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第2章 謎の声
第2話 あの肉の正体
しおりを挟む森に入った二人は、他の魔物を倒しながら進んでいた。
タケルはゴブリンの首を斬ると、近くにいたスライムの核を突いた。一方、レンファンはホブゴブリンの頭を貫いてから、後ろのゴブリンに思いっきり柄を振って首を折った。
「うーん。やっぱり素材は落とさないか」
レンファンは残念そうな顔で言うと、魔核をスペースリングにしまった。
「そういえば、魔物の素材ってよくわからないんだけど」
「そっか。それも教えないとね」
少し開けた場所を見つけると、二人は休憩の準備を始めた。各々スペースリングから水筒やお菓子を出した。
「魔導具やマジックアイテムに魔物の素材を使っているわよね?」
「もうろん。このスペースリングにも、何かしらの素材が使われている。確か、スキル《亜空間》を付与しているんだよな」
タケルがそう答えると、レンファンは驚いた表情のまま口を開けていた。
「そんなに驚くことか?」
「驚くわよ。よく《亜空間》が付与されていることを知っていたわね」
「旅立つ時に師匠から教わったんだよ」
旅立ってから一週間くらいしか経っていないが、タケルはとても懐かしくなった。きっと、エリザのことを思い出したからだろう。
「ふーん。あ、それで素材だけど、魔物を倒すと低確率で落とす時があるの。冒険者の間では、ドロップアイテムって呼ばれているわ」
(•••ゴメン、レンファン。元の世界では、よくゲームでそう呼ぶんだ)
タケルは心の中でレンファンに謝罪した。ちゃんと説明してくれる彼女に申し訳ないからだ。
「他にも、武器や防具にだって使われるのよ。だから、結構高値で売れるの」
最後のところは目を輝かせてレンファンは話していた。
休憩が終わると、二人は再び歩き出した。討伐対象のキラービーの群れが目撃されたエリアは、もう少し進んだ所だった。
(ん?)
右の草むらが揺れたので、タケルは振り向きながら刀を構えた。
ピィピィピィ
「何だ?あの魔物は」
一見すると白毛の兎だが、頭に角が生えていた。初めて見る魔物だったので、タケルは《鑑定》で確かめようとした。
(《鑑て)
「アルミラージだ!しかも三体」
自分で確かめたかったが、先にレンファンが魔物の名前を言った。いや、なぜか叫んでいた。
「アルミラージ?」
「角がある兎の魔物よ。土属性で、【ロックショット】を使うわ」
「ふーん」
一応レベルも知りたかったので、タケルは《鑑定》を使った。
名前:アルミラージ
レベル:11~13
属性:土
体力:380/380~430/430
魔力:350/350~370/370
攻撃力:41~47
防御力:35~38
敏捷力:51~61
技:【ロックショット】
スキル:
(このレベルなら特に問題な•••)
ふと、タケルは不思議な感覚に陥った。相手はただの魔物だというのに、なぜか親近感があったのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
朝食を済んだエリザは、趣味の読書を楽しんでいた。
「そろそろ、新しい本でも借りようかしら」
週に一度来る商人からは、食材や日用品以外にも本を借りていた。そして、気に入った本があれば買うこともできるのだ。
「商人が来るのは明後日か。待ち遠しいわね」
背伸びをしたエリザは窓に視線を向けた。相変わらずの景気だったが、外にいるアルミラージに気付くと複雑な表情になった。
「あの肉が魔物だなんて知ったら、どんな顔をするのかしらね」
タケルに戦い方を教えると決めた時から、エリザはある方法を考えていた。元々は自分用に取っておいたマジックアイテムを彼に使おうと。
「結構高かったのよね。アンデッドパウダー」
アンデッドパウダーは、魔物にかけると倒しても塵にはならない。肉体は死んでいるのに死を認識しないからだ。魔物は魔力の塊なので、その肉を食べれば魔力が格段に上がる。
「ちゃんと魔力は上がるけど、あの副作用がねぇ」
エリザが言う副作用とは、食べた魔物を仲間だと思ってしまうことだ。
「まあ、アルミラージ程度なら戦えなくなっても大丈夫でしょ。森林地帯では弱い方だしね」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
タケルは無意識に構えが緩んでしまっていた。
「ちょっと、しっかり構えなさいよ。低レベルでも魔物なのよ」
「わかってるって」
一応返事はしたが、タケルはアルミラージを敵とは思えなかった。
「アルミラージは臆病で、滅多に会えないの。しかも、その角はかなり高価だから、何としても倒すわよ!」
気合い十分といった感じで、レンファンはアルミラージに向かっていった。
「もう!素早いわね」
レンファンが襲ってきたので、アルミラージは二手に分かれて逃げた。
「タケル!あなたはそっちの二体をお願いよ」
「え?二体も」
「だって、タケルの方が敏捷力高いじゃない。頼んだわよ!」
そう言い残すと、レンファンは一体のアルミラージを追い掛けていった。
(どうしよう。こんなこと今までなかったんだけど)
不安な表情でタケルはアルミラージの方へ顔を向けた。臆病と言っていたが、やる気満々と言った目でこちらを睨んでいた。
「こっちは戦いたくないんだけどな」
ピィ!ピィ!
可愛く吠えると、アルミラージの周りの地面からバスケットボール並みの岩が出てきた。
諦めたタケルは、刀を闇で覆うと徐々に密着させた。
「悪いが、俺を恨むなよ」
刀を向けてそう言うと、アルミラージは【ロックショット】を撃ってきた。
何個もの岩がタケルを目掛けて降ってきた。十分見切れるので、余裕で躱していった。
(これじゃあ駄目だ。どう見ても逃げてるのは俺の方じゃん)
いつまでも逃げている自分に苛々してきたタケルは、思いっきり拳で額を殴った。
(ちょっと落ち着いてきた。それにしても、鬱陶しい岩だな。どうにか動きを止めないと)
「あっ」
あることを思い出したタケルは、つい声を出してしまった。
(そういえば、あのスキルを一度も使ってないな。まあ、相手が弱かったり、逆に強すぎて使えなかっただけだが)
初めて獲得したスキルをこんな形で使うとは思わなかった。だが、今が使う時なのかもしれない。じっとアルミラージを睨みながらスキルを発動した。
「《威圧》」
元々ステータスの差があったので、アルミラージは動きを止めると震え出した。
「これが《威圧》か。確かに相手を怯ませるスキルだな。•••可哀想だけど」
動けなくなったアルミラージにゆっくりとタケルは近付いた。
「そんな目で俺を見るなよ」
当たる間合いまで近付くと、アルミラージは潤んだ目をタケルに向けてきた。
「悪いな。これもレンファンの為なんだ」
二体のアルミラージを斬ると、タケルは刀を振って闇を消した。鞘に納めたところで、レンファンが戻ってきた。
「おーい、タケル。そっちは終わった?」
「ああ。今終わったところだ」
そう答えたタケルが振り向くと、なぜかレンファンは驚いた表情をしていた。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「え?」
「いや、泣いてるから。どこか怪我でもした?」
レンファンに言われたタケルは、自分が泣いてることに今気付いた。変に思われたくないので、素早く手で涙を拭いた。
「大丈夫だ。少し土が目に入ったようだ」
「本当に怪我してない?」
駆け寄ったレンファンはかなり心配していた。
「ああ、もう土は取れたから」
「そう。それなら良かった」
安心したレンファンはやっと笑ってくれた。
「こっちはドロップしなかったけど、タケルはどうだったの?」
「ん?こっちは」
まだ確認していなかったタケルは、アルミラージを倒した辺りに視線を向けた。すると、一本の角が落ちていた。
「なあ、『アルミラージの角』ってこれか?」
角を拾うと、タケルはレンファンの目の前に見せた。
「これよ!間違いなく『アルミラージの角』だわ」
何かを訴えるような目でじっとレンファンは角を見ていた。最初からそのつもりだったの、『アルミラージの角』を彼女に渡した。
「はい」
「いいの?」
「俺は十分バーサークコングで稼いだから」
「あ、ありがとう」
頬を赤くしながらレンファンは礼を言った。角をスペースリングに入れる前に、複雑な表情でタケルを見た。
「あとで返してなんて言わないよね?」
「言わないって。その角、欲しかったんだろ。さっき色々と教えてもらったお礼だよ」
「そういうことなら、有り難く貰うわ」
ようやくスペースリングにしまうと、レンファンはとても嬉しそうだった。
「さっ、この調子でアルミラージを見つけたら倒しまくるわよ」
レンファンが歩き出したので、置いていかれないようにタケルはアルミラージの魔核を拾った。
「意外と闇を密着させた状態で戦うと魔力を消費するな」
手に持った魔核を見ていたタケルはあることを思った。
(魔核って、魔力の結晶体だよな。じゃあ、魔核から魔力を補充できるのか?)
首を傾げたタケルは、普段とは逆に魔力を吸収するイメージをしてみた。すると、魔核は強く光り出したのだ。それと同時に、体に何かが流れてくる感覚があった。
「え?」
タケルは目の前の状況が信じられなかった。魔核の光が弱くなったと思ったら、次の瞬間には塵となったのだ。
「嘘だろ」
理由がわからないタケルは、もう1個の魔核をスペースリングに入れた。
「遅かったじゃない。何かあったの?」
レンファンに追いついたが、少し遅かったことが彼女は気になったようだ。
「いや、別に何も」
「なら、いいけど」
レンファンは心配そうな表情でタケルの顔を見たが、本人が平気だと言ったので視線を戻した。
(さっきのことはレンファンに言わないでおこう)
先程のことを自分の胸の奥にしまって、タケルは依頼に集中した。
目撃されたエリアに近付くと、討伐対象のキラービーの群れを発見した。確認できる数でも二、三十体はいた。
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