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6章 悔しいのでレベル上げたいです
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中二病がうずいた結果の遠出は洞窟という目的地まで行けなかったが杖を使うという目的は果たせた。
帰宅後ユアにはもちろんおんぶで屋根まで上ってもらい、屋根の上から花を散らせた。これは結婚式にしたら喜ばれそうだ。
もし叶うなら、殿下と零の婚約式や結婚式にしたい。悪役令息でのちに魔王になる僕だが、そんな夢を少しばかり見ても罰は当たらないだろう。
先生から渡された杖は破壊的効果ではなく、平和的効果のある杖で屋敷内でも行使できる。だが害はなくとも花だらけになる。結局僕は毎日恥を忍んでカシルと抱っこスタイルでタイリートに乗り森へ行き、杖を使った。
前の日に咲かせた花たちは消えていて、この魔法は1日も持たないことが分かった。どのくらい持つか部屋で一度だけやってみた。結果大体20時間、というところだった。咲いている間はいい匂いもするし、何なら蜂も寄ってくる。蜜が20時間後に消えないことを祈りたい。頑張った蜂さんの努力が無駄にならないように。
今日は初の外出から5日。毎日繰り返した練習のおかげで今は100発90中くらいで失敗しなくなっている。だが二人を守るために妥協はできない。僕は、僕なりの戦いしかできないから。今できることをするだけ。
今日も杖を振るいに行きたい。だが僕はもう恥ずかしいの限界点を突破していた。
だからいつも通り朝食が終わって1時間ほど柔軟と筋トレをした後、出発準備に取り掛かろうとするカシルにお願いした。
「もう抱っこはやめたい」
その瞬間のカシルのこの世の終わり的な顔と言ったらなかった。
そして「ハルトライア様が現地で全力で練習されるためにも体力は温存しなければなりませんっ。それに風が当たるとお体は冷えてしまわれますっ。ハルトライア様の繊細なお体はいついかなる時でも私がお守りしなければならないのです!」と一生懸命に僕を説得しようとする。
なんだか泣きそうでかわいくて、結局僕は折れてしまった。
一応双方妥協ということで、行きはタイリートにまたがり、帰りは抱っことなったのだが。
しかし、それも意味をなさなかったということが、現在発覚している。僕の顔は真っ赤である。なぜならタイリートに二人乗りでぴったり僕の背後、頭からお尻までカシルに密着しているのだ。
カッポカッポと軽やかにタイリートが駆けるたびに僕の体は揺れてカシルと擦れる。好きと気づくまではそんなこと考えなかったが今はもう、色々と恥ずかしすぎるのだ。特にお尻ら辺が。
カシルのカシルの存在に気づいてしまったのが運の尽き。大人の夜のあれやこれを知ってるからこの体勢やめてなど9歳で言えるわけはない。
なんとか当たるのを避けようとしても、カシルの腕が僕の腰をしっかり抱きとめているから全く身動きが取れない。カシルは至って通常運転なのに僕だけ勝手にパニックになってるから余計たちが悪い。
まさか通常の二人乗りで羞恥心のさらなる限界突破とは……気づかなかった僕がダメだった。
20分も走れば息も絶え絶えになり「ごめん、止まって……」と音を上げた。
「ハルトライア様、やはりまだ早かったのでは……」
うん、別の意味で早かったよ。ていうか永遠にこの体勢はやめた方がいい。おじいさん騎士に興奮する9歳児とか目も当てられない。
カシルが手綱を引き、タイリートはゆっくり止まった。ぶるぶると鼻を鳴らしている。もう終わり? もっと走りたいんだけど。と催促された気がする。
ほんとごめんタイリート、僕は全力で何よりも先に一人乗りができるよう練習するよ。と再度心に誓った。
あたりを見渡せばうっそうとした木々ばかり。それにまだ家も近い。せめてもう少し奥に行きたいと思っていると
「ハルトライア様、どうぞ」
とカシルが肩にかけていたスリングを調節して僕に中に入るよう促した。
いや、本当にこれも恥ずかしいんだよ。でもカシルの体に触れるなら、こっちのほうがまだマシだった。そしてあっさりとカシルの胸で赤ちゃん抱っこになってしまう。
「お顔が少々赤くなっております。体調がすぐれないご様子です。お帰りになられますか?」
ぶんぶん顔を横に振った。
「いいからっ、進んでっ、杖使いたいからっ」
何とか答えて顔をそらせた。カシルの胸にうずめれば赤くなった顔を見られないから。恥ずかしいのに恥ずかしい恰好で顔を隠すとか、もう羞恥心で死にそうだ。
カシルが悪いんだ、優しくてかっこよくて広い胸板で優しくてかっこよくて剣の腕もすごくて優しくてかっこよくて食べ方も紳士で優しくてかっこよくて泣き虫で可愛いとか、とにかくカシルがダメなんだ! と責任転嫁した。
今日は午後に殿下が来られるからユアが来れなくてよかった。こんな僕を見られたら、ユアは色々と気づいてしまいそうだ。恋愛感情に関しては女性の方が敏感だから。
「かしこまりました」
返事と同時にカッポカッポと進みは再開した。僕の頭は好きと恥でいっぱいでぐるぐるしていたけれど、カシルは安定感のある腕で優しく抱きしめてくれるだけ。
憎らしいくらい僕の騎士は騎士だった。
しかしそれから10分もたたないうちにカシルがぐっと僕を強く抱きしめると同時にタイリートの綱を引いた。すぐにタイリートが足を止める。
「どうしたのっ?」
胸から顔を離しカシルを仰ぎ見る。行く先を鋭くにらむその顔はものすごく険しかった。
「ハルトライア様、何か、来ます」
低くささやく声。ぐぅ、カッコいい。と惚れてる場合じゃない。元騎士のカシルは気配にとても敏感だから、と思った瞬間僕の体がざわめいた。
「魔物だっ」
瘴気に敏感な【つる】より先に察するカシルは昔どんな騎士だったのだろう。超優秀だったとしか思えないんだけど。
カシルがすぐ浄化魔法を展開する。ざわめきが静かになったがこれはやばい状況だ。まだ家から30分も走っていない。洞窟まで約5キロの距離で魔物に遭遇するなんて。
帰宅後ユアにはもちろんおんぶで屋根まで上ってもらい、屋根の上から花を散らせた。これは結婚式にしたら喜ばれそうだ。
もし叶うなら、殿下と零の婚約式や結婚式にしたい。悪役令息でのちに魔王になる僕だが、そんな夢を少しばかり見ても罰は当たらないだろう。
先生から渡された杖は破壊的効果ではなく、平和的効果のある杖で屋敷内でも行使できる。だが害はなくとも花だらけになる。結局僕は毎日恥を忍んでカシルと抱っこスタイルでタイリートに乗り森へ行き、杖を使った。
前の日に咲かせた花たちは消えていて、この魔法は1日も持たないことが分かった。どのくらい持つか部屋で一度だけやってみた。結果大体20時間、というところだった。咲いている間はいい匂いもするし、何なら蜂も寄ってくる。蜜が20時間後に消えないことを祈りたい。頑張った蜂さんの努力が無駄にならないように。
今日は初の外出から5日。毎日繰り返した練習のおかげで今は100発90中くらいで失敗しなくなっている。だが二人を守るために妥協はできない。僕は、僕なりの戦いしかできないから。今できることをするだけ。
今日も杖を振るいに行きたい。だが僕はもう恥ずかしいの限界点を突破していた。
だからいつも通り朝食が終わって1時間ほど柔軟と筋トレをした後、出発準備に取り掛かろうとするカシルにお願いした。
「もう抱っこはやめたい」
その瞬間のカシルのこの世の終わり的な顔と言ったらなかった。
そして「ハルトライア様が現地で全力で練習されるためにも体力は温存しなければなりませんっ。それに風が当たるとお体は冷えてしまわれますっ。ハルトライア様の繊細なお体はいついかなる時でも私がお守りしなければならないのです!」と一生懸命に僕を説得しようとする。
なんだか泣きそうでかわいくて、結局僕は折れてしまった。
一応双方妥協ということで、行きはタイリートにまたがり、帰りは抱っことなったのだが。
しかし、それも意味をなさなかったということが、現在発覚している。僕の顔は真っ赤である。なぜならタイリートに二人乗りでぴったり僕の背後、頭からお尻までカシルに密着しているのだ。
カッポカッポと軽やかにタイリートが駆けるたびに僕の体は揺れてカシルと擦れる。好きと気づくまではそんなこと考えなかったが今はもう、色々と恥ずかしすぎるのだ。特にお尻ら辺が。
カシルのカシルの存在に気づいてしまったのが運の尽き。大人の夜のあれやこれを知ってるからこの体勢やめてなど9歳で言えるわけはない。
なんとか当たるのを避けようとしても、カシルの腕が僕の腰をしっかり抱きとめているから全く身動きが取れない。カシルは至って通常運転なのに僕だけ勝手にパニックになってるから余計たちが悪い。
まさか通常の二人乗りで羞恥心のさらなる限界突破とは……気づかなかった僕がダメだった。
20分も走れば息も絶え絶えになり「ごめん、止まって……」と音を上げた。
「ハルトライア様、やはりまだ早かったのでは……」
うん、別の意味で早かったよ。ていうか永遠にこの体勢はやめた方がいい。おじいさん騎士に興奮する9歳児とか目も当てられない。
カシルが手綱を引き、タイリートはゆっくり止まった。ぶるぶると鼻を鳴らしている。もう終わり? もっと走りたいんだけど。と催促された気がする。
ほんとごめんタイリート、僕は全力で何よりも先に一人乗りができるよう練習するよ。と再度心に誓った。
あたりを見渡せばうっそうとした木々ばかり。それにまだ家も近い。せめてもう少し奥に行きたいと思っていると
「ハルトライア様、どうぞ」
とカシルが肩にかけていたスリングを調節して僕に中に入るよう促した。
いや、本当にこれも恥ずかしいんだよ。でもカシルの体に触れるなら、こっちのほうがまだマシだった。そしてあっさりとカシルの胸で赤ちゃん抱っこになってしまう。
「お顔が少々赤くなっております。体調がすぐれないご様子です。お帰りになられますか?」
ぶんぶん顔を横に振った。
「いいからっ、進んでっ、杖使いたいからっ」
何とか答えて顔をそらせた。カシルの胸にうずめれば赤くなった顔を見られないから。恥ずかしいのに恥ずかしい恰好で顔を隠すとか、もう羞恥心で死にそうだ。
カシルが悪いんだ、優しくてかっこよくて広い胸板で優しくてかっこよくて剣の腕もすごくて優しくてかっこよくて食べ方も紳士で優しくてかっこよくて泣き虫で可愛いとか、とにかくカシルがダメなんだ! と責任転嫁した。
今日は午後に殿下が来られるからユアが来れなくてよかった。こんな僕を見られたら、ユアは色々と気づいてしまいそうだ。恋愛感情に関しては女性の方が敏感だから。
「かしこまりました」
返事と同時にカッポカッポと進みは再開した。僕の頭は好きと恥でいっぱいでぐるぐるしていたけれど、カシルは安定感のある腕で優しく抱きしめてくれるだけ。
憎らしいくらい僕の騎士は騎士だった。
しかしそれから10分もたたないうちにカシルがぐっと僕を強く抱きしめると同時にタイリートの綱を引いた。すぐにタイリートが足を止める。
「どうしたのっ?」
胸から顔を離しカシルを仰ぎ見る。行く先を鋭くにらむその顔はものすごく険しかった。
「ハルトライア様、何か、来ます」
低くささやく声。ぐぅ、カッコいい。と惚れてる場合じゃない。元騎士のカシルは気配にとても敏感だから、と思った瞬間僕の体がざわめいた。
「魔物だっ」
瘴気に敏感な【つる】より先に察するカシルは昔どんな騎士だったのだろう。超優秀だったとしか思えないんだけど。
カシルがすぐ浄化魔法を展開する。ざわめきが静かになったがこれはやばい状況だ。まだ家から30分も走っていない。洞窟まで約5キロの距離で魔物に遭遇するなんて。
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