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婚活再開しました

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 可愛い犬の絵が描いてあるチラシに思わず目が点になる。
「……獣人……パーティ……。そこ行かなきゃダメっすか……」
「犬獣人のような方がタイプなんでしょう。効率よく色んな人にお会いできるし、鳩羽さんみたいに容姿のいい人は強いわよ」
「……。わ、わかりました。婚活パーティー申し込みします」
 パーティとか俺の性格ではどうかと思うけど、アドバイスを求めた立場では今更文句は言いづらい。
「オーケーよ。申し込みはWEBからしてちょうだい。追加料金は五千円ね」
「了解っす」
 引っ越し近いのに月会費にプラスアルファの出費は痛ぇーけど、歳も食っちまったし四の五の言ってられんか。しかし蛇の目さん商売上手だなぁ。
「苦しいかもしれないけど、今この瞬間の頑張りがあなたの一生を変えるのよ。頑張って」
 まるでスポ根鬼コーチみたいな感じで蛇の目さんが俺の目を熱く見つめてくる。
「蛇の目さん……っ。有難うございます、俺頑張ります……!」
 宣言させて貰い、早速スマホを出して申し込みを始めた俺だった――。

 
 翌週日曜の夕方五時ごろ、俺は地元から電車を乗り継いで銀座の某デザイナーズビルへと向かった。
 とにかく初めての場所は迷いやすいから、かなり早めに行ったんだけど、銀座はタテヨコに大通りが複数走ってて、自分が今どの通りに居るのか分かんなくなりやすいんだよな。
 まあ、方向音痴の言い訳かもしれねぇけど……。
 日曜は歩行者天国になってる一番大きな通りに出て、目的のビルを探す。もうすぐ車が入ってくる時間なのか、警察がしきりに「そろそろ歩道に戻れ」とアナウンスをしていた。
 目的のオシャレなガラス張りビルに辿り着いたのは、開場の十五分前。
 黒と金で内装キンキラな感じのエレベーターに乗り、最上階パノラマラウンジに向かう。
 万が一を考えて、念の為に抑制剤を手前のトイレで服用してから受付に行くと、デスクの前がもう参加者の列で混雑していた。
 並んでしばらく順番待ちした後、スタッフさんに名前を言うと、「7」のナンバー入りのバッジと未記入のプロフィールカードを渡される。
「番号のお席にお着きになった後、プロフィールカードのご記入をお願いします」
 案内に頷いて中に入り、夕暮れ時の銀座を一望するやたら眺めのいい全面ガラスのラウンジで自分の席を探した。
 座席は壁際と窓際を囲むように四角く配置されていて、既に座ってる人達の様子を見る限り、獣人が内側で、オメガがテーブル挟んで外側という配置みたいだ。
 真ん中の空いたスペースには軽食が準備されていて、フリータイムに食べられるっぽい。
 俺もスーツだけど、来てる人はみんな場所相応に着飾っていた。
 獣人ぽい人は髪の毛の色とかが派手なので分かる。
 頭に生えてる耳からすると、大体犬とか猫だな。
 地方には馬とか羊の獣人とかもいるらしいけど、都会だからそんな感じなのかもしれない。
 やっばり俺は犬派かな~。猫も捨てがたいけど。
 そういや、申し込みの説明の所には「獣人の方は人面人身でのご参加をお願いします」って書いてあった気がする。だからみんな普通に人間ぽいのか。
「失礼しまーす」
 自分の席を見つけて椅子を引くと、目の前にいた獣人の男性が声を掛けてくれた。
「こんにちは! 今日はよろしくお願いします」
 対面の席は、中肉中背のスポーツ刈りで顔立ちの整った、メチャクチャ爽やかな感じの好男子だ。髪の毛の色は金茶で、毛にサクッと指を入れたくなるような感じの三角の耳がピーンと頭から突き出している。
「こんにちはーこちらこそ宜しく……!」
 ナデナデしたい衝動に駆られながらテーブルの上の相手のプロフィールカードをチラッと見たら、柴犬の獣人だった。
 そりゃあ可愛いわ。洋犬もいいけど日本の犬もほんと捨てがたい。
 俺、引っ越したら飼うの柴犬にしようかなー。
 幸先の良いスタートを感じながら、座席についてプロフィールを書き始めた。
 氏名、鳩羽湊。
 年齢、34。性別男性、属性オメガ。
 住所……千葉県船橋市っと。学歴は大学卒、血液型O型、身長178センチ。職業は大学職員、勤務地は千代田区。年収はチェック式か。350~500万にチェック。
 自分の性格……真面目だけど大雑把。
 趣味は……平日夜のジム通いと、料理とたまーに釣り、あと昔の洋楽。
 デートに行きたい場所は、広い公園。
 好きなタイプは……。
 そこで手が止まってしまった。犬塚さんのことが思い浮かんでしまって。
 もう考えねぇって決めたのに……。
 ーー好きなタイプ、優しくて真面目な人。
 そこまで書き掛けた時に、上から声をかけられた。
「鳩羽、さん……?」
 聞き覚えのある、甘くて低い声にハッとする。
 ちょうど左斜め前の席に座ろうとしていた男性を見上げた。
 高級そうなスーツ姿に、金髪をウルフカットにした目の覚めるような美青年。
 見間違えるはずがない。犬塚さんだ。
 そのキラキラした空気を纏った姿を一目見ただけで心臓が飛び出すかと思った。
 うっそだろ……。蛇の目さん、まさかこれワザと?
 それとも、交際解消した相手とパーティで偶然会うとか、婚活あるある?
「あっ……あのっ……」
 声が震えて何も言葉が出てこない。
 謝りたいとはずっと思ってたけど、こんなとこで突然会うのは流石に気まずい……!
 しかも俺を見つめる犬塚さんの顔色は真っ青だ。
「……どういうことですか……? あの時、俺には女の子がいいって言ってましたよね……」
 声が震えている。
「そ、それは……」
 頭が真っ白すぎて、上手い言い訳が何も浮かばない。
「あの時、俺がどんな気持ちであなたの事を諦めたと思ってっ……」
 何とも答えられなくて俺は俯いた。
 そうだよな、犬塚さんにしてみたら、俺がここに居るのは裏切りだよな。
「その……最近、やっぱり男でもいいかなって……?」
 曖昧に答えて精一杯微笑むと、綺麗な白い顔に赤みが走った。
「そんなーーいい加減なことを……っ」
 犬塚さんのプロフィールシートが大きな手のひらに握られてグシャグシャになっている。
「だ、大丈夫ですか? スタッフさん呼びますか?」
 俺と彼の間に入ってしまった形の柴犬君が凄いオロオロし始めた。
 犬塚さんはハッとして、だけど席には座らず、俺の側に回って来て強い力で腕を掴んで来た。
「ちょっと、来て」
 有無を言わさないその語調に、頷かない訳には行かず、俺は自分のプロフィールシートをテーブルに放ったまま席を立ち、会場の外廊下へ連れ出された。
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