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番外編2
渚の家庭内恋煩い【完結】
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――そんな、ちょっとハプニング的にいたしてしまった新婚生活初の妊活から、約1ヶ月後。
いつも通り獣面人身で会社から帰った俺は、少し怖いようなワクワクするような気持ちで玄関のドアを開けた。
今日、湊は朝から例の病院に行ったのだ。
双方の両親に子供達をお願いして、一人で。
――本当は俺も会社を休んで一緒に付き添いたかったんだけど、キッパリと断られたんだよね。
子供達が先に飛んでくるかと思ったら、玄関先で俺を出迎えてくれたのは湊だった。
綺麗な切れ長の目が真剣に俺を見つめ、言葉が切り出される。
「あのさ、今日の病院のことなんだけど」
ごくんと固唾を呑み、答えを待つ俺に笑顔が返された。
「妊娠してた」
その言葉に湧き上がる歓喜のままに、湊の体を天井近くまで抱き上げる。
「ちょっ、危ねえから!」
「ごっ、ごめん」
慌てて下ろしたけど、嬉しくって抱きついたままニヤニヤが止まらない。
一緒にリビングに行くと、元気な鳴き声と共に岬と航が走ってくる。
ソファに湊と並んで腰を下ろすと、両脇から子供達がのぼってきて膝の上ではしゃぎ始めた。
「こらこら。お父さん赤ちゃんいるんだから」
そういえば、何となく最近は湊がお父さん、俺がパパってことで呼び名が定着してきている。
湊の膝に乗った航をヒョイと持ち上げ、フカフカした身体を舌でペロペロして床に下ろした。
俺の膝にいる方の岬は、おとなしく伏せをしている。
「次は女の子かなぁ、男の子かなぁ。楽しみだね」
「まだ悪阻《つわり》も始まってないのに、気が早すぎだろ。……いや、そうでもないか。二人の時はすぐに生まれたもんなあ」
湊はぼんやりとした表情でソファの背もたれに寄りかかっていて、ちょっと眠たそうだ。
そういえば、妊娠初期って凄く眠いらしい。
湊をサポートできるように色々本を読んで勉強している中に書いてあった気がする。
「先生、なんて言ってた?」
「順調ですね、って。この前来た時はびっくりしたけど、旦那さん優しそうな方で良かったですね、だってさ」
それを聞いてちょっと頬が熱くなった。
先生、駐車場でしてしまうなんて、本当に本当にすみません……。
「あと、あまり一人で悩まないように、って。前回大変なことになったんだから、借りられる助けは全部借りて下さいって言われた」
「……湊……」
湊のお母さんからこっそり聞いたけど、前の妊娠中、湊はかなり大変だったらしい。
俺は真剣な面持ちで口を開いた。
「俺も、湊がすぐ一人で悩むの、悪い癖だと思うよ」
「ン……」
「ちゃんと俺に相談して。俺たち、つがいなんだから。うちの母なんて、子供預ける理由なんて特に言わなくたってきっと喜んで預かってくれるよ」
「分かった」
「それから俺、いつからかは未定だけど……出産前後で4ヶ月育児休暇取るからね」
湊がギョッと目を丸くした。
「なんだそれ!? 渚が生むんじゃねーのに!?」
びっくりされて、俺の方がキョトンとしてしまった。
「うちの会社じゃ普通のことだよ、直人もこの前とってたし。ちゃんと出産の時の立ち会いもするから」
「……。すごいな、渚の会社」
「俺にしてみたら、妻が命がけで妊娠して出産してボロボロの体なのに、夫の方は一日休んだくらいで何事もなかったみたいに働き続けてる人間の会社の方が凄い違和感だよ……」
大真面目にそう言ったら、何だか妙に感心されてしまった。
「なるほど、そう言われると納得するけど……渚はそれで大丈夫なのか?」
「お互いさまだから、大丈夫。今度こそ、赤ちゃんのお世話ができるの楽しみだなあ」
「はっきり言って仕事より滅茶苦茶大変だぜ……上二人もいるし。覚悟しろよな」
湊がクスクス笑う。
そして、俺の肩に凭れて目蓋を閉じながら、しみじみとした感じで呟いた。
「渚、俺……渚と結婚してよかった。ちょっと仕事より俺のこと優先しすぎで大丈夫かって思うけどな」
「普通だよ。仕事は他の人に任せられるけど、湊のつがいは生涯俺一人しかいないんだから」
「うん……」
しばらくナデナデと髪を撫でている内に、すうすうと湊が寝息を立て始める。
このまましばらくソファで寝かせてあげよう。
「岬、航。お父さんとお風呂入ろうか」
そう言うと嬉しそうにワンと鳴いた二人に、俺はしーっと人差し指を立てた。
湊と子供達と、お腹の中のプラスアルファ……世界一幸福な俺の、大事な家族。
「お休み、湊……愛してるよ」
――最愛の人が、よい夢を見られますように……。
祈りを込めて、俺は大切な湊の額に、そっとおやすみのキスをした。
いつも通り獣面人身で会社から帰った俺は、少し怖いようなワクワクするような気持ちで玄関のドアを開けた。
今日、湊は朝から例の病院に行ったのだ。
双方の両親に子供達をお願いして、一人で。
――本当は俺も会社を休んで一緒に付き添いたかったんだけど、キッパリと断られたんだよね。
子供達が先に飛んでくるかと思ったら、玄関先で俺を出迎えてくれたのは湊だった。
綺麗な切れ長の目が真剣に俺を見つめ、言葉が切り出される。
「あのさ、今日の病院のことなんだけど」
ごくんと固唾を呑み、答えを待つ俺に笑顔が返された。
「妊娠してた」
その言葉に湧き上がる歓喜のままに、湊の体を天井近くまで抱き上げる。
「ちょっ、危ねえから!」
「ごっ、ごめん」
慌てて下ろしたけど、嬉しくって抱きついたままニヤニヤが止まらない。
一緒にリビングに行くと、元気な鳴き声と共に岬と航が走ってくる。
ソファに湊と並んで腰を下ろすと、両脇から子供達がのぼってきて膝の上ではしゃぎ始めた。
「こらこら。お父さん赤ちゃんいるんだから」
そういえば、何となく最近は湊がお父さん、俺がパパってことで呼び名が定着してきている。
湊の膝に乗った航をヒョイと持ち上げ、フカフカした身体を舌でペロペロして床に下ろした。
俺の膝にいる方の岬は、おとなしく伏せをしている。
「次は女の子かなぁ、男の子かなぁ。楽しみだね」
「まだ悪阻《つわり》も始まってないのに、気が早すぎだろ。……いや、そうでもないか。二人の時はすぐに生まれたもんなあ」
湊はぼんやりとした表情でソファの背もたれに寄りかかっていて、ちょっと眠たそうだ。
そういえば、妊娠初期って凄く眠いらしい。
湊をサポートできるように色々本を読んで勉強している中に書いてあった気がする。
「先生、なんて言ってた?」
「順調ですね、って。この前来た時はびっくりしたけど、旦那さん優しそうな方で良かったですね、だってさ」
それを聞いてちょっと頬が熱くなった。
先生、駐車場でしてしまうなんて、本当に本当にすみません……。
「あと、あまり一人で悩まないように、って。前回大変なことになったんだから、借りられる助けは全部借りて下さいって言われた」
「……湊……」
湊のお母さんからこっそり聞いたけど、前の妊娠中、湊はかなり大変だったらしい。
俺は真剣な面持ちで口を開いた。
「俺も、湊がすぐ一人で悩むの、悪い癖だと思うよ」
「ン……」
「ちゃんと俺に相談して。俺たち、つがいなんだから。うちの母なんて、子供預ける理由なんて特に言わなくたってきっと喜んで預かってくれるよ」
「分かった」
「それから俺、いつからかは未定だけど……出産前後で4ヶ月育児休暇取るからね」
湊がギョッと目を丸くした。
「なんだそれ!? 渚が生むんじゃねーのに!?」
びっくりされて、俺の方がキョトンとしてしまった。
「うちの会社じゃ普通のことだよ、直人もこの前とってたし。ちゃんと出産の時の立ち会いもするから」
「……。すごいな、渚の会社」
「俺にしてみたら、妻が命がけで妊娠して出産してボロボロの体なのに、夫の方は一日休んだくらいで何事もなかったみたいに働き続けてる人間の会社の方が凄い違和感だよ……」
大真面目にそう言ったら、何だか妙に感心されてしまった。
「なるほど、そう言われると納得するけど……渚はそれで大丈夫なのか?」
「お互いさまだから、大丈夫。今度こそ、赤ちゃんのお世話ができるの楽しみだなあ」
「はっきり言って仕事より滅茶苦茶大変だぜ……上二人もいるし。覚悟しろよな」
湊がクスクス笑う。
そして、俺の肩に凭れて目蓋を閉じながら、しみじみとした感じで呟いた。
「渚、俺……渚と結婚してよかった。ちょっと仕事より俺のこと優先しすぎで大丈夫かって思うけどな」
「普通だよ。仕事は他の人に任せられるけど、湊のつがいは生涯俺一人しかいないんだから」
「うん……」
しばらくナデナデと髪を撫でている内に、すうすうと湊が寝息を立て始める。
このまましばらくソファで寝かせてあげよう。
「岬、航。お父さんとお風呂入ろうか」
そう言うと嬉しそうにワンと鳴いた二人に、俺はしーっと人差し指を立てた。
湊と子供達と、お腹の中のプラスアルファ……世界一幸福な俺の、大事な家族。
「お休み、湊……愛してるよ」
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