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8章 我慢はみんな大変です
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そして「こちらでございます」とカシルが渡した紫玉に先生は言葉をなくしてプルプル手を震わせている。カシルがさっと僕の耳を両手でふさぐ、展開を見越して準備する僕の執事優秀。
「こちらは僕が作ったものです。名前がないと困るので便宜上紫玉とよんでいます。瘴気を変質させて僕の魔力に近い形にしたものです。害はないので触っても割っても大丈夫です。結構固いので、割るなら剣で切ったほうが良いかと。僕は浄化魔法を使えませんので、このような方法をとって「ひゃああああああああああ!!!!」」
やっぱり叫んだ。でもカシルのおかげで僕の鼓膜は無事だった。
「なんということだ!! 素晴らしいよ!! トラ君! 君は浄化魔法を使えないと言ったけど!! これこそ君の浄化魔法だよ!!」
今、なんと?
「え、浄化……魔法……ですか?」
衝撃のセリフを聞いてしまい、たどたどしく返事をしてしまう。
「そうだよ! 浄化魔法だよ! これは君の闇属性の魔力の塊だ! はわわわわわ!! 奇跡だよ!! 私は今奇跡を目撃している!! 闇属性の魔力をこの手に乗せているなんて!」
ファリア先生はソファから立ち上がり紫玉をのせた両手を上に掲げて小躍りを始めた。
「すごい! すごいよぉ! 魔力を宝石とか剣に閉じ込めるならわかるけどっ、魔力そのものが固まって石として存在してるなんて奇跡としか言いようがないよぉ!!」
それって、僕が浄化魔法を使える、ということだよね? え、じゃぁ……と、どうしても気になる疑問が湧き出てきた。
「ちょっと、ちょっと待ってください。落ち着いてください、ファリア先生」
しかし先生は「ひゃっはぁ~!」と言いながら小躍りをやめない。
するとカシルが「すみませんハルトライア様、少々耳から手をはずします」と言い、耳から話した手ですぐに踊るファリア先生の両手を捕まえた。
「カルシード公爵夫人。いい加減落ち着いてくださいませ。話が進みません。この紫玉は話が終わるまで没収いたします」
と紫玉をさっと奪い取る。
「ああああああああ!! かえしてよぉ!! 奇跡の宝石なのに!!」
カシルの手が離れた後すぐ自分で耳をふさいでおいてよかった。叫ぶ癖を治してくれないかな。
「まず、前提としてこちらは公爵夫人の持ち物ではございません」
「ください!! おねがいします!!」
土下座した。やめてほしい。てか僕先生に聞きたいことがあるんだけど。
「ファリア先生、とりあえず僕の質問に答えてください。そのあと、考えますので」
「ください!!」
「ファリア先生、聞いてます?」
「くだ「いい加減になさいませ!!」」
カシルがまたもブチ切れた。ファリア先生は本当にカシルを怒らせるのが得意だ。ちょっとうらやましい。僕は何やっても怒られないのに。
うぞ、と【つる】が動いたのが分かった。まだ飛び出すほどじゃないけれど。ああ、僕は心が狭いなぁ。すぐ嫉妬してしまう。
ふぅ~とひそかに深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「ファリア先生、質問があります」
「わかった、わかったよぉ。きくよぉ~」
「ありがとうございます。僕が浄化魔法を使えるとはどういうことでしょうか。まず闇属性であることは魔物である証拠です。僕は魔物のように理性をなくしていないですが」
ファリア先生はソファに座りなおし、はぁあああ、と長く息を吐いてから話始めた。
「私はねぇ、属性魔法の分類を研究していると言ったよね。例えば木の記憶を見る魔法は緑属性、水に過去を映し見る魔法は水属性とかね、じゃあ木の中の樹液の記憶を見る魔法とかあるかな? あったとしたらそれは何属性? ってなるでしょ? そういったあいまいなところを研究してどの属性か調べていくんだ。結局いつも分類しきれなくてたくさんの案件が研究段階さ。まあそういう風に魔法を分類していくとね、浄化魔法を分類するときに困ったんだよ」
どうやら浄化魔法については瘴気を無害なものにする、というざっくりな研究結果しかなかったらしい。しかし各属性すべてに浄化魔法は存在している。では無害になった瘴気は何に変わったのか、属性は違っても結果全部同じ形の無害なものになるのか、無害になるならどうして元の瘴気は悪さをするのか、そもそも瘴気は何なのか、と疑問ばかり沸いてきたと先生は言う。
「なんでみんなそれ気にしなかったのかなぁ~」
とブツブツ愚痴をこぼす先生。
考えるに、ほうきで掃除をしてほこりやゴミを集めて、それをゴミ箱に捨てたら終わり、というの一緒だ。
掃除をして部屋をきれいにするという意識はあっても、そのほこりやゴミがどこからきているか、捨てたそれらはどこに行きどういう終わりになるのか、まで気にする人はあまりいないだろう。
瘴気は浄化魔法で消せる、その事実さえ知っていれば生きるに事足りるのだから。
「まぁ、私が瘴気自体を疑問視するのは、私が人の魔力を見ることができるからなのだろうけれどね。トラ君は紫のとってもきれいな魔力が見えるよ。魔力が見えるようになったのは私の魔力量が莫大になりその魔力のおかげで私の目がなにかしら強化されたからだと思うんだ。魔力が見える人間になったことは私には僥倖さ。研究に役立つからね。この能力は私の知る限りこれまで一人しかいなかったし、眼球抉り出していいかって頼んだら断られたさ。だから自分の目を抉り出したんだけどね。でも旦那に即怒られ治療されて、次やったら離婚って言われたからもうしないけど。ああ、輪切りとか解剖とかしたかったなぁ」
先生、想像以上にマッドサイエンティストじゃないか。
「こちらは僕が作ったものです。名前がないと困るので便宜上紫玉とよんでいます。瘴気を変質させて僕の魔力に近い形にしたものです。害はないので触っても割っても大丈夫です。結構固いので、割るなら剣で切ったほうが良いかと。僕は浄化魔法を使えませんので、このような方法をとって「ひゃああああああああああ!!!!」」
やっぱり叫んだ。でもカシルのおかげで僕の鼓膜は無事だった。
「なんということだ!! 素晴らしいよ!! トラ君! 君は浄化魔法を使えないと言ったけど!! これこそ君の浄化魔法だよ!!」
今、なんと?
「え、浄化……魔法……ですか?」
衝撃のセリフを聞いてしまい、たどたどしく返事をしてしまう。
「そうだよ! 浄化魔法だよ! これは君の闇属性の魔力の塊だ! はわわわわわ!! 奇跡だよ!! 私は今奇跡を目撃している!! 闇属性の魔力をこの手に乗せているなんて!」
ファリア先生はソファから立ち上がり紫玉をのせた両手を上に掲げて小躍りを始めた。
「すごい! すごいよぉ! 魔力を宝石とか剣に閉じ込めるならわかるけどっ、魔力そのものが固まって石として存在してるなんて奇跡としか言いようがないよぉ!!」
それって、僕が浄化魔法を使える、ということだよね? え、じゃぁ……と、どうしても気になる疑問が湧き出てきた。
「ちょっと、ちょっと待ってください。落ち着いてください、ファリア先生」
しかし先生は「ひゃっはぁ~!」と言いながら小躍りをやめない。
するとカシルが「すみませんハルトライア様、少々耳から手をはずします」と言い、耳から話した手ですぐに踊るファリア先生の両手を捕まえた。
「カルシード公爵夫人。いい加減落ち着いてくださいませ。話が進みません。この紫玉は話が終わるまで没収いたします」
と紫玉をさっと奪い取る。
「ああああああああ!! かえしてよぉ!! 奇跡の宝石なのに!!」
カシルの手が離れた後すぐ自分で耳をふさいでおいてよかった。叫ぶ癖を治してくれないかな。
「まず、前提としてこちらは公爵夫人の持ち物ではございません」
「ください!! おねがいします!!」
土下座した。やめてほしい。てか僕先生に聞きたいことがあるんだけど。
「ファリア先生、とりあえず僕の質問に答えてください。そのあと、考えますので」
「ください!!」
「ファリア先生、聞いてます?」
「くだ「いい加減になさいませ!!」」
カシルがまたもブチ切れた。ファリア先生は本当にカシルを怒らせるのが得意だ。ちょっとうらやましい。僕は何やっても怒られないのに。
うぞ、と【つる】が動いたのが分かった。まだ飛び出すほどじゃないけれど。ああ、僕は心が狭いなぁ。すぐ嫉妬してしまう。
ふぅ~とひそかに深呼吸して気持ちを落ち着けた。
「ファリア先生、質問があります」
「わかった、わかったよぉ。きくよぉ~」
「ありがとうございます。僕が浄化魔法を使えるとはどういうことでしょうか。まず闇属性であることは魔物である証拠です。僕は魔物のように理性をなくしていないですが」
ファリア先生はソファに座りなおし、はぁあああ、と長く息を吐いてから話始めた。
「私はねぇ、属性魔法の分類を研究していると言ったよね。例えば木の記憶を見る魔法は緑属性、水に過去を映し見る魔法は水属性とかね、じゃあ木の中の樹液の記憶を見る魔法とかあるかな? あったとしたらそれは何属性? ってなるでしょ? そういったあいまいなところを研究してどの属性か調べていくんだ。結局いつも分類しきれなくてたくさんの案件が研究段階さ。まあそういう風に魔法を分類していくとね、浄化魔法を分類するときに困ったんだよ」
どうやら浄化魔法については瘴気を無害なものにする、というざっくりな研究結果しかなかったらしい。しかし各属性すべてに浄化魔法は存在している。では無害になった瘴気は何に変わったのか、属性は違っても結果全部同じ形の無害なものになるのか、無害になるならどうして元の瘴気は悪さをするのか、そもそも瘴気は何なのか、と疑問ばかり沸いてきたと先生は言う。
「なんでみんなそれ気にしなかったのかなぁ~」
とブツブツ愚痴をこぼす先生。
考えるに、ほうきで掃除をしてほこりやゴミを集めて、それをゴミ箱に捨てたら終わり、というの一緒だ。
掃除をして部屋をきれいにするという意識はあっても、そのほこりやゴミがどこからきているか、捨てたそれらはどこに行きどういう終わりになるのか、まで気にする人はあまりいないだろう。
瘴気は浄化魔法で消せる、その事実さえ知っていれば生きるに事足りるのだから。
「まぁ、私が瘴気自体を疑問視するのは、私が人の魔力を見ることができるからなのだろうけれどね。トラ君は紫のとってもきれいな魔力が見えるよ。魔力が見えるようになったのは私の魔力量が莫大になりその魔力のおかげで私の目がなにかしら強化されたからだと思うんだ。魔力が見える人間になったことは私には僥倖さ。研究に役立つからね。この能力は私の知る限りこれまで一人しかいなかったし、眼球抉り出していいかって頼んだら断られたさ。だから自分の目を抉り出したんだけどね。でも旦那に即怒られ治療されて、次やったら離婚って言われたからもうしないけど。ああ、輪切りとか解剖とかしたかったなぁ」
先生、想像以上にマッドサイエンティストじゃないか。
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