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仮交際始めました
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昼飯食った後は人間デートで、園内の水族館に入ってみたりのんびり過ごした。
夕飯も別の駅で一緒に食って帰ろうかって話にもなったんだけど、俺は昼過ぎた辺りから何故だか身体が重怠くて、夕方前には家に帰らせて貰うことにした。
夕日の差す電車のホームに彼と並び、別々の方面の電車をそれぞれ待つ。
ーーなかなか来ない電車をぼんやり待っていた時、不意に犬塚さんに話し掛けられた。
「次、いつにします?」
次……。次が、あるんだ。
嬉しいような戸惑うような気持ちが湧いて来る。
熱っぽくて何だか頭がフラフラしながら、俺は頷いた。
「俺、基本的にいつでも空いてっから……犬塚さんの方が忙しいだろ。都合に合わせるよ」
「そんなことないよ。俺は鳩羽さんとしか会う予定無いし」
さらりと敬語を取って、犬塚さんが俺の背中に優しく腕を回した。
「大丈夫? 具合悪いんですか?」
海からの冷たい風が吹きまくってるホームで、その温もりがじわっと伝わって、また身体の奥で何かが渦巻き、沸き立つ気配がする。
これ、何だか嫌な予感がする……。
早く家に帰らねぇと……。
それにしても、今この人なんつった……?
俺としか、会う予定が無い……?
ーーまさか、リップサービスだよな。
「大丈夫だから……」
背中に触れている手からそっと離れる。
何故だか分からないけどこれ以上触れられてると、取り返しがつかない事になる気がした。
「色々気ぃ使わせてごめんな。本当に、会うのは犬塚さんの会える時でいいから」
「そんなこと言われたら、明日って言うけど」
何言われてんだろ。なんか頭がクラクラしてよくわかんねぇけど、明日が都合いいってことか?
ちょうど入試と新学期の繁忙期の狭間だし、無理じゃねぇとは思うけど、二日連続はなぁ……。
「ごめん、平日とは思わなかった……明日は急すぎてちょっと……犬塚さん、職場どこ」
「俺は浜町だよ」
「ああ……俺は神保町だから、地下鉄で俺の方に来て貰ってもいいかな……そうだな、水曜の夜とかなら」
「分かった。じゃあ水曜に」
約束したところでアナウンスが鳴り出し、ちょうど電車が来た。
あんまり本数がねぇせいか、時間帯のせいか、かなり混んでいる。
「じゃあな。今日はほんと楽しかったよ、弁当もすげぇ美味かったし。……ありがとう」
手を振って電車に乗り込み、入り口近くに立つ。
犬塚さんの黒曜石みたいに綺麗な目が、何か言いたげに俺をじっと食い入るように見つめた。
(何……?)
発車ベルが鳴り始める。
「また火曜ぐらいに連絡するから」
そう言ってもう一度俺が笑顔を作って手を振ると、ドアが閉まる一歩手前で彼の長い脚がぐっと横に割り込むように乗って来た。
「えっ」
驚いて犬塚さんの綺麗な顔を見上げる。
あんたの電車、反対だろう……!?
混んでて身体が触れそうな距離で犬塚さんが俺を見下ろす。
「具合悪そうだからやっぱり送っていく」
驚いた。俺は十代の女の子じゃねぇんだぞ。
「いいよ、別に。そこまでじゃねぇから」
「でも、もう乗ってしまったし」
強く拒絶する気力もなくて、俺は仕方なく電車のドア横に避けてもたれた。
本当に頭がぼんやりする……熱がありそうだ。遅れて来たインフルエンザかな。
犬塚さんが俺の前に立ちふさがるような位置に来る。対面に立つと、この人本当に背が高い。肩幅も広いし、やっぱり種族が違うんだなと感じる。
そのまま会話すらなく一緒の車両に乗り続ける内に、混み合った電車が大きく揺れた。
「!」
犬塚さんの胸がぐっと近付き、いわゆる壁ドンみたいな状態でその両手がドアと手すりに掛かった。
冷たいほど整った彫りの深い顔が頬のすぐ横に来て、息が耳に掛かってるーー。
心臓が鷲掴まれたみたいになって、頭が真っ白になり、そして気付いてしまった。
俺、……勃ってる……。
恐ろしくて犬塚さんと目が合わせられない。
これ、一時的なもんじゃねぇ。午後からずっとおかしかったから……多分、発情期のなりかけだ。
あと1ヶ月は先の筈だったのに、何で今来てんだよ……!?
俺、発情の周期が機械みたいにキッチリしてんのだけが取り柄で生きて来たから、まさか今日来るなんて全然思っても無かったし、薬も持ってねぇ。
どうしよう……まだなりかけだけど、満員電車で隣にいたら分かるくらいの微かな匂いは出てると思う。
ちょうど犬塚さんの位置なら、確実にバレる。
アルファの相手には絶対キツいはずだ。ーーでも、彼は微動だにしない。
耳に触れる呼吸が熱くて少しだけ荒い……。
多分、気付いてねぇフリをしてくれてるんだと思う。
やらかした……まだ仮交際の相手にフェロモン使うなんてルール違反もいいところだよ。
この事だけで切られても仕方がねぇ大失態。
情けなくて申し訳なくて堪らない。ワザとじゃねぇけど、絶対ユルい奴って思われたよな……。
多分犬塚さん、さっき電車乗るとき気付いてトラブルになんねぇようにガードに入ってくれたんだ。
発情期のことは、おおっぴらに口にするのも世間的にはタブーだから、面と向かって礼も言えねぇけど……。
本当にこの人、ヤバいくらいいい男だ。
ーーそんでもって、ウィンドブレーカーの下で勃ちまくってる俺、ほんと最低……。
一生懸命カオ逸らしてんのに、視界の端に入る犬塚さんの身体のどこ見ても目が眩む感覚がする。
フワフワした金色の髪とか、その中に隠れてる可愛い垂れ耳、ジャケットの下の分厚い身体、俺を守りながら閉じ込めてる大きな両手……。
何だろう俺……触りたい……のか……?
それとも……。
(ダメだ、これ以上考えたら)
慌てて思考停止したけど、うっかり気ぃ抜いたら犬塚さんに痴漢しちまいそうだ。
俺、男には一度もこんなの感じた事無かったのにマジかよ……。
アルファとほとんど会ったことなかったから知らなかったけど、オメガって属性はこういう事なのかーーと思い知らされる感じですげぇショックだった。
夕飯も別の駅で一緒に食って帰ろうかって話にもなったんだけど、俺は昼過ぎた辺りから何故だか身体が重怠くて、夕方前には家に帰らせて貰うことにした。
夕日の差す電車のホームに彼と並び、別々の方面の電車をそれぞれ待つ。
ーーなかなか来ない電車をぼんやり待っていた時、不意に犬塚さんに話し掛けられた。
「次、いつにします?」
次……。次が、あるんだ。
嬉しいような戸惑うような気持ちが湧いて来る。
熱っぽくて何だか頭がフラフラしながら、俺は頷いた。
「俺、基本的にいつでも空いてっから……犬塚さんの方が忙しいだろ。都合に合わせるよ」
「そんなことないよ。俺は鳩羽さんとしか会う予定無いし」
さらりと敬語を取って、犬塚さんが俺の背中に優しく腕を回した。
「大丈夫? 具合悪いんですか?」
海からの冷たい風が吹きまくってるホームで、その温もりがじわっと伝わって、また身体の奥で何かが渦巻き、沸き立つ気配がする。
これ、何だか嫌な予感がする……。
早く家に帰らねぇと……。
それにしても、今この人なんつった……?
俺としか、会う予定が無い……?
ーーまさか、リップサービスだよな。
「大丈夫だから……」
背中に触れている手からそっと離れる。
何故だか分からないけどこれ以上触れられてると、取り返しがつかない事になる気がした。
「色々気ぃ使わせてごめんな。本当に、会うのは犬塚さんの会える時でいいから」
「そんなこと言われたら、明日って言うけど」
何言われてんだろ。なんか頭がクラクラしてよくわかんねぇけど、明日が都合いいってことか?
ちょうど入試と新学期の繁忙期の狭間だし、無理じゃねぇとは思うけど、二日連続はなぁ……。
「ごめん、平日とは思わなかった……明日は急すぎてちょっと……犬塚さん、職場どこ」
「俺は浜町だよ」
「ああ……俺は神保町だから、地下鉄で俺の方に来て貰ってもいいかな……そうだな、水曜の夜とかなら」
「分かった。じゃあ水曜に」
約束したところでアナウンスが鳴り出し、ちょうど電車が来た。
あんまり本数がねぇせいか、時間帯のせいか、かなり混んでいる。
「じゃあな。今日はほんと楽しかったよ、弁当もすげぇ美味かったし。……ありがとう」
手を振って電車に乗り込み、入り口近くに立つ。
犬塚さんの黒曜石みたいに綺麗な目が、何か言いたげに俺をじっと食い入るように見つめた。
(何……?)
発車ベルが鳴り始める。
「また火曜ぐらいに連絡するから」
そう言ってもう一度俺が笑顔を作って手を振ると、ドアが閉まる一歩手前で彼の長い脚がぐっと横に割り込むように乗って来た。
「えっ」
驚いて犬塚さんの綺麗な顔を見上げる。
あんたの電車、反対だろう……!?
混んでて身体が触れそうな距離で犬塚さんが俺を見下ろす。
「具合悪そうだからやっぱり送っていく」
驚いた。俺は十代の女の子じゃねぇんだぞ。
「いいよ、別に。そこまでじゃねぇから」
「でも、もう乗ってしまったし」
強く拒絶する気力もなくて、俺は仕方なく電車のドア横に避けてもたれた。
本当に頭がぼんやりする……熱がありそうだ。遅れて来たインフルエンザかな。
犬塚さんが俺の前に立ちふさがるような位置に来る。対面に立つと、この人本当に背が高い。肩幅も広いし、やっぱり種族が違うんだなと感じる。
そのまま会話すらなく一緒の車両に乗り続ける内に、混み合った電車が大きく揺れた。
「!」
犬塚さんの胸がぐっと近付き、いわゆる壁ドンみたいな状態でその両手がドアと手すりに掛かった。
冷たいほど整った彫りの深い顔が頬のすぐ横に来て、息が耳に掛かってるーー。
心臓が鷲掴まれたみたいになって、頭が真っ白になり、そして気付いてしまった。
俺、……勃ってる……。
恐ろしくて犬塚さんと目が合わせられない。
これ、一時的なもんじゃねぇ。午後からずっとおかしかったから……多分、発情期のなりかけだ。
あと1ヶ月は先の筈だったのに、何で今来てんだよ……!?
俺、発情の周期が機械みたいにキッチリしてんのだけが取り柄で生きて来たから、まさか今日来るなんて全然思っても無かったし、薬も持ってねぇ。
どうしよう……まだなりかけだけど、満員電車で隣にいたら分かるくらいの微かな匂いは出てると思う。
ちょうど犬塚さんの位置なら、確実にバレる。
アルファの相手には絶対キツいはずだ。ーーでも、彼は微動だにしない。
耳に触れる呼吸が熱くて少しだけ荒い……。
多分、気付いてねぇフリをしてくれてるんだと思う。
やらかした……まだ仮交際の相手にフェロモン使うなんてルール違反もいいところだよ。
この事だけで切られても仕方がねぇ大失態。
情けなくて申し訳なくて堪らない。ワザとじゃねぇけど、絶対ユルい奴って思われたよな……。
多分犬塚さん、さっき電車乗るとき気付いてトラブルになんねぇようにガードに入ってくれたんだ。
発情期のことは、おおっぴらに口にするのも世間的にはタブーだから、面と向かって礼も言えねぇけど……。
本当にこの人、ヤバいくらいいい男だ。
ーーそんでもって、ウィンドブレーカーの下で勃ちまくってる俺、ほんと最低……。
一生懸命カオ逸らしてんのに、視界の端に入る犬塚さんの身体のどこ見ても目が眩む感覚がする。
フワフワした金色の髪とか、その中に隠れてる可愛い垂れ耳、ジャケットの下の分厚い身体、俺を守りながら閉じ込めてる大きな両手……。
何だろう俺……触りたい……のか……?
それとも……。
(ダメだ、これ以上考えたら)
慌てて思考停止したけど、うっかり気ぃ抜いたら犬塚さんに痴漢しちまいそうだ。
俺、男には一度もこんなの感じた事無かったのにマジかよ……。
アルファとほとんど会ったことなかったから知らなかったけど、オメガって属性はこういう事なのかーーと思い知らされる感じですげぇショックだった。
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