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11新たな出会い。
しおりを挟むちょうど、太陽が真上に差しかかる時間になった頃。
目的の場所にたどり着いた。
「わぁ、すごい。さすが王都、品揃えがすごい。」
「ありがとう。なにか気になる物があったら、声かけておくれ。」
店先には一般的な薬草や植物の種や苗が、ところ狭し並べられており、奥に行くに従って段々と栽培が難しいと言われる種類に変わっていく。
奥へと進みながら、商品を物色する。
いっそう奥まった場所に、お目当ての物を見つけて歩を進める。
「お嬢さん、それは育てるのに魔力が必要だよ。」
店主であろうお婆さんがこちらに近づきながら話しかけてくる。
「綺麗な花とおいしい実が付くんだけどねぇ。魔力付与された畑だけでは育たない植物でね。栽培中も大量の魔力が必要になるから、家庭向きじゃぁないよ。」
魔力が必要な植物にはいくつか種類があるが、大抵のものは魔力付与された畑であれば育てることができる。
魔力付与された土は、値段は張るが一般的に出回っており、魔力を持っていない人でも植物栽培を楽しむことができるように工夫されている。
「この植物たちをきちんと実らせる事ができた人を、私は一人しか知らないよ。」
隣に立ったお婆さんは、私が見ている棚からいくつかのものを取り出した。
出された植物は全部で五つ。
林檎・桃・檸檬
そして、
無花果と柘榴
「お嬢さんに育てる自信はあるかい?」
「…えぇ。
母が、庭で育てていたので。」
そう。
魔力を必要とする植物、と聞いて、真っ先に思い浮かぶのがこの五つだった。
まだ自分が小さかった頃、高い枝に実った果物を取ろうと木に登り、見事に落っこちて泣きべそかいているところを、母に見つかって大笑いされた。
今になって思い返せば、枝から落ちた我が子を笑い飛ばした母は中々鬼畜だったのかもしれない。
「…。そうかい。
数年前にね、その実を持って私に会いに来てくれた女性が楽しそうに話していたんだよ。
“うちの娘が、この実を取ろうと木登りをして、見事に落っこちたんですよ。誰かに話したい気分だったので、世間話ついでに、差し入れです。”とね。」
――なるほど、その時の子供はお嬢さんだったわけかい。
私を見て、にっこり微笑むお婆さん。
――母よ、貴女は他所様になんてことを話してくれたんだ。
「私では、育てられませんかね?」
お婆さんの話を、否定も肯定もせずに、曖昧に微笑みながら問いかける。
「きっと育つと思うよ。大事に育てておくれ。」
代金を支払い、品物を受け取る。
嵩張ることを気遣ってくれたのか、圧縮の魔術がかかった専用の苗箱に入れて渡してくれた。
苗箱には持ち手も付いており、ちょっとよそ行きの手提げ鞄のような外見だ。
店の奥から店先に移動すると、日差しが目に入って一瞬目が眩む。
「お帰り。いいもの買えた?」
視界が戻ってきたところに、聞き覚えはあるが、ここには居ないはずの人の声が鼓膜を揺らす。
「…、え、テオ様?」
――どうしてここに。
アイビーグリーンの髪に
エメラルドグリーンの右目と、金色の左目のオッドアイ。
こんな特徴的な外見の人を見間違えるわけが無い。
でも、ここに居る理由もわからない。
「ジェラルドがさ、今日フリア様を連れて市に出るって言っていたから。フリア様が行きたがる場所と言えばここ辺りかなぁ、思って。」
「あぁ、なるほど。テオ様今日はお休みなのですか?」
テオ様の服装はジェラルド様とは少し系統が違うが、制服のローブ姿ではなく、裾が緩めのズボンにパーカーというプライベート仕様だ。
並んでいるところを見ると、やっぱり二人とも系統が違って面白い。
「勤務中、かな。一応。
今日は市場調査・防犯を兼ねて師団員と市を見回りしているんだ。」
テオ様の視線の先には、設置された椅子に腰掛け、こちらの様子をうかがっている男性の姿が。
おそらく、あの人がテオ様とペアで見回りをしているんだろう。
「テオ様、人を待たせているのなら、早く戻られた方が…」
勤務中に私事で席を外すのはあまりよろしくないのでは無いだろうか。
ジェラルド様をそっと伺うが、テオ様にとっていつものことなのか、それとも諦めているのか、ジェラルド様はそっと肩をすくめて見せただけだった。
「フリア様も、ジェラルドも、昼食を一緒にどう?」
たしかに、言われてみればそろそろお昼にはちょっと遅いくらいの時間である。
しかし、テオ様は絶賛勤務中なわけで…
「…、まぁ、“昼休み”とでも思うことにしたら、よいのではないでしょうか。」
「あぁ、なるほど。勤務中でも休憩時間はありますものね。」
ジェラルド様もとりあえず納得しているみたいだし、私たちはお昼をご一緒することに。
今居る区画から一番近い屋台で、それぞれお目当ての料理を持ち寄ってテーブルを囲む。
「グレンだ。」
「初めまして、フリアと言います。」
初めましての挨拶をしようとしたところ、一方的に名乗られました。
「フリア様、グレンは人見知りだから、気にしないで。」
テオ様から、すかさずフォーローが入るが、私は特に気分を害したわけでもないので、気にしないでくださいと返事をする。
漆黒の髪に薄い金色の瞳を持つ彼は、水の魔術が得意らしい。
テオ様がちょっとだけ紹介してくれた。
「ジェラルド、フリア様と何か話しした?」
「…。いつにも増して唐突だな。
フリア様と、魔獣討伐について話していた。かの領民は“本当の魔剣”を使用し、魔獣を討伐するらしい。」
「へぇ。バイアーノ領って魔力持ちが集まっているんだね。」
“本当の魔剣”がなにか察しが付いたのであろうテオ様は目をキラキラさせながらこちらに視線をよこしてくる。
「領民に魔力は皆無に等しいですよ。全ては領内であるからこそ、なので。」
バイアーノ領は“常夜の森”から出てくる魔獣を退治することが義務付けされているため、領民は領外で魔剣を使用することはできない。
そもそも、領外に出ることがないので、問題はない。
「…公爵家の“庇護”か」
「グレン様、よく御存知で。」
ボソリ、呟かれた言葉に素直に驚く。
隣の領ならいざ知らず、まさか王都の魔術師団員が知っているとは驚きだ。
「…で。フリアは?」
「え?」
咄嗟に、なにを言われたのか理解できない。
目を丸くしていると、溜息混じりに言葉が続く。
「魔獣退治。フリアも、領内でしかできないのか?」
「いえ。私は、どこであっても魔術を使用できるので。」
「じゃ、魔剣、出せるの?」
「…魔剣、出せますけど、私は扱えませんよ。」
さすが魔術師、とでも言うのだろうか。
魔剣に付いての食いつきが半端ない。
残念ながら、私は魔剣を扱えない。
なにせ体力が無いので。
あまり、運動神経がいい方でも無いし。
そもそも、運動神経がある程度よければ、木に登って落ちるなどあるはずがない。
「ふぅん。じゃ、どうやって倒すの」
「えぇと…。魔力を流して、内側から、破壊させる、みたいな感じなんですが…」
わかりにくいですよね、申し訳ない。
「ふーん、そう…」
理解したのかどうかは不明だが、グレン様の視線が離れていく。
やはり魔術師。
魔術のことにしか興味は湧かないらしい。
これ以上突っ込んで聞かれても、答えられる自信も無いので、よかったと思っておくことにする。
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