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番外編3

ある日の二人4

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「……!?」
 身体の奥底から、俺の全てを支配する勢いで激しい欲望が生まれ、満ちてゆく。
(早くっ、これが欲しい、挿れて、メチャクチャに突いて欲しい……っ)
 その謎の感情の爆発に驚愕して、ブルブルっと首を振った。
 待て待て待て!
 これは渚じゃない、渚じゃないはずなのにどうしてだよっ……!?
 でも、血液が沸騰するみたいに、俺の全部が狂っていく。
 ――自分を裏切る昂りに愕然とするうちに、背後の男が、ヌメヌメした雄の切っ先を俺のナカに深くねじこんできた。
「ンふぅう……っ!」
 口を塞ぐ指の間から、だらしなくトロけた俺の喘ぎ声が漏れる。
 強く淫らな圧迫感と共に押し入ったその形は、明らかに犬獣人のモノで、既に準備が出来上がっていたのか、バキバキに硬くて熱い。
 そして俺のアナルはと言えば、熱く潤みきり、心理的抵抗とは裏腹に、嬉々としてペニスを根本まで受け入れてしまっていた。
(嘘だろっ、何でこんな……っ!)
 悔しくて情けなくて、泣きそうになる。
 いや、泣いてる場合じゃねえ、早く外さないと、亀頭球が膨れて中出しされる……!
 暴れてどうにか結合している下半身を離そうとするのに、男の太い腕はがっちりと俺の腰をホールドしていてビクともしない。
 絶望感と共に、背後で遂に獣人が腰を俺の尻にズプンと打ち付け始めた。
 最初の何度かの往復こそ、ヒクつく俺の中をゆっくりと味わうような動きで。
 けれどそれはすぐに、犬獣人独特の超絶に速い腰使いに変化して――。
「んくぅ……っ、ンふんんん……ッ!」
(やばい、この感じっ、渚とおなじっ……!)
 子宮を突き上げられる久々の快楽を、欲求不満の身体にこれでもかという程に味わわされて、俺の中から理性が消しとばされてゆく。
 気持ちいい、もっと欲しい、このまま最後まで――ナカにたっぷり出して……。
「ンッ、んくっ、ふっ」
 背中を仰け反らせ、俺の中を犯し尽くそうとするペニスを無意識に強く締め上げる。
 すると、俺の口を塞いでいた大きな手が外れた。
「ぷはぁっ……っ!」
 ――せっかく口が自由になったのに、俺の喉から溢れたのは、エッチな喘ぎ声ばかりで。
「あはぁっ、……奥っ……当たってっ、んあっ、そんな突いたらあっ、気持ちい……ァっ……!」
 背後の獣人が、応えるようにグルルルル、フーッ、フーッと切羽詰まった唸りを返す。
 あぁ、これヤバいっ、多分こいつっ、もうすぐ……っ!
 なけなしの理性を取り戻し、腰をひねって逃げようとした瞬間、獣人の毛むくじゃらの手が俺のブルブル上下していたペニスを握り、腰に回っていたもう片方の腕が胸のあたりにずりあがった。
「んふぁ……っ」
 驚く間も無く、先走りでトロトロになっていたちんぽが硬い肉球で挟まれるみたいに扱かれ始め、腰がガクガクと揺れ、全身が激しい快楽に支配される。
 同時に腫れぼったい乳首も引っ張ってもてあそばれ、そこと直結してるみたいにアナルがヒクヒク男を搾り上げてしまう。
 イヤなはずなのに、前も後ろも強姦魔に激しくジュポジュポ犯されて、もう一瞬も我慢できない。
 迫り上がる絶頂感が下腹の奥で爆発して、物欲しげに男を締め上げてしまう痙攣がついに始まった。
「んはぁっ、……イク、っ……イってる……っ、もっ、むりっ、許し……っ」
 言葉だけの拒絶は虚しく無視されて、淫乱にうねり続けるナカを容赦なく突き上げられ、その度に何度もイキ果てる。
 その内、まるで射精のしどころを迷うように子宮口の近くがエロい動きでグリグリ探られ始めて、俺は涎を垂らしながら首を振った。
「やっ、ナカはっ、ナカはらめ、あぁあ――っ……!」
 ついに、激しい息遣いと共に最奥を貫いたままちんぽの動きが止まり、ドクッドクッと凄い量の熱液が俺の内側に放たれ始めた。
 入り口近くではしっかりと亀頭球が膨らみ、俺の中を大量の精液が満たしてゆく。
「んン……っ、出てる……っ、気持ちい……っ、らめって、言ったのにぃ……っ」
 渚じゃない男のちんぽでイカされて、あまつさえ中出しまで許してしまうなんて、俺……。
  背後にお尻を突き出した格好で、今もなおドプドプと出され、逃げられない状況でナカを汚され続けている事への絶望感が湧く。
 けれど、その瞬間。
「ごめん、中で出したらダメだった!? 湊、準備してたみたいだったから、いいのかと思っちゃって……っ」
 慌てたみたいな声が後ろで上がって、俺は目が点になった。
 ……。
 中出しした後でそんな間の抜けたことを言い出すウッカリした犬獣人なんて、一人しか知らねえな……。
 俺はテーブルの上のスマホを掴み取り、身体をひねってバックライトで後ろの獣人を照らした。
 黒目がちな可愛い目と、垂れ耳、金色のフサフサした豊かな毛……。
 まさかが本当になり、素っ頓狂な声が出る。
「なんで……っ!?」
 驚きすぎて頭が混乱して、それ以上言葉が出てこない。
 呆然と強姦魔改め、何故かここにいる俺の旦那の顔をまじまじと見た。
 身体の方は、毛が生えてるとはいえ、素っ裸。
 広島に服だけ残してテレポーテーションでもしてきたんだろうか。
 って、そんな訳ねぇよなぁ……。
 安堵と呆れでハーッ、と大きな溜息が出て、俺は力の抜けた背中をフサァっとした毛皮に埋めた。
 渚がそんな俺の尻を膝の上に乗せながら正座して、後ろでしどろもどろに言い訳をし始める。
「……う、うーんと、ごめん。その……。一緒に行ってた父さんや兄弟達から、湊さんがキツそうだから、お前は今日中に帰っていいって言われて……本当は、夜の新幹線で戻ってきてたんだ……」
「っ……。じゃあ、一体さっきはどこから電話してたんだよっ……」
 ついつい責める口調になってしまう俺に、落ち込んだみたいな小さい声が答えた。
「……実家の、今空き部屋になってる俺の部屋から……。お土産のもみじ饅頭届けに行ったら、母も義姉さんも寝静まってたものだから、勝手に上がって置いてきて、その時、つい出来心で湊に電話したんだ。その、俺がいなくて寂しがってくれてるといいな、って」
「……。それで、俺が寂しがってるを通り越してエロエロな感じで出ちまったから……」
「うん、湊はあまりに可愛すぎるし、引っ込みがつかなくなっちゃって。最後にちゃんと言おうとしたらスマホの電池が切れちゃったから、急いで帰ったんだけど……家のドア開けたら、湊のフェロモンが凄い充満してて」
「それで我慢できずに、素っ裸に……?」
「うん、犬になって、服は脱ぎ飛ばして、中に飛び込んだんだ。そしたら、暗闇の中に白い湊のお尻が浮かんでて……ちょっとそこから訳分からなくなっちゃって……あんな乱暴な感じでして、本当にごめん……最近、夢精するくらい湊としたくて堪らなかったから……」
 そんなに我慢してたのかよ……。いや、俺も結構、我慢してたけど。
 最近忙しくて、発情期以外じゃ全くセックス出来てなかったしな。
 そう考えると、責任は俺にもある訳で。
「……いいよ、もう。帰ってきてくれたんだし、嬉しい」
 後ろで可哀想なほど落ち込んでる渚の頭を、俺は手を伸ばしてヨシヨシと撫でた。
 ついでに、言い聞かせるみたいに付け加える。
「ーーでも、次にこういう事があった時は、サプライズはしなくていいからな。さっきなんか、てっきり俺、渚のこと強姦魔だと思い込んで――」
 言いかけて、俺は途中で口をつぐんだ。
 しまった……こんなこと言ったら……。
「えっ、まさか……。湊、俺のこと、さっきまで気付いてなかったの……?」
「あっ、いや、その」
 今度は俺の方がしどろもどろになってしまう。
 まさか、見知らぬ男に入れられてるつもりでイッてしまったなんて、言ったら落ち込むよなあ……!?
 でも、もう遅かったらしい。
「それで、あんな可愛い声で中出しダメって言ったの……? お尻の穴、絡みつかせながら……?」
 うわぁっ、まずい!
「いやっ、そんなことねえし……っ。ほら、俺たち番なんだからさ、そもそもお互いにしか欲情しないわけでっ、当然分かってたって言うか」
 なんだか気まずい言い訳をする俺に、渚が背後で不穏な空気を出しながら低く唸る。
「湊……俺、これから湊の発情期中は、やっぱり死んでも離れないことにするから……」
「あ、うん……有難う……」
 脅迫なのか愛の囁きなのか分からないその言葉に、俺は引き攣った笑みを浮かべつつ、礼を言うしかなかった。
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