのは尚更居た堪れない気分になる。だって俺だぜ?
「リト、お願いがあります」
はい、何でしょうか。美しい以外の言葉が聞きたくて頷く。
徐にレオンハルトが跪いた。はい?何これプロポーズ?
「どうか私をあなたの世話役に任命して欲しいのです」
「世話役?」
「はい、落ち人は国で丁重に保護されます。出来るだけ早くこの世界に馴染んでいただけるよう、落ち人には数人の世話係が付けられます」
なるほど。俺、捕まるんじゃなくて保護されるってことね。そういえばさっきもレオンハルトが保護するって言ってたな。
俺が考え事をしてたからか「やはり私のような醜い男では…」と言い出したレオンハルト。
「俺、レオンハルトのこと醜いなんて思ってないよ」
「リトは本当にお優しいのですね」
いや、本当に思ってないんだけど、何故か感激されてる。俺の言葉を一ミリも信じてない感じだ。
レオンハルトのこの態度や、山田が言ってた事を総合して考えてみる。本当にこの世界では地球と美醜の感覚が違うんだな。
「俺は本当にレオンハルトを醜いと思ってない。むしろかっこいいって思ってる」
「かっ、かっこいい……」
「うん。この銀色の髪も、月の光を集めた糸みたいでめちゃくちゃ綺麗じゃん」
さらさらと風に靡く長い髪を一房取って指で梳く。指通りなめらか。シャンプーのモデルでも出来るんじゃないの?
「ありがとう…ございます…」
今にも泣きそうな笑顔だ。今日何度この笑顔を見ただろう?
俺は特別なことなんて何もしてない。ただ、普通に接していただけなのに、レオンハルトはそれをこんなに喜んでる。
この優しい人は、今までどれだけひどい扱いを受けてきたんだろう。
「その世話役ってのにレオンハルトを指名したら、ずっと一緒にいられるのか?」
「はいっ。ずっとお側でリトをお守りします。この命にかえても」
「命はいらねーよ」
俺が言うと、レオンハルトはびくりと怯えたように体を強張らせた。
「生きててくれないと困る。ずっと一緒にいてくれんだろ?」
「…っ。はいっ」
俺さ、健気な生き物に弱いんだよ。特に犬。犬ってまあ性格にもよるけど、たいてい健気じゃん。一生懸命尻尾振って愛想振り撒いてかまってもらおうとするじゃん。
そういうのに、弱いんだよなぁ……。ほっとけなくなるっていうかさ。
だから、レオンハルトのことも、俺がこの世界にいられる間はずっと面倒見ようと思った。
まぁ、おそらく実際に面倒見られるのは俺の方なんだけどさ。
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