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第4章
第6話 新パーティメンバー:テラサ
しおりを挟むポーションの容器を叩き付けて割ったテラサを不思議そうにタケルが見ていると、呆れた表情のレンファンが彼女に近付いてきた。
「私もよ」
短くそう言ったレンファンは、テラサの肩に優しく手を置いた。初めはその言葉の意味を彼女は理解していなかったが、しばらくして驚いた表情をすると二人は抱き合った。
(•••何だ?急に抱き合ったぞ)
二人がなぜ抱き合ったのかわからないタケルは困惑した表情で見ていた。
「•••タケルさん」
「ミラさん?」
ミラから呼ばれて振り返ると、彼女は箒と塵取りを持っていた。しかも、なぜか怒った表情でタケルを睨んでいたのだ。
「割れたポーションの容器を掃除して下さい」
「え?でも、割ったのはテラサ」
「タ•ケ•ルさんがやって下さい」
「•••はい」
掃除を任された理由がわからないタケルは、ミラの気迫に負けて彼女から箒と塵取りを受け取った。
納得がいかないタケルは無言で割れたポーションの容器を掃除していった。その時に気付いたが、周りから鋭い視線が注がれていたのだ。確認してみると、その視線は受付嬢や女性冒険者からであった。
(俺、何か悪いことした?)
掃除が終わるまで女性陣から鋭い視線を注がれていたタケルは、討伐依頼よりも疲れてしまった。
「ありがとうございました」
「フンッ!」
タケルは掃除用具を貸してくれたミラに礼を言ったが、彼女は何も言わずに離れていった。視線を注いでいた他の受付嬢や女性冒険者も、いつの間にか見るのをやめていた。
(•••誰か理由を教えてくれぇー!)
深いため息を吐きながら心の中でそう言うと、タケルは気持ちを切り替えてテラサに話し掛けた。
「テラサ」
「何よ!」
名前を呼ばれたテラサはタケルに振り返ったが、彼女はやや涙目で睨んできた。
「これから、どうする?」
「え?ああ•••」
初めは何を聞かれたかわからなかったが、その意味を理解したテラサは顔を下に向けた。
「どうしよっかな。一人じゃできることには限界があるし。•••村に戻って農作業でもしようかな。あはは•••」
顔を上げたテラサは笑いながら言っていたが、その笑顔はとても暗かった。
テラサの話を聞き終わると、タケルはレンファンに視線を向けた。その意味を理解すると、彼女は大きく頷いてくれた。
「なら、俺たちのパーティに入らないか?」
「え?」
親指を胸に向けてタケルがそう聞くと、テラサは大きく目を見開いた。まさか、パーティの加入に誘われるとは思っていなかったのだ。
「そろそろメンバーを増やしたいなって思っていたんだよ」
「•••でも、私はタケルにあんな酷いことしたんだよ」
どうやら、テラサ自身タケルを殴ったことを気にしていたようだ。時間が経ったせいもあるだろうが、彼女は暗い表情をすると顔を下に向けてしまった。
「あんなに良いパンチを持ってるのに、農作業で終わるなんてもったいないだろ」
殴られたことを全く気にしていないタケルがそう言うと、テラサは驚いた表情で顔を上げた。
「そうよ。どうせなら、もっと強くなってタケルをボッコボコにしてやりましょ」
テラサの後ろにいたレンファンは、明るい口調で言うと彼女に抱きついた。
(•••いや、それは勘弁して)
レベル差があってもテラサの拳はかなり痛かったので、強くなった彼女の拳を想像したタケルは恐怖を感じた。
「コホンッ•••俺たちには、テラサが必要なんだよ」
雑念を捨てるように咳払いをしたタケルは、真剣な表情でテラサにそう言った。
「わ、私•••」
気持ちを整理するように、テラサは手を組むと胸に当てた。しばらく黙っていたが、やがて彼女は明るい表情で口を開いたのだった。
「タケルたちと•••もっと冒険がしたい!」
その言葉が承諾の意味だと理解したタケルは、笑顔で右手をテラサに差し出した。
「これから、よろしくな」
「•••うん!」
タケルと固い握手をしたテラサは、眩しい笑顔を見せてくれた。
「でーも、呼び捨ては駄目よ。私たちは先輩なんだから」
「あっ、そうだよね。今まで、呼び捨てで言ってごめんなさい」
レンファンに注意されたテラサは、タケルたちに頭を下げて謝った。
「まっ、俺はどんな呼び方でもいいけどな」
腰に手を当ててタケルが言うと、テラサは首を傾げて少し考えた。すると、予想外の呼び方を二人にしたのだった。
「わかったよ。タケ兄」
「タ、タケ兄?」
「うん。先輩で年上だから」
テラサから真っ直ぐな目でそう言われたタケルは、どう反応すれば良いかわからなかった。
「あははは!タケ兄だってー」
「これから、よろしくね。レン姉」
「レン姉?」
まさか自分もタケルと同じような呼び方をされるとは思っていなかったレンファンは、真剣な表情でテラサへ顔を向けた。
(ヤ、ヤバい!レンファンって、ミラ以外から変な呼び方されるの気にしていたよな)
これからテラサが酷い目に遭うとタケルは予想していたが、それは外れることになったのだ。
「•••レン姉か。良いわね」
テラサの呼び方が気に入ったレンファンは、再び彼女に抱きついたのだった。
(嘘だろ?レンファンが気に入った)
タケルが驚いた表情でレンファンを見ていると、彼女はテラサの肩を叩いた。
「さっ、受付カウンターでパーティの加入申請をしましょ」
「うん!」
レンファンとテラサは、仲良く受付カウンターへと歩いていった。ひとりぼっちになったタケルに、マクベスがそっと肩に手を置いた。
「これから大変だな」
「はは•••賑やかになりそうだ」
リーダーが遅れる訳にはいかないので、タケルは駆け足で二人の後を追った。
「ミラ、テラサのパーティ加入申請をお願い」
ミラの列が空いていたので、レンファンは彼女にテラサのパーティ加入申請をお願いした。
「うん。じゃあ、テラサさん。こちらに記入をお願いしますね」
「はい」
ミラが出した用紙にテラサは書いていった。
「そういえば、今回の依頼ってどうなったんだ?」
ずっと気になっていたので、タケルはレンファンの隣に来ると聞いた。
「ガルムの群れ討伐依頼は、無事に達成したわよ。ちゃんと報酬は貰っておいたわ」
「俺の取り分もしっかりと頂いたよ」
タケルの後ろに来ていたマクベスは、彼の首に腕を回してそう言った。
「それなら良かった。あっ、そうだった」
予想外の襲撃で忘れていたが、タケルはスペースリングからあれを取り出した。
「ミラさん、前回みたいにこれもお願いできますか?」
そう言ったタケルがカウンターの上に置いたのは、あのミスリルタイガーの魔核だった。
「こ、これって•••ミスリルタイガーの魔核⁉︎」
ミラが大声で言ったので、周りの冒険者は一斉に視線を向けてきた。
「お、おい、またタケルがレッドゾーンの魔物を倒したぞ」
「っていうか、どんだけレッドゾーンの魔物と遭遇するんだよ」
周りの声をなるべく気にしないようにして、タケルはミラに聞いてみた。
「タイラントベアの時のように、ミスリルタイガーの討伐依頼って貼ってありますか?」
「ちょ、ちょっと待ってて下さい」
驚いた表情のまま、ミラは駆け足で掲示板へと向かった。
「話は聞いていたが、本当にミスリルタイガーを倒したんだな」
タケルから離れたマクベスは、カウンターに置かれたミスリルタイガーの魔核をじっと見つめた。彼だけではなく、書き終わったテラサも見ていたのだ。
「まあ、《狂化》を使ったからな」
タケルは言いながら頬を指で掻いた。実際、スキルなしではまだレッドゾーンの魔物には勝てないだろう。
「ありましたよー!」
ミラは掲示板から走って戻ってきた。その手には、しっかりと依頼書が握られていた。少し呼吸を整えてから、彼女はタケルに話し掛けた。
「今日が期限のミスリルタイガー討伐依頼です」
「じゃあ•••」
「はい。すぐに受理して、難易度Cの依頼達成としますね」
「よろしくお願いします」
タケルがミラに頭を下げると、彼女はテラサが書き終わった用紙とミスリルタイガーの魔核を持って奥へと消えていった。
「あれが、レッドゾーンの魔物の魔核•••大きい」
魔核を持って行ったミラが消えるまで、テラサはずっと見ていたのだった。
「タケルといれば、またレッドゾーンの魔物と遭遇するわよ」
「本当?レン姉」
「ええ。タケルがそれを倒すところを直に見ましょうね」
「うん!」
テラサの視線に気付いていたレンファンは、彼女の首に腕を回して話していた。
しばらくして、ミラが真剣な表情で戻ってきた。その手には、報酬が入った袋が握られていた。
「まずは、テラサさん。無事にタケルさんのパーティ加入申請が済みましたよ」
「ありがとうございます」
テラサは、喜びを体いっぱいに表すかのように飛んだ。当然、彼女の大きな胸も上下に揺れていた。
(もう少し気にしてほしいんだけど)
タケルは呆れた表情をするとため息を吐いた。
「それと、タケルさん。こちらはミスリルタイガー討伐の報酬金、15万Gです」
「「「うおおおーーー‼︎」」」
報酬金額を聞いていた周りの冒険者たちは、大きな歓声を上げた。
「さらに•••条件を満たしましたので、Bランク昇格です!」
笑顔でそう言ったミラは、Bランクの冒険者カードをタケルに渡した。代わりに彼は、Cランクの冒険者カードをスペースリングから取り出して渡したのだった。
「ありがとうございます」
受け取ったBランクの冒険者カードをじっとタケルが見ていると、咳払いをしたミラが真剣な表情で話し掛けた。
「ところで、タケルさん。クランを結成されてはどうですか?」
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