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ドラゴン・レース
追跡と恋の痛手
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「~~~あのっ、裏切り者ーーっ!!」
イドリスは叫びながら感情を爆発させたが、すぐに思い直した。
――ここまでは手を組んできたが、結局、優勝するのはどちらかだ。
油断した自分が一番悪い。
しかもアスランはここまで自分を逃がしてくれ、高価な魔法石すら使って手を直してくれたのだから、十分な対価と言っても良いほどだ。
だがしかし、ここで勝利を諦めるつもりは毛頭ない。
イドリスは歯を食いしばると、猛烈な速さで椅子の上に置いてあった自分のソードベルトと剣を身に付け、矢筒を背負った。
明かり取りの穴のふちにブーツの足をかけて登ると、そこを蹴って空中に高く飛び出す。
次の瞬間にイドリスはサキルの背に乗り込み、その腹を蹴っていた。
「追いかけるぞサキル!!」
言われずとも、と言う勢いで相棒が空に駆け上がる。
サキルとイドリスは体力を削られる向かい風の中、赤い大地をゆく銀竜を猛追して飛び始めた。
だが、ここまでの旅と昨夜の働きで、サキルは確実に消耗していた。
アスランの背中がハッキリと見えるところまではどうにか追いついて来たが、どうしても半レグアほどの距離が縮まらない。
一方ノグレーの体力はまるで無尽蔵だ。
追い込みに強いドラゴンだとアスラン自身も言っていたが、その言葉通りであることをイドリスは感心と共に実感した。
執拗に追いかけ続けるうちに、背後の羽根音に気付いたアスランが振り返り、イドリスとサキルの姿に気付く。
「げっ。イドリス! お前、まだ休んでいろと言ったのに!」
驚き慌ててアスランが叫んだ。
「休ませてくれなかったのはお前の方だ!! この卑怯者、旗を返せ!!」
イドリスが言い返すと、アスランは高らかに笑い、旗を高く掲げて振った。
「お前には悪いが、この勝負は俺のものだ。卑怯だろうがなんだろうが、俺はどうしても一度はこの試合に勝たねばならんのでな!!」
そう言って悠然と背中を向け、アスランはノグレーを更に駆り立てる。
「――そうか。ならばもう、これしかないな!」
イドリスは背中に負った矢筒から弓と矢を掴み取った。
矢をつがえて弓弦を限界まで引き絞ると、火傷した両手に鋭い痛みが走る。
だが躊躇している暇はない。
限界速度で空を疾走しながらしっかと狙いを定めると、イドリスはバンと弓弦を鳴らし、矢を放った。
矢尻は真っ直ぐ正確に飛んでゆく。
そして、アスランが片手で掲げ持っていた旗竿の上部にある、金属の留玉のど真ん中にガツンと当たった。
アスランは旗竿の下の方を持っていたが為にてこの原理が働き、そのまま矢に持っていかれる形で旗が傾く。
「おっ、とっ!」
握っていた手から旗竿が落ちかけ、アスランの騎竜に隙が生じたその刹那――。
ノグレーのゆく手の前方にあった大きな岩の影の中から突然、真っ黒で巨大な生き物が飛び出して来た。
「うわっ、何だ!?」
アスランが動揺と共に片手で手綱を引いたが、もはや間に合わない。
その生き物はほとんど体当たりするようにしてノグレーに襲いかかり、裂けた大きな口でその首筋に噛み付いた。
「ギャーッ!」
もはやまともに飛ぶこともできず、銀竜が空中で激しく羽ばたきながらのたうち回る。
「!?」
遠目に起きた突然の出来事にイドリスは驚いた。
真っ直ぐに飛び続け、何が起きたのかよくよく目を凝らす。
ようやく彼らに近づいてみると、ノグレーに襲い掛かっている巨大な黒い生き物は、雌ドラゴンのライラだ。
「ライラ!?」
では、ラファトは――とその背を見るが、ライラの鞍は無人だった。
「おいやめろっ、うわっ!」
ノグレーが痛みに暴れ、アスランの身体が空中で振り回されている。
好機は今しかない。
イドリスは弓を引き絞り、もう一度旗竿の留め玉に向かって矢を射た。
「アッ!」
だいぶ距離が縮まっていたせいもあり、今度の矢の勢いは格別だった。
ガインと金属の鳴る鈍い音がして、アスランの手の中から旗竿が離れ落ちてゆく。
彼はノグレーに揺さぶられながらもこちらを振り向き、叫んだ。
「イドリスお前っ、手は使うなと言ったではないかっ! そもそも剣だけじゃなく矢も出来るなどと、聞いていないぞ!!」
「本当の特技は最後まで隠しておくものだろう!」
イドリスは悪びれずに答えながら、旗の落ちた場所へとサキルを一目散に向かわせた。
ところが――その落下地点に視線を落とすと、すでに真下には待ち受けている人物がいた。
腰まである真っ赤な髪を強い風に靡かせ、余裕の笑みで帝国旗を拾って肩に担ぐように乗せたのは、遠目にも見間違いようがない、ラファト皇子だ。
「あっ……あいつ! 気性の荒い雌ドラゴンだけを戦わせるとはっ。卑怯者っ!!」
アスランがノグレーを宥めながら、悔しげに叫ぶ。
「ドラゴン同士を戦わせてはならんと言う規則はどこにもない」
罵倒をどこ吹く風とうそぶいて、ラファトが指笛を吹いた。
するとライラはノグレーを思い切り後足で蹴り飛ばして、すぐに主人の元へと飛んで行く。
ラファトは彼女の身体を優しく撫でると、その黒々とした鱗に口付けした。
「よくやった、ライラ。優勝は私たちだぞ。あの者どもの活躍のおかげで、今年はすこぶる楽だったな」
ラファトは鞍から垂れたあぶみを掴み、真っ黒なライラの背にひらりとまたがると、すぐに空へと飛び立ってゆく。
イドリスが入れ替わりに現場の上空に駆けつけると、ノグレーは最後のとどめで蹴り飛ばされた勢いで岩に衝突したらしく、地上に伸びていた。
アスランがそんな彼をすぐそばで介抱しつつ、嘆いている。
「なんて哀れなドラゴンなんだお前は! 交尾で振られただけならまだしも、同じ女にこんな酷い目に遭わされるとは!」
ノグレーは心にも手酷い傷を負ったようだが、とりあえず双方とも命は無事なようだった。
気の毒には思うが構っている暇はない。
イドリスは高度を下げず、旗手の追跡を続けた。
戦う相手はもはやあと一人――ラファト皇子のみだ。
イドリスは叫びながら感情を爆発させたが、すぐに思い直した。
――ここまでは手を組んできたが、結局、優勝するのはどちらかだ。
油断した自分が一番悪い。
しかもアスランはここまで自分を逃がしてくれ、高価な魔法石すら使って手を直してくれたのだから、十分な対価と言っても良いほどだ。
だがしかし、ここで勝利を諦めるつもりは毛頭ない。
イドリスは歯を食いしばると、猛烈な速さで椅子の上に置いてあった自分のソードベルトと剣を身に付け、矢筒を背負った。
明かり取りの穴のふちにブーツの足をかけて登ると、そこを蹴って空中に高く飛び出す。
次の瞬間にイドリスはサキルの背に乗り込み、その腹を蹴っていた。
「追いかけるぞサキル!!」
言われずとも、と言う勢いで相棒が空に駆け上がる。
サキルとイドリスは体力を削られる向かい風の中、赤い大地をゆく銀竜を猛追して飛び始めた。
だが、ここまでの旅と昨夜の働きで、サキルは確実に消耗していた。
アスランの背中がハッキリと見えるところまではどうにか追いついて来たが、どうしても半レグアほどの距離が縮まらない。
一方ノグレーの体力はまるで無尽蔵だ。
追い込みに強いドラゴンだとアスラン自身も言っていたが、その言葉通りであることをイドリスは感心と共に実感した。
執拗に追いかけ続けるうちに、背後の羽根音に気付いたアスランが振り返り、イドリスとサキルの姿に気付く。
「げっ。イドリス! お前、まだ休んでいろと言ったのに!」
驚き慌ててアスランが叫んだ。
「休ませてくれなかったのはお前の方だ!! この卑怯者、旗を返せ!!」
イドリスが言い返すと、アスランは高らかに笑い、旗を高く掲げて振った。
「お前には悪いが、この勝負は俺のものだ。卑怯だろうがなんだろうが、俺はどうしても一度はこの試合に勝たねばならんのでな!!」
そう言って悠然と背中を向け、アスランはノグレーを更に駆り立てる。
「――そうか。ならばもう、これしかないな!」
イドリスは背中に負った矢筒から弓と矢を掴み取った。
矢をつがえて弓弦を限界まで引き絞ると、火傷した両手に鋭い痛みが走る。
だが躊躇している暇はない。
限界速度で空を疾走しながらしっかと狙いを定めると、イドリスはバンと弓弦を鳴らし、矢を放った。
矢尻は真っ直ぐ正確に飛んでゆく。
そして、アスランが片手で掲げ持っていた旗竿の上部にある、金属の留玉のど真ん中にガツンと当たった。
アスランは旗竿の下の方を持っていたが為にてこの原理が働き、そのまま矢に持っていかれる形で旗が傾く。
「おっ、とっ!」
握っていた手から旗竿が落ちかけ、アスランの騎竜に隙が生じたその刹那――。
ノグレーのゆく手の前方にあった大きな岩の影の中から突然、真っ黒で巨大な生き物が飛び出して来た。
「うわっ、何だ!?」
アスランが動揺と共に片手で手綱を引いたが、もはや間に合わない。
その生き物はほとんど体当たりするようにしてノグレーに襲いかかり、裂けた大きな口でその首筋に噛み付いた。
「ギャーッ!」
もはやまともに飛ぶこともできず、銀竜が空中で激しく羽ばたきながらのたうち回る。
「!?」
遠目に起きた突然の出来事にイドリスは驚いた。
真っ直ぐに飛び続け、何が起きたのかよくよく目を凝らす。
ようやく彼らに近づいてみると、ノグレーに襲い掛かっている巨大な黒い生き物は、雌ドラゴンのライラだ。
「ライラ!?」
では、ラファトは――とその背を見るが、ライラの鞍は無人だった。
「おいやめろっ、うわっ!」
ノグレーが痛みに暴れ、アスランの身体が空中で振り回されている。
好機は今しかない。
イドリスは弓を引き絞り、もう一度旗竿の留め玉に向かって矢を射た。
「アッ!」
だいぶ距離が縮まっていたせいもあり、今度の矢の勢いは格別だった。
ガインと金属の鳴る鈍い音がして、アスランの手の中から旗竿が離れ落ちてゆく。
彼はノグレーに揺さぶられながらもこちらを振り向き、叫んだ。
「イドリスお前っ、手は使うなと言ったではないかっ! そもそも剣だけじゃなく矢も出来るなどと、聞いていないぞ!!」
「本当の特技は最後まで隠しておくものだろう!」
イドリスは悪びれずに答えながら、旗の落ちた場所へとサキルを一目散に向かわせた。
ところが――その落下地点に視線を落とすと、すでに真下には待ち受けている人物がいた。
腰まである真っ赤な髪を強い風に靡かせ、余裕の笑みで帝国旗を拾って肩に担ぐように乗せたのは、遠目にも見間違いようがない、ラファト皇子だ。
「あっ……あいつ! 気性の荒い雌ドラゴンだけを戦わせるとはっ。卑怯者っ!!」
アスランがノグレーを宥めながら、悔しげに叫ぶ。
「ドラゴン同士を戦わせてはならんと言う規則はどこにもない」
罵倒をどこ吹く風とうそぶいて、ラファトが指笛を吹いた。
するとライラはノグレーを思い切り後足で蹴り飛ばして、すぐに主人の元へと飛んで行く。
ラファトは彼女の身体を優しく撫でると、その黒々とした鱗に口付けした。
「よくやった、ライラ。優勝は私たちだぞ。あの者どもの活躍のおかげで、今年はすこぶる楽だったな」
ラファトは鞍から垂れたあぶみを掴み、真っ黒なライラの背にひらりとまたがると、すぐに空へと飛び立ってゆく。
イドリスが入れ替わりに現場の上空に駆けつけると、ノグレーは最後のとどめで蹴り飛ばされた勢いで岩に衝突したらしく、地上に伸びていた。
アスランがそんな彼をすぐそばで介抱しつつ、嘆いている。
「なんて哀れなドラゴンなんだお前は! 交尾で振られただけならまだしも、同じ女にこんな酷い目に遭わされるとは!」
ノグレーは心にも手酷い傷を負ったようだが、とりあえず双方とも命は無事なようだった。
気の毒には思うが構っている暇はない。
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