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婚活再開しました
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俺が静かに首を振ると、猫はテーブルに皿を置き、目の前の席に座って来た。
吸い込まれるようなブルーと金の瞳……。
真っ直ぐに見合ってしまうと、催眠術にかかったように頭がぼんやりとするのが分かった。
そういや、さっきからなんか顔が熱い……。
「ねぇ、湊さんは触ったことある? 長毛種の猫。犬なんかよりずっと触り心地のいい、絹みたいな毛並みでさぁ……」
その人の顔が目の前で変わって行く。
口の両端がすうっと裂けて、鼻がピンク色になり、顔にホワホワした毛が生えて、妖艶な人間から可愛らしい猫へと。
俺の手にその指が触れた。
密生した白い毛の生えたその指の内側に、滑らかで柔らかな肉球がすべる、極上の感触が伝わる。
ここで獣面になるのはダメなんじゃなかったか……?
だけど、この手……やばいくらい癒される……。
「科学的にも犬より猫の方が、撫でた時に出る癒しのホルモンが多いって言われてんだよ」
可愛い猫顔に小首を傾げられて、思わずトローンとなる。
ついつい手の平の中をそっと撫でると、猫はグルグル喉を鳴らし始めた。
「肉球も毛並みも触り放題、あったかくて柔らかくて良い匂いで、鳴き声もうるさくない。ブラッシングはして欲しいけど、犬みたいに面倒な散歩はいらない……夜は丸くなって毎晩一緒に眠る……そんな生活、どう?」
手がギュッと握られて、引き上げるように椅子から立たされた。
見上げると相手の顔は既に人間に戻っている。
そのまま腕を引かれ、ラウンジの外に連れ出される勢いで歩かされて、流石の俺もハッと理性を取り戻して抵抗した。
「ちょっ……まだパーティは終わってないだろ。どこ連れてくんだよ」
「いい感じのオメガが見つかったんなら最後まで付き合う義理はないかなぁって……? それに早く試させてあげたくてね。俺のフワッフワの毛並み」
なっ。どこでどうやってだ!?
「それ、どういう意味……」
単に、な、ナデナデさせてくれるのか……!?
いやいや、危ねぇよ。まさにこいつが犬塚さんも言ってたような、セックス目当ての遊び人て奴かもしれねぇじゃん。アルファだけど。
でも、さっきの猫顔、真っ白くてモッフモフでお目々キラキラで凄く可愛かった。
普段は犬派だけど……なんかもう今、心ボロボロだから正直癒されてぇんだよな……。
心身なにもかも婚活で消費し切って疲れ切ったし……人肌恋しいし。
犬塚さんにはいい加減な遊び人疑惑を掛けられるし……。
いっそもう、一回ぐらいほんとに遊び人オメガになっちまうか?
ーーって、俺、何考えてんだ。頭がさっきからおかしいぞ。
何でこんなユルユルになってんだ……!?
「あは……匂い、きつくなったね。自分で気付いてない? さっきから、ちょっとずつだけど、フェロモンダダ漏れだよ」
耳元で白猫に囁かれてギョッとした。
抑制剤飲んでも、フェロモンが漏れる……。
原因は一つしかない。
さっき、犬塚さんに近付いたからだ。
「初めて声かけた時も思ったけど、湊さんの匂いってさぁ、他のオメガに比べても格別だよねぇ。控えめで、スズランみたい。なのにエッロくて、無理やり服引き裂いてメッチャクチャにしたくなる感じ」
腰を無理矢理に抱かれ、俺の意志なんかお構いない感じで強引に引き寄せられる。
そのまま受付の前を通り過ぎ、廊下に連れ出された。
足が、勝手に動く。抵抗出来ない……身体に熱がこもって辛い。
猫井がオッドアイで紅潮する俺の顔を覗き込む。
「あれ? なんか、もう我慢できなさそうな、やーらしい顔してるね……」
違う、お前のせいでこうなってんじゃねーよ……!
「離、せ……トイレ行くから……」
早く、早く抑制剤を飲まなくちゃ。
このあぶねー猫に、一体何されるか分かんねぇ。
「ついてってあげようか……? 足元辛いでしょ、手伝ってあげるよ……色々と、ね」
バッカヤロー!! この痴漢猫っ!!
って、叫びたいのに叫べない。
触れられてるところが熱くて、ジンジンする……。
目の前の猫の少し意地悪そうな顔がキラキラして見えてきた。
有無を言わさないアルファのオーラが俺を圧倒する。
ーーこんなヤツ絶対、身体目的なのに。
「離してくれ……お前は、嫌……だ……」
力が入らないのを良いことに、廊下の壁に身体を押し付けられた。
猫井の手が横にあるエレベーターのボタンを素早く押し、すぐにその手で俺の髪やうなじにいやらしく触れてくる。
イヤなのにゾクゾクと性感が下半身に駆け抜けて、下着の中が濡れる感触が広がった。
「そういうとこ、男オメガってほんと可愛いよね……変にプライドあってさぁ」
鋭い小さな牙の生えた唇がキスせんばかりに近付いてくる。
ーーもう、どうにでもなれ……、と目蓋を閉じて諦めかけた瞬間だった。
「フギャーッ!」
顔の前で何とも言えない凄い悲鳴が上がった。
水掛けられた野良猫みたいな鳴き声だな、と思って目を開けたら、文字通り目の前の猫男がびしょ濡れになっている。
猫井は茫然自失で目をカッと開き、両手を天井に向けてワナワナ震えていた。
「おっ、俺の服……っ! 俺の毛並みが……っ、ぬ、ぬ、濡れ……っ!!」
「失礼、手が滑ってしまって」
横から割り込むようにして大胆かつ高圧的な感じに声を掛けてきたのは、まさかの人だった。
綺麗な金髪と、がっちりした体格を包むスーツ……。それに、冷たいくらい整った美貌。
見間違えようがない。犬塚さんだ。
その大きな手が、猫の濡れた真っ白な長髪をぐいと掴み、俺の前から引き離す。
「盛りのついた猫がいるようだったのでつい」
空のワイングラスをもう片方の手に持っているその様子からして、滑ったというより意図的にぶっかけたとしか思えない。
吸い込まれるようなブルーと金の瞳……。
真っ直ぐに見合ってしまうと、催眠術にかかったように頭がぼんやりとするのが分かった。
そういや、さっきからなんか顔が熱い……。
「ねぇ、湊さんは触ったことある? 長毛種の猫。犬なんかよりずっと触り心地のいい、絹みたいな毛並みでさぁ……」
その人の顔が目の前で変わって行く。
口の両端がすうっと裂けて、鼻がピンク色になり、顔にホワホワした毛が生えて、妖艶な人間から可愛らしい猫へと。
俺の手にその指が触れた。
密生した白い毛の生えたその指の内側に、滑らかで柔らかな肉球がすべる、極上の感触が伝わる。
ここで獣面になるのはダメなんじゃなかったか……?
だけど、この手……やばいくらい癒される……。
「科学的にも犬より猫の方が、撫でた時に出る癒しのホルモンが多いって言われてんだよ」
可愛い猫顔に小首を傾げられて、思わずトローンとなる。
ついつい手の平の中をそっと撫でると、猫はグルグル喉を鳴らし始めた。
「肉球も毛並みも触り放題、あったかくて柔らかくて良い匂いで、鳴き声もうるさくない。ブラッシングはして欲しいけど、犬みたいに面倒な散歩はいらない……夜は丸くなって毎晩一緒に眠る……そんな生活、どう?」
手がギュッと握られて、引き上げるように椅子から立たされた。
見上げると相手の顔は既に人間に戻っている。
そのまま腕を引かれ、ラウンジの外に連れ出される勢いで歩かされて、流石の俺もハッと理性を取り戻して抵抗した。
「ちょっ……まだパーティは終わってないだろ。どこ連れてくんだよ」
「いい感じのオメガが見つかったんなら最後まで付き合う義理はないかなぁって……? それに早く試させてあげたくてね。俺のフワッフワの毛並み」
なっ。どこでどうやってだ!?
「それ、どういう意味……」
単に、な、ナデナデさせてくれるのか……!?
いやいや、危ねぇよ。まさにこいつが犬塚さんも言ってたような、セックス目当ての遊び人て奴かもしれねぇじゃん。アルファだけど。
でも、さっきの猫顔、真っ白くてモッフモフでお目々キラキラで凄く可愛かった。
普段は犬派だけど……なんかもう今、心ボロボロだから正直癒されてぇんだよな……。
心身なにもかも婚活で消費し切って疲れ切ったし……人肌恋しいし。
犬塚さんにはいい加減な遊び人疑惑を掛けられるし……。
いっそもう、一回ぐらいほんとに遊び人オメガになっちまうか?
ーーって、俺、何考えてんだ。頭がさっきからおかしいぞ。
何でこんなユルユルになってんだ……!?
「あは……匂い、きつくなったね。自分で気付いてない? さっきから、ちょっとずつだけど、フェロモンダダ漏れだよ」
耳元で白猫に囁かれてギョッとした。
抑制剤飲んでも、フェロモンが漏れる……。
原因は一つしかない。
さっき、犬塚さんに近付いたからだ。
「初めて声かけた時も思ったけど、湊さんの匂いってさぁ、他のオメガに比べても格別だよねぇ。控えめで、スズランみたい。なのにエッロくて、無理やり服引き裂いてメッチャクチャにしたくなる感じ」
腰を無理矢理に抱かれ、俺の意志なんかお構いない感じで強引に引き寄せられる。
そのまま受付の前を通り過ぎ、廊下に連れ出された。
足が、勝手に動く。抵抗出来ない……身体に熱がこもって辛い。
猫井がオッドアイで紅潮する俺の顔を覗き込む。
「あれ? なんか、もう我慢できなさそうな、やーらしい顔してるね……」
違う、お前のせいでこうなってんじゃねーよ……!
「離、せ……トイレ行くから……」
早く、早く抑制剤を飲まなくちゃ。
このあぶねー猫に、一体何されるか分かんねぇ。
「ついてってあげようか……? 足元辛いでしょ、手伝ってあげるよ……色々と、ね」
バッカヤロー!! この痴漢猫っ!!
って、叫びたいのに叫べない。
触れられてるところが熱くて、ジンジンする……。
目の前の猫の少し意地悪そうな顔がキラキラして見えてきた。
有無を言わさないアルファのオーラが俺を圧倒する。
ーーこんなヤツ絶対、身体目的なのに。
「離してくれ……お前は、嫌……だ……」
力が入らないのを良いことに、廊下の壁に身体を押し付けられた。
猫井の手が横にあるエレベーターのボタンを素早く押し、すぐにその手で俺の髪やうなじにいやらしく触れてくる。
イヤなのにゾクゾクと性感が下半身に駆け抜けて、下着の中が濡れる感触が広がった。
「そういうとこ、男オメガってほんと可愛いよね……変にプライドあってさぁ」
鋭い小さな牙の生えた唇がキスせんばかりに近付いてくる。
ーーもう、どうにでもなれ……、と目蓋を閉じて諦めかけた瞬間だった。
「フギャーッ!」
顔の前で何とも言えない凄い悲鳴が上がった。
水掛けられた野良猫みたいな鳴き声だな、と思って目を開けたら、文字通り目の前の猫男がびしょ濡れになっている。
猫井は茫然自失で目をカッと開き、両手を天井に向けてワナワナ震えていた。
「おっ、俺の服……っ! 俺の毛並みが……っ、ぬ、ぬ、濡れ……っ!!」
「失礼、手が滑ってしまって」
横から割り込むようにして大胆かつ高圧的な感じに声を掛けてきたのは、まさかの人だった。
綺麗な金髪と、がっちりした体格を包むスーツ……。それに、冷たいくらい整った美貌。
見間違えようがない。犬塚さんだ。
その大きな手が、猫の濡れた真っ白な長髪をぐいと掴み、俺の前から引き離す。
「盛りのついた猫がいるようだったのでつい」
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