真面目ちゃんの裏の顔

てんてこ米

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第六章 千灯夜に願いを乗せて

23 注目の的

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 待ちくたびれた男子たちがテラス席でお茶を飲みながらダラダラしていると、行方不明になっていた女子たちがようやく帰って来る。買い物に時間がかかっていた割に、彼女たちの荷物は紙袋一つと少なく、呉宇軒ウーユーシュェンは首を傾げた。

「二時間も経ってるのにそれだけ?」

 女の子の買い物は長いと重々承知しているが、さすがに時間がかかりすぎだ。待ちぼうけ男子の代表として苦情を漏らした彼に、仲間たちはよく言ったと同意の眼差しを向け、心の中でパチパチと拍手を送る。

「乙女には色々あるのよ!」

 鮑翠バオツェイは意味ありげに笑うと、着替えに戻ろうと言って訝しむ男子たちを追い立てた。
 何か誤魔化していそうな女子たちに急かされて来た道を戻り、それぞれ衣装を借りた店に散って行く。呉宇軒ウーユーシュェンは宿泊予定のホテルの大きな扉を潜ると、名残惜しい気持ちで振り返った。

「これで浩然ハオラン玄薄シュェンバオ仙人も見納めかぁ……」

 せっかくよく似合っているのに、これっきりとは残念だ。着替えさせるのが勿体無くてぐずぐずしていると、李浩然リーハオランはどこか拗ねた様子で呉宇軒ウーユーシュェンを睨んだ。

「そんなに気に入ったなら、来年の春節はこの衣装にすればいい」

 二人は毎年、一年の始まりに仮装して写真を撮ってSNSに上げている。彼の言葉に少々棘があるのは、呉宇軒ウーユーシュェンが毎回変な着ぐるみや全身タイツなどを無理矢理着せているせいだろう。
 写真が苦手な李浩然リーハオランはいつも真顔で写るので、変な格好をするとシュールな写真になる。それをネットに上げるとファンからは『イケメンの無駄遣い』と面白がってもらえるのだ。呉宇軒ウーユーシュェンは進んでヘンテコ衣装を選んでいたが、当然ながら幼馴染はいつも不服そうにしていた。

「それいいね! 今度の写真はお前の案を採用しよっか」

 思い返してみると、彼にはいつも抵抗されていた気がする。彼が自ら衣装を選ぶのは初めてのことで、呉宇軒ウーユーシュェンはぷっと吹き出した。よほど変な衣装が嫌だったらしい。
 祖父たちへの土産をフロントに預け、豪奢ごうしゃなフロアを抜けて貸し衣装の受付まで戻ってくる。妙に周りが騒がしいと思えば、看板の横の壁に見覚えのないポスターが飾ってあり、何やら人集りができていた。彼らは熱心にそれを眺め、携帯で写真を撮っている人までいる。

「あんなのあったっけ?」

 ザワザワしている人々の間から覗いて見ると、それは日中に二人で小説の表紙を再現した写真が引き伸ばされたものだった。写真を撮ってからほんの数時間しか経っていないのに、観光ポスターとして申し分のない仕上がりになっている。
 これは大変なことになったぞ、と呉宇軒ウーユーシュェンもさすがに危機感を抱く。こんな風に大々的に宣伝されては、ここでショーをやっている人に間違われかねない。
 李浩然リーハオランを連れてこっそり逃げようとしたものの、見物人たちはポスターの二人にすぐに気が付き、次々に握手と記念撮影を求めて押し寄せてきた。
 原作ファンの熱量は半端なく、騒ぎに気付いてやって来た係の人が慌てて間に入ったものの、熱狂する彼らは止まりそうもない。ここで揉めても状況は悪化するだけだと判断し、呉宇軒ウーユーシュェンは片手を振って見物人たちを呼んだ。

「はいはい、押さないで! 撮影はこっちでお願いします」

 集まっているのは五、六組なので、急げばそこまで時間はかからないだろう。他の人たちが騒ぎを聞きつけて集まってくる前に終わらせようと、係の人に断りを入れて撮影スタジオに連れて行った。



 撮影は三十分ほどで終わり、二人はやっと元の服に着替えることができた。見慣れた格好に戻った幼馴染を見て、呉宇軒ウーユーシュェンはやっと日常に戻って来たような気がする。清廉とした白衣の仙人らしい服を着た彼も格好良かったが、やはりいつもの李浩然リーハオランが一番だ。
 待ち合わせ場所へ行こうと部屋を出た途端、日中に写真を撮ってくれた女性スタッフが飛んでくる。彼女は大慌てで二人の前へやって来ると、深く頭を下げて心底申し訳なさそうな声で謝罪の言葉を口にした。

「申し訳ありませんでした! こんなに大事になってしまって……」

「いえいえ、いつものことなので大丈夫ですよ」

 彼女が何度も頭を下げるので、呉宇軒ウーユーシュェンは気の毒に思って慰めの言葉をかけた。今日は話題のドラマの影響で人が集まってきたが、彼は普段から仮装するまでもなく人気者なので、こういったことには慣れている。急ぎの予定があるので、と切り上げて、二人は待ち合わせ場所へ向かった。
 辺りはすっかり暗くなってしまい、イベントを見るために出払っているのか人通りもまばらだ。丸いランタンの暖かな明かりが道を照らす中を足早に進んで行くと、着替えを終えた仲間たちはすでに全員が集まっていた。

「やっと来た! 何してたの?」

 自分たちのことを棚に上げ、鮑翠バオツェイが待ちくたびれた顔をして文句を言う。

「早くしないと、灯籠流し始まっちゃうわよ?」

「悪いね。俺たちがイケメンすぎて、ちょっと人が殺到しちゃってさ」

 合流して運河の方へ歩きながら遅刻の理由を説明すると、事情を知った呂子星リューズーシンはげんなりした表情で言った。

「あの衣装やべぇな。着るだけで人に囲まれんじゃねぇか」

 今日一日で幼馴染コンビは何度も観光客から声をかけられていたので、歩く人間収集機だな、などと変なあだ名までつけられる。衣装のせいだけじゃないぞ、と呉宇軒ウーユーシュェンは胸を張って彼に反論した。

「俺はいつだって注目の的だろ?」

 大学でも外出先でも、『軒軒シュェンシュェンあるところに人集りあり』だ。
 自慢げな彼に呂子星リューズーシンしかめっ面を返し、くたばれ!と殴りかかってきた。呉宇軒ウーユーシュェンはすかさず幼馴染を盾にして、いつものように助けを求めて声を上げる。

然然ランラン、俺を守って!」

「おい、ずるいぞてめぇ!」

 何かあるとすぐ幼馴染に守ってもらおうとする彼に、呂子星リューズーシンはカンカンになって襲いかかった。二人はしばらくの間、我関せずの顔をした李浩然リーハオランを間に挟んで追いかけっこを続けていたが、ふと先を行くイーサンが助けを求める声を上げた。

呂子星リューズーシン、予約している店はこっちの道で合っているのか? お前の案内が無いと僕たち迷子になるぞ」

「ナビ使え、ナビ!」

 そう返しつつも、面倒見のいい彼は放っておけないのか、すぐにイーサンの元へ駆けて行く。運良く呂子星リューズーシンの手から逃れた呉宇軒ウーユーシュェンは、やれやれとため息を吐いて幼馴染の肩に手を置いた。

子星ズーシンのやつ、みんなの父ちゃんみたいになってるな」

 しっかり者の彼は何かと頼られがちで、最近ではイーサンにまで当てにされている。早速ナビを片手に道案内を始めた呂子星リューズーシンを見て、李浩然リーハオランはふっと笑みを浮かべた。

「君も少しは見習ってはどうだ?」

「俺だって道案内くらいできるけど? 今は子星ズーシンに花を持たせてやってるんだよ!」

 ムキになって言い返すと、彼はまた笑ってからかうような視線を向けてくる。幼馴染におちょくられた呉宇軒ウーユーシュェンは、ムッとして彼の尻を引っ叩き、すぐに倍返しされた。



 予約していた店は、灯籠流しのスタート地点よりも先にある運河沿いの大きな飲食店で、彼らが辿り着く頃には店内はすでに人で溢れていた。先陣を切った呂子星リューズーシンが予約していたことを伝えると、店員が二階のテラス席へ案内してくれる。階段を上がって席へ通され、一同は運河を見下ろせる特等席に腰を下ろした。
 今回は五人ずつで分かれて座り、呉宇軒ウーユーシュェンの両側には李浩然リーハオランとイーサンが腰掛ける。運河がよく見える外側の席をイーサンに譲ってやったため、彼は先ほどから流れてくる灯籠を待ちきれなくて身を乗り出していた。

「危ないからちゃんと座ってろよ。落ちても知らないからな?」

 景色がよく見えるように手すりが低めなので、呉宇軒ウーユーシュェンは彼が落ちてしまわないかヒヤヒヤしてずっと服の裾を掴んでやっていた。すると、向かいに座る鮑翠バオツェイ王茗ワンミンカップルが、二人を見て親子みたいだと茶化してくる。
 何から何まで彼女のお世話になっている王茗ワンミンにまでそう言われ、二人は「お前らには言われたくない!」と声を揃えた。
 川の流れがゆっくりなのか、待っていると灯籠よりも先に料理の方が運ばれてくる。肌寒い屋外での食事なので、今日の夕飯は体が温まる羊肉のしゃぶしゃぶだ。
 鍋に入ったスープはすでに湯気が立ち、帆立を出汁に使っているのか、美味しそうな香りが鼻腔をくすぐる。呉宇軒ウーユーシュェンは子どもみたいに身を乗り出すイーサンを引っ張って席に戻すと、彼の前に小皿をとんと置いた。

「ほら、先に食っちまうぞ。待ってりゃそのうち来るから」

 そして李浩然リーハオランの方を向き、俺だってやればできるだろ?と得意げな視線を送る。すると彼はそんな幼馴染を微笑ましく見返して、何も言わずに盛り付けられた肉の皿を渡した。

「その肉ってなんの肉だ?」

 隣から覗き込んできたイーサンが興味津々に聞いてくる。呉宇軒ウーユーシュェンはスパイスの浮いた鍋の中に肉を入れながら、彼に一から説明してやった。

「羊だよ。スープに潜らせて、火が通ったらこのタレにつけて食べる。タレは自分で好みの味を作って、野菜は後から」

 彼が修行している北京料理の店でも同じメニューがあるので、入れる順番などはよく知っていた。王茗ワンミンたちも食べるのは初めてらしく、呉宇軒ウーユーシュェンが主導になって肉やタレを準備する。
 アメリカ育ちのイーサンは説明を熱心に聞きながら首を傾げた。

「なんで野菜は後なんだ?」

「肉の油で旨みが増してからの方が美味しいからかな。ほら、お前の分。物足りないと思ったら自分で足せよ」

 友人たちの好みを大体把握している呉宇軒ウーユーシュェンは、彼に続いて他のメンバーのタレ作りに取りかかった。
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