謎の感情

魔女の子キラエル

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謎の感情の訪れ

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遠い、遠い、放課後…
今は自習の時間。
私は二宮先生に教えてもらう予定の英語のプリントを解いていた。
分厚い灰色の雲が渦を巻きながら流れ、空に奇妙な円環模様を描いている。
私の沈んだ心のように。

キーンコーンカーンコーン…… 
授業が終わった。
好きだ。終わりを告げているようなこのチャイム。
私は、無言で静かに立ち上がる。

教室はいつものように騒がしい。
技術の時間で収穫した大根が、その騒がしさに悲鳴をあげているようだった。

もうすぐ、帰りの会が始まろうとしている。

ー30分後……。

行きたいな、2組。
見て欲しいな、プリント。
小さな願いは叶わぬまま私の足は2組ではなく2階へと進んでいった。
誘われたからー紗菜に。

紗菜は、私を見ると笑顔で手を振った。揺れる長い黒髪と大きな目が
「ー早く早く!」
と訴えているようだった。
 
紗菜と一緒に職員室前に行くと、そこには鈴木先生が立っていた。
私は慌てて笑顔をつくる。

・・・分からない。全く。
・・・自分の気持ちがわからない。
・・・まあいっか。気にしない。
      スピーチの練習出来るんだし。


私の気持ちが分かったのか、鈴木先生は何かを感じ取るように目を細めていた。

突然、「ねぇ!」と、楓の声が泡のように弾けて飛ぶ。
クリクリとした可愛らしい目と、
スピーチの練習に対する不満そうな口元が対照的だ。 どうやら楓も、紗菜に誘われたらしい。

「楓もうスピーチ終わったよ?」

「私はこれからだから。」

みんなと一緒にいて、確かに楽しいのだが、胸の奥に渦巻いている「何か」をあの時はっきりと私は感じた。ー大丈夫。

私は笑い、スピーチの練習をはじめた。内心の緊張が表情に出ないよう、
懸命の自制を続けながら。

ー二宮先生にいいとこ見せたいな
ースピーチ頑張ろ

そう思うと、胸の何かは薄くなってきていた。完全下校時刻15分前のチャイムが鳴り響く。好きじゃない。このチャイムは好きではない。
私は四組に忘れ物を取りに行った。



・・・ん??



ふと見ると、扉の間に出来た隙間から光が漏れている。




・・・二組?




行きたかった二組だ。
study timeだろうな。

突然、あの時に感じた胸に渦巻く何かを強く感じた。

倒れそう。

息ができない。






暗い……ここは暗い。
暗いんだ……






向こうは明るい。明るい……。
光…明るい……




誰かの声が聞こえる。
自分の胸の奥から聞こえてくる。


私は慌てて胸を抑えた。
止まらない…。





焼けつくような焦燥に衝き動かされ、
力の入らない足で光る床を歩きだす。


直後、揺れる長い髪と黒い眼鏡が視界に入った。愛海ちゃん…。やっぱり!!


二宮先生とstudy time。
二宮先生はいつものように歯を出して笑っていた。
よかった笑ってくれてて。
私は口角をゆっくり上げた。

その途端、あの「何か」がむくむくと上がってきた。
声も一段と大きく聞こえる。


世界が違う……ここは暗い……


向こうは明るい…入るな…明るい世界…


明るい……!!!!
入るな…!!


ここは暗い……!!!!!!



喉まできている。

ー大丈夫。と思った。
心を落ち着かせる。


でもあの時みたいにはいかない。

大丈夫じゃない。




二宮先生の笑った顔を見ていたいのに。


いつもは見てると幸せなのに…!!


私は何もなかったような顔をして階段をかけ降りた。
胸がぎゅっと締め付けられ、なんとも言えない感覚に陥っていた。


胸の奥で感情の悪魔が逃れられないんだよ……と牙をむき出して不敵な笑みを浮かべている。

胸の中の「何か」は薄れてきた。
声も聞こえなくなった。

なんだったのだろう……


二階には戻ってきた私はむりやり口角を上げた。その後薄笑ってみた。

やっぱりできない。
十分前には笑顔が作れたのに。

「帰ろう」と、また楓の声がした。
瞳が、帰りたいという強い欲望を訴えている。
よかった、笑う必要はない。
私達は無言で下駄箱に向かった。


と、その時、


「大根だー!」と声がした。


我知らず、口元を手で覆っていた。

ー二宮先生。
ー愛海ちゃんはいない。


突然の出来事に、私は声を失った。

ん、あ、、え、、
何も考えずに口が動いていた。

「二宮先生にならあげたいです!!」

優しく大きな瞳や、少し上がった口元をずっと見つめていたかった。

きゅっ、と二宮先生が目を細めて笑った。



ードキッとした。



先生からはいつも自然な気持ちいい匂いがした。


さっきまでの沈んだ心が真夏の青空のように晴れ渡っている。



うん、これでいい。


やっぱり、幸せ。

口を大きく開け、私は満面の笑みを浮かべた。


私も、二宮先生とstudyしたいな。
ーそう思った瞬間だった。

さっきまでの感情は、今はない。
胸の奥に潜んで、隠れているようだった。




「またなー」
二宮先生が言った。
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