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銀色の騎士

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 山田許すまじ!と理不尽な怒りでずんずん森の中を進む。森を舐めるなって誰かが言ってたけど、俺こんな軽装で大丈夫かよ。ジーパンにTシャツで、持ち物はなし。
 でも思いのほかあっさり外に出れた。森って思ってたけど、目の前には宮殿かよってつっこみたくなるくらいの豪華な屋敷があった。どうやら森だと思っていた場所はどこかの豪邸の私有地だったらしい。

「……そこにいるのは誰だ?」

 うわ、俺速攻で見つかってんじゃん。

「いや、道に迷ってしまって…気づいたらこんな所にいて」

 しどろもどろになりながら振り向くと、目の前にはすごいイケメンがいた。なんて言うか、地球のアイドルや俳優なんて足元にも及ばないくらいのイケメン。彫刻みたい。え、彫刻じゃないよね?生きてるよね?

「なっ……!」

 何故か目の前のイケメンがめちゃくちゃ驚いてる。いや、何?俺怒られるの苦手だから、あんまり怖い顔で睨まないでよね。
 それにしても銀髪……それ地毛?腰まで伸ばした銀髪がガーデンライトのオレンジの光を反射してる。

「「綺麗……」」

ん?

「「え?」」

 二人の声が二度重なる。いや、そっちが綺麗なのは悔しいけど認めるよ。思わずこの俺が乙女みたいに「綺麗…」とかぽーっと呟いちゃったくらいにはな!恥ずかしい!
 
 でも俺が綺麗はない。自慢じゃないけど、俺の顔ってトップオブ平凡だ。『菅原君て会った一分後にはどんな顔してたっけ?ってなるよね』と大学時代の淡い片思い相手のりかちゃんから言われたくらいには顔が薄い。一応二重なんだけど細い目も鼻も口も全ての作りが小さく薄ぼんやりしてる。一応パーツは整ってるんだ。悲しくなんかないぞ。
 自分で言いたくないけど、綺麗なんてこれまで生きてきた二十五年間で一度も言われた事ない。

「き、綺麗なのは其方かと……」

 そ、そなた⁉︎そんな呼ばれ方はじめてされたんだけど。やめて欲しい、其方とか言われるのゾワゾワする。痒くなるわ。

「あの、俺、菅原凛人って言います」
「スガワラリト。美しい響きですね」

 何でだよ。

「あ、名前はリト…です」

 リト……と俺の名前を噛み締めるように呟いたイケメン。紫色の瞳なんて初めて見た。透き通ってて、こんな宝石あったよなって思う。朝の情報番組でちらっとやってた誕生石特集でこんなやつ見た気がする。

「先に名乗らせてしまい失礼しました。私の名前はレオンハルト・デヴァリオンと申します」

 すごい名前だな。まあ似合ってるけど。

「美しい人…ここは公爵家の私有地です。私はあなたを連行せねばなりません。職務ですから…くっ!」

 いや、そんな辛そうにしなくていいですよ。不法侵入してるのは俺なのに、何でこの人は苦渋の決断みたいな顔してんの。アニメなら四つん這いになって両手を地面に打ち付けてそう。あと俺美しい人じゃないから。

「いや、迷い込んじゃったのは俺の方なんで。何かすみません」
「心まで美しいとはっ!くっ!」

 だからそれやめろ。くっ!をやめろ。

 いいからいいからと何故か俺が先に歩いて、さっきレオンハルトが来た方向へ向かう。
 慌てて後ろをついてくるレオンハルトはちらちらとおれの横顔を見てくる。何でちょっともじもじしてんだよ。乙女かよ。

「おいバケモノ!どこへ行っていた!」

 え、バケモノ?そこまで言う事なくない?俺だってちょっとは傷つくんだからな。

「……見回りをしていた」
「はっ見回りねえ。バケモノの分際でさぼってたんじゃねーだろーな」

 え、もしかしてさっきからバケモノってレオンハルトの事言ってる?この国宝級のイケメンに?何こいつ頭おかしいの?目ついてる?あ、ついてたわ。俺ほどではないが小さい目が。
 顔も俺ほどではないが普通なのに、何でこんなに偉そうなんだ。
 じろじろ観察してたら、その偉そうな奴がこちらを見て小さい目を見開いた。無駄に青色の瞳をしてやがる。

「なっ!何だこの美しい人は!」

 またこれだ。もしかして美しい人って何かの造語なわけ?美しい人と書いて怪しい奴と読むとか、そんな感じ?
 この世界の言葉は異国の言葉の響きなんだけど、不思議と俺にもわかるし、話すこともできる。もしかして翻訳機能バグってるのかも。

「道に迷った彼を保護した。団長の所へは私が案内する」

 レオンハルトが俺を庇うように一歩前に出る。俺より頭二つ分くらい背の高いレオンハルトにすっぽりと隠されてしまう。

「お前のようなバケモノが美しい人に近づくな!」

 がっと音がした。何が起こったのか広い背中で見えなかったけど、たぶん嫌な奴がレオンハルトの事殴ったんだ。
 慌ててレオンハルトの腕を引いて顔をこちらに向かせる。本人は殴られてもまったく動じてないけど俺が動揺してる。頬が赤くなってる……。何これすごい理不尽じゃん。何か知らないけど、何だよこいつさっきから。

「レオンハルト大丈夫か?」

 殴られた頬を手で包み込む。痛そうだ。

「リト様……」

 レオンハルトの顔がさっと赤くなる。乙女かよ。

「顔、早く冷やさないと」
「大丈夫です。これくらい痛くも痒くもありません」

 なっ!と嫌な奴が何か言いかけるのを制するように、レオンハルトが向き直る。

「彼は私が保護しました。その時の状況も説明が必要です。私がお連れします」

 また何か言われる前にと二人で歩き出す。あいつ嫌いだ。敵認定だ。

「お、お待ちください、美しい人!そのような醜い者に連れられさぞご不快でしたでしょう。私があなたを」

「結構です。俺もレオンハルトに連れてってもらいたいので」

 相手が言い終わる前にはっきりと伝えると、レオンハルトが息を呑むのがわかった。嫌な奴も口をぱくぱくとさせて信じられない者を見る目でこちらを凝視してる。

「レオンハルト、連れてってくれ」

 今から牢屋に入れられるかもしれないのに可笑しな話だけど、何故かこの時はとにかくレオンハルトを特別扱いしてやりたかった。
 ぎゅっとレオンハルトの腕を掴んでしがみつく。
 レオンハルトは真っ赤な顔でコクコクと頷き、「こちらでしゅ…」と俺をエスコートするみたいに恭しく歩き出した。

 山田相手なら噛んでるやないかーいって茶化したけど、俺女かよーって腕を振り解いたかもしれないけど、見上げたレオンハルトの瞳が濡れてるみたいに見えて、俺も黙って従った。


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