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06久しぶりのホームタウン。
しおりを挟む“白羽の矢”が突き刺さってから一週間。
漸く王都の屋敷に着くことができた。
バイアーノ公爵領は王都の遙か南に位置しているため、通常であれば王都まで半月かかる。
正確にはバイアーノ領からここまで来たわけでは無いが、マイアー領は隣接する領なので日数的にそう変わらない。
なぜ、こんなにも通常よりも早く王都に入ることができたのかというと。
「やっぱり、フリアちゃんの魔力は凄いねぇ。ここまでたった半日で着いちゃうんだから。」
「凄いのは私じゃないわ。
私の魔力をうまく制御して、転移座標をきちんと屋敷に合わせてくれたのはシエルの力じゃないの。感謝してるわ。」
突然、屋敷の庭先に現れた私たちと馬車に、屋敷の執事が驚いていたようだが、正体が私たちだとわかると心得たとばかりに屋敷の者達に指示をだしている。
「ご無沙汰しております。フリア様。」
「色々と任せっぱなしにしてしまってごめんなさいね。今暫く、任せてもいいかしら?」
「もちろんです。我が命はバイアーノに捧げておりますので。」
屋敷の執事は母の専属執事だった人。
母が亡くなってから、こちらの管理を一手に引き受けてくれている。
感謝してもしたりないくらい、恩がある人である。
「じゃぁ、フリアちゃん。僕はこれで。」
「ありがとう、シエル。元気でね。何かあったら必ず知らせてね。絶対、駆けつけるから!」
転移魔術が消えないうちに、シエルをしっかり送り届けなければ。
そうは思っても、やはり知り合いとのしばしの別れは名残惜しい。
「うん。約束する。
フリアちゃんも、無理はしないでね。」
そう言い残して彼は転移魔術の中に消えた。
きっと日が暮れる前には向こうの屋敷に着くのだろう。
「フリア様、王宮には明日向かいますか?」
「そうね。こちらで少しゆっくりしたいし。お願いするわ。」
一礼して去って行く執事を見送ってから、先程まで転移魔術で輝いていた場所を眺める。
高度な魔力操作が必要になるが、魔力量はそこそこで使える転移魔術。
魔力量によって転移できる距離は異なる。
私の場合、バイアーノ領からこの王都の屋敷まで中継せずにたどり着ける程度の魔力はもっている。
しかし、魔力が多いということは、それだけ緻密な魔力操作が必要になってくるわけで。
シエルが居なければこの距離で移動は不可能だった。
帰りに関しては、シエルは自分で座標を決める能力があるので、私の魔力を込めた魔石を使ってもらった。
矢が突き刺さってから、すぐにこちらに転移してきてもよかったのだが、数日間は念のためひたすら魔力操作と魔力移転の訓練をしていた。
国の中心で魔力を暴走させるわけにはいかないので、なかなか必死に練習した。
おかげで、魔力が蓄積され過ぎないように対策をいくつか見つけることができた。
まず、もともと私が得意とする魔術。
“植物の成長を促進する魔術”
を使用して、植物の生長を促しつつ、魔力を発散する方法。
次に、魔力移転を使用し手頃な石などに魔力を込める。
魔力が込められた石は魔石となるが、王宮なら使用方法はなにかしらあるのではないかと考えている。
それについては、王宮の担当者に相談してみるつもりだ。
あとは、魔力操作を駆使して日常生活で魔力を発散させるというもの。
一番習得に苦労したのは、“魔術を使い、調理をすること”だった。
調理に関しては、魔獣退治のときなど野営することがしょっちゅうなので問題なかったのだが。
焚き火ではなく炎の魔術で火力の調整をしたり、水の魔術で食材を洗ったり…。
数々の失敗を繰り返し、漸く安全に使用できる程度まで落ち着いたのでいまに至る。
そして、どうにもならなくなったときの最終手段として、“奈落の谷”での殲滅戦に加わる。
というもの。
最大限魔力を発散できて、かつ、国のためになるのだ。
きっと王様も喜んで行かせてくれるだろう。
もういっそ、後宮ではなく常に“奈落の谷”の縁で見張れと言われたってかまわない、程度に王宮に行きたくないのが本音。
「ま、なんとかなるでしょ。」
今更色々心配したってしょうがない。当たって砕けろ精神で乗り込むしかないのだから。
まぁ、砕けるつもりはさらさら無いけど。
「――それ、魔石のクズ?」
「え、あ、はい。厨房にある分を使い切ってしまったので、魔力を込めてもらいに街へと向かいます。」
気分を切り替えて、屋敷に入ろうをしていると、大量のクズ石を持ったメイドを見かけて声を掛ける。
予想通り、今から街の魔石屋まで行く予定だったようだ。
「ねぇ、それ、私が魔力移転してもいい?」
「え、あ、あの…」
メイドは目に見えて困惑している。
そりゃ、雇い主同然の私に魔力移転なんて仕事をさせていいのかと戸惑うのも無理は無いと思うが。
「フリア様、魔力移転ができるようになったのですか?」
「そう。シエル達にしこたましごかれたからね!これくらいの量ならあっという間に完了するわよ。」
私を呼びに来たであろう執事の質問に胸を張って答える。
「では、マリア、魔石をフリア様に。」
「え、あ、はい。」
「それでは、よろしくお願いしますね。」
「任せて!」
庭先に置かれたクズ魔石の山に向かってゆったりと魔力を移していく。
一つの魔石が満タンになる量を把握し、後は一気に魔力を移転する。
炎の魔石として使用するそれらには当然炎属性の魔力を注入する。
指先から鮮やかな赤が流れ出る。
最初は糸のように細い光の線は次第に帯へと変化し、最終的には魔石の山全体を覆う大きな布のようになったかと思うと、徐々に光は消えてゆく。
「はい、完了。」
「さすが、お嬢様。
ファム様にまた一歩近づいたのですね。」
「そう言ってもらえると励みになるわ。ありがとう。」
その後、屋敷内の魔石全てに魔力を移転し終え、当分魔石に困ることが無い程度の魔石を作成した。
屋敷のみんなに感謝されたし、溜まった魔力も発散できたし、一石二鳥で満足な一日だった。
寝具に包まり、いい夢がみれそうだと微笑んだ。
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