闇属性転移者の冒険録

三日月新

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第1章 冒険者への道

第16話 二度目の死闘

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 レンファンに街へ向かうように言われてから、タケルは何も考えずに走り続けた。

「はぁ•••はぁ•••あっ!」

 木の根に足が引っ掛かってタケルは転倒してしまった。ゆっくり起き上がると、前方の木々の隙間から日が差していた。

(もう少しで草原だ。あとは街に行って助けを)

 後方から激しい衝撃音がしたが、タケルは気にせず歩き出した。

(俺はこっちの世界の人じゃない。元の世界に帰る為に生きなきゃいけないんだ。こっちで誰が死のうが関係ない。関係•••)

 急に足を止めたタケルは、自分の胸ぐらを強く掴んだ。

「•••関係ない訳ねぇだろうが‼︎」

 そう大声で言うと、持っていたバッグを地面に落とした。

(異世界から来た俺を心配して•••気に掛けて•••命を救って•••)

 胸ぐらを掴んでいるので、心臓の鼓動が直に伝わってくる。自分に何を訴えているのかがわかった。

(このまま生き延びたら、俺は死ぬまで自分を許せなくなる。だったら•••)

 大きく深呼吸をしたタケルは、来た道を振り返った。


「がはっ!」

 強烈な一撃を受けたレンファンは、吹き飛ばされて大きな木に叩き付けられた。
 最初に使って以来、バーサークコングは技を使ってはこなかった。理由は、その必要がないからである。

雑魚ざこに技を使わないってことかしら?」

 座った状態のまま、レンファンは睨みながら言った。何とか槍ので攻撃は防いできたが、もう手に力は入らなかった。手だけではなく、足の方も限界が来ていた。

(タケルの言う通り、二人で戦えば勝率は上がったかもしれないわね。でも、あなたはまだ一般人でしょうが)

 震える手で槍の柄を握ると、どうにか立ち上がろうと試みた。しかし、体を支える為の握力はもうなかったのだ。むなしく地面に落ちた槍をしばらく見つめると、レンファンは深呼吸をしてからゆっくりと目を閉じた。

(お姉ちゃんみたいに•••なりたかったな)

 バーサークコングは、レンファンの頭目掛けて拳を打った。凄まじい衝撃波が体を襲ってきた。だが、肝心の攻撃による衝撃はなぜが来なかった。

(•••どうして、まだ生きてるの?)

 不思議に思ったレンファンは、ゆっくりと目を開けた。視界に入ってきたのは、見覚えのある背中だった。

「ギリギリだったな」

 タケルは、バーサークコングの拳をさやで受け止めていた。どうして彼が戻ってきたのかわからないレンファンは、掛ける言葉に迷っていた。

「•••何で•••何で戻ってきたのよ!」

 本当は違う言葉を掛けたかったが、無謀にも戻ってきたことにレンファンは怒りを覚えていた。

「何でって、助ける為に決まってんだろっ!」

 バーサークコングの拳を押しのけたタケルは、右手の中指だけを立てて睨み付けた。

「おい、赤猿。今度は俺が相手になってやるよ」

ゴオオオオオッ!

 タケルの挑発に怒ったバーサークコングは、レンファンの時以上に拳で胸を叩いていた。

(ドラミングだっけか。まあ、こっちでそう呼ぶのかはわからないが、挑発に乗ってくれたのは助かるぜ)

 予想通りの反応をしたので、タケルは戦いやすい場所を目指して走り出した。

「来いよ、ノロマ!」

ゴオオオオオッ!

 更なる挑発にバーサークコングは吠えながら追ってきた。
 レンファンの顔が見えなくなる前に、タケルは笑顔を彼女に見せた。

「何•••笑ってんのよ」

 レンファンは震える声でそう言うと自分の体を抱いた。死を覚悟しても、恐怖がなかった訳ではないのだ。

「•••絶対生きて戻ってきなさいよ。じゃなきゃ、怒れないんだからね」


 十分刀を振るえる場所を見つけると、タケルは立ち止まって抜刀した。バーサークコングも足を止め、怒りに満ちた目で睨んできた。

「そう怒るなよ。単細胞な猿だな」

ゴオオオオオッ‼︎

 大きく吠えたバーサークコングは、拳に大地のエネルギーを貯めた。

(あれは•••恐らく【ガイアインパクト】か)

 《鑑定かんてい》でタケルも技を確認していたので、ある程度予測することができた。しかし、バーサークコングのスキルについては知らなかった。

(この距離なら、こっちから先に仕掛けて)

 タケルは考えるのをやめた。いや、やめるしかなかったのだ。なぜなら、目の前にバーサークコングが現れたからだ。

「チッ!」

 バーサークコングの拳が当たる前に、タケルは後方へ飛んで避けた。体に来る衝撃波よりも、大きくえぐられた地面を見てゾッとした。

「化け物が」

 歯を食いしばって言うと、タケルはつかを強く握った。それに応えるかのように、刀身から闇が溢れ出た。上段に構えると、一気に刀を振り下ろした。

「【冥月斬めいげつざん】!」

 闇の斬撃はバーサークコングに迫った。攻撃直後の隙を狙った技からは逃れられない。

「よし。当たっ•••たのに斬れてねぇだと⁉︎」

 タケルの【冥月斬】は確かにバーサークコングに当たった。だが、片腕でそれをしのいでいたのだ。

グゥゥゥ•••ゴオオオッ‼︎

 一声上げた後、バーサークコングは【冥月斬】を弾き飛ばした。

「おいおい•••冗談じゃねぇぞ」

 この攻撃で仕留めるつもりだったので、かなりの魔力を注いでいた。例え倒すことができなくても、それなりのダメージは期待していたのだ。

「あんなのダメージに入るのかよ」

 【冥月斬】を受けたバーサークコングの右腕は、わずかな切り傷があるだけだった。

(おかしいな。こいつの防御力なら、さっきので切断できたはずだ。《鑑定》•••)


名前:バーサークコング
レベル:35
属性:土
体力:3650/3650
魔力:2590/2590
攻撃力:417(+12)
防御力:334 (+12)
敏捷力:112(+12)
技:【ガイアインパクト】、【アースファング】
スキル:


(マジかよ。上昇値が付いてやがる)

 改めてステータスを確認したタケルは、体力と魔力以外に上昇値が付いていることに驚いた。

(ただのレベルアップなら、こんな表示にはならない。ってことは、俺が離れてからスキルを使ったのか)

 状況からスキルを発動させたことはわかったが、こちらが不利なのは変わらなかった。

「ったく。どんなスキルを使ったん」

 言葉を切ったタケルは全神経を集中した。バーサークコングが両腕を上げたからだ。しかし、さっきの【ガイアインパクト】のように大地のエネルギーが集中してはいなかった。

ゴオオオオオッ!

 バーサークコングは、吠えながら両腕の拳を地面に打ち付けた。

(チッ!)

 拳が地面に当たる直前の殺気を感じたタケルは後方へ飛んだ。さっきまで自分がいた場所からは何本もの石のとげが出てきた。

「これが【アースファング】か。避けなかったらヤバかったな」

 エリザと行った模擬戦に感謝した。技の殺気を感じていなければ、今頃は石の棘に串刺しになっていただろう。

(あいつの技はこれで全部か。【アースファング】については問題なさそうだな。おそらく、予め攻撃範囲を決めているはず。注意するのは【ガイアインパクト】の方だ。敏捷力を活かして狙ってくるだろう)

 技を避けられても、バーサークコングは気にしてはいなかった。それほど自分の強さに自信があるのだ。

(力の差はわかった。なら、無駄に魔力は使わねぇ)

 レベルの差は痛感したが、タケルの闘志は消えてはいなかった。自分も敏捷力にはそこそこ自信があるので、手数での戦い方に切り替えた。

「行くぞ、赤猿!」

 バーサークコングの背後に移動すると、タケルは背中に斬りかかった。当たる瞬間に闇をまとわせてから斬ったのだ。

(やっぱり大したダメージは与えられねぇか。だが、生き物なら血が体外に出ればいずれ動きは鈍くなるはず)

 背中の傷を見ても諦めることなく、タケルは移動して斬っていった。
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