真面目ちゃんの裏の顔

てんてこ米

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早すぎる再会

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 真上に昇った太陽にじりじりと焼かれながら、三人は再び自転車置き場へやって来た。昼時ということもあり、食堂のある西館の駐輪場には学生たちが乗り捨てたレンタル自転車で溢れている。
 暑さに弱い王茗ワンミンはドライアイス入りの保冷バッグを抱きしめてちゃっかり涼んでいた。
 来た時と同じように彼を自転車の後ろに乗せると、呉宇軒ウーユーシュェンは先導して寮のある方へ漕ぎ出した。呉宇軒ウーユーシュェンの地元は湿気が強いのでこの程度の暑さには慣れているが、時折吹く風は生温く体にまとわりついてきて少し不快だ。
 自転車を見つけられず怠そうに歩いていく学生たちの横を通り過ぎると、先程中を通った立派な図書館が見えてきた。正面にある駐輪場はすっかりもぬけの殻で一台も残っていない。呉宇軒ウーユーシュェンたちが自転車を停めると、それもすぐに他の学生たちが乗って行ってしまった。

「さすがに勉強組も出払ったか?」

 何ともなしに呟いた呉宇軒ウーユーシュェンの言葉に、呂子星リューズーシンが淡々と返す。

「隣にコンビニあるだろ? あれ図書館で勉強する学生のために建てられたってよ」

 清香せいこう大学に通っている先輩と仲が良かった呂子星リューズーシンは、既に色々なことを知っている。恐ろしい事実を教えられた呉宇軒ウーユーシュェンは顔を引き攣らせた。

「マジかよやば……」

 学校の敷地は広すぎるので、移動するだけで結構な時間が取られることもしばしばだ。あのコンビニは、食堂に行く時間さえ惜しい学生のためにわざわざ隣に建てられたのだという。
 名門大学の生徒としては素晴らしい姿勢だが、呉宇軒ウーユーシュェンは何もそこまですることはないだろうとうんざりした気持ちになる。真面目な李浩然リーハオランならまだしも、自分が同じようにしている姿は全く想像できない。
 ちょうど目の前をコンビニ袋を引っ提げた学生たちが通りかかり、そのまま図書館へ吸い込まれていった。勤勉な学生に恐れをなした王茗ワンミンが保冷バッグをぎゅっと抱き締める。

王茗ワンミンもドン引きしてることだし、さっさと抜けるか。小玲シャオリンはまだ居るかな?」

 山のような参考書に埋もれていた王清玲ワンチンリンの姿を思い出し、呉宇軒ウーユーシュェンの唇は自然と弧を描く。よからぬ気配を感じた呂子星リューズーシンが悪巧みする背中を強めにどついた。

「そっとしといてやれ! 寄り道は禁止だからな」

 呂子星リューズーシンの厳しい監視の目に晒されながら図書館の中へ入ると、少し前まで勉強していた学生たちの姿はほとんど無かった。昼前の賑やかさが嘘のようで、静まり返った中にページを捲る音だけが響く。
 なんとなく話すのははばかられ、三人は口を閉ざしてその中を通り抜けた。
 情報通な呂子星リューズーシンの話によれば食事スペースは図書館の東側に設けられていて、飲み食いをしたい時は皆そこへ向かうらしい。残念ながら王清玲ワンチンリンの姿もすでに見当たらなかった。

 図書館ではまだまばらに見かけた学生の姿は、寮に着く頃にはめっきり鳴りを潜めていた。
 人が出払った寮の中はしんと静まり返っている。階段を二つ上がって廊下を通り抜けると、自分たちの部屋はすぐそこだ。音を立てないよう慎重に扉を開け、呉宇軒ウーユーシュェンは息を潜めてそっと中を覗き込んだ。
 呂子星リューズーシンの読み通り、四人目のルームメイトが所在なさげに座っている。
 部屋で食事を済ませたのか、長テーブルの上にはゴミが入ったビニール袋が置いてあった。緊張した面持ちで飲みかけのペットボトルを見つめているその姿は、新生活を迎える学生らしく初々しい。
 ちょっと脅かしてやろうと企んでいた呉宇軒ウーユーシュェンを横に追いやり、呂子星リューズーシンが扉を大きく開ける。急な音に驚いて青年の持っていたペットボトルがあらぬ方向に飛んで行った。

「ただいまぁー」

 まるで我が家に帰ってきたと言わんばかりの態度で、王茗ワンミンがいの一番に中へ入っていった。なんとも呑気な声に続いて呉宇軒ウーユーシュェンも部屋に踏み入れ、逃げ場を失って呆然とする青年に向かってにっこり微笑んだ。

「さっきはごめんな。俺は呉宇軒ウーユーシュェン! これからよろしく」

「俺は王茗ワンミン!」

 挨拶をした途端、何故か王茗ワンミンが真ん前に飛び出してきた。おどおどした顔が癖っ毛に隠れて一瞬で見えなくなる。

「被ってくるんじゃねぇ!」

 邪魔な頭を引っ叩くと、王茗ワンミンは兄ちゃんがぶった!と泣き真似をして逃げていく。二人の様子を呆れた顔で見ていた呂子星リューズーシンは、落ちていたペットボトルを拾い上げると緊張で声も出ない青年の前にそっと置いた。

呂子星リューズーシンだ。この馬鹿どもに何かされたら遠慮なく言えよ。俺が代わりにしばいてやるから」

 聞き捨てならない言葉に呉宇軒ウーユーシュェンはすかさず抗議の声を上げる。

「俺は馬鹿じゃねぇぞ!」

 高考ガオカオで満点を取ったのだから当然だろうと胸を張ると、呂子星リューズーシンは少し考えてからきっぱりと言い切った。

「じゃ、馬鹿と阿呆だな」

「俺どっち?」

 ウキウキで氷粉ビンフェンをテーブルに並べていた王茗ワンミンが尋ねる。マイペースを突き進むその姿に心が暖かくなり、呉宇軒ウーユーシュェンはふわふわの頭をぽんぽんと優しく叩いた。

「お前は馬鹿で阿呆だな」

 王茗ワンミンののほほんとした笑顔を見ていると、近所で飼われていた人懐っこいトイプードルを思い出す。思えばモジャモジャの頭もよく似ている。
 キャスター付きの椅子を滑らせて四人目のルームメイトにぴったり横付けすると、呉宇軒ウーユーシュェンは気を取り直して尋ねた。

「それで、おにーさんはなんて名前? 一緒にデザート食べない?」

 長い前髪で目元が少し隠れているが、顔を覗き込むとぱっちりした二重で思いの外可愛らしい顔立ちをしていることが分かる。王茗ワンミンとはまた違った感じで女子の母性本能をくすぐるいい顔だ。話しかけられただけでしどろもどろになるのも、初手で質問責めにしてきた王茗ワンミンやふてぶてしい呂子星リューズーシンと違って微笑ましい。
 にこにこしながら眺めていると、風紀委員と化した呂子星リューズーシンに頭を叩かれた。

「ナンパじゃねぇんだからやめろ!」

 誰かに絡む度に李浩然リーハオランにもよく止められていたが、すぐに手を出してくるあたり呂子星リューズーシンの方が質が悪い。暴力的な躾に抗議しようとするも椅子を強制的に引き離され、呉宇軒ウーユーシュェンは渋々引き下がった。
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