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7章 いろいろ頑張っています
6.
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翌朝、カシルとファリア先生は連れ立って森へ行った。
馬に乗った二人の後ろ姿を見たとき、僕はめちゃくちゃ嫉妬してしまった。
外だったから必死で我慢したけど部屋に戻ったら爆発した。
だって、カシルの乗る白馬に寄り添う先生の乗った茶色の馬。大人同士の二人はサイズ感もぴったりで。
僕なんて小さいから爺と孫にしか見えない。
ふてくされてベッドに突っ伏していたら、うぞうぞ動く【つる】が収まるまで30分くらいかかってしまった。
ユアが僕をぎゅっと抱きしめて撫でてくれなかったら、もっと時間がかかったに違いない。
ていうか、ユアには「ハル坊ちゃまは本当にカシルさんのことがお好きですねぇ」と笑顔で言われた。
しかも「大丈夫ですよ。カシルさんの方がハル坊ちゃまのこと好きですからね」と慰められた。
カシルは確かに僕のことが好きだろう。でもそれは子供や動物に対する愛情で、僕がカシルに持つ恋愛的感情ではない。それにユアは僕がヨコシマな気持ちを抱えてることに気づいてない。
そんな事実をユアに伝えるなんて出来ないけれど
「うん、カシルが好き」
と吐露できたので、それだけで僕の心は少し落ち着いたのだった。
気を取り直してトレーニング再開だ。ユアには部屋を出ていくとき扉を開けっぱなしにしてもらった。今日は廊下まで行こう。
ベッドから立ち上がり体のバランスを取りながらゆっくり進む。廊下の壁をタッチしてまた戻る。
そんな動作を繰り返しながら頭では昨日先生に聞いたことを思い返していた。
まず【つる】を体から取り除く方法があるか、ということについてだ。
それについて簡潔に言うとわからない。というのが答えだった。
【つる】が瘴気を吸い僕の体の上に枝葉を伸ばしていくということにファリア先生は興味を示していた。
また僕の感情が荒れると外に飛び出すということにも。
僕の体を見て、つるの出発点が背中の真ん中あたりにあることも確認していた。
魔力魂の位置だろうねと言っていた。
ファリア先生に頼んだ【つる】の調査の結果結果は、大したものがなかった。1000年前の魔王の話はあの壁画以外には口伝えに残っているのみらしい。
「あんなの都合よく改変されていると考えてしかるべきなんだよね。なにせ1000年も前のことだ。私はね、女神の存在だって怪しいと思っているくらいだよ」
とファリア先生はなかなかの辛口発言をした。
「どういうことですか?」
「だって、女神レジクシレアの姿を描いたものはどこにもないだろう? 偶像崇拝を禁止している、とは建前さ。女神がいないなら女神に倒される魔王だっているわけないじゃないか」
「でも壁画が残っていますし」
「そんなもの解釈で嘘を上塗りさ。だって今、目の前にあの壁画と同じ現象を起こすトラ君がいるけれど、トラ君は魔王じゃなくて天使だろう?」
先生はカシルと同じ発言をした。かっと顔が赤くなった僕にかまわず
「それに壁画の魔王が実は女神っていう可能性だってある。世界を救った女神が見た目ちょっと怖いってなると信仰心が薄れるから偶像崇拝を禁じた、という方がしっくりくるね」
と語る。それに大いに頷いたのは言わずもがなカシルだった。
「公爵夫人もたまには良いことをおっしゃいますね。外見で人を魔王やら女神やらと分類するなど、昔の方は随分思い上がっていらっしゃったのではないですか。しかもそれが今もまかり通っているなど、この1000年何をしていたのかと疑問点しかございません。人の本質を見て判断する能力を養う教育が必要でございますね。そしてハルトライア様は天使で間違いございません」
とニコニコ顔で妙に饒舌だった。
ちなみに僕と同じあの壁画が魔王でなく女神である説に関しては、僕がゼロエンで魔王になることから確実間違っているわけで、心の奥で黙って棄却の烙印を押した。そして女神いない説は不確実の烙印。
そこまで思い返したとき、足元がふらついてこけてしまった。天使とか言われたから動揺したんだ、だからこけたんだ。でもちょうどベッドの前だったので痛くなかったことは幸いだ。
「ああ、疲れたな」
そのまま倒れこみつぶやく僕。ベッドから廊下の壁まで往復20回もしたら30分経ってしまった。昨日と比べて廊下に延ばした分時間がかかったということは、スピードが上がっていない証拠。1日ではそうそう上達しないか。それにまだまだふらついて立ち止まることが多い。バランス感覚を養うにはどうすればいいんだろう。
ヨガとか良さそう? ってやったことない。バレエも良さそうだけどやったことない。ていうかこの世界に両方ともない。
あ、社交ダンスならこの世界にもある。でもカシルとは身長差がありすぎてダンスの相手にならない。殿下とはやりたくないし。
と考えてそんなの歩くという基本動作もままならない僕にとって全く意味がないことに気付く。
リハビリはとにかく反復するしかない。わかっていたことだ。
よし、水を飲んだらもう一回やろう。
気持ちを切り替えて再度立ち上がった。そして机を目指し歩く。
机の上にはグラス3つに水を入れ置いてくれている。昨日一杯じゃ足りなかったからユアにお願いしておいたのだ。
それに、カシルからもらった花もある。3日前にもらったスミレはまだ咲いているから今日もコスモスを添えた。昨日は赤いサルビア。今日は紫のリンドウ。もちろんそれらもコスモス付き。
カシルは赤か紫の花しか持ってこないようだ。僕の色だから嬉しいけどネタはすぐ底に着くだろう。
選ぶ花がなくなったら何色を持ってくるのか楽しみだ。
花を差し出すジェントルで可愛いカシルを思ってフフと笑いがもれた。
馬に乗った二人の後ろ姿を見たとき、僕はめちゃくちゃ嫉妬してしまった。
外だったから必死で我慢したけど部屋に戻ったら爆発した。
だって、カシルの乗る白馬に寄り添う先生の乗った茶色の馬。大人同士の二人はサイズ感もぴったりで。
僕なんて小さいから爺と孫にしか見えない。
ふてくされてベッドに突っ伏していたら、うぞうぞ動く【つる】が収まるまで30分くらいかかってしまった。
ユアが僕をぎゅっと抱きしめて撫でてくれなかったら、もっと時間がかかったに違いない。
ていうか、ユアには「ハル坊ちゃまは本当にカシルさんのことがお好きですねぇ」と笑顔で言われた。
しかも「大丈夫ですよ。カシルさんの方がハル坊ちゃまのこと好きですからね」と慰められた。
カシルは確かに僕のことが好きだろう。でもそれは子供や動物に対する愛情で、僕がカシルに持つ恋愛的感情ではない。それにユアは僕がヨコシマな気持ちを抱えてることに気づいてない。
そんな事実をユアに伝えるなんて出来ないけれど
「うん、カシルが好き」
と吐露できたので、それだけで僕の心は少し落ち着いたのだった。
気を取り直してトレーニング再開だ。ユアには部屋を出ていくとき扉を開けっぱなしにしてもらった。今日は廊下まで行こう。
ベッドから立ち上がり体のバランスを取りながらゆっくり進む。廊下の壁をタッチしてまた戻る。
そんな動作を繰り返しながら頭では昨日先生に聞いたことを思い返していた。
まず【つる】を体から取り除く方法があるか、ということについてだ。
それについて簡潔に言うとわからない。というのが答えだった。
【つる】が瘴気を吸い僕の体の上に枝葉を伸ばしていくということにファリア先生は興味を示していた。
また僕の感情が荒れると外に飛び出すということにも。
僕の体を見て、つるの出発点が背中の真ん中あたりにあることも確認していた。
魔力魂の位置だろうねと言っていた。
ファリア先生に頼んだ【つる】の調査の結果結果は、大したものがなかった。1000年前の魔王の話はあの壁画以外には口伝えに残っているのみらしい。
「あんなの都合よく改変されていると考えてしかるべきなんだよね。なにせ1000年も前のことだ。私はね、女神の存在だって怪しいと思っているくらいだよ」
とファリア先生はなかなかの辛口発言をした。
「どういうことですか?」
「だって、女神レジクシレアの姿を描いたものはどこにもないだろう? 偶像崇拝を禁止している、とは建前さ。女神がいないなら女神に倒される魔王だっているわけないじゃないか」
「でも壁画が残っていますし」
「そんなもの解釈で嘘を上塗りさ。だって今、目の前にあの壁画と同じ現象を起こすトラ君がいるけれど、トラ君は魔王じゃなくて天使だろう?」
先生はカシルと同じ発言をした。かっと顔が赤くなった僕にかまわず
「それに壁画の魔王が実は女神っていう可能性だってある。世界を救った女神が見た目ちょっと怖いってなると信仰心が薄れるから偶像崇拝を禁じた、という方がしっくりくるね」
と語る。それに大いに頷いたのは言わずもがなカシルだった。
「公爵夫人もたまには良いことをおっしゃいますね。外見で人を魔王やら女神やらと分類するなど、昔の方は随分思い上がっていらっしゃったのではないですか。しかもそれが今もまかり通っているなど、この1000年何をしていたのかと疑問点しかございません。人の本質を見て判断する能力を養う教育が必要でございますね。そしてハルトライア様は天使で間違いございません」
とニコニコ顔で妙に饒舌だった。
ちなみに僕と同じあの壁画が魔王でなく女神である説に関しては、僕がゼロエンで魔王になることから確実間違っているわけで、心の奥で黙って棄却の烙印を押した。そして女神いない説は不確実の烙印。
そこまで思い返したとき、足元がふらついてこけてしまった。天使とか言われたから動揺したんだ、だからこけたんだ。でもちょうどベッドの前だったので痛くなかったことは幸いだ。
「ああ、疲れたな」
そのまま倒れこみつぶやく僕。ベッドから廊下の壁まで往復20回もしたら30分経ってしまった。昨日と比べて廊下に延ばした分時間がかかったということは、スピードが上がっていない証拠。1日ではそうそう上達しないか。それにまだまだふらついて立ち止まることが多い。バランス感覚を養うにはどうすればいいんだろう。
ヨガとか良さそう? ってやったことない。バレエも良さそうだけどやったことない。ていうかこの世界に両方ともない。
あ、社交ダンスならこの世界にもある。でもカシルとは身長差がありすぎてダンスの相手にならない。殿下とはやりたくないし。
と考えてそんなの歩くという基本動作もままならない僕にとって全く意味がないことに気付く。
リハビリはとにかく反復するしかない。わかっていたことだ。
よし、水を飲んだらもう一回やろう。
気持ちを切り替えて再度立ち上がった。そして机を目指し歩く。
机の上にはグラス3つに水を入れ置いてくれている。昨日一杯じゃ足りなかったからユアにお願いしておいたのだ。
それに、カシルからもらった花もある。3日前にもらったスミレはまだ咲いているから今日もコスモスを添えた。昨日は赤いサルビア。今日は紫のリンドウ。もちろんそれらもコスモス付き。
カシルは赤か紫の花しか持ってこないようだ。僕の色だから嬉しいけどネタはすぐ底に着くだろう。
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