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仮交際始めました
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こんなの見ちまったらメチャクチャ心が揺れるじゃん。こんな可愛い子が生まれてくるなら……って。俺が産んだら全然違う感じかもしれねぇけど。
「横に見えてるのは弟二人だよ」
「犬塚さん、三つ子!?」
「珍しくないよ。それから、獣人は3歳まではずっと獣の姿で育つから、ここから暫くこんな写真ばっかり」
三つ子かー。そういや、多胎児になりやすいって書いてあったもんな。可愛いけど、産む方も育てる方もすげぇ大変そう。
「誰が俺だか区別つく?」
「うーん……犬塚さんが一番優しい顔してるから何となく見分けはつくかな」
可愛すぎる子犬成長写真集にとろける笑顔を抑えられないままページをめくっていく。
弟達と一緒にお母様犬のオッパイを吸ってる犬塚さん……無防備なお腹を見せてゴロゴロ寝てる可愛い子犬達……。オモチャを噛んで取り合ってるヤンチャな所や、お皿に顔を突っ込んでる食いしん坊な姿。
俺の胸の中に、フワーッとあったかい何かが浮かんでくる。
俺だけのこんな子に、会えたらな。
毎日世話をして、寝る前に抱き締めてお休みって頬擦りできたら……。
犬や猫を可愛いと思うのは、赤ん坊を可愛いと思う人間の本能に訴えるからだと聞いたことがある。
こんなに堪らなく愛しいと思うのは、俺の本能が欲しがってるからなんだろうか? 子供を、それとも子犬を?
「見て、湊さん。これは昔の叔父の結婚式だよ」
促されて別のアルバムに視線を移す。
集合写真の真ん中に、どこか人間時の犬塚さんに似ている、金髪の背の高い美男美女が白いウェディングドレスとタキシードを着て寄り添って居る。
外国の広告みたいな完璧なカップル……。
周りを囲む人達もみんな、同じ色の髪をして、老若男女の違いはあれど、みんな怖いくらいキレイで整った顔立ちをしている。
「湊さんは、どんな結婚式がいいと思う? 洋装? 和装もきっと似合うね……」
飲みかけたコーヒー吹きそうになった。
何故そこまで話が飛躍するんだ。
でもそんな風に言われても全然何も具体的に思い浮かばねぇよ……。
俺みたいなのはきっと、こんな人達の中に入ったら浮きそうだな、って思うくらいで……。
ページを捲る手が重くなって、肩を落とす。
自信がない。もし犬塚さんと結婚前提にお付き合いする決断をするとして、この生まれも育ちも違う獣人家族と上手くやって行けんのか。
座り込んだまま黙ってしまった俺の背中に、犬塚さんがそっと触れてきた。
「今度、湊さんの写真も見たいな。あなたの家にも行ってみたい」
死んっでも無理!
って言いたいけど、結婚とかになったらやっぱ……連れてくことになるんだろうな。
幻滅されたらどうしよう。俺自身は一生懸命小綺麗にしてるけど、あんなボロいアパートに住んでるって知ったら、どんだけケチなんだよって引かれねぇかな。
今まで友達も、元彼女ですら家に連れてきた事なんてねぇもん。
男の獣人連れてって「この人旦那になるかも」なんて言ったら、お袋が卒倒しそうなのも怖いなぁ……。
「……また今度な」
誤魔化すように言った言葉が、今度があるんだと思わせてしまったのかーー彼のキラキラした瞳が一層輝いた。
その視線に対する動揺で息が少し乱れる。
苦しい……。心が痛い。あんまりにも彼が純粋で真っ直ぐすぎて。
知り合って1ヶ月で、この人は俺のことなんてまだ、何も知らねぇのと同じくらいなのにもう全部を受け入れてる。少なくともそのつもりでいる。
本能と理性の狭間でアップアップしてる俺を置いてけぼりにして。
「犬塚さんは、家の人達に婚活の事とかどこまで言ってんの……?」
恐る恐る訊くと、当然と言った感じで返答が返ってきた。
「運命の人に会ったかもって言ったよ」
ギャーッ!
まだ本交際してもいねぇのに、そこまで話しちゃってんだ!?
すっかり油断して男友達みたいなノリで遊びに来ちまったじゃねえか。お母様に観察されたり従姉妹に唸られたり犬にへばり付かれたりする筈だよ……!
「犬塚さん、メチャクチャ俺の外堀埋めて来てるだろ……!?」
さっきから段々近寄って来てる鼻先を手のひらでグッと押し返すと、カワイイ犬顔がハッハッと舌を出しながら、残念そうに白っぽい睫毛を伏せた。
「……ごめん、そんなつもりは無いんだけど」
うぅっ、可愛いから許しちまうけど、この顔じゃ無かったらホッペつねってる所だぞ……!
「ねぇ、湊さん。じゃれてもいい?」
「はい!?」
「今日、獣の姿で遊んで無かったから寂しい」
誰のせいだよ!?
って俺のせいか。くそ、断りづらいな……!
「……分かったよ。じゃあ、撫でるだけ」
向き合って膝付き合わせて座り、そっと両手を伸ばして首筋から耳の後ろまで毛並みを揉むように撫でていく。
うぅ……相手が半端に人間ぽいからなんかシュールな図だぞ。
大体、犬扱いするなって言う割には犬みたいにじゃれ合いたいなんて矛盾してねぇか!?
クゥン、という高い音が犬塚さんの鼻から上がる。
伸ばした腕に頭が懐き、薄くて長い犬舌が俺の手首をベロンと舐めてくる。
敏感な腕の内側の皮膚に艶かしい感触が走り、ゾワッと肌が粟立ったが、それを堪えながら毛並みを撫でるのを続けた。
シャツの襟ギリギリの部分を撫でると、人間の姿の時見たように毛並みの下に胸筋が盛り上がってるのが分かる。
瞬間、甲に毛の密生した両手にそっと首筋を抱き寄せられて、そのシャツの間のモフモフに鼻の頭を突っ込まされた。
「んぶ」
あっ、……こんな夢見た……。
あったかくて堪らなく心地いい……。
この毛皮はどこまで続いてるんだろう?
四肢の全てに?
裸で抱き合ったらきっと堪らない気持ちになる。
すり、と頬を添わせ、毛皮に唇と鼻を埋めて匂いを嗅ぐ。シャワー浴びたばかりなせいか今日はそんなに犬臭くない。石鹸のいい匂い。
夢中で匂いを嗅ぎながら彼の膝の上を跨ぐように腿を開き、逞しい太腿に乗り上げると、俺の襟ぐりの開いた白いニットの肩の一方がずり落ちた。
すかさず、犬塚さんの長い舌がざらあっとそこに這う。
「ふぁ……」
変な声が出る。撫でるだけって言ったのに。
いや、こんな距離まで来てたのは俺だ。
首筋から移動した指が耳の後ろに触れる。
手のひらの感覚はやっぱり肉球だ。人間の手の平よりも硬めで、黒く少しガサついてる。
やめてくれ、その指の腹の感触、絶対ヤバい。
舌もダメだ。
分かってるのに制止できない。
飢えた本能が津波のように俺を呑み込んでいく。
「犬塚さん……やめてくれ……俺……」
最後の抵抗で涙目で俯き首を振る。
「ナギサって呼んで」
俺の大好きなあの甘くて低い声で、耳元に囁かれた。
「いやだ……無理……」
目の前の男の名前を口にしたら、無意識に引いた境界線が崩れてしまう。
「俺は湊って呼ぶよ……好きだ、湊」
「あー……っ」
もう、その短い囁きだけでゾクゾクと感じる。
俺だけの犬。俺だけの男。俺を愛したがってる俺のアルファ……。
酷いよ犬塚さん、俺の発情おかしいの知っててこんなことを。
薬なんかじゃもう抑えが効かない。
ボンヤリする視界で彼を見上げる。
唇が勝手に口走った。
「舐めて……」
「横に見えてるのは弟二人だよ」
「犬塚さん、三つ子!?」
「珍しくないよ。それから、獣人は3歳まではずっと獣の姿で育つから、ここから暫くこんな写真ばっかり」
三つ子かー。そういや、多胎児になりやすいって書いてあったもんな。可愛いけど、産む方も育てる方もすげぇ大変そう。
「誰が俺だか区別つく?」
「うーん……犬塚さんが一番優しい顔してるから何となく見分けはつくかな」
可愛すぎる子犬成長写真集にとろける笑顔を抑えられないままページをめくっていく。
弟達と一緒にお母様犬のオッパイを吸ってる犬塚さん……無防備なお腹を見せてゴロゴロ寝てる可愛い子犬達……。オモチャを噛んで取り合ってるヤンチャな所や、お皿に顔を突っ込んでる食いしん坊な姿。
俺の胸の中に、フワーッとあったかい何かが浮かんでくる。
俺だけのこんな子に、会えたらな。
毎日世話をして、寝る前に抱き締めてお休みって頬擦りできたら……。
犬や猫を可愛いと思うのは、赤ん坊を可愛いと思う人間の本能に訴えるからだと聞いたことがある。
こんなに堪らなく愛しいと思うのは、俺の本能が欲しがってるからなんだろうか? 子供を、それとも子犬を?
「見て、湊さん。これは昔の叔父の結婚式だよ」
促されて別のアルバムに視線を移す。
集合写真の真ん中に、どこか人間時の犬塚さんに似ている、金髪の背の高い美男美女が白いウェディングドレスとタキシードを着て寄り添って居る。
外国の広告みたいな完璧なカップル……。
周りを囲む人達もみんな、同じ色の髪をして、老若男女の違いはあれど、みんな怖いくらいキレイで整った顔立ちをしている。
「湊さんは、どんな結婚式がいいと思う? 洋装? 和装もきっと似合うね……」
飲みかけたコーヒー吹きそうになった。
何故そこまで話が飛躍するんだ。
でもそんな風に言われても全然何も具体的に思い浮かばねぇよ……。
俺みたいなのはきっと、こんな人達の中に入ったら浮きそうだな、って思うくらいで……。
ページを捲る手が重くなって、肩を落とす。
自信がない。もし犬塚さんと結婚前提にお付き合いする決断をするとして、この生まれも育ちも違う獣人家族と上手くやって行けんのか。
座り込んだまま黙ってしまった俺の背中に、犬塚さんがそっと触れてきた。
「今度、湊さんの写真も見たいな。あなたの家にも行ってみたい」
死んっでも無理!
って言いたいけど、結婚とかになったらやっぱ……連れてくことになるんだろうな。
幻滅されたらどうしよう。俺自身は一生懸命小綺麗にしてるけど、あんなボロいアパートに住んでるって知ったら、どんだけケチなんだよって引かれねぇかな。
今まで友達も、元彼女ですら家に連れてきた事なんてねぇもん。
男の獣人連れてって「この人旦那になるかも」なんて言ったら、お袋が卒倒しそうなのも怖いなぁ……。
「……また今度な」
誤魔化すように言った言葉が、今度があるんだと思わせてしまったのかーー彼のキラキラした瞳が一層輝いた。
その視線に対する動揺で息が少し乱れる。
苦しい……。心が痛い。あんまりにも彼が純粋で真っ直ぐすぎて。
知り合って1ヶ月で、この人は俺のことなんてまだ、何も知らねぇのと同じくらいなのにもう全部を受け入れてる。少なくともそのつもりでいる。
本能と理性の狭間でアップアップしてる俺を置いてけぼりにして。
「犬塚さんは、家の人達に婚活の事とかどこまで言ってんの……?」
恐る恐る訊くと、当然と言った感じで返答が返ってきた。
「運命の人に会ったかもって言ったよ」
ギャーッ!
まだ本交際してもいねぇのに、そこまで話しちゃってんだ!?
すっかり油断して男友達みたいなノリで遊びに来ちまったじゃねえか。お母様に観察されたり従姉妹に唸られたり犬にへばり付かれたりする筈だよ……!
「犬塚さん、メチャクチャ俺の外堀埋めて来てるだろ……!?」
さっきから段々近寄って来てる鼻先を手のひらでグッと押し返すと、カワイイ犬顔がハッハッと舌を出しながら、残念そうに白っぽい睫毛を伏せた。
「……ごめん、そんなつもりは無いんだけど」
うぅっ、可愛いから許しちまうけど、この顔じゃ無かったらホッペつねってる所だぞ……!
「ねぇ、湊さん。じゃれてもいい?」
「はい!?」
「今日、獣の姿で遊んで無かったから寂しい」
誰のせいだよ!?
って俺のせいか。くそ、断りづらいな……!
「……分かったよ。じゃあ、撫でるだけ」
向き合って膝付き合わせて座り、そっと両手を伸ばして首筋から耳の後ろまで毛並みを揉むように撫でていく。
うぅ……相手が半端に人間ぽいからなんかシュールな図だぞ。
大体、犬扱いするなって言う割には犬みたいにじゃれ合いたいなんて矛盾してねぇか!?
クゥン、という高い音が犬塚さんの鼻から上がる。
伸ばした腕に頭が懐き、薄くて長い犬舌が俺の手首をベロンと舐めてくる。
敏感な腕の内側の皮膚に艶かしい感触が走り、ゾワッと肌が粟立ったが、それを堪えながら毛並みを撫でるのを続けた。
シャツの襟ギリギリの部分を撫でると、人間の姿の時見たように毛並みの下に胸筋が盛り上がってるのが分かる。
瞬間、甲に毛の密生した両手にそっと首筋を抱き寄せられて、そのシャツの間のモフモフに鼻の頭を突っ込まされた。
「んぶ」
あっ、……こんな夢見た……。
あったかくて堪らなく心地いい……。
この毛皮はどこまで続いてるんだろう?
四肢の全てに?
裸で抱き合ったらきっと堪らない気持ちになる。
すり、と頬を添わせ、毛皮に唇と鼻を埋めて匂いを嗅ぐ。シャワー浴びたばかりなせいか今日はそんなに犬臭くない。石鹸のいい匂い。
夢中で匂いを嗅ぎながら彼の膝の上を跨ぐように腿を開き、逞しい太腿に乗り上げると、俺の襟ぐりの開いた白いニットの肩の一方がずり落ちた。
すかさず、犬塚さんの長い舌がざらあっとそこに這う。
「ふぁ……」
変な声が出る。撫でるだけって言ったのに。
いや、こんな距離まで来てたのは俺だ。
首筋から移動した指が耳の後ろに触れる。
手のひらの感覚はやっぱり肉球だ。人間の手の平よりも硬めで、黒く少しガサついてる。
やめてくれ、その指の腹の感触、絶対ヤバい。
舌もダメだ。
分かってるのに制止できない。
飢えた本能が津波のように俺を呑み込んでいく。
「犬塚さん……やめてくれ……俺……」
最後の抵抗で涙目で俯き首を振る。
「ナギサって呼んで」
俺の大好きなあの甘くて低い声で、耳元に囁かれた。
「いやだ……無理……」
目の前の男の名前を口にしたら、無意識に引いた境界線が崩れてしまう。
「俺は湊って呼ぶよ……好きだ、湊」
「あー……っ」
もう、その短い囁きだけでゾクゾクと感じる。
俺だけの犬。俺だけの男。俺を愛したがってる俺のアルファ……。
酷いよ犬塚さん、俺の発情おかしいの知っててこんなことを。
薬なんかじゃもう抑えが効かない。
ボンヤリする視界で彼を見上げる。
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