【コミカライズ単行本発売中】理想の結婚~俺、犬とお見合いします

かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中

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婚活再開しました

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 やっぱり俺、ここは原点に立ち返り、一度蛇の目さんに相談するべきなんだろうか……。
 でもまだ、泣きつくには少し早い気もするしーー。
 それにしても、これだけ「合わない」っていうのを繰り返すと、疲弊しすぎて自分が本当に結婚したいのかどうかさえ分からなくなって来る。
 俺の運命の相手なんて何処にもいねぇし、今やってる事も時間の無駄なんじゃねぇかって気がしてきちまって仕方ない。
 ……そういえば犬塚さんは、どうして俺を運命の相手だって思ってくれたんだろう?
 今頃は別の相手にも会ってみて、あぁ、あれは勘違いだったなって思ってたりして……。
 ーーあーあ。
 ……実は俺、最近時間に空白があると、妙に犬塚さんの事を考えちまうんだよな。
 次のデートの約束があって、オハヨウとオヤスミのメッセージが毎日あった頃よりも、今の方が頻繁に思い出してるかもってくらい。
 つい先週来てた発情期の時だって、俺はアホかと思うほど犬塚さんの事ばかり思い出してた。
 触られた手の独特の感触や、キスを思い出して何度も抜いたし、その上……。
 記憶でしか抜けなくなるのヤバいと思って、夜中にネットで女の子のエロ動画探したんだけど……、そうすると、気が付いたらつい犬獣人が出てくるジャンルの動画ばっかり探しちまうんだ。
 シェパードの犬頭の獣人二匹が、でっかいちんちんを女の子の前と後ろに入れてる激しいヤツとか……。
 単にラブラブな、シベリアンハスキーの獣人と女の子の交尾とか。
 しかも前は男優側に自分を投影して見てた筈なのに、今は画面の中で犬男優に犯される女の子の気持ちになって動画を見てる事に気付いて、かなりショックだった。
 俺、犬塚さんと会って、自分の中の何かを残酷な程変えられちまったんだ。しかも永遠に。
 もう、彼とは二度と会わないのに。
 それに気づいてから発情期の間中、本当に惨めな気分だった。
 前だけじゃなくて後ろが濡れて仕方ねぇのも辛くて。
 前回までは、発情の時だってそんな事無かったんだよ。
 でももう、仕方なくて……初めて自分で指入れて、拙いながらもそこを慰めた。それから、乳首も触った……。
 今まで頑張って保ってきたものがズタボロになったような気分だったけど、ヤバい程気持ち良かった。
 それで自分はやっぱり、普通の男じゃなくてオメガなんだと思い知った。
 男の気持ち良さは前から知ってたけど、敢えて目を背けて触らないようにしてた部分が今更目覚めて、訳が分からねぇくらいそれが気持ち良くて……絶望した。
 そんな状況に、さらにお見合い失敗も重なってーー頭の中で何かがキレたのかもしれない。


 美術館のカフェラウンジでの見合いの帰り、俺は到底家に帰る気になれず、スーツ姿のままフラッと電車に乗り、地元とは反対方向に向かった。
 行ったのは、いつか犬塚さんと待ち合わせした東京駅。でも、丸の内とは反対方向の八重洲方面の改札に足を向ける。
 以前デートした皇居側は綺麗に整備されててお洒落な感じなんだけど、南側に出ると小さい雑居ビルみたいなのが立て込んでて、カラオケやら飲み屋やらがひしめいてる辺りがある。
 その中の立ち飲み屋の一つに入って、俺はお見合い10連敗を祝ってしこたまビールを呑んだ。
 一緒に呑んだり、クダを巻いたり出来る友達がいねぇのが俺の寂しいところだな。
 で、夕方頃にはすっかりいい気分になって店を出て、それでもまだ家に帰りたくなくて……、東京駅の北を通ってる永代通りを、まーっすぐ、日本橋方面に歩き始めちまった。
 その先をずーーっと歩き続けたら何があるかっていやあ……隅田川だ。犬塚さんのマンションが建ってるすぐ隣に流れてる川。
 極度の方向音痴だからマンションの場所なんかは忘れちまったけど、とにかくまっすぐ歩いて川まで行きつけば、犬塚さんに会える気がしたんだろうなぁ……俺。
 ……すっかり頭がおかしくなってた。
 諦めたはずの犬塚さんのことばっかり浮かぶし、婚活は上手くいかねぇし、発情期はあけたばっかりだったし、酒も飲んでたし。
 でも、思ったより東京駅から隅田川までは遠い。
 歩いても歩いても全然たどり着けねぇの。おおよそ二駅分だもんな。そりゃ遠いよ。しかも酔っ払ってるし……。
 素直に犬塚さんちの最寄駅に行きゃあ良かったのにって?
 それじゃあ偶然会ったことにならねぇじゃん……。
 いわゆる「飲んだ帰りに偶然遠目からチラッと見かけた」みたいな感じだったらルール違反にならねぇかなと思ったんだ。運良く遠くから一目チラッと見られたら帰る、みたいな。
 それなのにーー。
「ここ、どこだ……」
 さっき証券会社の看板が沢山並んでるのは見た。多分、あの辺が兜町だろぉ……アレ、ほんと俺今どこに居てどこに向かってんだ。
 だんだん酔いが覚めてきて、これといって特徴のない建物ばかりが並ぶ周囲の状況に狼狽し始める。
 しかもすっげートイレ行きたくなって来た。
 なのに日曜の都心の恐ろしいところで、コンビニすら見あたらねぇ。
 地元じゃあ三歩歩けばすぐ見つかるぐらいの勢いなのに……。
 革靴で長く歩いてたから足も痛ぇし、日が暮れ始めて人通りもあんまりねぇしで、だんだん泣きが入って来た。
 目的の隅田川は見当たらないけどちっちゃい川みたいなのには出られて、そこの橋から暗い水面を見下ろす。
 この水だけはきっと繋がってるんだろうけどな……犬塚さんちの近くと。
 はーっと溜息をついて、欄干に寄りかかって休んでいると、どこからか微かに犬の鳴き声が聞こえてきた。
 こんな場所で、まさか幻聴かと思ったけどーー。
 急いであたりを見回す。
 そして俺はついに目にした。
 橋の向こう側からーー異常にでっかいゴールデンレトリバーが尻尾振りながら凄い勢いでこっちに向かって駆けてくるのを。
「いっ……犬塚さん……!!」
 嬉しくて懐かしくて涙が出る。
 大きな犬はあっという間に間近まで迫ってきて、最後は前脚を上げて胸の中に飛び込みーーびっくりする程の熱烈さで俺をアスファルトに押し倒した。
 ビッチョビチョになるほど頬や額を舐められて、俺も激しく犬の首筋にスリスリする。
「犬塚さん、犬塚さん……!!」
 もう二度と会えねぇと思ってたのに、嬉しすぎて危うく俺が漏らしそうだぁ……。
 スーツが汚れるのも構わず、泣きながら道端にゴロゴロ転がってモッフモフの犬をギュウギュウしてたら、ちょうど橋を通りがかったジャージのオッサンが驚いて声を上げた。
「うわっ犬が人襲っとる! 警察呼ばな」
 慌てて声を上げて否定した。
「ちっ、違います! この人犬じゃないんです! ヒトなんですっ!」
「はぁ? どう見ても犬やがな」
 オッサンは見ちゃいけないモノを見てしまったような顔で立ち去っていく。
 でも俺はもう気にしない。
 だって、本当はずっと会いたかった犬塚さんに、やっと再会出来たんだから……。
 夢見心地で、二度と離すまいと必死に犬にしがみ付いた。
 ところがーー。
「キャーッすみません! うちのバカ犬が……! こらっ、何やってんのよっもう!」
 女の人の叫ぶ声が上から降ってきて、ハッとした。
 えっ……犬?
 目の前のカワイイ顔をよくよく眺める。
 ウッ。
 確かによ~く見ると……ヘッヘッと呼吸しながら舌を出しているその犬は、記憶の中の犬塚さんとかなり違っていた。なんか、凛々しい顔してるというか?
 ちょっ……これ確かにゴールデンレトリバーだけど別犬じゃねーか。
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