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8章 我慢はみんな大変です
2.
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僕の目が好奇心で輝いた。でもカシルが顔をまたしかめて言う。
「そのような昔のことはお話にならないでくださいませ。今ハルトライア様はあなたの報告をお待ちですので」
カシルの過去、ものすごく知りたい、そんな話してくれたこと無かったもん。二つ名持ちでかつ首席ってすごすぎる。やっぱりカシルは本当に優秀な騎士だったんだ。
「ごめんごめん、えっとね、まず、誰があの罠作ったかだけど、それは男で多分神殿関係者、神官だと思うよ」
先生はカシルに怒られてようやく話を始めた。しかし第一声ですでに僕の予想を超えた結果がきた。
「神殿関係者?」
貴族でも騎士団でも猟奇的人間でもなかった。
「そう。木のみんなに記憶見せてもらったんだけどね、まぁ記憶って言っても人間みたいにしっかりしたものじゃなくてね、絵画的な感じで、本当に断片的なものなんだ。だからたくさんの木の記憶を調べて、それらを組み合わせて推測しただけだけどね」
先生はその結果を詳しく説明してくれた。
男は1人。神殿関係者というのは、木の記憶をたどって街までたどり着くと男は神官らしい服に着替えたからとのこと。服装は偽装も考えたが、一般に流通してない魔石を一定量用意できることから、神殿に保管していた魔石を流用したと考えられる。魔石保管場所は関係者しか入れないから神官である可能性はかなり高いそうだ。
「でも神官がなぜ魔物を? 神殿は人々に教えを説き導くだけでなく、町や森を浄化をするのが仕事ですよね? どうして……」
「そうだねトラ君。でも人が悪事を働く一番の理由は自分の利益だ、神殿にとって利益とは何か、と考えれば賢い君はすぐ答えが出るだろう?」
利益、神殿の? うーん。どういうこと? 会社ってことだよね。会社で考えると、まず会社は人に何かを提供してその対価としてお金をいただくわけで。神殿は人に教えを説き善へと導き瘴気を浄化して、対価=寄付をいただくということ。え、それって寄付をいただくために悪事を自作自演してるってこと?
ハッとして先生を見ると「わかったみたいだね」と頷いた。
「しかし、それは発覚すれば、寄付をしている側の貴族が黙っていないのでは……いや、上層同士ではすでに同意済み、下々の者に悟られないように処理すればそれでいい、ということでしょうか」
「そんなことまで理解しているなんて、9歳児なのにもう一人前だねぇ。まあそういうことだから、これを騎士団に報告しても上層でもみ消され何もしてくれないだろうね。しかも場所は町から5キロも離れている山の中、道もない場所だ。一般人はそんなところに来ない。魔物じゃなくても大型の動物と遭遇すると命の危険があるからね。逆に報告したら君が疑われたり上層部から煙たがられて何されるかわからないから言わない方がいいね」
「そうですね。先生のおっしゃる通り、やめておきます。でも僕が勝手に罠を壊すことには反対なさらないでしょう?」
罠の存在を知っていて黙認などできるわけがない。ベア親子のように苦しむ動物が出ないよう未然に防ぐまでだ。
「ふふ、そう来るか。君は一人前である前に、最高に男前だねぇ。ルゥは良いご主人に仕えているねぇ」
「ハルトライア様以上の方などこの世に存在いたしません」
「でも、さっきは抱っこの幼子でほんと可愛かったけどね」
カッと赤くなってしまった。先生一言多いです。
確かに僕はあまりに小柄で幼児にしか見えない。身長120センチもないから。よく言ってギリギリ7歳児。そして2年間寝てた間は全く成長していない。
しかし、その発言にカシルがキレた。先生に対する怒りの沸点がカシルは低すぎると思う。
「カルシード公爵夫人、発言の撤回を求めます。目覚めてからの半年間、ハルトライア様はそれは血のにじむような努力の末、ここまでお体を動かせるようになったのです。私の主人の努力を嗤うような発言を許すわけにはまいりません。今すぐ発言を撤回なさいませ」
ギロ、とカシルに睨まれた先生が、しゅうと小さくなったように感じた。
「う……ごめんなさい。本当にかわいかっただけなんだけど、二人とってもお似合いだったし。ごめんね、トラ君。君のことは本当に尊敬しているよ。今日ルゥに道すがら君の努力の一端を聞き及んでいて、君のこと、もっと好きになったんだ。私は君の味方だっていうのは今も変わらないから。君のしたいこと、全力で手伝うことに嘘は絶対ないよ……だからごめんなさい」
先生は殊勝に謝ってくれる。自分の執事でない者に苦言を言われても気にせず謝れるなんて、僕のことだけじゃなくカシルの事も大切に思っている証拠だ。
「いえ、先生。僕はいつでも先生を信頼しておりますから。それに僕が背が低く見た目が幼いのは事実です。それよりも可愛いでなくかっこいいと言われるように、これからもっと頑張りますのでご指導お願いいたします」
「そゆとこ、ほんとトラ君イケメンだよね~。さて、それなら犯人の話はもういいよねっ。私の聞きたいこと聞かせてもらう!」
切り替えが早いなぁ。でもまぁいいか。
「何でしょう?」
「トラ君あの場で何したの?」
「あの場とは?」
「だから罠のあった場所だよ!」
「ああ、あそこは魔石が割れたせいで瘴気がいっぱいあったので、カシルと一緒に瘴気を取り除いて親子を埋めましたが」
「その瘴気の取り除き方が知りたいの!!」
興奮して大きな声になった先生。カシルが昨日と同じように僕の耳を素早く塞いでくれた。ありがたいけどお前の耳も心配だ。
「先生にまだ説明していなかったのですが、瘴気をできるだけ【つる】に取り込まないようにするための独自の魔法があるのです」
実物を見たほうが早いとカシルに僕の部屋に取りに行くようお願いした。
「そのような昔のことはお話にならないでくださいませ。今ハルトライア様はあなたの報告をお待ちですので」
カシルの過去、ものすごく知りたい、そんな話してくれたこと無かったもん。二つ名持ちでかつ首席ってすごすぎる。やっぱりカシルは本当に優秀な騎士だったんだ。
「ごめんごめん、えっとね、まず、誰があの罠作ったかだけど、それは男で多分神殿関係者、神官だと思うよ」
先生はカシルに怒られてようやく話を始めた。しかし第一声ですでに僕の予想を超えた結果がきた。
「神殿関係者?」
貴族でも騎士団でも猟奇的人間でもなかった。
「そう。木のみんなに記憶見せてもらったんだけどね、まぁ記憶って言っても人間みたいにしっかりしたものじゃなくてね、絵画的な感じで、本当に断片的なものなんだ。だからたくさんの木の記憶を調べて、それらを組み合わせて推測しただけだけどね」
先生はその結果を詳しく説明してくれた。
男は1人。神殿関係者というのは、木の記憶をたどって街までたどり着くと男は神官らしい服に着替えたからとのこと。服装は偽装も考えたが、一般に流通してない魔石を一定量用意できることから、神殿に保管していた魔石を流用したと考えられる。魔石保管場所は関係者しか入れないから神官である可能性はかなり高いそうだ。
「でも神官がなぜ魔物を? 神殿は人々に教えを説き導くだけでなく、町や森を浄化をするのが仕事ですよね? どうして……」
「そうだねトラ君。でも人が悪事を働く一番の理由は自分の利益だ、神殿にとって利益とは何か、と考えれば賢い君はすぐ答えが出るだろう?」
利益、神殿の? うーん。どういうこと? 会社ってことだよね。会社で考えると、まず会社は人に何かを提供してその対価としてお金をいただくわけで。神殿は人に教えを説き善へと導き瘴気を浄化して、対価=寄付をいただくということ。え、それって寄付をいただくために悪事を自作自演してるってこと?
ハッとして先生を見ると「わかったみたいだね」と頷いた。
「しかし、それは発覚すれば、寄付をしている側の貴族が黙っていないのでは……いや、上層同士ではすでに同意済み、下々の者に悟られないように処理すればそれでいい、ということでしょうか」
「そんなことまで理解しているなんて、9歳児なのにもう一人前だねぇ。まあそういうことだから、これを騎士団に報告しても上層でもみ消され何もしてくれないだろうね。しかも場所は町から5キロも離れている山の中、道もない場所だ。一般人はそんなところに来ない。魔物じゃなくても大型の動物と遭遇すると命の危険があるからね。逆に報告したら君が疑われたり上層部から煙たがられて何されるかわからないから言わない方がいいね」
「そうですね。先生のおっしゃる通り、やめておきます。でも僕が勝手に罠を壊すことには反対なさらないでしょう?」
罠の存在を知っていて黙認などできるわけがない。ベア親子のように苦しむ動物が出ないよう未然に防ぐまでだ。
「ふふ、そう来るか。君は一人前である前に、最高に男前だねぇ。ルゥは良いご主人に仕えているねぇ」
「ハルトライア様以上の方などこの世に存在いたしません」
「でも、さっきは抱っこの幼子でほんと可愛かったけどね」
カッと赤くなってしまった。先生一言多いです。
確かに僕はあまりに小柄で幼児にしか見えない。身長120センチもないから。よく言ってギリギリ7歳児。そして2年間寝てた間は全く成長していない。
しかし、その発言にカシルがキレた。先生に対する怒りの沸点がカシルは低すぎると思う。
「カルシード公爵夫人、発言の撤回を求めます。目覚めてからの半年間、ハルトライア様はそれは血のにじむような努力の末、ここまでお体を動かせるようになったのです。私の主人の努力を嗤うような発言を許すわけにはまいりません。今すぐ発言を撤回なさいませ」
ギロ、とカシルに睨まれた先生が、しゅうと小さくなったように感じた。
「う……ごめんなさい。本当にかわいかっただけなんだけど、二人とってもお似合いだったし。ごめんね、トラ君。君のことは本当に尊敬しているよ。今日ルゥに道すがら君の努力の一端を聞き及んでいて、君のこと、もっと好きになったんだ。私は君の味方だっていうのは今も変わらないから。君のしたいこと、全力で手伝うことに嘘は絶対ないよ……だからごめんなさい」
先生は殊勝に謝ってくれる。自分の執事でない者に苦言を言われても気にせず謝れるなんて、僕のことだけじゃなくカシルの事も大切に思っている証拠だ。
「いえ、先生。僕はいつでも先生を信頼しておりますから。それに僕が背が低く見た目が幼いのは事実です。それよりも可愛いでなくかっこいいと言われるように、これからもっと頑張りますのでご指導お願いいたします」
「そゆとこ、ほんとトラ君イケメンだよね~。さて、それなら犯人の話はもういいよねっ。私の聞きたいこと聞かせてもらう!」
切り替えが早いなぁ。でもまぁいいか。
「何でしょう?」
「トラ君あの場で何したの?」
「あの場とは?」
「だから罠のあった場所だよ!」
「ああ、あそこは魔石が割れたせいで瘴気がいっぱいあったので、カシルと一緒に瘴気を取り除いて親子を埋めましたが」
「その瘴気の取り除き方が知りたいの!!」
興奮して大きな声になった先生。カシルが昨日と同じように僕の耳を素早く塞いでくれた。ありがたいけどお前の耳も心配だ。
「先生にまだ説明していなかったのですが、瘴気をできるだけ【つる】に取り込まないようにするための独自の魔法があるのです」
実物を見たほうが早いとカシルに僕の部屋に取りに行くようお願いした。
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