主神の祝福

かすがみずほ

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夢奏でる夜の庭

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 やがて音が弾け、ヴィクトルは腰を揺らめかせながら両腕を高く上げ、踊り出した。
 たぐいまれな肉体を見せつけながら腕を広げ、素晴らしいバネの力で力で華麗に跳躍し、身に着けたアクセサリーについた無数のビーズを鳴らす。
 着地した場所で這いながら仰向けになり、手のひらで肉体をなぞると、人だかりの中で溜息が上がった。
 視線を一身に浴び、まだ愛撫の熱の残る身体がゾクゾクと快感に痺れる。
 俯きながら背を丸め、すぐに地を蹴り、再び力強く四肢を伸ばして全身で舞った。
 雄の色気に当てられた観衆が――特に女達が、堪えきれずに黄色い声をあげる。
 興奮の渦が広場を包んでいた。
 こんな景色を母も見ていたのだろうか――。
 密かに思いを馳せ、沸き返る人々の前で膝をつき、両腕を伸ばす。
 その手に向かってマルファスとハルファスから二ふりの長剣が投げられ、ヴィクトルはその飾りふさのついた柄をしっかりと握った。
 立ち上がり、真っ直ぐな刃を擦り合わせて派手な金属音を立てた後、身体の一部として剣を音に乗せ、空気を切り裂く。
 白刃を回転させ、流れるように操る技を繰り出すと、人々はもはや声を出すこともできなくなり、魂を奪われたようにヴィクトルの動きに集中し始めた。
 篝火を反射して、剣は命あるもののように生き生きと輝く。
 更に、ヴィクトルは剣を高く宙に投げ、その場で華麗に身体を回転させた。
 そして、再び剣の柄を取りながら客席の方に向き直った瞬間――。
 交差させた剣の向こうに、ヴィクトルは信じられないものを見てしまった。
 いつの間にか観衆の中に、ひときわ目立つ真っ白な長髪の男がいる。
 女性と見まごうような優しげな美貌に、長身に逞しい体躯、豊かなドレープの白絹の上衣、宝石で飾り立てた編み込まれた髪――見間違える筈がない。
 睨みつけると、紫色の瞳がじっとりと熱を込めてこちらを見つめ返してきた。
 ついさっき、しつこく精液を吸われたことを思い出して、腰布の下がかっと熱くなる。
「……っ!」
 視線を外し、動揺を隠して踊り続けた。
 だが、一度感じてしまったバアルの視線は、まだ身体に纏わり付くようで、なかなか集中力が戻らない。
(あいつ……っ、言いつけを破りやがって。タダで済むと思うなよ……!)
 目蓋を伏せ、曲が終わるまではと憤りを押し殺し、華々しい剣舞を続ける。
 そして前半の見せ場として、再び宙に剣を放ろうと構えた時――今度は、自らの身体に強烈な異変を感じ、ヴィクトルは狼狽えた。
(なんだ……!?)
 背中に近い腰の左右と、両太腿の一部が、妙に熱を持っている。
 密かに盗み見ると、バアルの触手を植え付けられた場所の斑紋が腰布の下で青く発光していた。
(……!?)
 動揺で、右手から剣が滑り落ちる。
 しまったと手を伸ばそうとしたその瞬間、ズル、と濡れたような音がして、剣がひとりでに浮き、柄が自分の手に戻った。
(……俺の身体からっ、あれが出て……)
 明らかに触手の所業だと気付き、バアルの言っていた言葉が脳裏に蘇った。
『――それは本当に便利だぞ。どこにでも手が届くし、人間に見せたくない時は透明にすることも……』
(出ているが、誰にも見えていないのか……いやそうだったとしても、出そうともしてねぇのに、何で今出やがった!?)
 自分の体から現れた見えない触手に対し、「引っ込め」と心の中で念じる。
 だが、見えていないので本当に引っ込んだのか分からない。
 まだ斑紋は光り続け、熱を発している自覚がある。
 まだこの演舞は終わらない。
 不安でも踊り続ける他はない――。
 舞台の前方に剣を突き立て、身軽になって鮮やかな宙返りを見せる。
 脚を広げて着地し、のけぞった瞬間――下着の中に何かが無理やり入ってきた。
「……っ!」
 思わず息を呑む。
 ツルツルとして、表面のひんやりとした、馴染みのある感触。
 疑いようもなく、バアルの触手のそれだ。
(消えてないのか……っ)
 ――自分の身から出たものなら、ある程度は動かしたり、制御できる感覚があった。
 だが、今はそれを感じない。
 どうする事も出来ずに驚愕していると、腰布の下でざらついた舌に尻の狭間をなぞられる感覚が走った。
「……っン!」
 がくっと膝を崩しそうになり、必死に体勢を保つ。
 だが、「それ」は御構い無しにヴィクトルの紐のような下着をずらし、濡れた感触を伴って後孔に潜り込んできた。
「ぁ……くぅ……っ!」
 尻の中に侵入しかけているモノを誤魔化しながら、何とか余裕の表情を作り、空中に両手を伸ばす。
 すると、マルファスの手によって、美しい透かし織りのヴェールがヴィクトルに投げられた。
 神の伴侶を象徴するその薄く透けた花模様の布を広げ、空中で華麗に操り、その裏で起こっていることを懸命に隠す。
 異物の侵入に息も絶え絶えになりつつ、舞台の下に目を向けた。
 こちらを見つめるバアルの紫の瞳が、燃えるように不自然に光っている。
 それを見て、反射的に彼の仕業だと悟った。
(お前、後で絶対に半殺しにしてやるぞ……!)
 頭の中で呪ったが、4本ある透明な触手は尻だけでは飽き足らず、他の部分にも襲い掛かってくる。
 ペニスの先に濡れた口でぱっくりと食いつかれた感触がして、ひっと息が漏れた。
 そのままレロレロと先を舐めまくられて、腰が淫らに痙攣する。
 後ろにずっぷりと入っているモノは太さを増しながら中へ中へと肉をこじ開け、まるでバアルとセックスしている時のように、ヴィクトルの最奥をリズミカルに貪り始めた。
「ああっ……!」
 堪えきれず嬌声が出て両手を地につき、ヴェールを纏いながら四つん這いになったヴィクトルの姿を、観衆達が食い入るように見る。
 ハッとして必死に体を立て直し、最後の跳躍の末、舞台にベールを口でくわえて身体に巻きつけた途端、薄物の下で乳首を二つともにいやらしく吸われる感覚が加わった。
 密かに下を見ると、乳輪と乳首が濡れ、淫らに飛び出たように形が変わっている。
 交互に乳首を吸われると、そのむず痒い刺激が背骨を伝い落ち、穴がトロトロに快楽に溶けゆく。
 そうしてより敏感になった尻の奥を小刻みに突かれると、もうダメだった。
 絶頂に近い疼きが下腹に蓄積して、頭の中が欲情のもやに包まれていく。
(ちくしょ、も……う……っ)
 イク。溢れてしまう。何もかも――。
 溜まりに溜まった快楽が弾けた途端、最後のフレーズが終わり、音が止んだ。
 舞台上でヴィクトルは激しい絶頂に身悶え、ヴェールを腰に絡ませたまま、力尽きて仰向けに倒れた。
(終わっ……)
 だが、薄布の下の触手の動きはまだ終わらなかった。
 油断を突かれ、強請るようにペニスを激しく吸われる。
「んン……っ!」
 不意打ちで、そこを閉じていた理性が奪われ、小さな穴から精液とそれ以外の体液が同時に、だらしなく噴き始めた。
 尿道からの放出は長く長く続いて――けれどその噴水は全て触手に飲み干されているのか、出たそばから異空間に消えてゆく。
「アッ……はあっ……」
 人前で放尿させられているにもかかわらず、それは恐ろしい程の快感だった。
 喝采の中でも後孔の締め付けと腰の淫らな痙攣が止められず、恍惚の中で喘ぐ。
 そんな羞恥の極みの後――急に腹奥から異物感が消え去った。
 ハッと下を見ると、ヴィクトルの身体に浮かんだ斑紋は光を失い、ただの模様とかわりなくなっている。
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