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番外編2
渚の家庭内恋煩い2
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人間にしてはすらっと背が高くて、綺麗な黒髪に堪らない美肌、そして何より、涼しげな目元に浮かぶはにかんだ笑顔がとてつもなく可愛い。
デニムにシンプルなボーダーシャツがよく似合っていて、その上に生成りのエプロンを着けてるのがもう……エロ可愛い過ぎて呼吸がおかしくなる。
彼はキッチンの方から廊下を歩いてきて、玄関のタタキの上に落ちた俺のジャケットとスラックスを素早く拾い上げた。
「他のは全部、自分で洗濯物に入れとけよ」
目蓋を色っぽく伏せて屈む姿を横目で見つめると、エプロンの奥の白い胸元が一瞬見えてどきっと心臓が高鳴る。
堪らずに足元にスリっと頭を寄せてじゃれつくと、
「ダメ。渚のスーツに毛がつくだろ」
つれなく言われて膝で押され、さっさと奥に引っ込まれた。
「キュウン……」
あとで自分でちゃんとブラシかけるのになぁ……。
しょぼんとして玄関に残された俺を、子供たちがペロペロ舐めて慰めてくれる。
ああもう、うちの子供たちは本当に天使だ。
デレデレしながら靴下とシャツを咥え、トットッと爪の音を立てながら俺は脱衣所の洗濯籠にそれを運んだ。
結婚してからもうすぐ3ヶ月くらい経つ。
犬塚家のマンションの一角に入ってもらう形になり、お義母さんは同じ階の隣の部屋だ。
どちらの親族にもいつでも会いにきて貰える環境ながら、一応世帯としては別になった。
同族婚だったら、仕切りのないみんなと一緒のフロアに暮らすことになってただろうけど、人間はプライベートを大事にするからって、オーナーの祖父が気を使ってくれた結果だ。
家族水入らずで一緒に暮らし始めてから、今まで知らなかった湊の色んな面を発見した。
綺麗好きなところとか、逆に子供が汚すことに関しては寛容だったりとか、子育てに一生懸命すぎるくらい真面目だとか……作ってくれるご飯は素朴だけど凄く美味しい事とか。
結婚してよかったなって何度も思う。
「岬、航。お前たち、ご飯がまだ途中だろ。お父さんと遊ぶのは後で!」
湊が呼ぶ声に、子供たちがリビングへ戻っていく。
俺も一緒に追いかけていくと、二人は低い木製の台の上に置いたふやかしたカリカリと、とろとろのお粥みたいな人間用の離乳食の入った二つの器に交互に顔を突っ込んで食べはじめた。
そんな二人の微笑ましい姿を背後から見下ろしながら、湊がぽろっと呟いた。
「……そういや、直人さんのところの秀人君、人間になれるようになったんだって」
「ワン!?」
本当に!?と答えたつもりだったけど、そういえば俺今、獣身だった。
でも、意図は察してくれたのか、湊がスムーズに会話を繋げてくれる。
「うん、凄く可愛かったよ。たどたどしいけど、ちゃんと言葉が話せるようになっててさ。俺達も、岬と航と早く話してえなー」
「クーン」
そうだねえ、と俺はウンウン頷いた。
「渚、座って」
促されて、俺もサッと食卓の椅子の上に飛び乗る。
並んでいる夕飯は、手作りの煮込みハンバーグと、サラダ用ホーレン草のシーザーサラダ、コーンスープに白いご飯。
ここはパンじゃないの?と思うようなメニューでもご飯が出てくるのは、湊の好みらしい。
「はい、お茶」
慣れた感じで、冷たいお茶の入った銀色のボールを湊が持ってきてくれる。
「アオーン」
頂きますして、俺はお皿に鼻先を突っ込んだ。
なるべく見苦しくないように食べてるつもりだけど、美味しくて夢中になるとついお皿を何度もペロペロしてしまう。
獣面人身で人間みたいに夕飯を食べる時もあるけど、獣身だとどうしてもこうなるんだよね。
でも、また洋服着るのが正直面倒くさいし……。
あと、この格好だと湊が甘えさせてくれる率が高いし。
ふと視線を上げると、食卓の向かい側に座ってる湊が熱くて色っぽい視線で俺のことを見ている。
瞳が心なしか潤んでいて、唇も半開きで、え、エロい。
もしかして、今夜は……!?
胸が甘い期待でいっぱいに膨らんだ。
けれど一方で不安も募る。
その目はもしかして、獣身の俺をナデナデしたいだけ……?
なんて……。
――実は、俺がそんな風に疑心暗鬼になってしまうのには、訳があって。
実は俺たち……あの新婚旅行以来、3ヶ月一度もないのだ。
ない、ていうのは……その、夜の営みが。
言うとびっくりされるから誰にも言えないんだけど……。
俺は凄くしたいんだけど、その、獣人と人間の文化の違いが難しいというか。
色々あって、こうなってしまってるというか……。
事の発端は、湊が新婚旅行の行為では妊娠しなかったことで。
残念だったね、授乳期だからホルモンが整ってなかったのかも、なんて言いつつも、でも、子供はやっぱり欲しいねー、なんて話してたんだ。
で……、ちゃんとした発情の周期を待った方が、妊娠の可能性が高くなるらしいよ、なんて情報を湊が仕入れてきて、そうなんだ、じゃあ、その時に子作りしようね……と二人で何となく決めた。
ほんとはそんなの関係なく毎晩でもしたいけど、湊がそう言うなら……。人間てそういうものなのかもしれないし。
でも、決めたのはいいんだけど。
み、湊の発情の周期っていつ……? てなってしまったまま、気付いたら「待て」の状態で3ヶ月経っていて。
俺には、いっつも甘い匂いしてるように感じるんだけど……湊はまだ「ちゃんとした」発情期じゃない、らしい……?
こんな状態が続く内に、俺はだんだん頭がおかしくなってきて、会社にいてもソワソワして、湊の事が気になって気になって仕方なくなってしまって、不安のあまりつい、成明にあんな相談してしまったんだよね。
このままだと、不安が疑心暗鬼になりそうで……。
デニムにシンプルなボーダーシャツがよく似合っていて、その上に生成りのエプロンを着けてるのがもう……エロ可愛い過ぎて呼吸がおかしくなる。
彼はキッチンの方から廊下を歩いてきて、玄関のタタキの上に落ちた俺のジャケットとスラックスを素早く拾い上げた。
「他のは全部、自分で洗濯物に入れとけよ」
目蓋を色っぽく伏せて屈む姿を横目で見つめると、エプロンの奥の白い胸元が一瞬見えてどきっと心臓が高鳴る。
堪らずに足元にスリっと頭を寄せてじゃれつくと、
「ダメ。渚のスーツに毛がつくだろ」
つれなく言われて膝で押され、さっさと奥に引っ込まれた。
「キュウン……」
あとで自分でちゃんとブラシかけるのになぁ……。
しょぼんとして玄関に残された俺を、子供たちがペロペロ舐めて慰めてくれる。
ああもう、うちの子供たちは本当に天使だ。
デレデレしながら靴下とシャツを咥え、トットッと爪の音を立てながら俺は脱衣所の洗濯籠にそれを運んだ。
結婚してからもうすぐ3ヶ月くらい経つ。
犬塚家のマンションの一角に入ってもらう形になり、お義母さんは同じ階の隣の部屋だ。
どちらの親族にもいつでも会いにきて貰える環境ながら、一応世帯としては別になった。
同族婚だったら、仕切りのないみんなと一緒のフロアに暮らすことになってただろうけど、人間はプライベートを大事にするからって、オーナーの祖父が気を使ってくれた結果だ。
家族水入らずで一緒に暮らし始めてから、今まで知らなかった湊の色んな面を発見した。
綺麗好きなところとか、逆に子供が汚すことに関しては寛容だったりとか、子育てに一生懸命すぎるくらい真面目だとか……作ってくれるご飯は素朴だけど凄く美味しい事とか。
結婚してよかったなって何度も思う。
「岬、航。お前たち、ご飯がまだ途中だろ。お父さんと遊ぶのは後で!」
湊が呼ぶ声に、子供たちがリビングへ戻っていく。
俺も一緒に追いかけていくと、二人は低い木製の台の上に置いたふやかしたカリカリと、とろとろのお粥みたいな人間用の離乳食の入った二つの器に交互に顔を突っ込んで食べはじめた。
そんな二人の微笑ましい姿を背後から見下ろしながら、湊がぽろっと呟いた。
「……そういや、直人さんのところの秀人君、人間になれるようになったんだって」
「ワン!?」
本当に!?と答えたつもりだったけど、そういえば俺今、獣身だった。
でも、意図は察してくれたのか、湊がスムーズに会話を繋げてくれる。
「うん、凄く可愛かったよ。たどたどしいけど、ちゃんと言葉が話せるようになっててさ。俺達も、岬と航と早く話してえなー」
「クーン」
そうだねえ、と俺はウンウン頷いた。
「渚、座って」
促されて、俺もサッと食卓の椅子の上に飛び乗る。
並んでいる夕飯は、手作りの煮込みハンバーグと、サラダ用ホーレン草のシーザーサラダ、コーンスープに白いご飯。
ここはパンじゃないの?と思うようなメニューでもご飯が出てくるのは、湊の好みらしい。
「はい、お茶」
慣れた感じで、冷たいお茶の入った銀色のボールを湊が持ってきてくれる。
「アオーン」
頂きますして、俺はお皿に鼻先を突っ込んだ。
なるべく見苦しくないように食べてるつもりだけど、美味しくて夢中になるとついお皿を何度もペロペロしてしまう。
獣面人身で人間みたいに夕飯を食べる時もあるけど、獣身だとどうしてもこうなるんだよね。
でも、また洋服着るのが正直面倒くさいし……。
あと、この格好だと湊が甘えさせてくれる率が高いし。
ふと視線を上げると、食卓の向かい側に座ってる湊が熱くて色っぽい視線で俺のことを見ている。
瞳が心なしか潤んでいて、唇も半開きで、え、エロい。
もしかして、今夜は……!?
胸が甘い期待でいっぱいに膨らんだ。
けれど一方で不安も募る。
その目はもしかして、獣身の俺をナデナデしたいだけ……?
なんて……。
――実は、俺がそんな風に疑心暗鬼になってしまうのには、訳があって。
実は俺たち……あの新婚旅行以来、3ヶ月一度もないのだ。
ない、ていうのは……その、夜の営みが。
言うとびっくりされるから誰にも言えないんだけど……。
俺は凄くしたいんだけど、その、獣人と人間の文化の違いが難しいというか。
色々あって、こうなってしまってるというか……。
事の発端は、湊が新婚旅行の行為では妊娠しなかったことで。
残念だったね、授乳期だからホルモンが整ってなかったのかも、なんて言いつつも、でも、子供はやっぱり欲しいねー、なんて話してたんだ。
で……、ちゃんとした発情の周期を待った方が、妊娠の可能性が高くなるらしいよ、なんて情報を湊が仕入れてきて、そうなんだ、じゃあ、その時に子作りしようね……と二人で何となく決めた。
ほんとはそんなの関係なく毎晩でもしたいけど、湊がそう言うなら……。人間てそういうものなのかもしれないし。
でも、決めたのはいいんだけど。
み、湊の発情の周期っていつ……? てなってしまったまま、気付いたら「待て」の状態で3ヶ月経っていて。
俺には、いっつも甘い匂いしてるように感じるんだけど……湊はまだ「ちゃんとした」発情期じゃない、らしい……?
こんな状態が続く内に、俺はだんだん頭がおかしくなってきて、会社にいてもソワソワして、湊の事が気になって気になって仕方なくなってしまって、不安のあまりつい、成明にあんな相談してしまったんだよね。
このままだと、不安が疑心暗鬼になりそうで……。
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