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第3章 動き出した暗殺者
第17話 タケルに迫る影
しおりを挟む遅い時間とポーションの匂いから、二人は屋台で食事を済ませることにした。食欲をそそる匂いに誘われて、様々な種類の串肉を売っている店に立ち寄った。
二人は一角牛と突進豚をそれぞれ三本ずつ買った。
「ん~、やっぱり一角牛は歯応えがあって美味しいわね」
「疲れた体に豚肉は最高だな」
レンファンは一角牛を食べ、タケルの方は突進豚を食べていた。食べ歩きはあまりしたくなかったが、二人とも空腹には勝てなかった。食べ終わった串は、一旦スペースリングに入れてあとで捨てれば問題ない。
「ねえ、タケル」
「ん?」
「突進豚の方も味見させてよ」
味の違いが知りたいので、レンファンは熱い視線をタケルが持っている串に向けていた。
「•••まあ、少しだけなら良いか。ほらっ」
最後の一本なのでタケルは悩んだが、少しだけなら良いと判断してレンファンに渡した。ちなみに、彼女の方はすでに食べ終えていた。
「ありがと。•••ん~、突進豚は噛めば噛むほど旨みが出るわね」
味の違いをレンファンは楽しんでいたが、無意識にタケルの串肉を食べ続けていた。
(あれ?味見って、普通一口だよな。俺の串肉がどんどん減って•••)
夢中で食べているレンファンを不安な表情でタケルは見ていた。そして、ついに彼の串肉は消えてなくなった。
「あ~美味しかった」
大満足のレンファンは、残った串をスペースリングにしまった。
「•••おい」
「ん?」
「俺の串肉は味見のはずだろ?」
「•••あっ」
携帯ナプキンで口の周りを拭いていたレンファンは、タケルの串肉を全部食べたことにようやく気付いた。
「ゴ、ゴメン!つい美味しくって」
手を合わせてレンファンは謝ってきたが、タケルは彼女に冷たい視線を送った。
「謝って済むかよ。突進豚の串肉はあれが最後だったんだぞ!」
「だ、だから謝ったでしょ。串肉一本で根に持つなんて小さい男ね!」
「•••小さいのはそっちだろ」
腹が立ったタケルは、小声で一番レンファンが気にしていることを言った。
「誰がチビですってぇー‼︎」
遠回しにチビと言われたと思ったレンファンは、渾身の一撃をタケルの顔に放った。
宿に着いても二人の口論は続いていたので、女将は苦笑しながらそれぞれの部屋の鍵を渡していた。
「で、何でこっちの部屋に俺を入れたんだよ」
複雑な表情で言ったタケルは頬を指で掻いた。今彼がいるのは自分の部屋ではなく、なぜかレンファンの部屋だった。
「決まってるでしょ。説教をする為よ」
ベッドに腰掛けたレンファンは、腕を組んでタケルを睨んでいた。
「はあ?レンファンに説教されることは何もして」
「いーや、あるわよ。宿に着くまで昨日と今日の話を聞いたけど、タケルの戦いは無茶し過ぎよ」
タケルの話を遮ったレンファンは、ビシッと彼を指で差した。
「そうか?たまたま相手が強かっただけだと思うけど」
「いいえ。もっと考えて戦っていれば、余計な怪我はしなくて済んでいたわ」
一応冒険者ではレンファンの方が先輩なので、タケルは中々言い返せなかった。
「とにかく、明日からはまた二人で依頼を受けるわよ」
「わかったよ。明日からまたよろしくな」
「ええ。こちらこそ」
ようやくレンファンの説教が終わったので、タケルは重い足取りで自分の部屋に戻ってきた。
(姉がいたらあんな感じなのかな)
そんなことを思いながら、タケルは汗とポーションで汚れた体を洗い流した。
「ふぅ~さっぱりした」
タオルで髪を乾かしながら、タケルはベッドに腰掛けた。そして、レオンが言っていたことを思い出していた。
(あと一つ、難易度Cの依頼達成でBランクか)
ゆっくりと倒れてベッドに体を預けると、タケルは天井をじっと見つめた。
(無理はしないで、明日はレンファンと一緒にレベルアップをしよう)
これ以上周りに余計な心配は掛けたくないので、タケルは自重しようと強く決めた。
「んー•••明日に備えてもう寝るか」
横になっている状態で軽く背伸びをするとタケルは就寝した。
◇◆◇◆◇
夜が更けた王都のある屋敷で、黒ずくめをしたサージスは誰かと《念話》で話していた。
((代替わりしての初仕事だ。間違っても失敗はするなよ))
((はっ!Eランクの雑魚に俺が負けるとでも?))
《念話》の相手は声からしてサージスよりも若いようだが、一切彼に敬語は使わなかった。
((それは一週間くらい前の情報だ。もうランクは上がってるだろう))
((上がってもCランクだろ?結局雑魚じゃねぇか))
余程自分の実力に自信があるのか、《念話》の相手は全く緊張感がなかった。
((相手が闇属性だというのを忘れるなよ。感情一つで実力以上を発揮するからな))
((わかってるよ。それで、なんて名前だっけ))
ただの標的としか思っていないので、最初に言われた情報をもう忘れていた。
((•••名前はタケル。闇属性の転移者で、黒髪をした二十代の男だ))
((男ねぇ。女だったら楽しめたのに))
《念話》の相手の趣味を知っているサージスは、呆れた表情でため息を吐いた。
((くれぐれも余計なことはするなよ。あくまでターゲットは転移者のタケルだけだ))
((わかったよ。俺を選んでくれた頭の顔に泥を塗るようなことはしねぇよ))
((なら、それを行動で示せ))
((当然だ))
そう短く応えると、相手は《念話》を切った。
(まあ、奴の実力なら問題はないか。•••予想外のことが起きなければな)
依頼を任せた相手の実力は知っているが、サージスは一抹の不安が残っていた。
(まだEランクでファイアドラゴンを倒すとはな。恐らく、能力値を上昇させるスキルを使ったのだろう)
シリウスからの情報を思い出していたサージスは、無表情で付けられている首輪を触った。
(•••私と同じ闇属性か)
◇◆◇◆◇
翌朝、起床したタケルとレンファンは、宿を出ると屋台で朝食を済ませてからギルドへ向かっていた。
「昨日も言ったけど、無理な依頼は絶対に駄目よ」
「わかってるよ。俺だって毎回死にかけるのは御免だ」
レンファンにそう言ったタケルは頭を掻いた。
報酬でカバーできるとしても、最近はポーションの消費が激しいのだ。無駄な出費は避けたいので、しばらくは安定した依頼を受けるとしよう。
ギルドに入った瞬間、タケルに気付いた冒険者たちが様々な表情で視線を向けてきた。
「タケル•••なぜか他の冒険者から視線を感じるんだけど?」
「き、気のせいじゃないのか。ほら、早く掲示板に行こうぜ」
視線の理由は、昨日ギルドに残った人たちに《縮地》のことを話したからだろう。そのことをレンファンに話すとまた騒がれるので、タケルは自分からは言わないことにした。
周りの視線を無視して、二人は掲示板の前までやって来た。狙いは、パーティで受けられる難易度Dの依頼である。
「やっぱり午前だと依頼の種類が豊富ね」
「そうだな」
短く応えたタケルは、改めてソロ依頼の少なさを痛感した。恐らく、冒険者の生存率を上げる為にレオンがパーティ依頼を多くしているのだろう。
(ソロで強くなろうなんて、ホント愚かだったな)
昨日の自分を恥じているタケルは、レンファンに気付かれないようにため息を吐いた。
「あ、あの!」
突然後ろから声を掛けられたので、二人は驚いた表情で振り向いた。すると、そこには不安な表情をした緑の短髪をした二十代の男性が立っていた。
(誰だろう。俺は知らないから、レンファンの知り合いか?)
そう思いながらレンファンに顔を向けると、彼女は首を横に振った。
「ぼ、僕はクルートと言います。タケルさんですよね?」
「あ、ああ。タケルは俺だけど」
まさか自分に用があるとは思っていなかったので、タケルは少し緊張した面持ちで答えた。
「良かった。あ、えっと、俺と握手して下さい!」
(え?どういうことだ?)
クルートと名乗る男性から突然握手を求められたタケルは、どう対応すれば良いか迷っていた。すると、よく響く足音を立てながら近付く一人の女性がいた。
「そんなんじゃわかんないでしょ!」
周りのことなど気にせず、女性はクルートの頭を思いっきり殴ったのだった。
「イッタ~!」
いきなりやって来てクルートを殴った女性を、タケルたちは複雑な表情で見ていた。
「まったく•••あっ、クルートがご迷惑を掛けました。私は、彼とパーティを組んでいるテラサと言います」
テラサと名乗った水色のショートヘアの女性は、クルートよりも年下に見えた。恐らく、十代後半なのだろう。
「い、痛いよテラサ~」
やや涙目でクルートはテラサに顔を向けた。
「殴られて当然でしょ。ほらっ、迷惑を掛けたことを謝りなさい」
クルートの返答を待たずに、テラサは彼の頭を掴むと一緒に謝った。
「ご迷惑を掛けて、すみませんでした!」
「す、すみませんでした•••」
どうやら訳ありのようなので、タケルは二人に事情を聞いてみた。
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