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仮交際始めました

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 そ、そんなにあからさまでしたか俺は……。
 って、あのデカさは普通に女も引くと思うけどな!?
「あっ、あのー……犬塚さんのこと意識してねぇ訳じゃねぇんだ。……ただ男相手にそういう空気を出すのが……慣れねぇというか……」
 必死に弁解してみたら、犬塚さんはますます突っ込んで俺を尋問し始めた。
「それは俺に好意があるってことですか」
 ううっ、結論を急ぐのは許してくれよ刑事さん……。
「た、多分。犬塚さんと一緒にいんのすげぇ楽しいし……。ただ俺、前に恋愛したの大昔で、誰かをそういう意味で好きになるって気持ち自体よく分かんなくなっちまってるもんだからその……ごめん」
 もう何を弁解してるんだか分からなくなって来たけど、とにかく謝った。
「鳩羽さん……。ずっと恋愛してなかったの?」
 犬塚さんの口調が少し柔らかくなる。
「うん……」
「どうして婚活始めようと思ったの。何か、結婚したいと思うきっかけがあったんですか」
 それを聞かれるとまた辛ぇなー。
「どうしてそんなこと気になるんだよ……」
「あなたが好きだから」
 なっ……!?
 いやいや、会ってまだ3回目だぜ。さっきキスはしたかもしれねぇけど、会って3回でそんな事、フツー自信満々に言えるか?
 俺にはやっぱり、俺の発情の乱れによる勘違いとしか思えねぇ……あと、若さ?
 ――ついそんな事考えるあたり、やっぱ相当にコジれてるのかも知れねぇな、俺。
 しっかし30過ぎの独身男の事情なんて、聞いたところで楽しくも何ともねぇし、俺が触られて痛ぇだけじゃん……。
 なんて考えつつ、チラッと犬塚さんと視線を交わし、俺はポツポツと言葉を探し始めた。
「婚活始めたのは30になってからだけど……結婚してぇって何となく思ったきっかけは……元カノと偶然会った事かもな。確か、26ぐらいの時に……」
 犬塚さんが頷く。
「彼女とは学生時代、オメガ同士ってことで仲良くなって付き合ったんだけどさ。――就職したぐらいの頃言われたんだ。自分の子に、自分みたいな思いをさせたくない。子供は産みたくない、だから別れてくれって」
 この前夢の中で久々に見た彼女の姿が脳裏に蘇り、心が痛くなる。
「オメガに生まれると、確かにかなり生きづらい事は間違いねぇから、そんな風に思うのも仕方ねぇと思って……俺は子供いなくてもいいから結婚したい、って言ったんだけど、彼女は別れるの一点張りで。それからは一度も会ってなかったんだけど」
 犬塚さんが黙って相槌を打った。
「……その、偶然再会した時の彼女はベビーカーに赤ちゃん乗せて歩いててさ」
 何で俺こんなことまで話してるんだろうな……もっとサラッと話せばよかったのに。
「ああ、あの時の『産みたくない』は、『俺の子供』はって意味だったんだなって……」
 ――少しでもオメガになる可能性が低くなるように、出来ればベータやアルファと結婚したいと思うのは普通だから、俺は再会した彼女を責められなかった。
 俺も彼女も色んな偏見と色眼鏡にずっと苦しんでいて、痛いほどそれが分かったから。
「ショックだったけど、そん時の彼女は幸せそうだったから、俺も結婚しなくちゃなって。……結婚して、彼女と同じくらい幸せになんなきゃなってさ。それがきっかけと言えばそう」
 ……って、あれ……犬塚さん固まってる。
 ちょっと湿っぽすぎたか?
「鳩羽さん、子供産ませる方は出来るんだ……?」
 ひっ。そこを訊かれたか。
 とりあえず頷くと、今度は次の質問が来た。
「……。女性が好きなのに俺に会おうと思ったのは何故?」
 怖いぐらいの無表情で更に尋問されて、俺は渋々正直に答えた。 
「俺オメガなせいか、出産NGだと結局誰ともマッチングしなくて……、蛇の目さんからおススメされたっていうか……って、俺さっきから聞かれすぎじゃねぇ……!?」
 これ以上細部まで突っ込まれると俺のライフポイントがゼロになりそうだよ、勘弁してくれ!
「じゃあ、逆に鳩羽さんが俺に質問してください」
 ――あ、許してもらえた。ホッ。
「……犬塚さんは、何で婚活しようと思ったんだよ。メチャクチャカッコいいしモテるだろ?」
 テーブルに身を乗り出し、絡むみたいに訊いてやったら、犬塚さんはあっさりと首を横に振った。
「いえ、全然。獣人の世界は閉じてるので……芸能人とか、人前に出る職業に就職しない限りは人間からモテるような状況はそもそも無いんだ。俺も、町中で声かけられるくらいだし」
 それをモテると言うんだよ……。
「鳩羽さんは知らないかもしれないけど、他の獣人はともかく、イヌ科の獣人は学校も就職も恋愛も、結婚も……同種の一族の中で完結するのがスタンダードな生き方だよ。俺も普通にしてれば、恐らく同じマンションの別の階に住んでる従姉妹と結婚してたと思う」
 そ、それは世界狭いな……! まるでアレだ。血統書付きの純血の犬みてぇな感じ?
「小さい頃はそれが当たり前だったけど、大人になるにつれ、本当にそれでもいいのかなって思い始めて……。視野を広くして、人間みたいにもっと色んな人と会って、運命の人を探してみるのもいいんじゃないかって。それで婚活始めたんだよ」
「そんな勝手なことして、家族に反対されなかったのか……?」
「一族全体で見ればいい顔しない人も多いけどね。俺の家族はちょっと変わってるんだ。弟の一人が結構はねっかえりで、人間の女性と結婚して一緒に暮らしてる」
 あ、一応前例アリな訳ね。
 で、真面目な長男の犬塚さんも触発されて婚活始めちまったと。
 それにしても、ここまで純粋培養だと知ると益々、俺を好きって言って来るのが勘違いに思えてくるけど大丈夫なんかな……と、思ってるそばから犬塚さんがテーブルの上の俺の手をがしっと握ってきた。
「――でも、婚活してみて良かった。俺はあなたを運命の番だと思ってるよ。女性じゃないからあなたの子供は産んであげられないけど、幸せにしたいーー湊さんを」
 ギャッ。今さり気に下の名前呼んだ!?
 好きどころか、本交際すらぶっとばして運命まで言いきっちまうの!? まだ会って三度目で!?
 嬉しいとか以前にちょっと怖ぇよ、マジかよ……。
 って思ったのが俺の顔面でバレバレなのか、相手に溜息吐かれた。
「……そんな引かないで……。真剣に言ってるのに。大体婚活で出逢ったんだから、そういうこと意識して当たり前でしょう」
 うーん、言われてみればそうだな。
 俺が引き過ぎだわ……。
「ご、ごめん。でもほらさ、まだ俺が一人目なんだろ、会ったの。婚活で他にも誰か会ってみたか?」
 速攻で首を左右に振られた。
 わーっ。純粋な若者の思い込み恐ろしい……!!
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