真面目ちゃんの裏の顔

てんてこ米

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早すぎる再会

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 人形を真ん中にしてスリーショットを撮ると、女王様が美男二人を従えているような写真が撮れる。写真の出来をじっくり吟味した後、呉宇軒ウーユーシュェンは期待の眼差しで李浩然リーハオランに携帯をそっと差し出した。

「SNSに上げるから入れて!」

 画像を上げるためでは断れず、李浩然リーハオランは渋々携帯を受け取った。
 どさくさに紛れてパスワードを覗こうとしたが、彼は携帯を呉宇軒ウーユーシュェンの真後ろで操作して入力画面を隠してしまう。帰ってきた携帯はすでにログインされた後で、写真といつも一緒のタグと共に李浩然リーハオランの堅苦しい文体の紹介コメントまで書き込まれていた。
 呉宇軒ウーユーシュェンがその下に自分のコメントを添えて投稿すると、李浩然リーハオランの書いた丁寧な文章を見たファンやアンチから『また幼馴染にアカウント乗っ取られてる』と書き込みが来る。もう取り返したよ!と返信しようとした呉宇軒ウーユーシュェンの手から携帯が一瞬で消えた。
 振り返ると、携帯はまたもや幼馴染の手の中に収まっていた。

「そのままで良いじゃん!」

「駄目だ」

 取り返そうと手を伸ばすも李浩然リーハオランは届かない場所まで腕を伸ばし、断固拒否の姿勢を崩さない。
 健闘虚しく指一本でログアウトされ、呉宇軒ウーユーシュェンは帰ってきた携帯を手にムッとした顔で非情な幼馴染を睨んだ。無言の訴えにもびくともせず、李浩然リーハオランとがめるような視線を返す。

「あ、あのっ……衣装はどうしますか?」

 バチバチと火花を散らす二人の間に、謝桑陽シエサンヤンが恐る恐る割って入ってくる。赤がいい!と答えたのは何故か王茗ワンミンだった。

「婚礼衣装じゃねぇか」

 雑誌から顔を上げた呂子星リューズーシンが突っ込む。批判の声に王茗ワンミンはいじけた顔をして口を尖らせた。

「だって赤かっこいいじゃん!」

「婚礼衣装でも良いんじゃね? いっそのこと『未来のお嫁さん募集中』ってタグでも付けるか?」

 呉宇軒ウーユーシュェンのふざけた提案に李浩然リーハオランは心底嫌そうな顔をしたが、謝桑陽シエサンヤンに改めて聞かれると赤で、と返した。
 衣装の詳細は製作者のセンスに任せ、見積もりを取ってもらう。いそいそと自分の机に戻った謝桑陽シエサンヤンが紙にあれこれ書き込んでいるのを尻目に、王茗ワンミンが急に立ち上がった。

「時間ありそうなら、二人に簡易インタビューお願いしても良い?」

「良いぜ。お前もまだ時間あるよな?」

「うん。叔父には遅くなると伝えてあるから、まだ帰らなくても大丈夫」

 李浩然リーハオランはちらりと時計を見て頷く。時刻はもう夕方に差し掛かっているが、夏なので太陽の位置はまだ高い。
 優秀な記者になり切った王茗ワンミンが真面目腐った顔つきでボイスレコーダーを取り出した。録音しやすいようにテーブルの上に置き、二人にそれぞれスケッチブックとペンを手渡す。

「おっ、本格的だな。プロっぽいじゃん」

 ボイスレコーダーは後で書き起こすためだ。妙に手際のいい王茗ワンミンを見て、呉宇軒ウーユーシュェンは前に受けた雑誌のインタビューを思い出した。あの時もこんな感じでレコーダーに記録されていた。
 褒められて得意げになった王茗ワンミンに椅子を譲られ、呉宇軒ウーユーシュェンは幼馴染の横に座った。お互いに見えないようにしながら質問の答えを書き、王茗ワンミンがせーの、と言ったら出すように指示される。

「それじゃあ第一問、結婚するならどんな子がいい?」

 王茗ワンミンの言葉に、呉宇軒ウーユーシュェン呂子星リューズーシンは驚いて顔を見合わせた。
 質問に見せかけてさり気なく李浩然リーハオランの好みのタイプを聞いている。王茗ワンミンはできる男だ。
  幼馴染が紙にペンを走らせているのを横目で見て、呉宇軒ウーユーシュェンは歓喜に打ち震えた。長年の謎がようやく解明される。
 せーの、の掛け声でスケッチブックを表に向けると、向かいに居る呂子星リューズーシン王茗ワンミンがおお!と意外そうな声を上げた。呉宇軒ウーユーシュェンは我慢できず、身を乗り出して幼馴染の回答を見た。

「明るくて……料理上手な子?」

 李浩然リーハオランの母は絶望的に料理が下手なので、この条件は案外理に適っている。ただ、明るい子はまだしも『料理上手』の基準が自分だと相手選びは難航しそうだな、と呉宇軒ウーユーシュェンは頭を悩ませた。食べないことには分からないので、どうやって彼女候補に手料理を振る舞ってもらうかも考えなければならない。
 いっそのこと良さそうな子に料理指導した方が手っ取り早いかもしれないと思考を巡らせていると、王茗ワンミン呉宇軒ウーユーシュェンの書いた文字を読み上げた。

軒軒シュェンシュェンは『自分の料理を美味しいって食べてくれる一途な子』か。二人とも料理絡みなんだな」

 さすが幼馴染、と感心する。食べる側と作る側の違いこそあれ、二人とも食に関するこだわりは結構強めだ。

「じゃあ二問目、相手のことをどう思ってる?」

 すぐに結論を出せそうにもないので相手探しの方法は一旦後回しにして、呉宇軒ウーユーシュェンは二問目の質問の答えを紙に書いた。二人が回答を表にすると、今度は答えが被っていた。

「二人とも『大切な家族』かぁ。なんか良いね」

 呉宇軒ウーユーシュェン李浩然リーハオランも答えが被ったことには別段驚きはしなかった。生まれた時からずっと一緒に居るのだから当然だ。

「それにしても、お二人とも字が綺麗ですね」

 見積書を書き終えた謝桑陽シエサンヤンが戻ってきて、二人の文字を見比べて言う。彼はルームメイト初顔合わせの時に逃げ回っていたせいで、幼馴染二人がどれくらい一緒に過ごしていたか知らない。呉宇軒ウーユーシュェンは何も知らない彼のために改めて李浩然リーハオランとの関係について説明した。

「ちっちゃい然然ランランが俺にべったりだったから、習い事とかもずっと一緒だったんだよ」

 幼い李浩然リーハオランが毎回一緒じゃないと嫌だと駄々を捏ねるので、呉宇軒ウーユーシュェンはいつも並んで習い事を受けさせてもらっていた。学校の成績が良いのも、リー家の英才教育を一緒に受けていたお陰だ。
 謝桑陽シエサンヤンは幼い頃の李浩然リーハオランが片時も幼馴染を離さなかったと知って大層驚いた。

「凄く仲良しで良いですね! そんな小さな頃から一緒だったなんて」

 微笑ましげな顔をした謝桑陽シエサンヤンに、呉宇軒ウーユーシュェンはニヤリと笑って返す。

「こいつ昔はめちゃくちゃ可愛かったんだぜ」

「……昔は?」

 異議がありそうな顔をした幼馴染に呉宇軒ウーユーシュェンは堪らず吹き出した。ムッとする李浩然リーハオランを肘で小突き、冗談めかしてウインクして見せる。

「そんな顔すんなって。今でも可愛いよ」

 納得がいかないのか眉間にできた小さなシワを見て呉宇軒ウーユーシュェンはますます面白くなり、何拗ねてるんだ?とからかった。
 おもちゃにされて拗ねるのは小さな頃から変わっていない。幼馴染のそういう所は今でも凄く可愛いと思う。
 李浩然リーハオランはニヤニヤとからかってくる幼馴染を憮然ぶぜんとした態度で無視すると、王茗ワンミンに次の質問は?と尋ねた。
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