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仮交際始めました
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俺がシャワーブースを出てロッカーに戻った後も、しばらくの間犬塚さんは出てこなかった。
多分、勃っちまったモンを何とかしてたんだと思う。
あれだけデカいと、あのまま出て来たりしたら間違いなく注目の的になっちまうからな……。
犬塚さんがあの狭い場所で一人で抜くはめになったかと思うと、想像するだに死ぬほど申し訳なかった。30過ぎオメガの俺が、本能のせいで所かまわずアルファの犬塚さんに発情しちまうもんだからこうなったんだろうし……。
俺が薬を飲み終え、服も全部着た後で、犬塚さんはロッカールームに帰って来た。
しかも恐縮したみてぇに真っ青な顔して、全裸のまま俺に深々と頭を下げてきて。
「本当にすみません……。まだ交際を申し込んでもいないのに先走って鳩羽さんにあんなことを」
「いっ、犬塚さんっ、人が見てるから……せめてパンツ穿いてくれ、パンツっ!!」
綺麗な顔が一瞬ハッとして、すぐにますますしょげたような表情になった。
「ごめん、つい……」
「いや、犬塚さんは悪くねぇから……パンツ穿こう、な? 俺、待ってるから」
成人男性に言う言葉とは思えねぇが、それしか言いようがない。
周囲で着替えてる人達のイタイ物を見るような視線が突き刺さる。
俺だけでも外に出てようかと思ったけど、こんな針のむしろに犬塚さんだけ置いて行くのは忍びない……。
結局俺は横で彼の着替えをじっと待つことになった。
支度を終えて店を出た後、俺たちは高層ビルのレストラン階で少し早めの昼飯を食う事にした。
選んだのは、座席が店の外に開けてて、目の前に屋内噴水の見える有名なハワイアン・ハンバーガーチェーン店。
トマト、玉ねぎ、それにアボカドにチーズがたっぷり入ったでっかいハンバーガーを店員に二つに切ってもらったものの、一つを犬塚さんに差し出した。
「はいよ。そっちも半分貰うぜ」
「あ、どうぞ……」
目の前の金髪の美青年はまだ微妙にぼんやりしている。
俺は犬塚さんのサルサソースのハンバーガーを勝手に貰って自分の皿に置いた。
すげぇ腹が減ってたから俺はすぐにハンバーガーに食いついたが、相手は皿に手をつけようとしない。
見かねて、周囲に聞こえないようになるべく声を落としながら声を掛けた。
「さっきのはさ、俺のせいなんだ。……その……単刀直入に言うと、俺、最近発情周期がおかしくて、実は今も薬を飲んでる。だから……」
すると、犬塚さんは緩く首を左右に振り、テーブルに少し身を乗り出して指で俺を誘った。
同じように俺も上半身を前に傾ける。
俺の耳に、近付いた彼の口許が低く囁いた。
「違う。……俺はあなたにキスしたくてしたんだ……匂いは関係ない」
かあっと顔に血が集まって、食ってるハンバーガーの味がさっぱり分からなくなった。
俺から仕掛けたとはいえ、そんな返し方をされるとは思ってなくて思わず背もたれに背中がくっつくまで後ろに逃げる。
「なっ、何言って……」
「鳩羽さんの気持ちも確かめずにあんな事をして、申し訳ないとは思ったけど」
フェロモンに誘惑されちまっただけかもしれねぇの俺のせいにしないでくれるなんて……と、思ってたら次の瞬間目が点になった。
「――俺はあなたの事が好きで、あなたが俺に歩み寄ってくれたのが嬉しくて、堪らなくなってしただけだから」
一気に喋り切って、犬塚さんがアイスコーヒーのプラスチックの蓋を開けた。
氷ごと直接カップで飲んでるのを眺めながら、俺はボンヤリ何を言われたのか考えていた。
す、き……?
それは何処までの……ライク……? ラブ……?
コーヒーの入ったカップを置き、犬塚さんが真剣な顔で俺を見る。
「でも……途中から鳩羽さんが応えてくれたと思ったのは……あれは、俺を好きだと思ってくれてたんだと俺は思ったけど……違う……?」
いつかは答えを出さなきゃいけないと思っていたことを単刀直入に訊かれて、俺は喉が詰まったようになって俯いた。
「……っ、それは……ごめん、俺……。まだ、分からねぇんだ……俺、犬塚さんのこと好きだと思うんだけど――恋愛、的な意味で好きなのか……もう3回も会ってるし、キスされてあんな風になっておきながら、そりゃねぇだろって思うかもしれねぇけど……」
やっぱり、という顔で彫りの深い綺麗な瞼が伏せた。
本当に申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになって、その顔が直視できない。
でも正直なところだ。
「……。鳩羽さん、もう一つ聞きたい」
「うん……。答えられることなら」
「この前から話そうと思っていた事なんだけど……。その――鳩羽さんは……もしかして、どちらかというと男性よりも女性の方が好きなのかな」
ドキッと心臓が跳ね上がった。
何で……?
何で、バレたんだろう。
俺がオッパイ見過ぎてたから?
犬塚さんのこと、友達になりてぇとか思ってたから?
やっぱそういうの表に出ちまってた?
グルグルしすぎてすぐに言葉が浮かんでこない。
「あ……。あの……」
「やっぱり、そうなんだ……?」
「う、……」
逮捕された人の気分で俺はズーンと俯いた。
「もしかしたら、そうなんじゃないかなって思ってた。歩く時も距離があるし、あなたの態度が何というか……気の合う男友達、って感じで……一緒にいる時も、スマホのやり取りでも、俺がそういう態度を表すと、すっと冷めていく感じがして。ーー俺の裸見た時もあからさまに引いていたし」
多分、勃っちまったモンを何とかしてたんだと思う。
あれだけデカいと、あのまま出て来たりしたら間違いなく注目の的になっちまうからな……。
犬塚さんがあの狭い場所で一人で抜くはめになったかと思うと、想像するだに死ぬほど申し訳なかった。30過ぎオメガの俺が、本能のせいで所かまわずアルファの犬塚さんに発情しちまうもんだからこうなったんだろうし……。
俺が薬を飲み終え、服も全部着た後で、犬塚さんはロッカールームに帰って来た。
しかも恐縮したみてぇに真っ青な顔して、全裸のまま俺に深々と頭を下げてきて。
「本当にすみません……。まだ交際を申し込んでもいないのに先走って鳩羽さんにあんなことを」
「いっ、犬塚さんっ、人が見てるから……せめてパンツ穿いてくれ、パンツっ!!」
綺麗な顔が一瞬ハッとして、すぐにますますしょげたような表情になった。
「ごめん、つい……」
「いや、犬塚さんは悪くねぇから……パンツ穿こう、な? 俺、待ってるから」
成人男性に言う言葉とは思えねぇが、それしか言いようがない。
周囲で着替えてる人達のイタイ物を見るような視線が突き刺さる。
俺だけでも外に出てようかと思ったけど、こんな針のむしろに犬塚さんだけ置いて行くのは忍びない……。
結局俺は横で彼の着替えをじっと待つことになった。
支度を終えて店を出た後、俺たちは高層ビルのレストラン階で少し早めの昼飯を食う事にした。
選んだのは、座席が店の外に開けてて、目の前に屋内噴水の見える有名なハワイアン・ハンバーガーチェーン店。
トマト、玉ねぎ、それにアボカドにチーズがたっぷり入ったでっかいハンバーガーを店員に二つに切ってもらったものの、一つを犬塚さんに差し出した。
「はいよ。そっちも半分貰うぜ」
「あ、どうぞ……」
目の前の金髪の美青年はまだ微妙にぼんやりしている。
俺は犬塚さんのサルサソースのハンバーガーを勝手に貰って自分の皿に置いた。
すげぇ腹が減ってたから俺はすぐにハンバーガーに食いついたが、相手は皿に手をつけようとしない。
見かねて、周囲に聞こえないようになるべく声を落としながら声を掛けた。
「さっきのはさ、俺のせいなんだ。……その……単刀直入に言うと、俺、最近発情周期がおかしくて、実は今も薬を飲んでる。だから……」
すると、犬塚さんは緩く首を左右に振り、テーブルに少し身を乗り出して指で俺を誘った。
同じように俺も上半身を前に傾ける。
俺の耳に、近付いた彼の口許が低く囁いた。
「違う。……俺はあなたにキスしたくてしたんだ……匂いは関係ない」
かあっと顔に血が集まって、食ってるハンバーガーの味がさっぱり分からなくなった。
俺から仕掛けたとはいえ、そんな返し方をされるとは思ってなくて思わず背もたれに背中がくっつくまで後ろに逃げる。
「なっ、何言って……」
「鳩羽さんの気持ちも確かめずにあんな事をして、申し訳ないとは思ったけど」
フェロモンに誘惑されちまっただけかもしれねぇの俺のせいにしないでくれるなんて……と、思ってたら次の瞬間目が点になった。
「――俺はあなたの事が好きで、あなたが俺に歩み寄ってくれたのが嬉しくて、堪らなくなってしただけだから」
一気に喋り切って、犬塚さんがアイスコーヒーのプラスチックの蓋を開けた。
氷ごと直接カップで飲んでるのを眺めながら、俺はボンヤリ何を言われたのか考えていた。
す、き……?
それは何処までの……ライク……? ラブ……?
コーヒーの入ったカップを置き、犬塚さんが真剣な顔で俺を見る。
「でも……途中から鳩羽さんが応えてくれたと思ったのは……あれは、俺を好きだと思ってくれてたんだと俺は思ったけど……違う……?」
いつかは答えを出さなきゃいけないと思っていたことを単刀直入に訊かれて、俺は喉が詰まったようになって俯いた。
「……っ、それは……ごめん、俺……。まだ、分からねぇんだ……俺、犬塚さんのこと好きだと思うんだけど――恋愛、的な意味で好きなのか……もう3回も会ってるし、キスされてあんな風になっておきながら、そりゃねぇだろって思うかもしれねぇけど……」
やっぱり、という顔で彫りの深い綺麗な瞼が伏せた。
本当に申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになって、その顔が直視できない。
でも正直なところだ。
「……。鳩羽さん、もう一つ聞きたい」
「うん……。答えられることなら」
「この前から話そうと思っていた事なんだけど……。その――鳩羽さんは……もしかして、どちらかというと男性よりも女性の方が好きなのかな」
ドキッと心臓が跳ね上がった。
何で……?
何で、バレたんだろう。
俺がオッパイ見過ぎてたから?
犬塚さんのこと、友達になりてぇとか思ってたから?
やっぱそういうの表に出ちまってた?
グルグルしすぎてすぐに言葉が浮かんでこない。
「あ……。あの……」
「やっぱり、そうなんだ……?」
「う、……」
逮捕された人の気分で俺はズーンと俯いた。
「もしかしたら、そうなんじゃないかなって思ってた。歩く時も距離があるし、あなたの態度が何というか……気の合う男友達、って感じで……一緒にいる時も、スマホのやり取りでも、俺がそういう態度を表すと、すっと冷めていく感じがして。ーー俺の裸見た時もあからさまに引いていたし」
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