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10章 腐りたくはないものです
4.
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次の日の昼、ご飯を食べた後すぐに待望だった体内魔力をユアに教えてもらった。
体内魔力は、ユアのような獣人たちの技だ。
彼らは魔力を外に出すのは苦手な代わり、体内で魔力を使用し強靭な肉体を保持している。
ユアが100キロくらい軽く持てるのも、馬と同じスピードでいくらでも走れるのもそういうことだ。しかしほとんどの獣人は無意識レベルで体内魔力を使っているため、効率、調整、制御、といったものとは縁がなかった。
だが、今回ファリア先生に教えられたことで、ユアも体内の魔力循環を自分の意思でコントロールできそうだとのこと。
練習部屋はいつもストレッチや筋トレに使っている1階の小さなホール。20畳ないくらいの。その窓際の床にじゅうたんを敷いて、そこに僕もユアもカシルも靴を脱いで正座だったり胡坐だったりと好きに座っている。僕は体をまだうまく支えられないから、さらに大きなクッションを壁において寄りかかっているのだけど。
「では、早速やりましょうっ。ハル坊ちゃま、まずは目をつむってください。そして、ここ、魔力魂のところに意識を持っていってください。で、ずっと意識していると、なんかあったかい感じになるんですよぉ」
……全然わからないんだけど。
えっと、それでわかるって脳筋の人だけじゃないかな? まあ、ユアはそれでいいのか。
「あったかい、ってどのくらいあったかいの?」
「お風呂くらいかもです」
「40度前後? そんな熱いの? 僕、魔力に熱を感じたことはないんだよなぁ。カシルはある?」
僕の右に正座で座っているカシルに尋ねると、少し首をかしげて考えていた。
「そうですね。ユア、あたたかいというのは、魔力魂のところがあたたかいのではなく、作用している筋肉、つまり石を持ち上げるなら腕の筋肉があたたかいということではないでしょうか?」
「それもあります。でもそうじゃないときもあります」
動かすとあたたかいって、筋肉を動かしたら熱を持つのは当たり前なんだけどな。
「ごめん、もちょっと教えて。魔力を体の中でぐるぐる動かす、って感じなの?」
「ぎゅーんって、ぐぅぅーんって、ぶわぁって動かす感じです」
余計分からなくなった。ユアに教師は絶対向かない。
でもがんばって教えてくれているから、ぎゅーん、ぐぅぅーん、と魔力を動かしてみる。
あったかくはないなぁ。動いているのはわかる。魔力を放出してシールドを作るときは、効果音として正しいか分からないが、ぎゅーん、とか、勢い付けたときはドン!って感じに外に魔力が飛び出していくから。
「とりあえず動いたよ。それから?」
「時々チカチカするんです」
チカチカ? 点滅するってこと? 魔力が?
ユアの使うオノマトペを理解できない僕が駄目なのだろうか。
難問過ぎて少々天井を仰ぎ見てしまった。
「チクチクかな? ぴりぴり?かも?」
「筋肉に作用するとなにか感じるんだね?」
「そうなんですっ。なんかあるんですっ」
これは、早々に諦めたほうがいいのでは?
ちらり、とカシルにどうしたらいい? と言う視線を投げた。
すると
「ハルトライア様、少々お手をお借りしてよろしいでしょうか?」
と返事。なにかしてくれそうだ。
うん、と頷いて手を差し出す。
カシルは正座から軽く膝立ちになり僕に向き直る。両手のひらを出してきたので僕も両手を乗せる。シワのある大きな手に軽く握られた。それだけで手に熱が集まってしまった。手の甲にキスされたことを思い出したから。
あぁ、恥ずかしい。手汗出てきた気がする。
「ハルトライア様、手の力をできるだけ抜いてください」
「あ、う、うん」
緊張して力が無意識に入っていたみたいだ。ふぅ~と息を吐いて、言われた通り力を抜いた。
「新しいことを学ぶ時は、それにのみ注力することが大切です。今回は魔力で筋肉を動かすのですから、まず今は動かない事を意識してください」
「動かない、力を抜く……」
半年前目覚めたとき、ほんとに動かなかったから、要するにあんな感じになればいいってことだよね。
と腕を脱力していく。
「そうです。さすがハルトライア様です。では、次に魔力を腕に貯めてみてください。脱力したままでお願いしますね」
魔力を動かすのは出来るから、腕全体を意識して僕の魔力を満たしていく。
「あ。一杯になったよ」
「指先までいっぱいになりましたでしょうか?」
「うん」
「それでは、私の手を握ってみてください。脱力したままで」
「え?」
「大丈夫です。ハルトライア様は【つる】の動きを制御できますし、あの最小の魔力で花の咲く杖まで操作できるお方です。指の筋肉を魔力で動かしてみてください。魔力で筋肉を包み込むと想像していただければよいかと」
いや、僕【つる】の動きちょっとしか抑えられないけど。【つる】は僕の体感的に「くしゃみ」とか「まばたき」と同じようなもので我慢や制御も限界があるんだ。
と思ったけど、とにかく今は筋肉を魔力で動かそう。
包み込むとはつまり筋肉の動きを補助する、ってことかな?
握るのだから、手のひら側の筋肉を縮ませればいい。
指の一本一本を支えている筋肉を意識して、筋肉に魔力を通し、筋肉を縮ませる!!
ピクッと手全体がはねた。すこしばかり動いたようだ。
「ハルトライア様、すばらしいですっ」
「もう一回やってみるね」
今度はもっと握ることを意識しよう。筋肉を動かしてカシルの手をぎゅうと握るイメージをする。すると僕の小さな手の指がちょっと縮まって、結果カシルの手を握ることができた。
でもカシルの手が大きすぎて第一関節しか曲げられない。サイズ感の違いにへこむ。60歳と9歳じゃ仕方ないとはいえ、早急に大きくなって僕が包み込めるくらいにしたい。
「わぁ~! ハル坊ちゃますごい! すぐできましたね!」
じっとカシルの手見て、握ったり、離したり、を何度も繰り返した。だんだんコツがつかめてきたと思う。
本当に筋力を魔力でサポートしているんだ。
ユアはこれを無意識にやっているってことなんだね。
そう考えつつカシルの手をにぎにぎしていたら、だんだん指がピリピリしてきた。
体内魔力は、ユアのような獣人たちの技だ。
彼らは魔力を外に出すのは苦手な代わり、体内で魔力を使用し強靭な肉体を保持している。
ユアが100キロくらい軽く持てるのも、馬と同じスピードでいくらでも走れるのもそういうことだ。しかしほとんどの獣人は無意識レベルで体内魔力を使っているため、効率、調整、制御、といったものとは縁がなかった。
だが、今回ファリア先生に教えられたことで、ユアも体内の魔力循環を自分の意思でコントロールできそうだとのこと。
練習部屋はいつもストレッチや筋トレに使っている1階の小さなホール。20畳ないくらいの。その窓際の床にじゅうたんを敷いて、そこに僕もユアもカシルも靴を脱いで正座だったり胡坐だったりと好きに座っている。僕は体をまだうまく支えられないから、さらに大きなクッションを壁において寄りかかっているのだけど。
「では、早速やりましょうっ。ハル坊ちゃま、まずは目をつむってください。そして、ここ、魔力魂のところに意識を持っていってください。で、ずっと意識していると、なんかあったかい感じになるんですよぉ」
……全然わからないんだけど。
えっと、それでわかるって脳筋の人だけじゃないかな? まあ、ユアはそれでいいのか。
「あったかい、ってどのくらいあったかいの?」
「お風呂くらいかもです」
「40度前後? そんな熱いの? 僕、魔力に熱を感じたことはないんだよなぁ。カシルはある?」
僕の右に正座で座っているカシルに尋ねると、少し首をかしげて考えていた。
「そうですね。ユア、あたたかいというのは、魔力魂のところがあたたかいのではなく、作用している筋肉、つまり石を持ち上げるなら腕の筋肉があたたかいということではないでしょうか?」
「それもあります。でもそうじゃないときもあります」
動かすとあたたかいって、筋肉を動かしたら熱を持つのは当たり前なんだけどな。
「ごめん、もちょっと教えて。魔力を体の中でぐるぐる動かす、って感じなの?」
「ぎゅーんって、ぐぅぅーんって、ぶわぁって動かす感じです」
余計分からなくなった。ユアに教師は絶対向かない。
でもがんばって教えてくれているから、ぎゅーん、ぐぅぅーん、と魔力を動かしてみる。
あったかくはないなぁ。動いているのはわかる。魔力を放出してシールドを作るときは、効果音として正しいか分からないが、ぎゅーん、とか、勢い付けたときはドン!って感じに外に魔力が飛び出していくから。
「とりあえず動いたよ。それから?」
「時々チカチカするんです」
チカチカ? 点滅するってこと? 魔力が?
ユアの使うオノマトペを理解できない僕が駄目なのだろうか。
難問過ぎて少々天井を仰ぎ見てしまった。
「チクチクかな? ぴりぴり?かも?」
「筋肉に作用するとなにか感じるんだね?」
「そうなんですっ。なんかあるんですっ」
これは、早々に諦めたほうがいいのでは?
ちらり、とカシルにどうしたらいい? と言う視線を投げた。
すると
「ハルトライア様、少々お手をお借りしてよろしいでしょうか?」
と返事。なにかしてくれそうだ。
うん、と頷いて手を差し出す。
カシルは正座から軽く膝立ちになり僕に向き直る。両手のひらを出してきたので僕も両手を乗せる。シワのある大きな手に軽く握られた。それだけで手に熱が集まってしまった。手の甲にキスされたことを思い出したから。
あぁ、恥ずかしい。手汗出てきた気がする。
「ハルトライア様、手の力をできるだけ抜いてください」
「あ、う、うん」
緊張して力が無意識に入っていたみたいだ。ふぅ~と息を吐いて、言われた通り力を抜いた。
「新しいことを学ぶ時は、それにのみ注力することが大切です。今回は魔力で筋肉を動かすのですから、まず今は動かない事を意識してください」
「動かない、力を抜く……」
半年前目覚めたとき、ほんとに動かなかったから、要するにあんな感じになればいいってことだよね。
と腕を脱力していく。
「そうです。さすがハルトライア様です。では、次に魔力を腕に貯めてみてください。脱力したままでお願いしますね」
魔力を動かすのは出来るから、腕全体を意識して僕の魔力を満たしていく。
「あ。一杯になったよ」
「指先までいっぱいになりましたでしょうか?」
「うん」
「それでは、私の手を握ってみてください。脱力したままで」
「え?」
「大丈夫です。ハルトライア様は【つる】の動きを制御できますし、あの最小の魔力で花の咲く杖まで操作できるお方です。指の筋肉を魔力で動かしてみてください。魔力で筋肉を包み込むと想像していただければよいかと」
いや、僕【つる】の動きちょっとしか抑えられないけど。【つる】は僕の体感的に「くしゃみ」とか「まばたき」と同じようなもので我慢や制御も限界があるんだ。
と思ったけど、とにかく今は筋肉を魔力で動かそう。
包み込むとはつまり筋肉の動きを補助する、ってことかな?
握るのだから、手のひら側の筋肉を縮ませればいい。
指の一本一本を支えている筋肉を意識して、筋肉に魔力を通し、筋肉を縮ませる!!
ピクッと手全体がはねた。すこしばかり動いたようだ。
「ハルトライア様、すばらしいですっ」
「もう一回やってみるね」
今度はもっと握ることを意識しよう。筋肉を動かしてカシルの手をぎゅうと握るイメージをする。すると僕の小さな手の指がちょっと縮まって、結果カシルの手を握ることができた。
でもカシルの手が大きすぎて第一関節しか曲げられない。サイズ感の違いにへこむ。60歳と9歳じゃ仕方ないとはいえ、早急に大きくなって僕が包み込めるくらいにしたい。
「わぁ~! ハル坊ちゃますごい! すぐできましたね!」
じっとカシルの手見て、握ったり、離したり、を何度も繰り返した。だんだんコツがつかめてきたと思う。
本当に筋力を魔力でサポートしているんだ。
ユアはこれを無意識にやっているってことなんだね。
そう考えつつカシルの手をにぎにぎしていたら、だんだん指がピリピリしてきた。
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