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仮交際始めました
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――そうやって毎日日曜日のことを悩んだり考え続けてる間に、気付けば約束の朝になっていた。
お袋に「何だか分かんないけど気合入ってるねぇ、頑張っといで!」なんて見送られて(婚活のことは、無駄に期待させても悪いから内緒だ)、地元の駅から電車に乗り、中継駅でまた乗り換えて、約束の公園へと向かう。
途中のネズミーランドの駅で降りてくカップルを見て、あーいうデートも楽しいだろうな……なんて羨ましくなったりしつつ、俺は約束の時間より30分も早く葛東臨海公園駅についてしまった。
うぅ……絶対に遅れないようにと思って、かえって勇み足になっちまった。
服装は結局、ランニング用の黒レギンスとショーツの組み合わせに、ちょい大きめのざっくりした赤のウィンドブレーカーで来た。春先だけど、海近いから寒いかと思って、結構保守的に着込んだつもり。
前髪も下ろして遊ばせて、仕事っぽくねぇ感じにして、目一杯頑張った。何のために頑張ってんのか既によく分かんねぇけど……。
で、駅前に出てみたら肝心の噴水が見当たらなくてさ。
えっ降りる方向間違ったか……!? と思ってキョロキョロしてたら、いきなり犬塚さんに後ろから声掛けられたんだ。
「おはようございます!」
俺は振り向いて絶句した。
まさか俺より早く着いてるとは思わなかったっつーのもあるけど、俺にこの格好を要求しておきながら、「お前これから渋谷デートかよ」っていう格好だったんだよ、犬塚さんが。
金髪ウルフの前髪をギザギザに七三分けして綺麗な額を出して美貌を際立たせた上、茶系の渋いジャケットとベストにクラシカルなチェックのマフラー、細身の黒デニムに先の尖った革ブーツ……。手には弁当とか色々入ってるらしき、洒落っぽい店のショッパー。
一瞬完全にハメられたと思った。
俺ばっかり気合い入れたランニングファッション着て来ちゃって、何かの罰ゲームか!?
メチャクチャカッコいい相手をじとっと恨みをこめて見つめてみたけど、あんまり通じてねぇ。
「この待ち合わせ場所の噴水、わかり難かったですよね、すみません。……今は水が出てない上に、花壇で囲んであるだけのフラットな噴水だから」
謝るのそこ!?
犬塚さん天然かもしれねー。人間の顔しててもなんか可愛いな……。
服装の件はもういいかと諦め、俺は公園のある海の方角を指差した。
「ちょっと早いけど、行きましょうか」
頷いた犬塚さんと、海沿いの広大な公園の入り口に向かってメインストリートを歩き始める。
葛東臨海公園は中に水族館やら鳥類園やら植物園やらがあって、観覧車なんてものまである都内最大規模の公園だ。
彼女がいた頃に水族館目当てに行ったことぐらいはあるけど、運動だけが目的で来た事はねぇな。
何で犬塚さんはココに来たかったんだろ。
不思議に思いながら並んで歩く。
「犬塚さん、何時に着いてたんですか?」
訊くと、彼はちょっと目元を紅くして答えた。
「ちょっと、早く着き過ぎてしまって……9時くらいですかね」
ちょっ、どんだけ早く来てんだよ。
と突っ込もうと思ったら、
「鳩羽さんと会うのが楽しみ過ぎて、早起きし過ぎました」
なんてキラッキラした顔で言われて、開いた口が塞がらなかった。
えっ俺たち付き合いたてのカップルでしたっけ……いや、これは仮交際、仮の交際だろ……!
俺までカーッと頬が熱くなって、海風メッチャ吹いてんのにカッカしてきた。
「あと、あまりのんびりしてると弁当が弟達の餌食になりそうだったので」
ショッパーを持ち上げながら美青年が微笑む。
俺もお袋が病気がちだから料理は作れるけど、犬塚さんもきっと普段家族の為に料理してんだろうなぁ。
何だか微笑まし過ぎて顔が緩んだ。
「弁当、楽しみにしてます」
言うと、ふふっと笑って犬塚さんが頷く。
二人で歩いてどんつきの海沿いまで南下して、舗装された道路を右に外れた。
午前の明るい日差しでキラキラ輝く海面を左手に眺めつつ、日曜の割にはまだそんなに人の居ない、広大な芝生が目の前に見えてくる。
「ちょっと脱いでくるので、ここで荷物と一緒に待っていて貰っていいですか」
犬塚さんに重い紙袋をハイと渡された。
一瞬何を言われたのか意味が分からない。
……脱いでくる??
あぁ、下になんか運動用のを着てて、着替えてくるって意味か。
やっぱあんな洒落た格好じゃ運動できねぇもんな。
良かった、俺だけ罰ゲームじゃなかったわ。
「はい、行ってらっしゃい」
頷くと、犬塚さんは大股で歩いて、メインストリートの途中にあった白いレストハウスの方に去って行ってしまった。
一人で芝生に座って待ってる間、悪いかなーと思いつつ意地汚い心で荷物の中を覗いてしまう。
人に弁当作って貰うなんて、高校の時のお袋の弁当以来ですげぇテンション上がるなぁ。
嬉しくてつい大判のランチナプキンで縛られた弁当をナデナデしていると、その横になんか硬いものが入ってる事に気付いた。
なんだこれ? 薄いプラスチックみたいな……
首を傾げていると、後ろからうぉん!と犬が吠える声が上がった。
驚いて振り返って――俺は飛び上がる程驚いた。
なんか、巨大なゴールデンレトリバーが!! 俺の後ろでメッチャ尻尾振ってるんですけど!!
どう考えても、一般的な大型犬よりもふた回りはデカい。子供とか背中に乗れちゃいそう。そんで噛まれたら確実に死にそう。
しかも何故か首輪の代わりにチェックのマフラーしてる。……ん? チェックのマフラー……?
「も、もしかして犬塚さん!?」
訊くと、目の前のデカイ犬は嬉しそうにワンワン吠え出し、尻尾を激しく振りながらグルングルンと俺の周りを走り始めた。
お袋に「何だか分かんないけど気合入ってるねぇ、頑張っといで!」なんて見送られて(婚活のことは、無駄に期待させても悪いから内緒だ)、地元の駅から電車に乗り、中継駅でまた乗り換えて、約束の公園へと向かう。
途中のネズミーランドの駅で降りてくカップルを見て、あーいうデートも楽しいだろうな……なんて羨ましくなったりしつつ、俺は約束の時間より30分も早く葛東臨海公園駅についてしまった。
うぅ……絶対に遅れないようにと思って、かえって勇み足になっちまった。
服装は結局、ランニング用の黒レギンスとショーツの組み合わせに、ちょい大きめのざっくりした赤のウィンドブレーカーで来た。春先だけど、海近いから寒いかと思って、結構保守的に着込んだつもり。
前髪も下ろして遊ばせて、仕事っぽくねぇ感じにして、目一杯頑張った。何のために頑張ってんのか既によく分かんねぇけど……。
で、駅前に出てみたら肝心の噴水が見当たらなくてさ。
えっ降りる方向間違ったか……!? と思ってキョロキョロしてたら、いきなり犬塚さんに後ろから声掛けられたんだ。
「おはようございます!」
俺は振り向いて絶句した。
まさか俺より早く着いてるとは思わなかったっつーのもあるけど、俺にこの格好を要求しておきながら、「お前これから渋谷デートかよ」っていう格好だったんだよ、犬塚さんが。
金髪ウルフの前髪をギザギザに七三分けして綺麗な額を出して美貌を際立たせた上、茶系の渋いジャケットとベストにクラシカルなチェックのマフラー、細身の黒デニムに先の尖った革ブーツ……。手には弁当とか色々入ってるらしき、洒落っぽい店のショッパー。
一瞬完全にハメられたと思った。
俺ばっかり気合い入れたランニングファッション着て来ちゃって、何かの罰ゲームか!?
メチャクチャカッコいい相手をじとっと恨みをこめて見つめてみたけど、あんまり通じてねぇ。
「この待ち合わせ場所の噴水、わかり難かったですよね、すみません。……今は水が出てない上に、花壇で囲んであるだけのフラットな噴水だから」
謝るのそこ!?
犬塚さん天然かもしれねー。人間の顔しててもなんか可愛いな……。
服装の件はもういいかと諦め、俺は公園のある海の方角を指差した。
「ちょっと早いけど、行きましょうか」
頷いた犬塚さんと、海沿いの広大な公園の入り口に向かってメインストリートを歩き始める。
葛東臨海公園は中に水族館やら鳥類園やら植物園やらがあって、観覧車なんてものまである都内最大規模の公園だ。
彼女がいた頃に水族館目当てに行ったことぐらいはあるけど、運動だけが目的で来た事はねぇな。
何で犬塚さんはココに来たかったんだろ。
不思議に思いながら並んで歩く。
「犬塚さん、何時に着いてたんですか?」
訊くと、彼はちょっと目元を紅くして答えた。
「ちょっと、早く着き過ぎてしまって……9時くらいですかね」
ちょっ、どんだけ早く来てんだよ。
と突っ込もうと思ったら、
「鳩羽さんと会うのが楽しみ過ぎて、早起きし過ぎました」
なんてキラッキラした顔で言われて、開いた口が塞がらなかった。
えっ俺たち付き合いたてのカップルでしたっけ……いや、これは仮交際、仮の交際だろ……!
俺までカーッと頬が熱くなって、海風メッチャ吹いてんのにカッカしてきた。
「あと、あまりのんびりしてると弁当が弟達の餌食になりそうだったので」
ショッパーを持ち上げながら美青年が微笑む。
俺もお袋が病気がちだから料理は作れるけど、犬塚さんもきっと普段家族の為に料理してんだろうなぁ。
何だか微笑まし過ぎて顔が緩んだ。
「弁当、楽しみにしてます」
言うと、ふふっと笑って犬塚さんが頷く。
二人で歩いてどんつきの海沿いまで南下して、舗装された道路を右に外れた。
午前の明るい日差しでキラキラ輝く海面を左手に眺めつつ、日曜の割にはまだそんなに人の居ない、広大な芝生が目の前に見えてくる。
「ちょっと脱いでくるので、ここで荷物と一緒に待っていて貰っていいですか」
犬塚さんに重い紙袋をハイと渡された。
一瞬何を言われたのか意味が分からない。
……脱いでくる??
あぁ、下になんか運動用のを着てて、着替えてくるって意味か。
やっぱあんな洒落た格好じゃ運動できねぇもんな。
良かった、俺だけ罰ゲームじゃなかったわ。
「はい、行ってらっしゃい」
頷くと、犬塚さんは大股で歩いて、メインストリートの途中にあった白いレストハウスの方に去って行ってしまった。
一人で芝生に座って待ってる間、悪いかなーと思いつつ意地汚い心で荷物の中を覗いてしまう。
人に弁当作って貰うなんて、高校の時のお袋の弁当以来ですげぇテンション上がるなぁ。
嬉しくてつい大判のランチナプキンで縛られた弁当をナデナデしていると、その横になんか硬いものが入ってる事に気付いた。
なんだこれ? 薄いプラスチックみたいな……
首を傾げていると、後ろからうぉん!と犬が吠える声が上がった。
驚いて振り返って――俺は飛び上がる程驚いた。
なんか、巨大なゴールデンレトリバーが!! 俺の後ろでメッチャ尻尾振ってるんですけど!!
どう考えても、一般的な大型犬よりもふた回りはデカい。子供とか背中に乗れちゃいそう。そんで噛まれたら確実に死にそう。
しかも何故か首輪の代わりにチェックのマフラーしてる。……ん? チェックのマフラー……?
「も、もしかして犬塚さん!?」
訊くと、目の前のデカイ犬は嬉しそうにワンワン吠え出し、尻尾を激しく振りながらグルングルンと俺の周りを走り始めた。
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