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俺、犬と結婚します
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「ご親族同士の紹介はもう終わってらっしゃいますから、この後は皆様で写真撮影になります」
世話役の人に促されて、俺たちは新しい親族達と一緒に控え室をガヤガヤと出た。
すぐ向かいにある集合写真撮影用の広い部屋で、1番前の中央に座らされ、背後の三段のひな壇に犬塚家の面々が次々と並んでいく。
澄まし顔の夏美さん。
今日はちゃんとスーツを着てる、キリッとした顔の直人さん。
笑顔の恵さんの腕に抱かれた、まだ人間になれない獣身の秀人くん。
金髪に留袖が美しい渚のお母さん、ちゃんとモーニングで正装した渚のお父さん。
弟達、お祖父さんに叔父さん、叔母さん、従兄弟に従姉妹、その伴侶と、朗らかな子供達。
去年の暮れまでは俺、この世に親戚なんてお袋と子供しか居なかったのに……今はこんなに賑やかで、凄く不思議だ。
結婚って、こんなにも繋がりが増える事なんだな。
面倒に思う人もいるかもしれねぇけど、俺は、悪くないって思った。
ずっとお袋と二人で寂しかったし……今はこれで丁度いいくらいだ。
「はい、皆さま前を向いて下さい! 撮りますよ! ハイ、さん、に、いち!」
――何度かフラッシュが焚かれ、撮影が終わる。
案内に従って皆がひな壇から降り、挙式のためにホールに向かい始めた。
俺と渚は、これから祭壇の前で一緒になる時まで少しだけ離れ離れだ。
「湊。待ってるね」
頷き、手を振る。
俺はお袋と一緒に、スタッフの人に案内されながら一度控え室まで戻った。
親子二人きりになり、苦労が皺になって刻まれたお袋の顔を改めてじっと見る。
「有難うな、お袋」
別に離れて暮らすわけじゃねぇけど、それだけを伝えると、濡れた瞳が俺を見上げ、感慨深そうに微笑んだ。
「――あんたは、女の子と結婚するんだと思ってたけど……でもあの人と並んでると、湊の運命のつがいはあの人だったんだなってよく分かるよ。幸せになってね」
しみじみそう言われて、俺も深く頷いた。
花嫁ならここでベールを下ろして貰う所だけど、俺は男なので、特に何もない。
地面に流れ落ちるような華やかなブーケと共に、お袋がスタッフさんに連れられて出て行った。
鏡の前で一人きりになり、いつか夢に見たことのある、長く寂しい誰もいない路地のことを思い出す。
あれはきっと遠い昔に過ぎ去っていった日々。
「新郎の方が入場されました。新夫の方、式場に入場してください」
背後で扉を開けた黒いベストの世話役の女性に呼ばれ、俺は控え室を出た。
廊下に出ると、俺たちが式用に選曲した洋楽のサビが耳に届き、そのロックな曲調がエレガントな感じの式場に全く似合ってなくて笑った。
これ、渚と初めて見合いした時の店で流れてた曲なんだよな。
全く結婚式っぽくねぇけど、男同士って感じでサッパリしてて良いんじゃねえかと。
Livin' On A Prayer、希望を持って生きるって感じのタイトルの曲。
俺はオメガに産まれて、まあ色々あったけど――基本的には楽観的に生きてきて良かったなって思う。少なくとも、転んでもタダじゃあ起きなかった。
世話人に付き添われながら、狭くて暗い廊下を先導されて歩く。
やがて目の前に眩い光があふれ、吹き抜けの天井の窓から太陽のきらめきが降り注ぐ、白い花々が飾られた祭壇と、そこへ降りていく大階段が眼下に広がった。
踊り場で待っていたお袋と一緒に、華やかな階段を一つ一つ下りてゆく。
本当は父親と一緒に行くとこなんだろうけど、俺の肉親は彼女一人なので。
段を下りた先には赤い絨毯が敷かれ、その始まりに、優しい笑顔を浮かべた渚が花束を手にして待っていた――いつかの夢の結末のように。
もう現実でも、俺は彼の手を取ることを迷ったりはしない。
犬塚家の人々が、両側の参列席から俺たちを温かく見守ってくれている。
俺は薔薇とアイビーの美しい花束を渡され、その中から一輪をとって渚のフロックコートのボタンホールに挿した。
左手でブーケを持ち、再び手を取って歩き出そうとした瞬間――高い子犬の鳴き声がして、参列客の間から岬と航が目の前に飛び出して来る。
戸惑いつつも足元に纏わりつく二人を迎え、俺たちは微笑みをこぼした。
長い人生、こんなサプライズも楽しいもんだよな。
――小さくても賑やかな二人とともに、家族四人、仲睦まじく寄り添って――。
俺は渚としっかりと手を繋ぎ、目の前の新しい未知の世界へと続く道に、晴れやかな一歩を踏み出した。
〈終〉
(最後まで読んでいただき誠に有難うございました。以降の章は番外編となります)
世話役の人に促されて、俺たちは新しい親族達と一緒に控え室をガヤガヤと出た。
すぐ向かいにある集合写真撮影用の広い部屋で、1番前の中央に座らされ、背後の三段のひな壇に犬塚家の面々が次々と並んでいく。
澄まし顔の夏美さん。
今日はちゃんとスーツを着てる、キリッとした顔の直人さん。
笑顔の恵さんの腕に抱かれた、まだ人間になれない獣身の秀人くん。
金髪に留袖が美しい渚のお母さん、ちゃんとモーニングで正装した渚のお父さん。
弟達、お祖父さんに叔父さん、叔母さん、従兄弟に従姉妹、その伴侶と、朗らかな子供達。
去年の暮れまでは俺、この世に親戚なんてお袋と子供しか居なかったのに……今はこんなに賑やかで、凄く不思議だ。
結婚って、こんなにも繋がりが増える事なんだな。
面倒に思う人もいるかもしれねぇけど、俺は、悪くないって思った。
ずっとお袋と二人で寂しかったし……今はこれで丁度いいくらいだ。
「はい、皆さま前を向いて下さい! 撮りますよ! ハイ、さん、に、いち!」
――何度かフラッシュが焚かれ、撮影が終わる。
案内に従って皆がひな壇から降り、挙式のためにホールに向かい始めた。
俺と渚は、これから祭壇の前で一緒になる時まで少しだけ離れ離れだ。
「湊。待ってるね」
頷き、手を振る。
俺はお袋と一緒に、スタッフの人に案内されながら一度控え室まで戻った。
親子二人きりになり、苦労が皺になって刻まれたお袋の顔を改めてじっと見る。
「有難うな、お袋」
別に離れて暮らすわけじゃねぇけど、それだけを伝えると、濡れた瞳が俺を見上げ、感慨深そうに微笑んだ。
「――あんたは、女の子と結婚するんだと思ってたけど……でもあの人と並んでると、湊の運命のつがいはあの人だったんだなってよく分かるよ。幸せになってね」
しみじみそう言われて、俺も深く頷いた。
花嫁ならここでベールを下ろして貰う所だけど、俺は男なので、特に何もない。
地面に流れ落ちるような華やかなブーケと共に、お袋がスタッフさんに連れられて出て行った。
鏡の前で一人きりになり、いつか夢に見たことのある、長く寂しい誰もいない路地のことを思い出す。
あれはきっと遠い昔に過ぎ去っていった日々。
「新郎の方が入場されました。新夫の方、式場に入場してください」
背後で扉を開けた黒いベストの世話役の女性に呼ばれ、俺は控え室を出た。
廊下に出ると、俺たちが式用に選曲した洋楽のサビが耳に届き、そのロックな曲調がエレガントな感じの式場に全く似合ってなくて笑った。
これ、渚と初めて見合いした時の店で流れてた曲なんだよな。
全く結婚式っぽくねぇけど、男同士って感じでサッパリしてて良いんじゃねえかと。
Livin' On A Prayer、希望を持って生きるって感じのタイトルの曲。
俺はオメガに産まれて、まあ色々あったけど――基本的には楽観的に生きてきて良かったなって思う。少なくとも、転んでもタダじゃあ起きなかった。
世話人に付き添われながら、狭くて暗い廊下を先導されて歩く。
やがて目の前に眩い光があふれ、吹き抜けの天井の窓から太陽のきらめきが降り注ぐ、白い花々が飾られた祭壇と、そこへ降りていく大階段が眼下に広がった。
踊り場で待っていたお袋と一緒に、華やかな階段を一つ一つ下りてゆく。
本当は父親と一緒に行くとこなんだろうけど、俺の肉親は彼女一人なので。
段を下りた先には赤い絨毯が敷かれ、その始まりに、優しい笑顔を浮かべた渚が花束を手にして待っていた――いつかの夢の結末のように。
もう現実でも、俺は彼の手を取ることを迷ったりはしない。
犬塚家の人々が、両側の参列席から俺たちを温かく見守ってくれている。
俺は薔薇とアイビーの美しい花束を渡され、その中から一輪をとって渚のフロックコートのボタンホールに挿した。
左手でブーケを持ち、再び手を取って歩き出そうとした瞬間――高い子犬の鳴き声がして、参列客の間から岬と航が目の前に飛び出して来る。
戸惑いつつも足元に纏わりつく二人を迎え、俺たちは微笑みをこぼした。
長い人生、こんなサプライズも楽しいもんだよな。
――小さくても賑やかな二人とともに、家族四人、仲睦まじく寄り添って――。
俺は渚としっかりと手を繋ぎ、目の前の新しい未知の世界へと続く道に、晴れやかな一歩を踏み出した。
〈終〉
(最後まで読んでいただき誠に有難うございました。以降の章は番外編となります)
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