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5章 中二病がうずきました
1.
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それから僕は二人を部屋に呼び戻した。
先生との時間はもう10分しか残っていない。
「ハルトライア様っ!」
「ハル坊ちゃま!」
二人とも不安な顔のままに僕の名前を呼び飛び込んでくる。
「ハル坊ちゃまっ! 瞳がっ!」
ユアの声で気づいた。先生の強い浄化魔法ですっかり目薬の効果が消えてしまったのだ。
「あぁユア、大丈夫。先生はもう「本っ当にきれいな瞳だねっ。最高級の宝石みたいだ。もうね、トラ君の瞳を見てから私はぞくぞくが止まらないよっ。王家の瑠璃青に全く劣ることのない淀みの欠片もない完っ璧な瞳だ。すばらしいよ!」」
僕の声にかぶせて発言した先生は、僕の瞳を覗き込み歓喜の声を上げる。
この人のこういうところは直した方がいいと思う。
ていうか完璧って何? 完璧な魔物の目ってことだよね? と至近距離にある先生の緑の瞳をジト目で見たとき、ふと気づいたことがあった。
「先生の左目のモノクル、不思議な陣が書いてありますね」
「ああ、よくわかったねっ。せっかくだから教えてあげるっ。これはねえ、発動してる魔法を見ることができるんだよっ。心血を注いで作った便利な道具の一つさっ。例えば君の瞳に魔法がかけられているのは出会ったときにすぐわかったよ。残念ながら発現している魔法の種類はわからないから、そこは経験で推測さ。瞳にかける魔法なら、幻影、能力感知、魅了や幻覚などのかく乱魔法、とかがあるよね。君の場合はユア君の偽装魔法だったわけだ」
「すごいですね、では魔法で仕掛けられた罠があっても避けれられますね。殿下に差し上げたら喜びそうです」
「いやぁ、それが無理なんだ。実は殿下に一回貸したら組み込んだ陣が消えちゃってねぇ。原因はまだ判明してないけど、殿下の光属性で強力な魔力がなにか影響してるなんじゃないかと思ってる。そうだ! トラ君もつけてみてよっ。殿下と同じくらいの魔力あるトラ君がつけて陣が消えなかったら、属性が陣消滅に関係している可能性が上がるからっ」
「カルシード公爵夫人、間もなくお時間となります。そろそろご準備を」
勢いをとめずしゃべり続けるファリア先生にカシルが帰宅を促すけれど
「トラ君がつけたら帰るよぉ。あ、これは上級魔法陣を色々改造して組み込んで作ったんだ。だからね、確認できるのは中級魔法と初級魔法のみ。上級と特級、あと神級は無理なんだ。まあ、上級魔法だってなかなかお目にかかれない魔法だから、そこそこ役に立つよ」
とまだまだ終わらなそうだ。ちらとカシルを見れば苦虫をつぶしたような顔。
先生は他人の魔力量を推し量れるのか。このような人はそうそういないだろう。カシルや殿下に僕の魔力量について何も言われたことはないから。ファリア先生はきっと特殊な訓練をうけたのだろうと推測した。
「僕は、殿下と同じくらい魔力があるのですか?」
モノクルを借りて目に着けながら聞いた。
「うんっ。トラ君すごいよっ。ずっと頑張ってきた証拠だねぇ。魔力を使い切るくらいの鍛錬を何度もしてきたんだろう? えらいえらいっ」
僕の頭をぐりぐりと撫でた。カシルより力強くてちょっと痛い。でも、初めて二人以外の人間に褒められた。すごくうれしい。自分の魔力を限界近くまで使い切ると、魔力量は少しずつ増えていく。昔カシルにそう教えてもらったことを思い出した。
でも僕が魔力が多いのはのちに魔王になるからでは? と思いつつモノクルをつけた。しかし景色にこれと言って変化はない。
しばらくモノクルを真剣なまなざしで凝視していた先生がぱあぁと笑顔になった。
「やった! 壊れないねっ。となると原因は属性にある可能性が高いなぁ。じゃあ、魔法かけてみよう。えーっと」
キョロキョロとあたりを見渡したファリア先生は「あれにしよう」とカートに駆け寄った。そして先ほど自分が飲み干したカップを手に取る。
「見てみて」
先生の手にあるカップを見ると、1秒程度でカップの姿が薄くなったり濃くなったりしている。そのカップには液体が入っていた。紅茶の香りもする。
「初級の幻覚魔法だよ。モノクルつけてる目を閉じてたら揺らぎが消えるよ」
閉じてみると言葉通りと確認した。なんて便利な魔道具なんだろう。この人は歴史を研究しながらもこんな魔道具まで開発している。
とてもすごい研究者と知り合いになれたことに感動しながら、モノクルをはずして返した。
「ありがとうございました、ファリア先生。今日は僕が取り乱したために、貴重なお時間を無駄にして大変申し訳ありませんでした。次回からはこのようなことはないとお約束いたします。どうか僕にご教授よろしくお願いいたします」
「ふふ、トラ君、敬語じゃなくていいよっ。これから色々頑張ろうねっ」
また僕の頭をぐりぐりと撫でまわす。色々が意味深な気がして、少し顔がじわと赤くなってしまった。
カシルに車いすを押してもらって玄関まで先生を送る。ユアはお茶の片付けと晩御飯の準備でもう退出していたから。
「ファリア先生、次回は来週のこの時間でよいでしょうか?」
敬語はいらないと言われたがやはり生徒なら先生を立てるべきと思い、そのままにしておいた。
「了解っ。あ、来週までに何かしてほしいことあったら言ってよ。できることやっとくし」
「それでは、僕の【つる】について載っている文献などあれば、調べていただきたいです。あと、使いやすい武器を探しております。何か提案していただけたら、うれしいです」
「じゃあ、これ使いなよっ」
先生との時間はもう10分しか残っていない。
「ハルトライア様っ!」
「ハル坊ちゃま!」
二人とも不安な顔のままに僕の名前を呼び飛び込んでくる。
「ハル坊ちゃまっ! 瞳がっ!」
ユアの声で気づいた。先生の強い浄化魔法ですっかり目薬の効果が消えてしまったのだ。
「あぁユア、大丈夫。先生はもう「本っ当にきれいな瞳だねっ。最高級の宝石みたいだ。もうね、トラ君の瞳を見てから私はぞくぞくが止まらないよっ。王家の瑠璃青に全く劣ることのない淀みの欠片もない完っ璧な瞳だ。すばらしいよ!」」
僕の声にかぶせて発言した先生は、僕の瞳を覗き込み歓喜の声を上げる。
この人のこういうところは直した方がいいと思う。
ていうか完璧って何? 完璧な魔物の目ってことだよね? と至近距離にある先生の緑の瞳をジト目で見たとき、ふと気づいたことがあった。
「先生の左目のモノクル、不思議な陣が書いてありますね」
「ああ、よくわかったねっ。せっかくだから教えてあげるっ。これはねえ、発動してる魔法を見ることができるんだよっ。心血を注いで作った便利な道具の一つさっ。例えば君の瞳に魔法がかけられているのは出会ったときにすぐわかったよ。残念ながら発現している魔法の種類はわからないから、そこは経験で推測さ。瞳にかける魔法なら、幻影、能力感知、魅了や幻覚などのかく乱魔法、とかがあるよね。君の場合はユア君の偽装魔法だったわけだ」
「すごいですね、では魔法で仕掛けられた罠があっても避けれられますね。殿下に差し上げたら喜びそうです」
「いやぁ、それが無理なんだ。実は殿下に一回貸したら組み込んだ陣が消えちゃってねぇ。原因はまだ判明してないけど、殿下の光属性で強力な魔力がなにか影響してるなんじゃないかと思ってる。そうだ! トラ君もつけてみてよっ。殿下と同じくらいの魔力あるトラ君がつけて陣が消えなかったら、属性が陣消滅に関係している可能性が上がるからっ」
「カルシード公爵夫人、間もなくお時間となります。そろそろご準備を」
勢いをとめずしゃべり続けるファリア先生にカシルが帰宅を促すけれど
「トラ君がつけたら帰るよぉ。あ、これは上級魔法陣を色々改造して組み込んで作ったんだ。だからね、確認できるのは中級魔法と初級魔法のみ。上級と特級、あと神級は無理なんだ。まあ、上級魔法だってなかなかお目にかかれない魔法だから、そこそこ役に立つよ」
とまだまだ終わらなそうだ。ちらとカシルを見れば苦虫をつぶしたような顔。
先生は他人の魔力量を推し量れるのか。このような人はそうそういないだろう。カシルや殿下に僕の魔力量について何も言われたことはないから。ファリア先生はきっと特殊な訓練をうけたのだろうと推測した。
「僕は、殿下と同じくらい魔力があるのですか?」
モノクルを借りて目に着けながら聞いた。
「うんっ。トラ君すごいよっ。ずっと頑張ってきた証拠だねぇ。魔力を使い切るくらいの鍛錬を何度もしてきたんだろう? えらいえらいっ」
僕の頭をぐりぐりと撫でた。カシルより力強くてちょっと痛い。でも、初めて二人以外の人間に褒められた。すごくうれしい。自分の魔力を限界近くまで使い切ると、魔力量は少しずつ増えていく。昔カシルにそう教えてもらったことを思い出した。
でも僕が魔力が多いのはのちに魔王になるからでは? と思いつつモノクルをつけた。しかし景色にこれと言って変化はない。
しばらくモノクルを真剣なまなざしで凝視していた先生がぱあぁと笑顔になった。
「やった! 壊れないねっ。となると原因は属性にある可能性が高いなぁ。じゃあ、魔法かけてみよう。えーっと」
キョロキョロとあたりを見渡したファリア先生は「あれにしよう」とカートに駆け寄った。そして先ほど自分が飲み干したカップを手に取る。
「見てみて」
先生の手にあるカップを見ると、1秒程度でカップの姿が薄くなったり濃くなったりしている。そのカップには液体が入っていた。紅茶の香りもする。
「初級の幻覚魔法だよ。モノクルつけてる目を閉じてたら揺らぎが消えるよ」
閉じてみると言葉通りと確認した。なんて便利な魔道具なんだろう。この人は歴史を研究しながらもこんな魔道具まで開発している。
とてもすごい研究者と知り合いになれたことに感動しながら、モノクルをはずして返した。
「ありがとうございました、ファリア先生。今日は僕が取り乱したために、貴重なお時間を無駄にして大変申し訳ありませんでした。次回からはこのようなことはないとお約束いたします。どうか僕にご教授よろしくお願いいたします」
「ふふ、トラ君、敬語じゃなくていいよっ。これから色々頑張ろうねっ」
また僕の頭をぐりぐりと撫でまわす。色々が意味深な気がして、少し顔がじわと赤くなってしまった。
カシルに車いすを押してもらって玄関まで先生を送る。ユアはお茶の片付けと晩御飯の準備でもう退出していたから。
「ファリア先生、次回は来週のこの時間でよいでしょうか?」
敬語はいらないと言われたがやはり生徒なら先生を立てるべきと思い、そのままにしておいた。
「了解っ。あ、来週までに何かしてほしいことあったら言ってよ。できることやっとくし」
「それでは、僕の【つる】について載っている文献などあれば、調べていただきたいです。あと、使いやすい武器を探しております。何か提案していただけたら、うれしいです」
「じゃあ、これ使いなよっ」
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