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3章 生きていたのでまた頑張ります
3.
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どうだって言われても、四六時中殿下といるとか物理的に無理に決まってるじゃん、それに王城に瘴気がどんだけあると思ってんの。とにかく王城に行きたくないし、婚約も無理。
考えてたら、頭がくらくらしてきた。多分酸欠。緊張して呼吸が浅くなって、でも筋力がないから深呼吸ができない。
グラ、と揺れた体を傍のカシルが支えてくれる。口元に彼の耳が来たからちょうどよいと僕はささやいた。
「ことあって、かえって」(ことわって、かえって)
かすかにうなづいたカシルは、そっと僕を布団に横たえると、目元を大きな撫でてくれた。これ幸いと目をつぶる。もう寝たふりだ。
「申し訳ございません。国王陛下、王子殿下。ハルトライア様の体調がよろしくありません。本日はお引き取り願えないでしょうか」
その後本当に寝てしまったのでどんな会話がされたのかわからない。目が覚めたら翌日でした。カシルからは婚約案件はまた今度となったことだけ聞いた。永久に今度でいいよ。
*****
そうして、僕は少しずつリハビリを始めた。赤ちゃんに戻ったと思って、イチからがんばる。まず腕を持ち上げられるように。それから寝返りができるように。順に背筋、腹筋を少しずつ鍛え、ハイハイからつかまり立ち、と本当にイチからだった。
声を出す練習には本を朗読し続けた。一人でもできるから合間に何度もやった。本を持ち上げることもリハビリだしね。魔導書を使えば勉強にもなる。
リハビリばかりだが、できることが増えると僕もうれしくなる。今日は杖をついて窓まで歩けた。本当に嬉しくて、ちょっと涙が出た。
「ハルトライア様、お庭でお茶にしませんか?」
カシルの優しい声に「うん」と僕はうなずく。
その時、ユアがやってきた。
「殿下が来られております」
「また? てか、先ぶれ出してほしいんだけどね」
「先ぶれとほぼ同時に来られましたので」
「それじゃ意味ないでしょ」
目覚めてから半年たった。言葉はもうスムーズ、僕頑張った。そして殿下と僕はまだ婚約してない。もちろんするつもりはないと何度も申し上げている。
しかし殿下は週に一回必ずやってくる。いや、時間があれば一度といわずだ。今日だってそう。昨日が決められた週一の機会だったのに。
「とりあえず殿下には庭で待ってもらってよ。僕は着替えてから行くから」
「かしこまりました。カシルさん、ハル坊ちゃまの着替え、よろしくお願いいたします。力任せにしてはだめですからねっ」
ユアはカシルに小言をひとつ言った。目覚めてから気づいたのだが、カシルに対するユアの態度が2年半前と変わっている。
カシルは男だし、元騎士で細身ではあるが体格もいい部類。つまりどうしても力が強い。しかし僕のような病弱仕様を扱うなら細心の注意がいるわけで。僕が寝ている間きっとユアがカシルにいろんな注意をこんこんと教えたのだろう。
ユアが踵を返し去ったのをみてカシルに振り向いた。服を着替えるのを手伝ってもらう。どうも貴族の服は着替えにくいんだ。肌にピタッとしてるし。でも殿下に失礼になってはいけないから着替える。もちろん服は破れたりしないしきれいに着れた。
大丈夫だよユア、カシル丁寧だったよ、って後で教えよう。
そして車いすまで頑張って歩く。あとはカシルにお任せ。車いすの後ろにある持ち手をつかみ、ゆっくりと歩んでくれるんだ。その前に目薬を、って忘れてた僕の瞳にさしてくれた。
「いつもありがとう、カシル」
いいえと答えた彼の優しい声。聞くだけで幸せだ。そうだ、今度カシルにも音読してもらおう。きっと耳が気持ちいい。大好きなカシルの声なら、一瞬で寝られそうだけど。
カシルが優しく押してくれると、キイ、と車いすのタイヤが少しきしんだ。「おや、油を差さないといけませんね」と揺らぐ声にうなずく。
この車いすに乗れたのは一月前。それまではずっとカシルに抱っこしてもらっていた。筋力がなさ過ぎて椅子に座る姿勢で長い間自分の体を支えられなかったから。
今日は窓まで歩けたことにうれしくてちょっと涙出たけど、この半年、悔しくて何度も泣いた。体が動かないことがこんなにつらいとは思わなかった。
リハビリ中にコケた僕が
「なんで、っ、うごかないんだっ うごけよぉっ」
と怒りと苛立ちで自分の足をたたき泣きわめく。そんな時、カシルはただ、静かに抱きしめてくれた。
手伝ってくれるカシルをポカポカ殴って憂さ晴らしを何度もした。もちろん僕の弱々しいパンチじゃ、鍛えた老騎士のカシルはものともしない。
しばらく僕に殴られた後、「こぶしを痛めてしまいますよ」とそっと僕の手を優しく包んでくれた。
その優しさにもイライラして悔しくて涙が出た。赤子同然からのリハビリで僕の精神はちょっとおかしくなっていたんだと思う。
「うごかな、い、もう、切っちゃえばいんだっ、こんな足っもっ、手もっ」
と叫んだこともある。
棒切れのようなガリガリの足と手からの脱却は僕一人では絶対できなかった。
カシルとユアがいたから、ここまで来れた。二人は僕がどんなに喚き散らしても、決して僕を見放さなかった。
責めることなく、僕の理不尽な怒りを受け止めそして手を差し伸べて応援してくれた。
思い出したらまた違う意味で涙出そうになった。
思わず鼻をすすると「寒いですか? カーディガン持ってまいりますね」とカシルが素早く動いた。
違うとは言えなかったので、静かに彼を待ち、渡されたそれを羽織る僕。
カシルの目と同じ緑色だったのでうれしかった。
半年たっても、僕はまだ走ることもできない。
日常生活が円滑に過ごせるようになるには、あと3,4か月かかるだろうと踏んでいる。
カシルと剣を交えられるようになるのはいつだろう。
早く始めないと、カシルとの約束まであと5年もないんだ。
考えてたら、頭がくらくらしてきた。多分酸欠。緊張して呼吸が浅くなって、でも筋力がないから深呼吸ができない。
グラ、と揺れた体を傍のカシルが支えてくれる。口元に彼の耳が来たからちょうどよいと僕はささやいた。
「ことあって、かえって」(ことわって、かえって)
かすかにうなづいたカシルは、そっと僕を布団に横たえると、目元を大きな撫でてくれた。これ幸いと目をつぶる。もう寝たふりだ。
「申し訳ございません。国王陛下、王子殿下。ハルトライア様の体調がよろしくありません。本日はお引き取り願えないでしょうか」
その後本当に寝てしまったのでどんな会話がされたのかわからない。目が覚めたら翌日でした。カシルからは婚約案件はまた今度となったことだけ聞いた。永久に今度でいいよ。
*****
そうして、僕は少しずつリハビリを始めた。赤ちゃんに戻ったと思って、イチからがんばる。まず腕を持ち上げられるように。それから寝返りができるように。順に背筋、腹筋を少しずつ鍛え、ハイハイからつかまり立ち、と本当にイチからだった。
声を出す練習には本を朗読し続けた。一人でもできるから合間に何度もやった。本を持ち上げることもリハビリだしね。魔導書を使えば勉強にもなる。
リハビリばかりだが、できることが増えると僕もうれしくなる。今日は杖をついて窓まで歩けた。本当に嬉しくて、ちょっと涙が出た。
「ハルトライア様、お庭でお茶にしませんか?」
カシルの優しい声に「うん」と僕はうなずく。
その時、ユアがやってきた。
「殿下が来られております」
「また? てか、先ぶれ出してほしいんだけどね」
「先ぶれとほぼ同時に来られましたので」
「それじゃ意味ないでしょ」
目覚めてから半年たった。言葉はもうスムーズ、僕頑張った。そして殿下と僕はまだ婚約してない。もちろんするつもりはないと何度も申し上げている。
しかし殿下は週に一回必ずやってくる。いや、時間があれば一度といわずだ。今日だってそう。昨日が決められた週一の機会だったのに。
「とりあえず殿下には庭で待ってもらってよ。僕は着替えてから行くから」
「かしこまりました。カシルさん、ハル坊ちゃまの着替え、よろしくお願いいたします。力任せにしてはだめですからねっ」
ユアはカシルに小言をひとつ言った。目覚めてから気づいたのだが、カシルに対するユアの態度が2年半前と変わっている。
カシルは男だし、元騎士で細身ではあるが体格もいい部類。つまりどうしても力が強い。しかし僕のような病弱仕様を扱うなら細心の注意がいるわけで。僕が寝ている間きっとユアがカシルにいろんな注意をこんこんと教えたのだろう。
ユアが踵を返し去ったのをみてカシルに振り向いた。服を着替えるのを手伝ってもらう。どうも貴族の服は着替えにくいんだ。肌にピタッとしてるし。でも殿下に失礼になってはいけないから着替える。もちろん服は破れたりしないしきれいに着れた。
大丈夫だよユア、カシル丁寧だったよ、って後で教えよう。
そして車いすまで頑張って歩く。あとはカシルにお任せ。車いすの後ろにある持ち手をつかみ、ゆっくりと歩んでくれるんだ。その前に目薬を、って忘れてた僕の瞳にさしてくれた。
「いつもありがとう、カシル」
いいえと答えた彼の優しい声。聞くだけで幸せだ。そうだ、今度カシルにも音読してもらおう。きっと耳が気持ちいい。大好きなカシルの声なら、一瞬で寝られそうだけど。
カシルが優しく押してくれると、キイ、と車いすのタイヤが少しきしんだ。「おや、油を差さないといけませんね」と揺らぐ声にうなずく。
この車いすに乗れたのは一月前。それまではずっとカシルに抱っこしてもらっていた。筋力がなさ過ぎて椅子に座る姿勢で長い間自分の体を支えられなかったから。
今日は窓まで歩けたことにうれしくてちょっと涙出たけど、この半年、悔しくて何度も泣いた。体が動かないことがこんなにつらいとは思わなかった。
リハビリ中にコケた僕が
「なんで、っ、うごかないんだっ うごけよぉっ」
と怒りと苛立ちで自分の足をたたき泣きわめく。そんな時、カシルはただ、静かに抱きしめてくれた。
手伝ってくれるカシルをポカポカ殴って憂さ晴らしを何度もした。もちろん僕の弱々しいパンチじゃ、鍛えた老騎士のカシルはものともしない。
しばらく僕に殴られた後、「こぶしを痛めてしまいますよ」とそっと僕の手を優しく包んでくれた。
その優しさにもイライラして悔しくて涙が出た。赤子同然からのリハビリで僕の精神はちょっとおかしくなっていたんだと思う。
「うごかな、い、もう、切っちゃえばいんだっ、こんな足っもっ、手もっ」
と叫んだこともある。
棒切れのようなガリガリの足と手からの脱却は僕一人では絶対できなかった。
カシルとユアがいたから、ここまで来れた。二人は僕がどんなに喚き散らしても、決して僕を見放さなかった。
責めることなく、僕の理不尽な怒りを受け止めそして手を差し伸べて応援してくれた。
思い出したらまた違う意味で涙出そうになった。
思わず鼻をすすると「寒いですか? カーディガン持ってまいりますね」とカシルが素早く動いた。
違うとは言えなかったので、静かに彼を待ち、渡されたそれを羽織る僕。
カシルの目と同じ緑色だったのでうれしかった。
半年たっても、僕はまだ走ることもできない。
日常生活が円滑に過ごせるようになるには、あと3,4か月かかるだろうと踏んでいる。
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