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5章 中二病がうずきました
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森の木々を縫うように進んでいると、タイリートに並走するユアが声を上げた。
「ハル坊ちゃま、500メートルほど先に何かいます。排除してかまいませんか?」
「わかった、お願いするよ」
「かしこまりましたっ」
ヒュンッと駆けだしたユア。僕はカシルの大きな胸板によりかかるだけ。上から優しい声が降ってきた。
「ユア、喜んでいますね。ハルトライア様と遠出するのがとてもうれしいのでしょう。あ、もう倒しました。あれは……魔物ではなさそうです。ビッグレッドマウスですね。ユアは猫族なのでどうしてもネズミを見るとかまいたくなるのでしょう。今日の夕食になりますね」
カシルがなんだか饒舌で少し声も弾んでる。カシルの機嫌がいいと僕もうれしい。久しぶりの外で浮かれているのはみんなだね、と嬉しくなった。
僕もつられてクスと笑う。そしてユアに追いつくためにタイリートが速度を上げた。スリング越しに僕の腰に回されたカシルの腕がきゅうと軽くしまった。その引き締まった腕に僕もそっと自分の手を添える。風で少し冷えた手にぬくもりを分けてもらった。
もうすぐ追いつくというところでユアが振り返り赤いネズミを抱えてこちらに駆けてきた。30センチくらいの大きさだ。
「捕まえましたぁ~」
「ありがとうユア、タイリートの後ろに乗せてね」
タイリートを立ち止まらせ声を掛けたら、
「ハル坊ちゃま、苦しくないですか? 次は私がおんぶしましょうか? 私の背中もなかなか楽しいですよっ。昔よく乗ってくれてたじゃないですかっ」
ネズミを袋に入れてタイリートにヨイショとひっかけながら聞いてくる。
「ふふ、そうだね。ユアは力持ちだし、走りも飛びっきり早いし、何度もおんぶして走ってもらったよね」
おんぶしたまま塀の上やら屋根の上やら駆けあがってくれたこともある。危ないからやめろとカシルに怒られたけれど、僕がねだってこっそりまた屋根の上まで連れて行ってもらったことも懐かしい。
「いつでも言って下さいねっ。私も楽しいですからっ」
「じゃあ、またお願いするね」
「何なら今すぐでもっ」
ぐっと上腕二頭筋を縮めて力こぶを作ったユア。僕と大して変わらない細い腕なのに、100キロ程度なら持ち上げることができるらしい。ユアは本当にすごい。
くすくす笑ったとき、僕の腰にある腕がギュッとしまった。
「ハルトライア様は私がお守りいたしますのでご安心ください」
ユアの笑顔が一瞬でひねくれた。
「ハル坊ちゃまを独り占めするなんて横暴執事もひどいですねっ」
「私はいつもハルトライア様の安全を考えているのです」
「そんなこと言ってますが、カシルさん結構人の気持ちわかんないですよね。まあ、今日はタイリートに乗りたい坊ちゃまのお気持ち優先なので我慢しますけど。次回は私と遊びましょうっ」
ユアは抱っこスタイルを僕が恥ずかしいと思っていることを気づいていたようだ。ちらりとカシルを見上げれば少々困惑の表情。絶対わかっていない。ユアの言う通り鈍感カシルだった。
「ありがとうユア」
僕はユアに笑顔を返した。60超えの執事に気後れせずなんでも指摘する彼女は、年をとるに連れて肝っ玉母さんの雰囲気を醸し出してきている。あと10年もすれば無敵になりそうだ。
そうしてまた走り出した僕たち。しかしあと1キロ弱で洞窟、というところであたりの様子が変わった。薄い瘴気が漂っている。
僕の体の【つる】がうぞと揺らめいた。
「魔物がいる!」
叫んだ僕にカシルが浄化魔法をかけ「ユアっ、止まってください!」と叫ぶ。タイリートもだんだん速度を落としてゆく。少しひらけた場所で立ち止まった。
あたりの木を見渡せば、木の枝のあちこちで紫色が光っている。
「っ、鳥?!」
20羽ほどはいそうだ。ユアがヒュッと身軽にジャンプして木の枝に移る。その衝撃で隠れていた鳥たちが一気に羽ばたいた。ブルークロウだ。こちらに一直線に飛んでくる。
ぶつかるまで10秒もない。そう一瞬で判断した僕は「シールド!」と叫び障壁を展開した。淡い紫に光るドームがタイリートごと僕たちを包みこむ。
僕を抱くカシルの左腕にぎゅうっと力が入った。
紫色の障壁にキン!キン!!と甲高い音を立てて鳥が当たる。衝撃で地面に落ちるがすぐ飛び上がった。繰り返し飽きることなく障壁にぶつかっていく。
魔石にしたくはないが、数が多すぎる。僕の紫玉生成は1体づつしか対応できないのだ。
「カシル! ユア! やっつけて!」
「はいっ!」
「はっ!!」
短い返事と同時にユアが木から跳ね上がり、飛ぶ鳥に猛烈な右蹴りを食らわせた。メイドスカートがきれいな円に広がる。まるでダンスしているようだ。2羽目はその勢いのまま鋭い右ストレート。地面に着地したとたん右に再ジャンプし三羽目を左エルボーで殴り落としていく。
カシルは腰の剣を抜いた。刀身が緑に光る。カシルの魔力で剣が強化されたのだ。キンキンと当たり続ける一羽に狙いを定め片腕で剣をふるう。ヒュン!と鋭い風切り音。
ひと振りで僕の障壁ごとザシュと鳥を縦真っ二つに斬り裂いた。僕はすぐさま切られた障壁に魔力を通し修復する。
ヒュン! ザンッ! ヒュン! ズバッ!
緑の光剣が横に斜めにと一閃を残す度、血しぶきが舞う。僕は鋭い剣筋を追うように障壁を張り直した。繰り返すこと約10回。ようやくすべての鳥が地面に落ちた。
立ち上がらないことを確認し、僕は障壁を解除する。
始めに落ちたブルークロウたちはすでに小さな黒い魔石に変化していた。
「ごめん、魔物のまま殺してしまって」
聞こえないのはわかっているが、ささやいた。それくらいしか僕にはできないから。
「ハル坊ちゃま、500メートルほど先に何かいます。排除してかまいませんか?」
「わかった、お願いするよ」
「かしこまりましたっ」
ヒュンッと駆けだしたユア。僕はカシルの大きな胸板によりかかるだけ。上から優しい声が降ってきた。
「ユア、喜んでいますね。ハルトライア様と遠出するのがとてもうれしいのでしょう。あ、もう倒しました。あれは……魔物ではなさそうです。ビッグレッドマウスですね。ユアは猫族なのでどうしてもネズミを見るとかまいたくなるのでしょう。今日の夕食になりますね」
カシルがなんだか饒舌で少し声も弾んでる。カシルの機嫌がいいと僕もうれしい。久しぶりの外で浮かれているのはみんなだね、と嬉しくなった。
僕もつられてクスと笑う。そしてユアに追いつくためにタイリートが速度を上げた。スリング越しに僕の腰に回されたカシルの腕がきゅうと軽くしまった。その引き締まった腕に僕もそっと自分の手を添える。風で少し冷えた手にぬくもりを分けてもらった。
もうすぐ追いつくというところでユアが振り返り赤いネズミを抱えてこちらに駆けてきた。30センチくらいの大きさだ。
「捕まえましたぁ~」
「ありがとうユア、タイリートの後ろに乗せてね」
タイリートを立ち止まらせ声を掛けたら、
「ハル坊ちゃま、苦しくないですか? 次は私がおんぶしましょうか? 私の背中もなかなか楽しいですよっ。昔よく乗ってくれてたじゃないですかっ」
ネズミを袋に入れてタイリートにヨイショとひっかけながら聞いてくる。
「ふふ、そうだね。ユアは力持ちだし、走りも飛びっきり早いし、何度もおんぶして走ってもらったよね」
おんぶしたまま塀の上やら屋根の上やら駆けあがってくれたこともある。危ないからやめろとカシルに怒られたけれど、僕がねだってこっそりまた屋根の上まで連れて行ってもらったことも懐かしい。
「いつでも言って下さいねっ。私も楽しいですからっ」
「じゃあ、またお願いするね」
「何なら今すぐでもっ」
ぐっと上腕二頭筋を縮めて力こぶを作ったユア。僕と大して変わらない細い腕なのに、100キロ程度なら持ち上げることができるらしい。ユアは本当にすごい。
くすくす笑ったとき、僕の腰にある腕がギュッとしまった。
「ハルトライア様は私がお守りいたしますのでご安心ください」
ユアの笑顔が一瞬でひねくれた。
「ハル坊ちゃまを独り占めするなんて横暴執事もひどいですねっ」
「私はいつもハルトライア様の安全を考えているのです」
「そんなこと言ってますが、カシルさん結構人の気持ちわかんないですよね。まあ、今日はタイリートに乗りたい坊ちゃまのお気持ち優先なので我慢しますけど。次回は私と遊びましょうっ」
ユアは抱っこスタイルを僕が恥ずかしいと思っていることを気づいていたようだ。ちらりとカシルを見上げれば少々困惑の表情。絶対わかっていない。ユアの言う通り鈍感カシルだった。
「ありがとうユア」
僕はユアに笑顔を返した。60超えの執事に気後れせずなんでも指摘する彼女は、年をとるに連れて肝っ玉母さんの雰囲気を醸し出してきている。あと10年もすれば無敵になりそうだ。
そうしてまた走り出した僕たち。しかしあと1キロ弱で洞窟、というところであたりの様子が変わった。薄い瘴気が漂っている。
僕の体の【つる】がうぞと揺らめいた。
「魔物がいる!」
叫んだ僕にカシルが浄化魔法をかけ「ユアっ、止まってください!」と叫ぶ。タイリートもだんだん速度を落としてゆく。少しひらけた場所で立ち止まった。
あたりの木を見渡せば、木の枝のあちこちで紫色が光っている。
「っ、鳥?!」
20羽ほどはいそうだ。ユアがヒュッと身軽にジャンプして木の枝に移る。その衝撃で隠れていた鳥たちが一気に羽ばたいた。ブルークロウだ。こちらに一直線に飛んでくる。
ぶつかるまで10秒もない。そう一瞬で判断した僕は「シールド!」と叫び障壁を展開した。淡い紫に光るドームがタイリートごと僕たちを包みこむ。
僕を抱くカシルの左腕にぎゅうっと力が入った。
紫色の障壁にキン!キン!!と甲高い音を立てて鳥が当たる。衝撃で地面に落ちるがすぐ飛び上がった。繰り返し飽きることなく障壁にぶつかっていく。
魔石にしたくはないが、数が多すぎる。僕の紫玉生成は1体づつしか対応できないのだ。
「カシル! ユア! やっつけて!」
「はいっ!」
「はっ!!」
短い返事と同時にユアが木から跳ね上がり、飛ぶ鳥に猛烈な右蹴りを食らわせた。メイドスカートがきれいな円に広がる。まるでダンスしているようだ。2羽目はその勢いのまま鋭い右ストレート。地面に着地したとたん右に再ジャンプし三羽目を左エルボーで殴り落としていく。
カシルは腰の剣を抜いた。刀身が緑に光る。カシルの魔力で剣が強化されたのだ。キンキンと当たり続ける一羽に狙いを定め片腕で剣をふるう。ヒュン!と鋭い風切り音。
ひと振りで僕の障壁ごとザシュと鳥を縦真っ二つに斬り裂いた。僕はすぐさま切られた障壁に魔力を通し修復する。
ヒュン! ザンッ! ヒュン! ズバッ!
緑の光剣が横に斜めにと一閃を残す度、血しぶきが舞う。僕は鋭い剣筋を追うように障壁を張り直した。繰り返すこと約10回。ようやくすべての鳥が地面に落ちた。
立ち上がらないことを確認し、僕は障壁を解除する。
始めに落ちたブルークロウたちはすでに小さな黒い魔石に変化していた。
「ごめん、魔物のまま殺してしまって」
聞こえないのはわかっているが、ささやいた。それくらいしか僕にはできないから。
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