【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん

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第1部最終章 僕の執事はイケすぎています

3.

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「俺は約束を、守る男だからよぉ」

 辺境伯の持つ大きな両手剣なら、僕をあっさりきれいに切ってくれるはず。

 嬉しい
 カシルの顔を見ながら死ねる
 辺境伯ありがとう

「覚悟しろよぉぉぉ!!」

 ―ザアン!

 辺境伯の剣が振り下ろされた。
 ブバァと吹き出した血であたりが染まる。

 僕の顔にも、いっぱい血がかかる。

 でもその血は、僕のじゃなかった。

「ぐ、っうっ」
 
 かすかにうめいたのはカシル。

 な、ん、で、っ!

 さっきまで僕の胸を刺そうとしてたカシルの右腕。
 上腕の途中から下が、剣を持ったままゴロンと地に落ちていく。

 限界まで見開いた僕の目の際がまた切れてダラと血が流れていった。


 どうしてどうしてどうして!!


「あ、あ……ぁぁあああああ!」

 悲鳴と一緒に【僕】がまた外に飛び出した。


 ー嫌だ嫌だカシルが死ぬのは嫌だ死ぬのは僕だお前は生きて僕が死ぬから幸せになって死ぬから僕が死んでも生きていて僕がいなくてもお前はお前だけはー

 どおんどおんと跳ねてうねって広場をバキバキにしていく【僕】。


 でもカシルは残った左腕で僕をきつく抱きしめた。
 僕の頭から兜をとり地面にガランと投げ捨てる。

「私の腕はどんな時でもあなたを守るためだけにあるのです」
 
 だから泣かないで下さいと呟いたカシル。
 そんなの無理だ。

「い、あ、あ! ああ! ああ! あ!あ!あ!ああああ!」

 狂ったように悲鳴を上げ続ける僕。

 でも僕の口がお前のそれですっぽりと覆われてしまった。

「ああ!あ!ーっんんうっ!」

 舌がずるり、中に入ってくる。

「ん、んううんんっ」
 顔をよじれば一瞬唇が離れた。
「あなたをっ」
 はぁと息を吸った瞬間にまたふさがれる。
 閉じられないように左手で顎をつかまれた。

 頬を指で押されて口が閉じられない。舌が縦横無尽に僕の口咥をなぶっていく。
 口の中があったかい。

「ふっ、んんっふ」
 息が続かなくなりそうになったとき一瞬唇が離れた。

「かならず、お守りいたします」

 僕は返事もできず荒く息継ぎをした。すぐまた呼吸が止められてしまう。

 ああ、カシルが僕を食べているみたい。

「んっ、ふんんううっ」

 舌が歯列をなぞり、上あごの裏まで丁寧に舐めていく。
 やっぱり、口があったかい。
 
 つながった口からカシルの温かな魔力が流れてくる。
 そのことにようやく気付いた。

 体中が、カシルの魔力で満たされていく。
 いつもよりカシルの魔力が多い気がする。
 すごく、すごくあったかい。

 気持ちいい。
 【僕】の苦しさがどんどん消えていく。

 カシルの浄化魔法。
 大好き。
 大好き。

 カシル。
 大好き。
 大好き。

 カランと音をたてて僕の首から何かが外れた。
 体がもっと軽くなって楽になった。

「カっシ、ル、っ」

 なんとか名前を呼んだらチュ、と音をたてて唇が離れた。
「はい、ハルトライア様」
 目の前の騎士がボロと涙をこぼして、またキスをする。
 ふわあああと大好きな魔力がまた僕の体を満たす。

 あったかい
 やさしい
 すき
 すき
 すき

 すき

 でも、ちょっとキスがしょっぱいよ、カシル。

 ……ん? カシル?

 次の瞬間僕の目は大きく見開いた。

 キスをするカシルの顔、近すぎてよくわからないくらい近すぎるけどわかる。

「んんっ、んんんんん!!」

 顔を横に振ろうとしてびくともしない。
 ずるりと舌を吸いとられてじゅじゅとすり合わされる。

 カシルの厚い舌の感触にくらくらする、すごく気持ちいい……っ

 唇の隙間からも零れ落ちていく程のたくさんの魔力が
 あったかくて、幸せそのもので
 僕の全部がカシルの魔力に癒されていく


「は、っ、……っんっ」

 息が続きそうになくなって僕の顔が真っ赤になったとき、ようやくチュと音をたて離れた唇。

「はふっ、! っ誰!? カシルなの?!」

 息を吸い込みつつ叫んだ。

「そうでございます、ハルトライア様」

 そうしてまた口を近づけてくる男の顔から全身でのけぞって逃げた。

「なんで! 若いの!?」
「腕を切りましたので」

 顔だけじゃなく声まで透明感があって若い。絶対20代!

 おでこのシワもほうれい線もない。
 なんなら顎もシュッと細くて、肌がぷりっぷりで。
 年を取ってたれ目になっているはずの目じりにまで張りがある。
 三重気味だった瞼はくっきり深い二重。
 でもきれいな緑の瞳は変わらず銀色の長いまつ毛に彩られて、どこまでもセクシーで。
 
 ものすごいイケメンだ。
 もう完全に殿下を超えている、僕には、だけど。

 ていうか、答えが全然

「意味っ、わかんないよぉっ」

 ぶわわと涙が出てきた。せっかくカシルの浄化魔法で引っ込んだと思った【つる】がぞぞぞおと出てくる。
 そしてお前の腕やっぱり切り落とされたんだと再確認したとたん、もう止められなかった。

 そして「うわあああああ」と泣き始めた僕を、カシルらしき猛烈美青年が抱きしめてくれる。
 ああ、この感じ、この匂い、やっぱりカシルだ。

 う、う、と喉がヒクつくたびに僕の【つる】がうねうね蠢く。
 でもその【つる】は【僕】みたいに太くもなければ実体化もしていなかった。

【僕】はどこに行ったの?

「お許しください、若い私でも、お傍にいたいです……っダメ、でございますか……?」

 僕を抱きしめるイケメンに切々と懇願される。

 その間に僕の背後の石壁ががらんがらんと崩れていった。
 辺境伯が叩き壊して僕の腕と足を解放してくれたのだ。

「う、……っあり、がとう、辺境伯」

 震えた声のままにお礼を言ったら「いいってことよ。正気に戻ってよかったなっ」とニカり笑ってくれた。

 正気? え?
 僕……は、おかしくなってたの?
 だから実体化した【僕】がいたの?
 でも、今は……。

 僕は自由になった手で若いカシルにしがみつく。
 
「僕、もうおかしくない?」
「ハルトライア様は、いつでも正しくあられておりますっ」

 いや、僕、絶対おかしかったよ。カシルの方が頭おかしい。
 ぬったぬったと動いて暴れまわって、この広場ぼろぼろに破壊したの全部【僕】だし。

 でも、
「ご無事で本当に、良かったっ」
 と涙声で抱きしめられて、僕もまたぼろり涙が零れた。
 
 カシルの左腕に抱かれているのが幸せで幸せで、僕の【つる】がしゅるぅりと体に戻っていく。

「ハルトライア様……っ」

 愛しい執事の呼びかけにうなずきながら溢れる涙を燕尾服に擦り付けた。

「いちゃついてるとこ悪いけど、ルゥ、これでお前は顔を隠すんだ」
 ファリア先生がローブを脱いでカシルの頭にボンとかぶせてきた。

「ばれたら困るだろう?」
「公爵夫人、ありがとうございます」
 カシルが僕を左手で抱きしめているから、僕もローブの中に包まれる。

「じゃあ、腕はトラ君に持ってもらって、旦那来たら繋いでもらうし」

 先生が切り落とされたカシルの腕を僕に押し付けた。

「はっ! カシル! 血!」

 こんなにざっくり切ったら血が止まらないんじゃっ、と右腕をみると今は一滴たりとも血が出ていなかった。

「え? なんで?」
「魔力で血を止めていますので、大丈夫でございます」

 にこりと微笑んだカシル。
 うぐぅ、メタクソカッコイイですっ
 以前若いカシルを想像したことあったけど、そんな僕の浅い想像をはるかに超えたクソイケメンがここにいる。
 サラフワの銀髪も秋の陽に当たってきらめいてまぶしい。
 
 て、お前の顔にノックアウトされている場合じゃない。
 魔力で血を止める?
 なにそれ、そんなこと出来るの?

「カシル、なんかよくわかんないけどお前の魔力、前より多くなってない? 血を止められるのもそのせいでしょ?」
「いえ、私の体内魔力量は変わっておりません」
「さっき僕に浄化魔法流し込んだ量、いつもの初級魔法の時と全然違うかったと思うんだけど」
 
 声に出したことで、キスしたことを自分で再認識した僕の顔に熱がぐわっと集まる。
 でも悔しいからギッと若いカシルをにらんでごまかした。

「あ、あれはっ、私の腕の陣が大量に魔力を必要とする陣でございますので、それを切り落としたことで魔力量が増えたように感じているだけにございます」

 大量に魔力を吸う陣? 
 体に刻む陣は初級程度のはず。

「カシルの腕の魔法陣、初級じゃないってこと?」

「それは私がルゥに刻んだんだよ。年寄りになりたいなんて願いをかなえるためにね。神級に近い特級の陣だから、馬鹿みたいに魔力吸う。他人の魔力が見える魔力保持者なルゥでも初級に見事陥落したってわけ」

 つまりファリア先生が眼球えぐり出させろと迫った人物がカシルだったわけ?
 そんな莫大な魔力を持ってて、なおかつ二つ名持ちの騎士で。

 お前! どこまでスパダリなんだ!
 イケメンにも程度ってもんがあるだろう!

 イケメン情報が過多すぎて破裂しそうな頭を抱えた僕だ。
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