上 下
19 / 44
ヴィクトル・シェンクの受難

19

しおりを挟む
「……腹……?」
 バアルの指を払いのけながら首を傾げる。
 確かに言われてみれば、酒場でろくに食べないで帰ってきてしまったので、酷く空腹だった。
 柔らかな微笑みが目の前の白い貌に浮かぶ。
「……お前が私にくれた果物の種を私の庭で大事に育てて、果樹園を作ったのだよ。私も食べるばかりが能という訳じゃない。さあ、食べてごらん」
「断る。こんな怪しい空間で育ったモノなんぞ食えるか」
 即答すると、バアルは美しい眉を下げて悲しげにこちらを見た。
「そう言わず、一口だけでも……。そうしたらすぐに家を元に戻す」
「しょうがねえな。分かったよ」
 根負けして、ヴィクトルは長椅子の背に身を預けた。
 バアルが嬉しそうに微笑み、服の袖の下から白く細い触手をスルリと出す。
 その触手の先は目のない蛇の頭のようにかぱりと口を開き、丁度すぐそばに垂れ下がっていた葡萄の実に噛み付いてもぎ取った。
 ヴィクトルは既に彼の本質的な部分がそういうものだと知ってはいたが、何度見てもいい気分はしない。
 そのまま実を唇に押し付けられそうになって本能的に避けると、バアルがそっと顔を寄せてきた。
「……。これは嫌いか?」
 申し訳なさそうにうなだれた触手が主人の手の中に実を渡し、しゅるんと袖口に仕舞われる。
 美しい長い指が改めてヴィクトルの唇に瑞々しい果実を押しつけ、舌の上に滑り込ませた。
「ン」
 不本意ながら奥歯で噛み締めると、甘く濃厚な果汁が口の中いっぱいに溢れる。
 脳が痺れるような深い甘味を味わいながら、アミュに葡萄を食べさせたのはいつだったろうと考えた。
 この王都を実質的に統べている伯爵の農業政策で、ワイン用の葡萄の栽培を始めることになった時かもしれない。
 葡萄の産地から、苗木と一緒に実が王都に持ち帰られ、大事に分けて貰った一房の半分ほどを、ほとんどアミュに食べられてしまった。
 その時ほんのわずかに味わった葡萄より、今、口の中にある果実の味はずっと繊細で、甘みも強い。
 素直に飲み込むと、いつの間にかバアルの美貌が目前に迫り、口移しに次の実を渡されていた。
「……!」
 唇の粘膜を触れ合わせながら実を受け取ると、芳醇な香りと共に舌に熱が生まれる。
 まるで、上質のワインを飲み下した時のように。
 反射的に離れようと身を引くと、バアルの手に両腕を掴まれ、籐の長椅子に上体をドッと押し倒された。
 前を留めていなかった軍服の前身頃がはだけ、ヴィクトルの綺麗に割れた腹筋と、隆起した胸筋があらわになる。
 途端に覆い被さっているバアルの纏う絹のシャツのボタンが弾け飛び、その隙間から白い蛇のような触手がどっと溢れ出て、剥き出しの褐色の肌に接吻し始めた。
「……っ、やめ……」
 言葉を発しかけた唇が深く塞がれる。
 熱い舌にすぐさま喉奥まで侵入されて、割れた葡萄の果肉を共に味わうような官能的な愛撫で口腔を犯された。
「……ッン……、う……っ」
 唇を貪られつつ、バアルの無数にある口のうちの二つに乳首に吸い付かれ、ねろねろと舌でなめ回される。
 強い性感に、ヴィクトルの腰が長椅子の上で無意識にしなった。
「ンン……っ!」
 目の前の強引な男に必死に目でやめろと訴える。
 けれど自分を弄んでいるこの神は、唇は離したものの、触手での情熱的な愛撫を一向にやめようとしない。
「……ごらん。お前の可愛い二つの実が、精一杯に大きくなって私の舌に懐いている……」
「懐いてんのはてめえだろうが……っくゥ……っ!」
 触手のぱっくりと開いた口に生える微細な歯が皮膚の薄い乳頭に立てられ、そこが絶妙な加減でクニュクニュと甘噛みされる。
 日を置かず弄ばれて感度の上がっているそこは、愛撫される悦びを真正直に下半身に伝え、ヴィクトルの性器をあっという間に充血させた。
「うァッ、は、あ……!」
 軍服のズボンの隙間にも忍び込んでくる相手の分身を、もはや拒むことができない。
 細い触手が、屹立したペニスにきつく絡みついてくる。まるで、自分のモノだと言わんばかりに。
 敏感な亀頭には、ぱっくりと口を開いた太い触手の先で吸い付かれ、獣の舌で鈴口をクチュクチュほじられて、気が狂いそうになる。
「ぁぁあああ……ッ、そ、こはぁ……っ、や、め……ぁ……っ」
 ヴィクトルの陰茎の根元が、絡みついたバアルの一部にゆるゆると扱かれ始めた。
 両脚は別の太い触手に縛められ、ズボンと下着とが無理矢理に素早く脱がされる。
 神自身は目の前で涼しい顔をしているのに、その体から出ている無数の触手の行為は、まるで手際のいい強姦魔だ。
 無防備になったヴィクトルの下半身に無遠慮な触手達の濡れた舌が無数に群がる。
 ヒクヒクする後孔と、張った双玉、陰毛の生え際にも触手に吸い付かれ、ねろねろと舐めまわされた。
 乳首にも、脇腹にも、ヘソにもたっぷりと唾液を含んだ粘膜の感触が這っていく。
「くぅ……っ、ふあ……あ」
 まるで複数の人間から同時に快楽責めを受けているかのような状況だ。
「出てしまいそうか? 私が全部飲むから、安心して放ちたいだけ放てばいい……」
 バアルの唇が再び開いて、楽しそうに訊く。
 休むことを知らない愛撫で身体を無理やり絶頂へ押し上げられ、返事もままならない。
「んぅ、嫌、だ、先のほう、ばかり吸う、なぁ……っ、」
 下腹部がムズムズとし始めて、嫌な予感がした。
 最近自分の身体はすっかりおかしいのだ。
 尿道を吸われながら射精すると、閉じるべきところが閉じなくなって――。
「ッア! あ――っ……っは……ぁあ……っ」
 凄まじい解放感と絶頂と共に、精液と尿とが同時にヴィクトルのペニスの先から迸る。
 けれどそれは決して服や長椅子を汚すことなく、全てがバアルの触手の餌になり――ゴクゴクと音を立てて飲み込まれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隷属神官の快楽記録

彩月野生
BL
魔族の集団に捕まり性奴隷にされた神官。 神に仕える者を憎悪する魔族クロヴィスに捕まった神官リアムは、陵辱され快楽漬けの日々を余儀なくされてしまうが、やがてクロヴィスを愛してしまう。敬愛する神官リュカまでも毒牙にかかり、リアムは身も心も蹂躙された。 ※流血、残酷描写、男性妊娠、出産描写含まれますので注意。 後味の良いラストを心がけて書いていますので、安心してお読みください。

くっころ勇者は魔王の子供を産むことになりました

あさきりゆうた
BL
BLで「最終決戦に負けた勇者」「くっころ」、「俺、この闘いが終わったら彼女と結婚するんだ」をやってみたかった。 一話でやりたいことをやりつくした感がありますが、時間があれば続きも書きたいと考えています。 21.03.10 ついHな気分になったので、加筆修正と新作を書きました。大体R18です。 21.05.06 なぜか性欲が唐突にたぎり久々に書きました。ちなみに作者人生初の触手プレイを書きました。そして小説タイトルも変更。 21.05.19 最終話を書きました。産卵プレイ、出産表現等、初めて表現しました。色々とマニアックなR18プレイになって読者ついていけねえよな(^_^;)と思いました。  最終回になりますが、補足エピソードネタ思いつけば番外編でまた書くかもしれません。  最後に魔王と勇者の幸せを祈ってもらえたらと思います。 23.08.16 適当な表紙をつけました

おかしなダンジョンでえっちな体に開発される話

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 エロトラップダンジョンに入ってしまって仲間とエロい目に合って体を開発されながら攻略する冒険者の話です。

【R18】触手

おとめ
BL
触手物。 ぐろえろ注意

魔王に唆されてお尻を調教される話

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。魔王に捕らわれた傭兵がお尻調教されるために通うはめになる話です。

正体不明のお兄さんに気に入られて淫紋まで付けられて所有物にされる話

辻河
BL
・ひょんなことから出会った謎のお兄さんに突然襲われて、触手を使って開発され、挙句の果てに淫紋を付けられて快楽堕ちする大学生の話 ・たぶん人ではない執着攻め×攻めに気に入られて捕まえられた可哀想な受け ※♡喘ぎ、濁点喘ぎ、触手責め、尿道責め、淫紋などの表現が含まれています。

そこにワナがあればハマるのが礼儀でしょ!~ビッチ勇者とガチムチ戦士のエロ冒険譚~

天岸 あおい
BL
ビッチ勇者がワザと魔物に捕まってエッチされたがるので、頑張って戦士が庇って大変な目にあうエロコメディ。 ※ビッチ勇者×ガチムチ戦士。同じ村に住んでいた幼馴染コンビ。 ※魔物×戦士の描写も多め。戦士がエロい災難に遭いまくるお話。 ※エッチな描写ありの話は話タイトルの前に印が入ります。勇者×戦士『○』。魔物×戦士『▼』。また勇者視点の時は『※』が入ります。

『僕は肉便器です』

眠りん
BL
「僕は肉便器です。どうぞ僕を使って精液や聖水をおかけください」その言葉で肉便器へと変貌する青年、河中悠璃。  彼は週に一度の乱交パーティーを楽しんでいた。  そんな時、肉便器となる悦びを悠璃に与えた原因の男が現れて肉便器をやめるよう脅してきた。 便器でなければ射精が出来ない身体となってしまっている悠璃は、彼の要求を拒むが……。 ※小スカあり 2020.5.26 表紙イラストを描いていただきました。 イラスト:右京 梓様

処理中です...