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18予想はしてたけど、思ってたより酷い。

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グレンに話をした次の日。

何故か国王陛下と王太子殿下から連名で外出許可が下りた。

しかも、事前通達不要。


そして、一度だけでは無く、今後必要とあらば何度でも。

許可証を持って来てくれたテオ様とジェラルド様に、酷く狼狽してしまった。




「お二人はこの国を案じておいでですから。」
「“常夜の森”から魔獣が溢れ出すと拙いしねぇ。」

成る程確かにその通りである。


まさか、グレンがどちらかに話を通したとは思えないので、恐らく相談されたテオ様が奏上してくださったのだろう。

――グレンが来たらお礼を言わなければ。

そんなことを考えていると、噂をすればなんとやら。
いつもとは少し遅い時間にグレンがやってきた。

「…これ、フリアに。」
「え?ありがとうございます。」

顔を合わせるなり、突き出すように渡された手紙の差出人を確認して、息を飲む。

――シエル・マイアー

何かあったのだろうか。
不安に駆られるが、せっかくグレンが来てくれたのに、目の前で手紙を確認するのは気が引ける。

「中、読まないの」
「…じゃあ、読ませていただきますね。」

無言の圧力、というものだろうか。
有無を言わさぬ視線で、手紙を読めと示される。




“フリアちゃん、ごめんね。
ちょっと、面倒なことになってる。
ごめん、助けて欲しい。”




手紙を読み終わるとすぐさま外出の準備をする。





「行くの」
「えぇ、ここからすぐに転移するわ。」
「俺も、一緒に」
「駄目よ。危険だわ。」

これは、譲れない。

危険に巻き込むわけにはいかないから。



「でも、不安定、なんでしょ。魔力。」
「えぇ、でも、魔力の流れを共有出来る相手ですもの。微調整せずとも転移できるわ。」



「外出許可証、どうもありがとうございます。
――今日中には帰って来ますので!」

返事を聞かずに瞬時に転移する。
一先ず状況確認が先決。
報告は帰ってからでもいいだろう。




――とにかく、今は、シエルのところへ。



当主不在の領地。


日夜湧き出る魔獣の群れ。
戦闘能力はあるが、決定打に欠ける討伐。

瘴気の中から生まれ出る魔獣と違い、人間は回復に時間がかかる。


「…っ!!なにこれ!」

目の前に広がる光景に息を飲む、
深く、瘴気に覆われどんよりとした空。

「――シエルは…!?」

ザッと辺りを見渡すが、探している人は見当たらない。

それなら、と自分を中心に魔力を広げ、周囲を確認する。

“常夜の森”で道に迷ったときに、と幼い頃に叩き込まれたこの技がまさかこんなところで役に立つとは。




「―――居た!」

居場所を特定し、風を纏い最速で移動する。

「シエル、無事っ!?」
「…、フリア、ちゃん?」
「ちょ、何があったの!?こんな、怪我して!!」

倒壊寸前の建物の影に、力なく座り込む探し人。
剥き出しの皮膚には幾筋もの朱が走り、纏っている衣も所々裂けてしまっている。

傷が悪化しないように、化膿止めの軟膏を見える範囲で塗っていく。

「…フリアちゃん、痛い」
「我慢して。化膿したら大変だから。」
「うぅぅぅ…」
「…私が、治癒の魔術を使えたらよかったんだけど…」

頭ではわかっているが、やはり痛いものは痛いのだろう。眉根を寄せて、上目遣いにこちらを見詰めてくる。
生憎、魔力は有り余っているのだが、治癒の魔術を行使できない私では怪我や傷をどうすることも出来ない。

「フリアちゃんは悪くないよぉ。僕が、自分の魔力の容量をしっかり把握出来ずに、魔力切れを起こしちゃった結果がこれだからぁ…」

シエルは魔力を持っている。

魔術師として生きて行くには量が足りず、魔獣を討伐できる程でもない。

しかし、マイアー家が代々受け継ぐ“魔力の流れを整える”技を自分なりに派生させ、更に己の魔力を乗せる事で、“治癒の魔術”のような効果を持つ技を使う事ができる。




「数日前から、湧き出る魔獣の群れが急増してて…。
うちの方でも支援出来るところはしてるんだけど…。
最近の“バイアーノ公爵”は“決定打”に欠けててね…」

「領民がどれだけ戦えても、“群れの大元”が叩けなければ、消耗するものね…」

魔獣の群れの大元を探し出す事ができるのは、バイアーノ家 “直系の魔力”を有する者。


母が存命中は、その配偶者である“現バイアーノ公爵”も同じように魔力を扱えていたのだが…。

母が召されておおよそ三ヶ月経とうとしている今現在において、“現バイアーノ公爵”はただの“人”である。
魔獣の群れの大元を探し当てるということは、到底無理な話だ。

きっとシエルは傷ついたバイアーノの領民をなんとか癒やそうと駆け回ってくれたのだろう。
そして、魔力が尽きて、ここに隠された。と。

「シエル、あなたなら、コレを使えるわよね?」

差し出したのは真っ赤に染まった“吸魔の石”が詰まった袋。
使用後の石を三種類に分類し、袋に入れて保管していた。その一つを手元に転移する。

「…え、これ…」
「これは“シエルの”でしょう?」

戸惑いながら返された言葉に、袋の口を開きながら答える。

「アレクさんには出発前に“返した”から、そろそろ手元に届くはず。もう一人は…、向こうで直接渡すわ。」

目的地に、必ず居ると確信しているから。

「ありがとう…フリアちゃん。」
「いいえ。お礼を言うのは私の方だわ。ありがとう、シエル。」




シエルが袋を受け取るのを確認して、目的地へと足を向ける。





「ここから先は、目的は同じでも、役割が違う。お互い、気をつけて臨みましょうね。」

「うん。フリアちゃん、気をつけてね。」

「えぇ、シエルも、気をつけて。」





言葉を発すると同時に、姿が揺らぐ。

瞬き一つでその場から掻消えた彼女に、一人呟く。






「あーぁ、ほんとーに、大馬鹿野郎だよ…ガロン兄様は。」




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