【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん

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2章 なんとかならなかったです

1.

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 なんとかなる、そう思っていた時が、僕にもあった。
 しかし世の中思い通りには行かない。これがいわゆる物語の強制力、いや矯正力なのか。

「この度は、国の太陽、国王陛下、国の輝ける明星、第3王子殿下にお目通り叶いご挨拶出来ますこと、心より嬉しく思います。リフシャル候爵家4男、ハルトライア=ミュー=リフシャルでございます」

 王城の一角、薔薇やら百合やらとにかく美しい花の咲き乱れる中庭で、深々と頭を下げて挨拶する僕。隣に立つ腹違いでひとつ下の弟も同様のセリフを言った。

 弟は第2夫人の子でヒルトバルドと言う。サラサラの青い髪で瞳は赤。赤はリフシャル家の色で青は第2夫人の実家であるルーデンス公爵家の色、つまり弟は炎と水の属性を持つことを意味する。僕は一応火は少し使えるが、いかんせん瞳が紫、闇属性魔法が超得意です。

 人はみな、瞳の色に反映されている属性の方が髪の色の属性より体に適応している。もちろん僕の瞳の色はユアとカシルしか知らないけれど。それにバレたら困るから今は灰色だ。灰色の瞳は魔力の無い人に多いから、この色しかしらない父にとって、これが僕に興味がない理由の一つでもある。

 しかし、最悪だ。なぜだ? どうして今日が殿下と出会う日なんだ!? と内心イライラした。記憶が戻ってからまだ3年しか経っていない、まだ会うには早いというのに。ゼロエンとストーリーが変わっている? 僕が前世を思い出したせい? 
 てか今すぐ父親に全力で文句言いたい。王城に来い、という情報しか僕にくれなかった。第3王子殿下とお会いするとわかっていたらもっと準備してきたのに。

「二人共、面をあげよ」
 国王陛下のお声掛けから貴族ルール通り2秒後に姿勢を戻す。カシルに貴族の心得をある程度教えてもらっていてよかった。僕の家庭教師優秀。
 そうして初めてみた殿下は、それは驚くほどの……!!
 とりあえず叫ばなかったことを褒めてあげたい、頑張った僕。
 しかし隣の弟は「ひぃっ」と喉を引きつらせて腰を抜かした。

「カッ、カッ、カエッ!」

 あーあ、こりゃ駄目だ。やはり矯正力は凄すぎる。僕はどうやっても王子の婚約者になるらしい。腰を抜かし震える弟ヒルトバルドはそのまま衛兵に引きずられてこの場から消えた。残されたのは父(さっき初めて会った)と僕と王様と殿下。

「見苦しい姿を御目に入れてしまい誠に申し訳ございません」

 父、レントリオル=ミュー=リフシャルは深々と頭を下げた。侯爵当主であり城下の警備の総責任者である(一応町を守る第4騎士団の長)髪も瞳も赤で少々荒くれの顔つきだ。僕の赤い髪も三白眼もどうやら父親譲りらしい。

「かまわぬ、あれが通常の反応だ。しかしこちらは肝が座っておるな。いや、見えていないのかもしれぬ。お主が別邸で密かに育てていた噂の息子か。場合によっては婚約者に推薦できそうだな」

「は、もったいなきお言葉、ありがとうございます」

 父と陛下がそんな会話をしている間、僕はじっと殿下らしきものを凝視していた。というのは、とにかく真っ黒な瘴気が渦巻いていて実のところ何にも見えなかったからだ。
「父上、そろそろ着席いたしませんか?」と声がするから瘴気の中に人がいるのだろうことはわかるが。

 この真っ黒瘴気をみて物語の一端を少し思い出した。僕が殿下と婚約者になったのは、殿下の瘴気を僕の背中が吸って人の姿に戻したからだ。僕の目にはただの瘴気の塊にしか見えないこれ。しかしあまり魔力のない人間には緑色のブヨブヨしたヒキガエルのような肌にギラギラと瑠璃青の目が光る魔物に見えるらしい。はい、簡潔に言って呪いです。誰かが殿下に呪いの魔法、この世界では呪法と呼ばれる魔法をかけた結果だ。

 そして僕の弟は瘴気が見え水属性の浄化魔法がそこそこ使える。そばにいれば殿下の呪いを消せるかもしれないと思ってのお目通りだった。しかしヒキガエルの姿に見えたことで能力が足りない認定を受け、腰も抜かしてしまった。要するに最悪な結果だ。殿下7歳の子供の心は傷ついて閉じてしまっただろう。やはり弟との婚約は無理だ。

 僕はヒキガエルに見えないから、弟のように怖さは感じない、しかし実は僕の背中の模様がなにやらウズウズしている。渦から少しずつ飛んでくる瘴気に反応しているのだろう。
 そう、この背中のせいでゼロエンの僕は9歳の時に出会った黒固まり(殿下)の瘴気を全部吸い取ってしまい、結果殿下を救った褒美に婚約者になったのだ。まぁ誰も吸い取ったとは気づいていない、払ったと判断したのだろうけれど。
 原作の僕はそれを自分が認められたと思い嬉しくてそれにすがった。殿下の周りにあらわれる瘴気を吸い続けたのだ。体に出る【つる】すらも愛のあかしと思っていた。そうして最後には魔王になってしまう。

 今の僕は絶対そんなことはしない。そしてバレてはいけない。
 じっと黒固まりを見つめていると、チラ、チラと青や金に光る目が見える時がある。やっぱり中にいらっしゃるのか、こんなに瘴気に覆われて生きていられるなんて、さすが主役のお相手ジークフリクト殿下。将来目を見張る光属性魔法の使い手となる彼だから、全く瘴気に取り込まれることなく生きている。このままでもそのうち自分で瘴気を消滅させそうだな、それまで待てばいいのに。

「では、茶でもいただくとするか」
 陛下の声にメイドと付き人が一斉に動き出す。僕の付き人はもちろんカシル。僕の座る予定の椅子をさっと引き、待っている。陛下と殿下が座った後、僕と父も座った。
 そうして始まった茶会。静かにお菓子と紅茶を嗜んだあと、陛下が口をひらいた。陛下の瞳は王子殿下と同じ瑠璃青。髪はサラッサラの金。美男子すぎる。まぶしいから目をつぶりたい。不敬だからそんなことできないが。

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