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2章 違いを知りました

4.

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「宝石と組み合わせてみるとかは、どうですか?」
「そういうのも文献にあったよ。例えば、魔晶石と一緒にダイヤモンドを用いると十倍の魔力を保持できる、とかね」
「凄いですね」
「でも、まずダイヤが希少だしね。俺はもっと手軽に、汎用できる安い宝石で、効果を狙いたいんだよ」
 確かにそうだ。高ければ結局庶民の手に届かない。一部の金持ちにだけ恩恵があっても、それでは“ない”のと同じ。
「グレーの民を救うべく、頑張るよ。ハルトライアくんは瞳が俺とお揃いだからわかってくれて嬉しい」
 僕の瞳は幻影魔法なんだけど、とは言えなかった。でも。
「応援しています。カイナドくんならきっと出来ます。僕に手伝えることがあれば何でも言ってくださいね」
 にっこり笑えば、褒められたせいか頬が色付いた。二十歳なのに可愛いなぁ、とちょっと和んだ。

「あー! いたいた! トラくん探したよぉ~っ」
 バンっ、と扉を開ける音と同時に、賑やかな声。ファリア先生だ。
「おや? イナくんもいるじゃないか」
「副所長、相変わらずお元気ですね」
「好きなことしてるからね、元気いっぱいだよっ」
 うふふと笑って手にはなにやら木箱を持っている。
「じゃぁ、俺は部屋に戻るね、またね、ハルトライアくん」
「はい、カイナドくん、ごきげんよう」
 ペコと頭を下げて彼を見送った。

「先生。どうされましたか?」
「へへへ、いいもの作ったからトラ君にあげようと思って!」
 もう既に先生にはムチも扇子ももらっているというのに、これ以上なにを?
「えっと……ここで、拝見しても?」
「ウンウン! 開けてーっ、つけてーっ」
 開けばイヤーカフが二つ。シンプルな造りだがエメラルドが埋め込まれていてすごくきれい。まるで、カシルとファリア先生の瞳みたいだ。
「わぁ、……これは?」
「へへへ、コレはね、私のコレの代わりでもある! そしてっ」
 バッと箱から掴み取り、それを素早く僕の耳につける。ヒヤリ冷たい感触。
 その瞬間、視界が変化した。
「……え?」
 僕の眼の前に、見えたもの。それは先生では無かった。僕と同じくらいの身長の、木製人形マリオネット。メイド服を着ている。
「な……」

「ほら、あの時、浄化祭の朝、神殿地下で鼠に魔法かけて、トラ君に呼びかけたの覚えてる? あれと同じさ。今回はこのマリオネットに魔法をかけて操作しているんだ。幻覚魔法もかけたから私に見えてた。そしてそのイヤーカフは、私のモノクルと同じさ」
 のっぺらのマリオネットはモノクルがさもあるかのような仕草をする。
「イヤーカフに細かく陣を刻んでいるんだ。ついでに瞳の色を灰色に見える幻覚魔法も組んでいるよ。イヤーカフに挟まれた空間、直径三十センチ、球状に効果ある。それ以上は無理だけど顔さえ守れればいいだろうから」
「ファリア先生、ほんと凄いですっ」
 ユアの偽装術は弱い。すぐに切れてしまう。僕は都度、目薬を差してごまかしているがそれが出来ない時だって大いにある。常時発動する魔法があるのは本当にありがたい。この紫の瞳は他人に恐怖しか与えないから。

「ありがとうございます。何とお礼を言っていいのか」
「いやぁ、すごい楽しいから。ほんと、何でも言ってくれよ、トラ君。私はね、やっぱり魔法を、特に魔法陣を刻むのが好きなのさ。それぞれの魔法の違いを知って、効果のあるように組み合わせていくってのがね、楽しくて仕方なくてねぇ。魔法はいいよぉ。全てを解き放つ、そして自由になれるんだ」
 顔のないマリオネットだが、声で分かる。彼女はニコニコと笑っているのだろう。
 この世界は、魔法の世界。
 僕も、それを忘れてはならないんだ。

―ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 そのとき。地震のような揺れが来た。
 思わず辺りを見渡す。しかし、窓の外は特段変化がない。
「すごい、揺れでしたね」
「ああ、ジャイくんだろうね。屋上の実験室は、魔法の影響を防ぐのは得意でも、物理攻撃はちょっと苦手なんだ。彼女、ものすごい怪力だから、どうしても振動が来ちゃう。もう少し防げるように、あのシールドも変えないとねぇ」

 ジャイくん、とは、ファーレンハイトからの留学生。豹の獣人、ジャイラ=ケゥレルのことだ。まだお会いしたことは無いが、猫の獣人であるユアよりもっとすごい力を持っているのだろう。
「また後々、紹介するよ。じゃ、ルゥによろしくねっ」
 先生の姿をしたマリオネットが元気よく手を振り、図書室から出て行く。
「ありがとうございました」
 深く頭を下げ、見送った。

 さて、今日はまだ始まったばかりと言うのに、とんでもないことが分かってしまった。僕の前世の知識は、あって無いのと同じ、ということだ。特に科学的知識は、今後口にするのも危険。
 歴史を学ぶだけではだめだ。この世界の成り立ちを、魔法的視点から理解し、そして科学との相違点を知る必要がある。でなければ、僕の使う言葉にこの世界の形を歪めてしまうものがきっとある。僕の前世は科学の世界だったのだから。
 この世界が、前世のインドの世界観、蛇の上に亀、亀の上に象がいて、人の住む半球を支える世界であったとしてもそれは真実なのだ。
 ゼロエンで魔王として死ぬ運命を変えたいと思っているからこそ、世界を、正しく知らねばならない。

 僕は、この世界の異物。
 それでも、生きたい。
 諦めてはだめだ。
 即、運命に飲み込まれてしまうのだから。

 顔を上げた僕は魔法の古文書を並べた棚に向けて、車イスをゆっくりと進め始めた。
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感想 6

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みんなの感想(6件)

masua
2024.12.02 masua

待ってました!
2人の今後 楽しみです🎶

ちくわぱん
2024.12.04 ちくわぱん

ありがとうございます! 更新少しゆっくり目になりそうですが、お付き合いいただけると嬉しいです〜!

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沫
2024.11.02

第2部が待ち遠しいです。

ちくわぱん
2024.11.07 ちくわぱん

ありがとうございます!がんばります!

解除
masua
2024.10.13 masua

とても面白かった! 早く続きが読みたいです♪

ちくわぱん
2024.10.14 ちくわぱん

ありがとうございます!!!嬉しい〜!!続き頑張ります!

解除

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