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婚活再開しました

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 マイクを通して女性司会者のアナウンスが始まる。
「それではこれから、獣人の方が時計回りに移動しながら、毎回前後のお二人でプロフィールシートを交換して頂きまして、二分間ずつ全ての組み合わせで自己紹介タイムをしたいと思います。お相手様の特徴や、お話しした内容については机の真ん中に置かれている第一印象チェックシートをお一人様一枚ずつお取り頂き、そちらの方にメモをお願いいたします」
 ――時計回りに移動しながら全員と話す?
 ぼんやりしながら聞いていて、さっきの「回転寿司」という単語を思い出した。
 このことか……。
 時計回りなら、犬塚さんはだんだん離れていくばかりで、鉢合わせる機会は最後の最後ということになる。
 少しほっとして、俺は身が入らないながら目の前の柴犬君とプロフィールカードを交換した。
 うっ。職業プロサッカー選手……。
 獣人てすげーな。もしかしてみんな軒並みこんな感じなんだろうか。
「職業すげーっすねー……ふつうにアナウンサーとかと結婚できそうじゃないですか」
「いやー、全くそんなことないです。二部ですし、年収もそのプロフの通りであんまり……浮き沈みのある職業ですしねー」
 当たり障りのない会話してると、あっという間に二分になってしまう。
 沈んでる時にこんなこと全員とやるのは結構疲れるぞ。やっぱり帰りゃ良かったか。
「それでは獣人の方、お席の移動をお願い致します」
 ガタガタと音を立てて、内側に座っている獣人達が移動してゆく。
 俺の目の前に来たのは、最初斜め右に座っていた無口そうな中年男性だ。
「えーと、はじめまして……」
「……」
 うっ、今度の相手は無愛想だな。
 プロフィールを覗くと、寿司職人のブルドッグだった。
 うーん、納得。
「お寿司、いいですよねぇ……俺、サーモンが好きで……」
 早く終われと思いながら無理矢理、話をしていく。
 ーーそんな不毛なことを入れ替わり立ち替わり、総勢20人くらいのヒトと話しただろうかーー。
 会話した感じ、獣人達はみんな、見た目や嗅覚、身体能力の高さを生かす職業に就いてる人が多かった。
 収入面はバラバラ。警察犬として働いてる公務員のシェパードの男性とか、自衛隊のドーベルマンも、見た目はメチャクチャカッコよかったけど、年収とかは常識の範疇だ。
 平和のために命張ってるのになぁ……。
 俺はもう犬塚さんショックで積極的に行くような気力もなくて、チェックシートへのメモもろくに取らなかったから、年収とかの数字ばっかり印象に残ってるのがなんか申し訳ない……。
 そして途中、あの白猫とペアになった時は随分絡まれた。
「俺ねぇ、猫井《ねこい》司《つかさ》って言うんだ。メインクーンの白猫で、身長生かしてモデルやってんのよ。でもそろそろ引退してコタツで丸くなる生活がしたくてさー……養ってくれるいい感じの嫁さん探してるところなんだよねぇ」
 派手な見た目と似合わないまさかの専業主夫願望だったけど、何だか猫らしくて虚しい笑いが出た。
「湊さんは凄くイイよね。ほら、周りの子、みんな肉食系で金持ちアルファ狙ってガツガツ来る感じじゃん。俺ねぇ、そういうマッタリしてねぇーの疲れちゃうの」
「俺だって、金持ちアルファ狙ってる人かも知れねぇけど?」
 ヤケクソな相槌を打ってたら、オッドアイが細まって、囁くみたいに小声で言われた。
「あは……ほんとその逃げるとこカワイー。そのキレーな肌に爪立てて捕まえてみたいよねぇ」
 テーブルに出された手の、縦にスリットが入っている指先からシャキンと一瞬爪が出てきて、ギョッとした。
「俺は養ってあげられるほど年収ねぇから、ゴメンね」
 そう言ってやんわり遠ざけたけど、相手はニヤニヤ笑ったままだった。
 ……俺の言ったことちゃんと伝わったんか……?
 そして、最後に犬塚さんの番が来た瞬間、スタッフさんが飛んできて彼を会場外にサーッと連れ出してしまった。
 多分白猫の猫井が何か言ってくれたせいだと思う。
 それで、俺は最後の二分間はボンヤリしたまま、自己紹介タイムが終わりになってしまった。
 終了の合図とともに、アナウンスが流れる。
「それでは今度は、机の中央にあります『第一印象カード』をお取り下さい。自己紹介で気になった方、お話ししやすかった方、必ず三人以上の方の番号に丸を付けてスタッフにご提出ください」
 な、何だって……!
 うーん、誰に付けりゃ良いんだよ。
 取り敢えず、絶対カップルにならなさそうなので行っとくか……。
 ほぼ喋らなかったブルドッグと、まずカップルになり得ない犬塚さんと、あとは……なんとなく、男より女の子の方が好きそうな空気だった柴犬くんにしとこう。
 適当に丸を付けてると、斜め前に犬塚さんが帰ってきた。
 うう……怖くてそっちの方を向けない。どんな顔してるかも分からない。
 何で俺こんな場所に来ちまったんだ。
 一瞬蛇の目さん恨み掛けたけど、完全に俺の自業自得だった。
 カードが複数のスタッフに次々に回収され、流れるようにイベントが進んで行く。
「それでは、フリートークタイムを始めたいと思います。第一印象カードの集計結果、つまりどなたがご自分に好意を抱いているかという結果カードを、後ほどスタッフの方から皆様に順番にお渡ししていきます」
 ざわっと声が上がり、会場のボルテージが上がり始める。
 ってか、さっき丸した紙、結果が本人に渡されちまうの!?
 犬塚さんて書くんじゃなかった……関わらないって言ったそばからアプローチってどんなヤツだよおい。
 周りでは次々とみんなが席を立って、狙いを定めた人に向かって右往左往し始めている。
 俺はといえば……立ち上がる気力もなく席に沈んだままだ。
 犬塚さんはスタッフの人に呼ばれて結果カードを取りに行ったようだった。
 エリートだし好青年だから、一番人気ぐらいなんじゃねえの。
 なんかもう、そういうの見てんのも辛い……。
 俯いたままやる気のない俺の視界に、派手な透かしの入った黒ジャケットの模様が飛び込んだ。
「何か食べる?」
 囲みテーブルの中央の軽食コーナーから、適当に見繕って盛ったらしき皿が目の前に突き出される。
 顔を上げると、透き通るような肌と白髪の、長身の猫獣人がニッと微笑んでいた。
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