闇属性転移者の冒険録

三日月新

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第1章 冒険者への道

第15話 バーサークコング

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 レンファンと行動して三日が経った。タケルは順調にレベルが上がり、今は19である。
 朝食を済ませた二人は、周囲を警戒しながら森を進んでいた。

「このペースなら、夕方にはジルバに着きそうね」

「早く着かないかな。もう、バッグが魔核まかくでパンパンだよ」

 タケルはずっしりと重みのあるバッグを叩いた。これだけあれば、街で色々なアイテムを買うことができるはずだ。

「換金の前にちゃんと登録を済ませなさいよ」

 前を歩いていたレンファンは、振り向かずに話していた。

「にしても、さっきから魔物が出てこないな」

 あっちこっちに視線を向けてタケルが言うと、急にレンファンが立ち止まった。

「わっと•••どうしたんだ?急に止まって」

 もう少しでぶつかりそうだったので、タケルは胸に手を当てて聞いた。しかし、レンファンは何も言ってこなかった。

「なあ、無視しないで何か」

 タケルが不思議そうな表情で話していると、突然レンファンは槍を構え始めた。その直後、耳を塞ぎたくなる鳴き声が聞こえてきた。

ゴオオオオオッ!

(何だ?今の鳴き声は。初めて聞いたぞ)

 背筋が凍るような鳴き声に、タケルだけではなくレンファンも体が震えていた。
 大地を揺らすほどの足音を立てながら、声の主はゆっくりとこちらへ近付いてきた。前方の木が倒れると、大きな魔物がその姿を現した。それは、赤い体毛をした巨大なゴリラの魔物だった。

「バーサークコング⁉︎どうしてこんな所に」

 魔物の名前を言ったレンファンの表情は強張っていた。

「こいつの生息エリアはブルーゾーンじゃないのか?」

 やや震える声でタケルはレンファンに聞いた。彼女は答える代わりにマジックコンパスを取り出した。

「やっぱりここはブルーゾーン。それなら、どうして」

 言葉を切ったレンファンは自分の目を疑った。マジックコンパスの中央にある石が青から黄色になったのだ。ところが、それもすぐに青に戻った。

「これって•••生息エリアが変わろうとしているの?」

 レンファンの話を聞いて、タケルはエリザから教わったことを思い出していた。『魔の巣窟』は、常に変化しているのだと。

(か、《鑑定かんてい》•••)


名前:バーサークコング
レベル:35
属性:土
体力:3650/3650
魔力:2590/2590
攻撃力:417
防御力:334
敏捷力:112
技:【ガイアインパクト】、【アースファング】
スキル:


(レベル35⁉︎今のレンファンよりも強いのかよ)

 道中レンファンもレベルは上がったが、それでも25だった。

「タケル•••落ち着いて聞きなさい」

 レンファンはバーサークコングを刺激しないように小さい声で話した。

「バーサークコングの生息エリアは、本来ならイエローゾーンの密林地帯なの。それがここまで来たってことは、生息エリアが変化しようとしているのよ。その証拠に、マジックコンパスがさっきから青と黄色が交互に変わっている」

「じゃあ、どうするんだ?レベルの差はあるけど、二人で戦って倒すとか」

「それは絶対に駄目よ」

 そう言ったレンファンはタケルを睨んだ。二人の方が勝率が上がるのに、なぜか彼女は協力を拒否した。

「まさか•••一人で戦う気かよ!」

「タケルはまだ冒険者ですらない。そこそこ戦えるからって、危険な目に遭わせる訳にはいかないわ」

 真剣な表情で言い終わったレンファンは、ある方向を指差した。

「このまま真っ直ぐ行けば森を抜けられるはずよ。だから、タケルはジルバに行って助けを呼んできて」

「そんなことできる訳ないだろ。レンファンを置いてなんて」

 タケルは戦う気なので、バッグを置いて刀のつかを握った。

「わからないの?アンタは足手まといだって言ってんのよ‼︎」

 言うことを聞かないタケルに、レンファンは大声で怒鳴った。あまりの声量に体が一瞬震えた。

「さっさと助けを呼んできなさい。それくらいならできるでしょ」

「•••わかった」

 タケルは柄から手を離すとバッグを拾った。そして、さっきレンファンが指を差していた方向に体を向けた。

(足手纏い•••それは俺が一番よく知っている)

 音が聞こえるくらい歯を食いしばると、タケルは全速力で走り出した。

「生きていたら、ちゃんと謝らないとね」

 タケルの足音が聞こえなくなってから、レンファンはそう呟いた。
 二人が話している間、バーサークコングは近付こうとはしなかった。警戒しているからではなく、力をずっと貯めているのだ。それが土属性のスキル《大地だいち加護かご》である。

「随分と余裕ね。レベルに似合わず臆病なのかしら?」

 軽く挑発してみたが、バーサークコングはピクリとも動かなかった。ただ、じっとレンファンを睨むだけだった。

(襲ってこないわね。本当に臆病なのか。それとも、何かスキルを使っているのか)

 バーサークコングが動かないので、レンファンはじっくりと観察していた。向こうから来ないのなら、こっちから仕掛けるまでだ。槍のを強く握ると、の部分から勢いよく炎が出た。

「そのまま動かないなら、こっちから行かせてもらうわよ。【紅蓮突ぐれんづき】!」

 レンファンは、十八番おはこの【紅蓮突き】で先手を取った。高熱の炎の槍が、バーサークコングに迫っていく。

(え?)

 レンファンは自分の目を疑った。【紅蓮突き】は確かにバーサークコングの胸に当たった。それなのに、なぜか体を貫けなかったのだ。

(何よこの硬さ。まるで、岩を木の棒で突いたみたい•••まさか⁉︎)

 あることを思い出したレンファンは、後方へ飛んで距離を取った。

(先輩冒険者から聞いたことがある。土属性の魔物がしばらく動かなかったら注意するようにと。警戒しているか、もしくは•••)

「くっ•••《大地の加護》か」

 悔しそうな表情で言うと、レンファンは歯を食いしばった。もっと早くスキルに気付いていれば、ある程度のダメージは与えられたはずなのだ。

(確か、《大地の加護》は能力値を上昇させるスキル。レベルの差がある私じゃあ、直接攻撃はもう無理でしょうね。だったら)

 レンファンは両腕を伸ばすと、槍を回し始めた。そして、今度は槍全体に炎を纏わせた。

「近距離技が駄目なら、遠距離技で焼き尽くすまでよ。【獄炎旋風ごくえんせんぷう】!」

 全てを焼き尽くすほどの炎の風が、バーサークコングを襲った。その体は、瞬く間に炎に包まれたのだった。

「どうかしら?刃が通らないなら、体を焼くまでよ」

 【獄炎旋風】は、魔力を消費した分威力が上がる技である。どんなに体が丈夫でも、焼かれたら一溜まりもない•••はずだった。

ゴオオオオオッ!

 バーサークコングは、何事もなかったかのように吠えると両腕の拳を地面に打ち付けた。

(しまった!)

 手を止めたレンファンは急いで後方へ飛んだ。すると、さっきまで彼女が立っていた場所から何本もの石のとげが出てきた。

(【アースファング】か)

 レンファンも《鑑定》でステータスを確認しているので、技には警戒していた。着地をすると、バーサークコングに視線を向けた。

「嘘でしょ」

 炎の風を受けたので、体からは煙が上がっていた。ところが、全く火傷の痕がなかったのだ。

「あれだけ私の技を受けたのに無傷ですって?」

 突き付けられた現実に、レンファンの体は再び震え出した。倒せなくても、ある程度のダメージは期待していたからだ。
 バーサークコングは、拳で胸を何度も叩くとレンファンを睨み付けた。次の瞬間には、手が届く位置まで移動していた。

「なっ⁉︎」

 突然のことだったが、何とかレンファンはバーサークコングから離れた。そして、移動した時にすでに握っていた拳を地面に打ち付けた。もう一つの技【ガイアインパクト】によって当たった所が大きくえぐられていた。

「これが【ガイアインパクト】。なんて威力なのよ。それに、敏捷力もかなり上がっている。こんなの反則じゃない」

 絶望的な戦力差に、レンファンの表情は曇っていた。
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