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第2章 謎の声
第12話 三兄弟
しおりを挟むギルドを出たところで、レンファンはやっとタケルの袖から手を離した。
「何でギルドを出たんだよ。中にいる冒険者から選んだ方が良いだろ?」
タケルがそう聞くと、レンファンはギルドのドアを見つめた。
「確かに中で他の冒険者を誘うのが普通だけど、今回は場所が場所だからね。知らない者同士だと、連携が取れなくて相手に当ててしまう危険もある」
レンファンの話を聞いたタケルは、あまり納得していないようだった。これは単純に経験の差であった。彼女は何度も他の冒険者とパーティを組んで依頼をしてきたから、初対面がどれだけ危険かを知っているのだ。
「お互い知り合いの方が、そういうリスクが少なくて済むのよ」
「そっか」
まだ少し納得してはいなかったが、ここは経験者のレンファンに従うべきだろう。
「で、これからどこへ向かうんだ?」
「付いて来ればわかるわよ」
詳しいことは教えず、レンファンは南側に向けて歩き出した。
(南側?もうすぐ昼だから飯でも食うのか?)
レンファンの行動が読めないタケルは、ただ彼女に付いて行くしかなかった。
昨日訪れた商業区に入ると、至る所から食欲をそそる香りが鼻を刺激した。時間も時間なので、どこかで食事をしたかった。
「良い香りだな。どこで食べるんだ?」
「食事はやることをやってからよ。ほらっ」
急かすようにレンファンはタケルの袖を掴んで商業区を進んでいった。
「さっ、着いたわよ」
「着いたって•••精肉店?」
レンファンに引っ張られて辿り着いた先は、なんとごく普通の精肉店だった。噛みごたえがありそうな赤身肉や焼く前から美味しそうな霜降り肉などが置いてある。
「•••焼肉でも食うのか?」
思ったことを口に出したら、レンファンから思いっきり顔を殴られた。
「そんな訳ないでしょ!店じゃなくて店員に用があるのよ」
「•••店員?」
顔をさするタケルを無視して、レンファンは二、三歩前に出ると大きく息を吸った。
「マクベス!カバル!コリー!」
行き交う通行人を気にすることもなく、レンファンは三人の名前を大声で言った。
(おいおい、通行人が見てるぞ。恥ずかしいな)
タケルはこの場にいるのが恥ずかしくなってきた。少しレンファンと距離を取ろうかと思った瞬間、店の奥から彼女に負けないくらいの大声が返ってきた。
「大声を出さなくても聞こえてるよ!」
怒りを感じる足音と共に現れたのは、赤い短髪をした男性だった。
「レンファン!営業妨害だぞ」
「そうそう。用がある時はベルを鳴らせよな」
続いて現れたのは、爪楊枝を咥えたオレンジのモヒカンの男性だ。
(二人ともカラフルだな。まあ、通行人も色んな髪の色だったけど)
奥から出てきた二人を見てから、タケルは通行人に視線を向けた。
「まあまあ、兄さんたち。レンファンが来たってことは依頼だから話だけでも聞こうよ」
最後に現れたのは、レンファンよりも小さい水色の天然パーマの男性だ。
「さすがは優秀な三男ね。タケル、今回の依頼を受けてくれる三兄弟よ。ほら、自己紹介してよ」
「まだ受けるって言って•••へぇ~強いんだな」
短髪の男性は面倒くさそうに頭を掻いていたが、タケルを見ると態度が少し変わった。
「俺はこの店の長男、マクベスだ。ほら、次はお前だろ」
マクベスはモヒカンの男性の背中を叩いた。
「叩くなよ兄貴。えーと、次男のカバルだ」
「僕が三男のコリーです」
天然パーマのコリーだけが頭を下げて挨拶をした。
「タケルです。よろしくお願い」
「ちょっと待った」
名乗ったので頭を下げようとしたが、カバルが手を前に出して止めた。
「見たところ新人だろ?何で俺らが新人と組まないといけねぇんだよ」
「カバル兄さん」
気まずい雰囲気になりそうなので、コリーはカバルの袖を少し引っ張った。
「カバル、文句はタケルのステータスを見てからにしろ」
「はあ?新人のステータスが何だって•••••嘘だろ」
マクベスに言われたカバルは、気怠そうにタケルのステータスを確認した。
「新人でレベル31⁉︎意味わかんねぇよ!」
「恐らく、近くの街や村から来たのではなく、王都からやって来たのだろう。それも、『魔の巣窟』を進んで」
顎に手を当てながら、マクベスは自分の考えを話した。
「それなら、ジルバに着いた時には相当レベルが上がっていても不思議じゃない」
(怖いくらいに当たっている。このマクベスって人、かなり頭が切れるな)
観察するように見つめるマクベスをタケルは少し寒気を感じた。
「顔を見る限り、問題なさそうね。この三兄弟は店を手伝いながら冒険者もしているのよ」
三人ともタケルを認めたと思ったレンファンは、安心して依頼の話をしようとした。
「ちょっと待った」
レンファンが口を開いたと同時に、マクベスは手を前に出した。
「受けるかどうかは、依頼内容を聞いてからだ。店を離れることを考えると、報酬は最低でも1万5000Gだな」
マクベスの言うことはもっともだ。働き手が三人もいなくなったら、店の負担はかなり大きいだろう。
「1万5000Gか。それなら問題ないわ。だって今回の討伐対象はサラマンダーだからよ。しかも三体以上の討伐」
自信満々にレンファンは言うと、腰に手を当てて胸を張った。
「サラマンダー三体以上か」
マクベスは腕を組むと、弟たちに視線を向けた。
「さらに、達成したらタケルの奢りよ」
(そうそう、奢りはタケルが•••)
「俺かよ!」
奢りと聞いてから、三兄弟の目の色が変わった。
(なんか•••凄ぇ嫌な予感がする)
三兄弟は肩を組むと何やら話し合っているようだった。しばらくて、カバルがレンファンに近付いてきた。
「俺らの食欲を知ってて言ったんだよな?もし変な店で奢らせたら、お前の胸を揉ん」
言い終わる前にレンファンがカバルの顔を殴っていた。
(み、見えなかった)
驚いた表情でレンファンを見てから、タケルはピクリとも動かないカバルに視線を向けた。
(•••カバルって人、生きてるよな?)
「相変わらず学習しねぇな。コリー、この馬鹿を奥に引っ込めてこい」
「わかったよ。マクベス兄さん」
マクベスから言われたコリーは、カバルの足を掴むと引きずって奥へと消えた。
「脱線したが、俺らも依頼を受けよう」
「ヤッター!これで五人揃ったわ」
「ん?五人?」
不思議そうな表情でマクベスは首を傾げた。
「今回の依頼条件は、五人以上のパーティだったのよ。それを知らずにタケルが依頼書を取っちゃってね」
言い終わったレンファンは目を細めてタケルを睨んだ。何も言い返せない彼は顔を下に向けた。
「なるほど。まっ、人数もクリアしてるし、レベル30超えが一人いれば問題ないだろ。今日はそれぞれ準備をするとして、明日の七時に集合でどうだ?」
「ええ。大丈夫よ」
「そんじゃ、明日はよろしくな」
白い歯を見せながら笑うと、マクベスはタケルに握手を求めてきた。
「よろしくお願い」
「っと、敬語はよせ。同じ二十代だろ」
「あ、ああ。こちらこそ、よろしく」
二人が握手を済ませると、コリーが小走りでやって来た。
「マクベス兄さん、話はまとまった?」
「ああ。明日の七時に集合だ」
「了解。明日は、よろしくお願いします」
コリーは明るい笑顔で頭を下げた。二人の兄とは違って、とても穏やかな感じだ。
精肉店を離れると、忘れていた空腹がタケルを襲ってきた。ちょうど商業区にいるのだから、どこかで食事をしたかった。
「そういえば、あの兄弟のランクは?」
「私と同じDランクよ」
レンファンから三人のランクを聞くと、タケルは少しだけ表情が曇った。
(Eランクは俺だけか。なんか気まずいな)
「ランクなんて気にすることないでしょ。五人で唯一のレベル30超えなんだから。頼りにしてるわよ」
励ましの言葉を掛けると、レンファンは優しくタケルの背中を叩いた。
「ありがとな」
「どういたしまして。まあ、お礼の言葉よりも物が欲しいな~」
レンファンは何かを要求するような上目遣いをしてきた。
「そこまでのことはしてないだろ」
「酷いなぁー。落ち込んでいる新人を励ましたのに」
頬を膨らませると、レンファンは早足で進んでいった。
「な、待てよ」
急いでレンファンに追い付いたタケルは、必死に彼女に謝った。
遅めの昼食を済ませた二人は、そのまま道具屋に行って必要なアイテムを買い揃えた。今までのこともあるので、支払いはタケルがした。
「結構買ったな」
「イエローゾーンに行くなら、このくらい普通よ。念の為、携帯食も多めに買いましょ」
万全な状態で依頼に臨みたいので、レンファンは他の店も回った。彼女の後を追いながら、初のイエローゾーンの依頼にタケルは緊張していた。
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