【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん

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7章 いろいろ頑張っています

2.

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「ジークフリクト殿下が生誕されたとき、国王陛下はリズ妃を正妃にするとお決めになりました。これまでは王太子が決まったときにその王太子の母を側妃から正妃にするのが通例でしたが、異例の人事です。リズ妃はお若く国王陛下と10歳離れておいでですが、国は違えど王族同士、側妃お二人より親しみやすかったこともあったのでしょう。でもそれはこの国の貴族に国王陛下への不信感を生みました」

 政略結婚のなか、国王とリズ妃の間には愛が芽生えた。それはとても良いことだ。しかし愛を印籠に通例を国王の権力でぶった切るとか、国のトップとしては判断を誤ったと思われて当然だ。当然他の側妃二人と国王は上手くいっていないだろう。

「ですが現在ジークフリクト殿下は御年9歳で聖剣を振るえるまでに成長しておられます。両兄殿下に劣らないばかりか、越えているといっても過言ではないでしょう。国王陛下も期待しておられるのではないでしょうか。ジークフリクト殿下が王太子すれば、先んじて正妃を決めたご自身の判断が間違っていなかったという証明になりますから」

 そうか、だから僕との婚約は成立しないままなんだ。と気づいた。王太子となれば必ず女性と結婚しなければならない。ゼロエンがBLの世界と言っても男同士で子供が生まれることなど滅多にないのだから。そしてもし本当に僕が殿下と結婚する羽目になったとしても側妃止まりは確定だ。婚約すらも絶対したくないけれど。
 それに僕の父リフシャル侯爵としても、現在の僕がジーク殿下と婚約することは避けたいだろう。第一王子派の貴族たちから裏切ったと思われては困るから。

 となると、現時点で僕と殿下を婚約させるために暗躍する危険人物はいないということだな。

「第一王子派のリフシャル侯爵、第二王子派のイズベラルド侯爵、そして第三王子派の国王、の三つ巴状態なことはわかった。その勢力図は今どんな感じなの?」

「そうでございますね。貴族間の派閥は現状第一王子派が4割、第二王子派が3から4割、そして第三王子派が1から2割でしょうか。リフシャル侯爵家は5人の奥方がいらっしゃいます。貴族の結束に婚姻を積極的に利用しており、また侯爵ご自身も城下町警備が管轄の第4騎士団長という役職です。癒着と言うと語弊があるかもしれませんが息のかかった貴族は一番多いでしょう」

 僕の父、ヤバいと思う。下働きの下男に手を出して僕を生ませているくらい色情魔で悪徳貴族とかひどすぎる。私腹を肥やしに肥やして何をしたいのか。もしかして下剋上? と思ったとき、もう一つ気付いた。

「ということは、あのヒキガエル事件は父様の仕業かな? 殿下の呪いを僕か弟が元に戻せれば国王から信頼をより獲得できる。しかも王子を救ったという理由だから事件直後であれば第一王子派の貴族もあまり反発できない」
「可能性はあります。しかしもう2年半前の事件ですから、真相はわかりかねます。殿下にかけられた呪いは聖剣によって完全に浄化され、犯人を追うための呪痕じゅこんも残ってなかったと聞きます」

 呪痕じゅこんとは呪いの魔法、通称呪法を使った後に残るあとだ。呪法と魔法はほぼ同じ機構で発動する。両者とも魔力が必要だ。しかし魔法と違うのは発動させるのに魔力以外に代償がいることだ。それは血液だったり、誰かの命だったり、その呪いによって異なる。そして呪法を発動させる当人が代償を用意する。その代償と発動させた当人の魔力が混ざった何か、例えば変質した魔石だったり腐った血液のような液体だったりが残るのだ。

「もし呪痕じゅこんが残っていても、あの場にいた父様ならどさくさに紛れて回収できそう」

 そこまで話をしたものの、過去のことを考えても仕方ない、と思い直して今のことを聞いた。

「兄殿下お二人はどういう人なの?」
「私も人伝えに聞いた話ではございますが、第一王子のルークフリクト王子殿下は少々気弱なところがあるそうです。剣術もそこまで得意ではないと。ですが勉学に関しては貴族学園で常に主席ということです。第二王子のヨークフリクト王子殿下は少々わがままだそうですが、剣術が得意とのこと。勉学は苦手と聞いております」

「剣術も頭脳も両方持ち合わせたのが、後ろ盾のないジーク殿下、ということか」

 さすが主人公のお相手、と思ったとき、バタンと食堂のドアが開く音がした。
「ただいま戻りましたぁ。あれ? まだお食事中ですか?」

 元気のいい声に問われ、まだ半分ほどしか食べていないことに気付く。カシルを見れば綺麗に完食。お前に見とれていた時間が長かったからか。いや、ただ手先をうまく使えないだけだと心の内で弁解する。
「ちゃんと食べるよ。お帰り、ユア」
 彼女に振り返れば、ユアは50本以上あるだろう大きなバラの花束を抱えていた。おかげで彼女の姿がほとんど見えない。
「殿下からのお見舞いのお花です」
 花を少し右によけてチラと顔を見せた。

 赤や黄、桃、白など色とりどりの美しいバラ達。王城の庭がここにやって来たみたいだ。
 殿下のように誇らしく気高く咲いている。彼が選ぶのは、こういう高位なものたちなのだ。
 なのにどうして僕などを好いているのか、本当によくわからない。

「殿下にお礼の手紙を書かないといけないね。カシル、あとで便せんとか用意してくれる?」

 隣のカシルに振り向きお願いした。たが、なぜかカシルは悲し気な顔をしている。
「え? カシル、どうしたの?」
 しばらく黙っていたカシルだが、
「私が……一番にお渡ししたかったです」
 と小さな声でこぼした。
 さっきの、僕に花を贈る、という発言を実行に移したかったのか。

 何それ、めちゃめちゃ嬉しいんだけど。
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