31 / 83
7章 いろいろ頑張っています
2.
しおりを挟む
「ジークフリクト殿下が生誕されたとき、国王陛下はリズ妃を正妃にするとお決めになりました。これまでは王太子が決まったときにその王太子の母を側妃から正妃にするのが通例でしたが、異例の人事です。リズ妃はお若く国王陛下と10歳離れておいでですが、国は違えど王族同士、側妃お二人より親しみやすかったこともあったのでしょう。でもそれはこの国の貴族に国王陛下への不信感を生みました」
政略結婚のなか、国王とリズ妃の間には愛が芽生えた。それはとても良いことだ。しかし愛を印籠に通例を国王の権力でぶった切るとか、国のトップとしては判断を誤ったと思われて当然だ。当然他の側妃二人と国王は上手くいっていないだろう。
「ですが現在ジークフリクト殿下は御年9歳で聖剣を振るえるまでに成長しておられます。両兄殿下に劣らないばかりか、越えているといっても過言ではないでしょう。国王陛下も期待しておられるのではないでしょうか。ジークフリクト殿下が王太子すれば、先んじて正妃を決めたご自身の判断が間違っていなかったという証明になりますから」
そうか、だから僕との婚約は成立しないままなんだ。と気づいた。王太子となれば必ず女性と結婚しなければならない。ゼロエンがBLの世界と言っても男同士で子供が生まれることなど滅多にないのだから。そしてもし本当に僕が殿下と結婚する羽目になったとしても側妃止まりは確定だ。婚約すらも絶対したくないけれど。
それに僕の父リフシャル侯爵としても、現在の僕がジーク殿下と婚約することは避けたいだろう。第一王子派の貴族たちから裏切ったと思われては困るから。
となると、現時点で僕と殿下を婚約させるために暗躍する危険人物はいないということだな。
「第一王子派のリフシャル侯爵、第二王子派のイズベラルド侯爵、そして第三王子派の国王、の三つ巴状態なことはわかった。その勢力図は今どんな感じなの?」
「そうでございますね。貴族間の派閥は現状第一王子派が4割、第二王子派が3から4割、そして第三王子派が1から2割でしょうか。リフシャル侯爵家は5人の奥方がいらっしゃいます。貴族の結束に婚姻を積極的に利用しており、また侯爵ご自身も城下町警備が管轄の第4騎士団長という役職です。癒着と言うと語弊があるかもしれませんが息のかかった貴族は一番多いでしょう」
僕の父、ヤバいと思う。下働きの下男に手を出して僕を生ませているくらい色情魔で悪徳貴族とかひどすぎる。私腹を肥やしに肥やして何をしたいのか。もしかして下剋上? と思ったとき、もう一つ気付いた。
「ということは、あのヒキガエル事件は父様の仕業かな? 殿下の呪いを僕か弟が元に戻せれば国王から信頼をより獲得できる。しかも王子を救ったという理由だから事件直後であれば第一王子派の貴族もあまり反発できない」
「可能性はあります。しかしもう2年半前の事件ですから、真相はわかりかねます。殿下にかけられた呪いは聖剣によって完全に浄化され、犯人を追うための呪痕も残ってなかったと聞きます」
呪痕とは呪いの魔法、通称呪法を使った後に残るあとだ。呪法と魔法はほぼ同じ機構で発動する。両者とも魔力が必要だ。しかし魔法と違うのは発動させるのに魔力以外に代償がいることだ。それは血液だったり、誰かの命だったり、その呪いによって異なる。そして呪法を発動させる当人が代償を用意する。その代償と発動させた当人の魔力が混ざった何か、例えば変質した魔石だったり腐った血液のような液体だったりが残るのだ。
「もし呪痕が残っていても、あの場にいた父様ならどさくさに紛れて回収できそう」
そこまで話をしたものの、過去のことを考えても仕方ない、と思い直して今のことを聞いた。
「兄殿下お二人はどういう人なの?」
「私も人伝えに聞いた話ではございますが、第一王子のルークフリクト王子殿下は少々気弱なところがあるそうです。剣術もそこまで得意ではないと。ですが勉学に関しては貴族学園で常に主席ということです。第二王子のヨークフリクト王子殿下は少々わがままだそうですが、剣術が得意とのこと。勉学は苦手と聞いております」
「剣術も頭脳も両方持ち合わせたのが、後ろ盾のないジーク殿下、ということか」
さすが主人公のお相手、と思ったとき、バタンと食堂のドアが開く音がした。
「ただいま戻りましたぁ。あれ? まだお食事中ですか?」
元気のいい声に問われ、まだ半分ほどしか食べていないことに気付く。カシルを見れば綺麗に完食。お前に見とれていた時間が長かったからか。いや、ただ手先をうまく使えないだけだと心の内で弁解する。
「ちゃんと食べるよ。お帰り、ユア」
彼女に振り返れば、ユアは50本以上あるだろう大きなバラの花束を抱えていた。おかげで彼女の姿がほとんど見えない。
「殿下からのお見舞いのお花です」
花を少し右によけてチラと顔を見せた。
赤や黄、桃、白など色とりどりの美しいバラ達。王城の庭がここにやって来たみたいだ。
殿下のように誇らしく気高く咲いている。彼が選ぶのは、こういう高位なものたちなのだ。
なのにどうして僕などを好いているのか、本当によくわからない。
「殿下にお礼の手紙を書かないといけないね。カシル、あとで便せんとか用意してくれる?」
隣のカシルに振り向きお願いした。たが、なぜかカシルは悲し気な顔をしている。
「え? カシル、どうしたの?」
しばらく黙っていたカシルだが、
「私が……一番にお渡ししたかったです」
と小さな声でこぼした。
さっきの、僕に花を贈る、という発言を実行に移したかったのか。
何それ、めちゃめちゃ嬉しいんだけど。
政略結婚のなか、国王とリズ妃の間には愛が芽生えた。それはとても良いことだ。しかし愛を印籠に通例を国王の権力でぶった切るとか、国のトップとしては判断を誤ったと思われて当然だ。当然他の側妃二人と国王は上手くいっていないだろう。
「ですが現在ジークフリクト殿下は御年9歳で聖剣を振るえるまでに成長しておられます。両兄殿下に劣らないばかりか、越えているといっても過言ではないでしょう。国王陛下も期待しておられるのではないでしょうか。ジークフリクト殿下が王太子すれば、先んじて正妃を決めたご自身の判断が間違っていなかったという証明になりますから」
そうか、だから僕との婚約は成立しないままなんだ。と気づいた。王太子となれば必ず女性と結婚しなければならない。ゼロエンがBLの世界と言っても男同士で子供が生まれることなど滅多にないのだから。そしてもし本当に僕が殿下と結婚する羽目になったとしても側妃止まりは確定だ。婚約すらも絶対したくないけれど。
それに僕の父リフシャル侯爵としても、現在の僕がジーク殿下と婚約することは避けたいだろう。第一王子派の貴族たちから裏切ったと思われては困るから。
となると、現時点で僕と殿下を婚約させるために暗躍する危険人物はいないということだな。
「第一王子派のリフシャル侯爵、第二王子派のイズベラルド侯爵、そして第三王子派の国王、の三つ巴状態なことはわかった。その勢力図は今どんな感じなの?」
「そうでございますね。貴族間の派閥は現状第一王子派が4割、第二王子派が3から4割、そして第三王子派が1から2割でしょうか。リフシャル侯爵家は5人の奥方がいらっしゃいます。貴族の結束に婚姻を積極的に利用しており、また侯爵ご自身も城下町警備が管轄の第4騎士団長という役職です。癒着と言うと語弊があるかもしれませんが息のかかった貴族は一番多いでしょう」
僕の父、ヤバいと思う。下働きの下男に手を出して僕を生ませているくらい色情魔で悪徳貴族とかひどすぎる。私腹を肥やしに肥やして何をしたいのか。もしかして下剋上? と思ったとき、もう一つ気付いた。
「ということは、あのヒキガエル事件は父様の仕業かな? 殿下の呪いを僕か弟が元に戻せれば国王から信頼をより獲得できる。しかも王子を救ったという理由だから事件直後であれば第一王子派の貴族もあまり反発できない」
「可能性はあります。しかしもう2年半前の事件ですから、真相はわかりかねます。殿下にかけられた呪いは聖剣によって完全に浄化され、犯人を追うための呪痕も残ってなかったと聞きます」
呪痕とは呪いの魔法、通称呪法を使った後に残るあとだ。呪法と魔法はほぼ同じ機構で発動する。両者とも魔力が必要だ。しかし魔法と違うのは発動させるのに魔力以外に代償がいることだ。それは血液だったり、誰かの命だったり、その呪いによって異なる。そして呪法を発動させる当人が代償を用意する。その代償と発動させた当人の魔力が混ざった何か、例えば変質した魔石だったり腐った血液のような液体だったりが残るのだ。
「もし呪痕が残っていても、あの場にいた父様ならどさくさに紛れて回収できそう」
そこまで話をしたものの、過去のことを考えても仕方ない、と思い直して今のことを聞いた。
「兄殿下お二人はどういう人なの?」
「私も人伝えに聞いた話ではございますが、第一王子のルークフリクト王子殿下は少々気弱なところがあるそうです。剣術もそこまで得意ではないと。ですが勉学に関しては貴族学園で常に主席ということです。第二王子のヨークフリクト王子殿下は少々わがままだそうですが、剣術が得意とのこと。勉学は苦手と聞いております」
「剣術も頭脳も両方持ち合わせたのが、後ろ盾のないジーク殿下、ということか」
さすが主人公のお相手、と思ったとき、バタンと食堂のドアが開く音がした。
「ただいま戻りましたぁ。あれ? まだお食事中ですか?」
元気のいい声に問われ、まだ半分ほどしか食べていないことに気付く。カシルを見れば綺麗に完食。お前に見とれていた時間が長かったからか。いや、ただ手先をうまく使えないだけだと心の内で弁解する。
「ちゃんと食べるよ。お帰り、ユア」
彼女に振り返れば、ユアは50本以上あるだろう大きなバラの花束を抱えていた。おかげで彼女の姿がほとんど見えない。
「殿下からのお見舞いのお花です」
花を少し右によけてチラと顔を見せた。
赤や黄、桃、白など色とりどりの美しいバラ達。王城の庭がここにやって来たみたいだ。
殿下のように誇らしく気高く咲いている。彼が選ぶのは、こういう高位なものたちなのだ。
なのにどうして僕などを好いているのか、本当によくわからない。
「殿下にお礼の手紙を書かないといけないね。カシル、あとで便せんとか用意してくれる?」
隣のカシルに振り向きお願いした。たが、なぜかカシルは悲し気な顔をしている。
「え? カシル、どうしたの?」
しばらく黙っていたカシルだが、
「私が……一番にお渡ししたかったです」
と小さな声でこぼした。
さっきの、僕に花を贈る、という発言を実行に移したかったのか。
何それ、めちゃめちゃ嬉しいんだけど。
147
お気に入りに追加
758
あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました
藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。
(あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。
ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。
しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。
気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は──
異世界転生ラブラブコメディです。
ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる