11 / 104
10物理的魔術とは。
しおりを挟む月に一度だけ開かれる市とあって、露店が建ち並ぶ区画は人で溢れかえっている。
道の両脇に並んで経つ店はある程度区分がされているらしく、雑多であるものの、乱雑さは感じられない。
「ここらは飲食店が建ち並ぶ区画です。」
「露店街ではテイクアウトが基本なのですね。」
飲食店の区画に限らず、休憩スペースとして、テーブルと椅子が置かれている場所がちらほらあるが、たいていの人は、手渡されたそれをそのまま食べながら他の店を覗くというスタイルらしい。
「なにか、気になる食べ物があればお持ち致しますよ。」
「いえ、お気遣い無く。」
物珍しさから、周囲を見回していたのだが、どうやら空腹だと思われたらしい。
残念ながら、朝は早々に起きて朝食をとるため、今はあまり空腹では無い。
余裕があれば、なにか買って食べ歩いてもいいかもしれない。
暫く歩いていると、飲食エリアを抜けたらしく、今度は生鮮食品が売られているエリアに入ったようだ。
店先に並ぶ野菜や果物はどれも瑞々しく、水洗いなど必要ないくらい綺麗な状態で並べられている。
「ところで、フリア様から頂いている食料なのですが、最近わかったことがありまして。」
「なんでしょう?なにか不具合でもありましたか?」
食は生きることに直結する部分だ。なにか不具合があったのではシャレにならない。
「不具合では無いのです。むしろ、恩恵といいますか…。」
言いあぐねているジェラルド様に視線を向けると、少し微笑んでから口を開く。
「フリア様が育てた食物を食べると、身体強化がなされたり、体力がより早く回復したりといいこと尽くめなのです。」
「へぇ。そうなんですね。
私は全然実感が無かったので驚きです。」
王都周辺でもそれなりに魔獣が出るらしく、騎士団は討伐に向かうことが多いそうなのだが、私が育てたものを食べると、魔獣討伐が格段に楽になるのだとか。
私の魔力が影響しているのか、はたまた魔力を使用して栽培されたもの全てにそういう力があるのかはまだ解明できていないらしい。
何故かというと、通常の魔術師では、植物に魔力を注いで育て続けるのは魔力量の問題があるため、とても難しいのだとか。
現在、魔術師団員で協力しながら交代制で麦を育てている最中だとテオ様が楽しそうに話していた。
「ところで、騎士団はどのようにして魔獣を倒すのですか?」
「騎士団員は魔力を持っていない者、持っていてもごく僅かな者達ばかりなので、基本的には武器を使って倒します。
通常の武器では魔獣に傷一つ付けられませんので、魔石を填め込んだ武器を使いますね。
防具も同じく、魔石を仕込んだものを使用します。」
――もし、平時で魔獣と遭遇したときのために、騎士団員は必ず予備の短剣には魔石入りの物を持ち歩くのです。
そう言って懐から取りした短剣を私に見せてくれる。
「へぇ、これがいわゆる“魔剣”ってやつですよね。初めて見ました。」
「フリア様達はどのようにして魔獣を倒すのですか?
魔術師団のように、やはり魔術で討伐になるのでしょうか。」
「バイアーノ領の殆どの者達が、おそらく魔術師団と同じ方法で討伐していると思います。
魔術師とは異なり、属性魔術は使用できませんので、“物理的魔術”と、私たちは呼んでおります。」
互いの討伐方法を紹介し合いながらも歩みを止めずに目的地を目指す。
「“物理的魔術”とは、一体…。」
ジェラルド様があからさまに困惑している。
確かに、魔術なのに物理というのは中々おかしな話である。
「魔術師であれば、属性を持っていますよね?」
「そうだと聞いている。たしか、テオは風属性に適正があると言っていた。」
魔術を使用できる一番身近な人として思い浮かぶのがテオ様だなんて、この二人は本当に仲がいいようだ。
「バイアーノ領の領民は“魔獣討伐のための魔術”は使えても、“世間一般の魔術”は使用できないんですよ。」
「と、言うと?」
「たとえば、水の魔術が使える人は、水を生成することができますよね。」
「あぁ、そうだな。」
「バイアーノ領の領民は水も生成できないし、風を吹かすことも、火を生成することも、地形を変えることもできません。
ただ、魔獣に対してのみ、効果的な魔術を駆使できます。」
つまり、属性魔法は使えない。
けれど、魔獣を倒す魔術において、右に出るものなど居ない。
「領民は魔力で“魔剣”を生成して、魔獣と戦います。
“魔剣”で魔獣以外のものは斬ることができません。」
「正真正銘本物の魔剣ということか。」
私の説明に納得してくれたのか、しきりに成る程、と呟いている。
「たしかに、“物理的魔術”だな。」
「えぇ、魔獣から人々を守る事が、我が一族、領民に課せられた使命ですので。」
存在理由を示すため。
周囲にどれだけ恐れられようと、遠巻きにされようと、唯ひたすらに魔獣を殲滅する。
たとえ、守ろうとしている者達から、忌み嫌われようと。
“守ること”それが私たちの存在意義なのだから。
0
お気に入りに追加
1,163
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件
紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、
屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。
そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。
母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。
そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。
しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。
メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、
財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼!
学んだことを生かし、商会を設立。
孤児院から人材を引き取り育成もスタート。
出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。
そこに隣国の王子も参戦してきて?!
本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る
とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡
*誤字脱字多数あるかと思います。
*初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ
*ゆるふわ設定です
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる