闇属性転移者の冒険録

三日月新

文字の大きさ
上 下
77 / 83
第4章

第6話 新パーティメンバー:テラサ

しおりを挟む

 ポーションの容器を叩き付けて割ったテラサを不思議そうにタケルが見ていると、呆れた表情のレンファンが彼女に近付いてきた。

「私もよ」

 短くそう言ったレンファンは、テラサの肩に優しく手を置いた。初めはその言葉の意味を彼女は理解していなかったが、しばらくして驚いた表情をすると二人は抱き合った。

(•••何だ?急に抱き合ったぞ)

 二人がなぜ抱き合ったのかわからないタケルは困惑した表情で見ていた。

「•••タケルさん」
「ミラさん?」

 ミラから呼ばれて振り返ると、彼女はほうきちり取りを持っていた。しかも、なぜか怒った表情でタケルを睨んでいたのだ。

「割れたポーションの容器を掃除して下さい」
「え?でも、割ったのはテラサ」
「タ•ケ•ルさんがやって下さい」
「•••はい」

 掃除を任された理由がわからないタケルは、ミラの気迫に負けて彼女から箒と塵取りを受け取った。
 納得がいかないタケルは無言で割れたポーションの容器を掃除していった。その時に気付いたが、周りから鋭い視線が注がれていたのだ。確認してみると、その視線は受付嬢や女性冒険者からであった。

(俺、何か悪いことした?)

 掃除が終わるまで女性陣から鋭い視線を注がれていたタケルは、討伐依頼よりも疲れてしまった。

「ありがとうございました」
「フンッ!」

 タケルは掃除用具を貸してくれたミラに礼を言ったが、彼女は何も言わずに離れていった。視線を注いでいた他の受付嬢や女性冒険者も、いつの間にか見るのをやめていた。

(•••誰か理由を教えてくれぇー!)

 深いため息を吐きながら心の中でそう言うと、タケルは気持ちを切り替えてテラサに話し掛けた。

「テラサ」
「何よ!」

 名前を呼ばれたテラサはタケルに振り返ったが、彼女はやや涙目で睨んできた。

「これから、どうする?」
「え?ああ•••」

 初めは何を聞かれたかわからなかったが、その意味を理解したテラサは顔を下に向けた。

「どうしよっかな。一人じゃできることには限界があるし。•••村に戻って農作業でもしようかな。あはは•••」

 顔を上げたテラサは笑いながら言っていたが、その笑顔はとても暗かった。
 テラサの話を聞き終わると、タケルはレンファンに視線を向けた。その意味を理解すると、彼女は大きく頷いてくれた。

「なら、俺たちのパーティに入らないか?」
「え?」

 親指を胸に向けてタケルがそう聞くと、テラサは大きく目を見開いた。まさか、パーティの加入に誘われるとは思っていなかったのだ。

「そろそろメンバーを増やしたいなって思っていたんだよ」
「•••でも、私はタケルにあんな酷いことしたんだよ」

 どうやら、テラサ自身タケルを殴ったことを気にしていたようだ。時間が経ったせいもあるだろうが、彼女は暗い表情をすると顔を下に向けてしまった。

「あんなに良いパンチを持ってるのに、農作業で終わるなんてもったいないだろ」

 殴られたことを全く気にしていないタケルがそう言うと、テラサは驚いた表情で顔を上げた。

「そうよ。どうせなら、もっと強くなってタケルをボッコボコにしてやりましょ」

 テラサの後ろにいたレンファンは、明るい口調で言うと彼女に抱きついた。

(•••いや、それは勘弁して)

 レベル差があってもテラサの拳はかなり痛かったので、強くなった彼女の拳を想像したタケルは恐怖を感じた。

「コホンッ•••俺たちには、テラサが必要なんだよ」

 雑念を捨てるように咳払いをしたタケルは、真剣な表情でテラサにそう言った。

「わ、私•••」

 気持ちを整理するように、テラサは手を組むと胸に当てた。しばらく黙っていたが、やがて彼女は明るい表情で口を開いたのだった。

「タケルたちと•••もっと冒険がしたい!」

 その言葉が承諾の意味だと理解したタケルは、笑顔で右手をテラサに差し出した。

「これから、よろしくな」
「•••うん!」

 タケルと固い握手をしたテラサは、眩しい笑顔を見せてくれた。

「でーも、呼び捨ては駄目よ。私たちは先輩なんだから」
「あっ、そうだよね。今まで、呼び捨てで言ってごめんなさい」

 レンファンに注意されたテラサは、タケルたちに頭を下げて謝った。

「まっ、俺はどんな呼び方でもいいけどな」

 腰に手を当ててタケルが言うと、テラサは首を傾げて少し考えた。すると、予想外の呼び方をにしたのだった。

「わかったよ。タケ兄」
「タ、タケ兄?」
「うん。先輩で年上だから」

 テラサから真っ直ぐな目でそう言われたタケルは、どう反応すれば良いかわからなかった。

「あははは!タケ兄だってー」
「これから、よろしくね。レン姉」
「レン姉?」

 まさか自分もタケルと同じような呼び方をされるとは思っていなかったレンファンは、真剣な表情でテラサへ顔を向けた。

(ヤ、ヤバい!レンファンって、ミラ以外から変な呼び方されるの気にしていたよな)

 これからテラサが酷い目に遭うとタケルは予想していたが、それは外れることになったのだ。

「•••レン姉か。良いわね」

 テラサの呼び方が気に入ったレンファンは、再び彼女に抱きついたのだった。

(嘘だろ?レンファンが気に入った)

 タケルが驚いた表情でレンファンを見ていると、彼女はテラサの肩を叩いた。

「さっ、受付カウンターでパーティの加入申請をしましょ」
「うん!」

 レンファンとテラサは、仲良く受付カウンターへと歩いていった。ひとりぼっちになったタケルに、マクベスがそっと肩に手を置いた。

「これから大変だな」
「はは•••賑やかになりそうだ」

 リーダーが遅れる訳にはいかないので、タケルは駆け足で二人の後を追った。

「ミラ、テラサのパーティ加入申請をお願い」

 ミラの列が空いていたので、レンファンは彼女にテラサのパーティ加入申請をお願いした。

「うん。じゃあ、テラサさん。こちらに記入をお願いしますね」
「はい」

 ミラが出した用紙にテラサは書いていった。

「そういえば、今回の依頼ってどうなったんだ?」

 ずっと気になっていたので、タケルはレンファンの隣に来ると聞いた。

「ガルムの群れ討伐依頼は、無事に達成したわよ。ちゃんと報酬は貰っておいたわ」
「俺の取り分もしっかりと頂いたよ」

 タケルの後ろに来ていたマクベスは、彼の首に腕を回してそう言った。

「それなら良かった。あっ、そうだった」

 予想外の襲撃で忘れていたが、タケルはスペースリングからを取り出した。

「ミラさん、前回みたいにこれもお願いできますか?」

 そう言ったタケルがカウンターの上に置いたのは、あのミスリルタイガーの魔核まかくだった。

「こ、これって•••ミスリルタイガーの魔核⁉︎」

 ミラが大声で言ったので、周りの冒険者は一斉に視線を向けてきた。

「お、おい、またタケルがレッドゾーンの魔物を倒したぞ」
「っていうか、どんだけレッドゾーンの魔物と遭遇するんだよ」

 周りの声をなるべく気にしないようにして、タケルはミラに聞いてみた。

「タイラントベアの時のように、ミスリルタイガーの討伐依頼って貼ってありますか?」
「ちょ、ちょっと待ってて下さい」

 驚いた表情のまま、ミラは駆け足で掲示板へと向かった。

「話は聞いていたが、本当にミスリルタイガーを倒したんだな」

 タケルから離れたマクベスは、カウンターに置かれたミスリルタイガーの魔核をじっと見つめた。彼だけではなく、書き終わったテラサも見ていたのだ。

「まあ、《狂化きょうか》を使ったからな」

 タケルは言いながら頬を指で掻いた。実際、スキルなしではまだレッドゾーンの魔物には勝てないだろう。

「ありましたよー!」

 ミラは掲示板から走って戻ってきた。その手には、しっかりと依頼書が握られていた。少し呼吸を整えてから、彼女はタケルに話し掛けた。

「今日が期限のミスリルタイガー討伐依頼です」
「じゃあ•••」
「はい。すぐに受理して、難易度Cの依頼達成としますね」
「よろしくお願いします」

 タケルがミラに頭を下げると、彼女はテラサが書き終わった用紙とミスリルタイガーの魔核を持って奥へと消えていった。

「あれが、レッドゾーンの魔物の魔核•••大きい」

 魔核を持って行ったミラが消えるまで、テラサはずっと見ていたのだった。

「タケルといれば、またレッドゾーンの魔物と遭遇するわよ」
「本当?レン姉」
「ええ。タケルがそれを倒すところを直に見ましょうね」
「うん!」

 テラサの視線に気付いていたレンファンは、彼女の首に腕を回して話していた。
 しばらくして、ミラが真剣な表情で戻ってきた。その手には、報酬が入った袋が握られていた。

「まずは、テラサさん。無事にタケルさんのパーティ加入申請が済みましたよ」
「ありがとうございます」

 テラサは、喜びを体いっぱいに表すかのように飛んだ。当然、彼女の大きな胸も上下に揺れていた。

(もう少し気にしてほしいんだけど)

 タケルは呆れた表情をするとため息を吐いた。

「それと、タケルさん。こちらはミスリルタイガー討伐の報酬金、15万Gギルです」

「「「うおおおーーー‼︎」」」

 報酬金額を聞いていた周りの冒険者たちは、大きな歓声を上げた。

「さらに•••条件を満たしましたので、Bランク昇格です!」

 笑顔でそう言ったミラは、Bランクの冒険者カードをタケルに渡した。代わりに彼は、Cランクの冒険者カードをスペースリングから取り出して渡したのだった。

「ありがとうございます」

 受け取ったBランクの冒険者カードをじっとタケルが見ていると、咳払いをしたミラが真剣な表情で話し掛けた。

「ところで、タケルさん。クランを結成されてはどうですか?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目が覚めたら奇妙な同居生活が始まりました。気にしたら負けなのでこのまま生きます。

kei
ファンタジー
始まりは生死の境を彷徨い目覚めたあと…‥ 一度目の目覚めは高級感溢れるお部屋で。二度目の目覚めは薄汚れた部屋の中。「あれ?」‥…目覚めれば知らない世界で幼児の身体になっていた。転生?スタートからいきなり人生ハードモード!? 生活環境改善を目標に前世の記憶を頼りに奮闘する‥…が、身に覚えのない記憶。自分の身に何が起こったのか全く分からない。生まれ変わったはずなのに何かが変。自分以外の記憶が、人格が…。 設定その他いろいろ緩いです。独自の世界観なのでサラッと読み流してください。 『小説なろう』掲載中

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

ニゲル
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...