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秋風そよぐお月見
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今夜はお月見です。
天気も朝から晴れており、秋雲がぷかぷかと空に浮かぶ、気持ちのよい日となっております。
夕方からは、お月見の準備をしています。
お月見団子と、里芋のきぬかつぎと言うものを作ります。
後は枝豆と栗も用意して、ススキを飾ります。
御神酒は、私が昨年漬けた梅酒が熟成されて飲み頃なので、それをご用意して御待ちしております。
「ハルさん、お月見団子丸めちゃいますよー」
キッチンでは葉子さんがお月見団子を作ってくれています。
「はい、15個でお願いします」
そう言うと「はーいっ」と元気な返事が聞こえてきました。
私は里芋を茹でている間、店の前に机と長椅子を用意していました。
「よいっしょ・・・っと。これで良いかしらね」
ぽんすけも邪魔にならないように、少し離れたところで、私を見守ってくれていました。
「ぽんすけも楽しみね。誰か来てくれるといいわね」
ぽんすけは尻尾を振り振りしています。
私は、そんなぽんすけの頭を撫でてから、店の中へ戻りました。
灰汁も取った綺麗なお湯で、里芋がコロコロと茹でられています。
「そろそろ良いかしらね」
塩を加えて、火から下ろしました。
そうして空いたコンロで、今度は用意していた栗を茹で始めます。
「お月見団子、出来てきていますね。白くて可愛いらしいですね」
「食べるのも勿体ないですよねー。これを乗せる台もあるんですよね」
葉子さんが、お月見団子を丸めながら言います。
「えぇ、三方って言うんですよ。勿論、もう出してあります」
「楽しみですねぇ」
わくわくが抑えきれないとでもいうように、ニコニコと残りのお団子も丸めています。
火から下ろして暫く置いた里芋をザルに上げましょう。
皮を上の半分だけ剥いていきます。
こうしておくと、食べるときに反対側を摘まむとツルンと綺麗に剥けるのです。
お皿に盛り、皮を向いたところに胡麻塩を振っておきます。
次第に日が落ちてきていた夕方の空も、ずいぶん暗くなってきました。
秋になり、お日様の上る時間が短くなるのも風情を感じます。
そうしていると、コンロの上ではグツグツと栗が茹で上がってきます。
「ハルさん、ススキの用意できましたよ」
葉子さんが、外のテーブルに徳利を置いて、ススキを飾っていました。
あれこれと準備していると、あっという間に夜の7時30分。
栗、きぬかつぎをテーブルに運びます。
三方の上に奉書紙を乗せ、真っ白まんまるなお月見団子をピラミッドになるように乗せます。
徳利に生けたススキと並ぶと、とても情緒があります。
奥の部屋から出してきた、去年の梅酒を御神酒として出して、準備は完了です。
その時、街の方へ続く真っ暗な道を、こちらに向かって歩いてくる人影が見えました。
「どうも、ご無沙汰してます」
「まぁ、ゲンさんではないですか」
「ハルさん、お知り合いですか?」
首からカメラをぶら下げ、リュックを背負った年配の男性を見て、葉子さんはキョトンとしています。
ぽんすけは彼を覚えているらしく、足元をぐるぐると走り回っていました。
「6月にうちに来てくださったお客様ですよ。ゲンさんです。蛍が専門の写真家さんなんですよ」
「おー!ぽんすけ、おっちゃんの事覚えてくれてたか!どうも、野上 源と言います。ゲンで構いませんよ」
ぽんすけをわしゃわしゃと撫でながら、そう言いました。
「へぇ!蛍の写真家さんなんて素敵ですねっ」
「はっはっは!そう言って貰えると嬉しいですな。と言っても、蛍のいない今の季節は、自然写真を撮って歩いとります」
「まぁ、そうなんですね。今回はこの辺りの写真を撮りにいらしたのですか?」
私がそう言う間も、ぽんすけとじゃれあっています。
ぽんすけは遠慮無しに、ゲンさんの顔を舐め回していました。
「そうです。まぁでも、今夜は十五夜でしょう。この店ならもしかして月見なんてものをやっとるんじゃないかと思いましてな」
お月見会の準備が整ったテーブルを見てそう言うと、ゲンさんはがははと豪快に笑いました。
「ふふふっ。大当たりでしたね。里芋も栗も沢山あるので、ご一緒しましょう。あ、前に送ってくださったぽんすけの写真、ここに飾らせて頂いているのですよ」
私は入り口の柱に飾った、額に入ったぽんすけの自信満々のお座りポーズの写真を指差しました。
「ほほぅ、飾ってくださったんですな!ありがとうございます」
と、とても喜んでおられました。
「こんばんは」
後ろから声を掛けられ振り向くと、橘さんご夫婦と栗原さんご夫婦。そして、白井さんがいらっしゃいました。
「お月見をやるってチラシを見たの。ご一緒して構わないかしら?」
橘さんの奥様に「勿論ですよ」とお答えすると、皆様も喜んでおられました。
「よーし!月も出ましたし、月見といきましょうか!」
ゲンさんが張り切ってそう言い、「あ!枝豆も持ってきますね!」と、葉子さんが店の中へ戻りました。
雲ひとつ無い田舎の夜空には、ぽつりぽつりと星が輝き始めました。
ここは電線も殆ど無いため、遮るものもありません。
そんな空には、黄色い光を放つ満月が浮かんでいます。
月の周りがぼんやりと明るく照らし出されて、何とも幻想的です。
リーンリーン・・・
月見を待っていたかのように、あちらこちらから鈴虫の演奏会も始まりました。
「はい、皆様お席につきましたね」
「はーい!」
私の問いに、葉子さんを筆頭に元気の良い返事を返してくださいました。
「お月見会にご参加くださり本当にありがとうございます。では、ささやかではありますが楽しんでいってくださいませ」
皆様は一斉に「乾杯」と梅酒を注いだ盃を掲げました。
いつもは静かなおにぎり食堂の前も、今夜はとても賑やかです。
優しく、涼しい秋の夜風が頬をそっと撫で、とても心地よいです。
来年もまた、皆様と楽しいお月見が出来ることを願いながら。
私達のあたたかい時間は、こうしてゆっくりと過ぎていきました。
天気も朝から晴れており、秋雲がぷかぷかと空に浮かぶ、気持ちのよい日となっております。
夕方からは、お月見の準備をしています。
お月見団子と、里芋のきぬかつぎと言うものを作ります。
後は枝豆と栗も用意して、ススキを飾ります。
御神酒は、私が昨年漬けた梅酒が熟成されて飲み頃なので、それをご用意して御待ちしております。
「ハルさん、お月見団子丸めちゃいますよー」
キッチンでは葉子さんがお月見団子を作ってくれています。
「はい、15個でお願いします」
そう言うと「はーいっ」と元気な返事が聞こえてきました。
私は里芋を茹でている間、店の前に机と長椅子を用意していました。
「よいっしょ・・・っと。これで良いかしらね」
ぽんすけも邪魔にならないように、少し離れたところで、私を見守ってくれていました。
「ぽんすけも楽しみね。誰か来てくれるといいわね」
ぽんすけは尻尾を振り振りしています。
私は、そんなぽんすけの頭を撫でてから、店の中へ戻りました。
灰汁も取った綺麗なお湯で、里芋がコロコロと茹でられています。
「そろそろ良いかしらね」
塩を加えて、火から下ろしました。
そうして空いたコンロで、今度は用意していた栗を茹で始めます。
「お月見団子、出来てきていますね。白くて可愛いらしいですね」
「食べるのも勿体ないですよねー。これを乗せる台もあるんですよね」
葉子さんが、お月見団子を丸めながら言います。
「えぇ、三方って言うんですよ。勿論、もう出してあります」
「楽しみですねぇ」
わくわくが抑えきれないとでもいうように、ニコニコと残りのお団子も丸めています。
火から下ろして暫く置いた里芋をザルに上げましょう。
皮を上の半分だけ剥いていきます。
こうしておくと、食べるときに反対側を摘まむとツルンと綺麗に剥けるのです。
お皿に盛り、皮を向いたところに胡麻塩を振っておきます。
次第に日が落ちてきていた夕方の空も、ずいぶん暗くなってきました。
秋になり、お日様の上る時間が短くなるのも風情を感じます。
そうしていると、コンロの上ではグツグツと栗が茹で上がってきます。
「ハルさん、ススキの用意できましたよ」
葉子さんが、外のテーブルに徳利を置いて、ススキを飾っていました。
あれこれと準備していると、あっという間に夜の7時30分。
栗、きぬかつぎをテーブルに運びます。
三方の上に奉書紙を乗せ、真っ白まんまるなお月見団子をピラミッドになるように乗せます。
徳利に生けたススキと並ぶと、とても情緒があります。
奥の部屋から出してきた、去年の梅酒を御神酒として出して、準備は完了です。
その時、街の方へ続く真っ暗な道を、こちらに向かって歩いてくる人影が見えました。
「どうも、ご無沙汰してます」
「まぁ、ゲンさんではないですか」
「ハルさん、お知り合いですか?」
首からカメラをぶら下げ、リュックを背負った年配の男性を見て、葉子さんはキョトンとしています。
ぽんすけは彼を覚えているらしく、足元をぐるぐると走り回っていました。
「6月にうちに来てくださったお客様ですよ。ゲンさんです。蛍が専門の写真家さんなんですよ」
「おー!ぽんすけ、おっちゃんの事覚えてくれてたか!どうも、野上 源と言います。ゲンで構いませんよ」
ぽんすけをわしゃわしゃと撫でながら、そう言いました。
「へぇ!蛍の写真家さんなんて素敵ですねっ」
「はっはっは!そう言って貰えると嬉しいですな。と言っても、蛍のいない今の季節は、自然写真を撮って歩いとります」
「まぁ、そうなんですね。今回はこの辺りの写真を撮りにいらしたのですか?」
私がそう言う間も、ぽんすけとじゃれあっています。
ぽんすけは遠慮無しに、ゲンさんの顔を舐め回していました。
「そうです。まぁでも、今夜は十五夜でしょう。この店ならもしかして月見なんてものをやっとるんじゃないかと思いましてな」
お月見会の準備が整ったテーブルを見てそう言うと、ゲンさんはがははと豪快に笑いました。
「ふふふっ。大当たりでしたね。里芋も栗も沢山あるので、ご一緒しましょう。あ、前に送ってくださったぽんすけの写真、ここに飾らせて頂いているのですよ」
私は入り口の柱に飾った、額に入ったぽんすけの自信満々のお座りポーズの写真を指差しました。
「ほほぅ、飾ってくださったんですな!ありがとうございます」
と、とても喜んでおられました。
「こんばんは」
後ろから声を掛けられ振り向くと、橘さんご夫婦と栗原さんご夫婦。そして、白井さんがいらっしゃいました。
「お月見をやるってチラシを見たの。ご一緒して構わないかしら?」
橘さんの奥様に「勿論ですよ」とお答えすると、皆様も喜んでおられました。
「よーし!月も出ましたし、月見といきましょうか!」
ゲンさんが張り切ってそう言い、「あ!枝豆も持ってきますね!」と、葉子さんが店の中へ戻りました。
雲ひとつ無い田舎の夜空には、ぽつりぽつりと星が輝き始めました。
ここは電線も殆ど無いため、遮るものもありません。
そんな空には、黄色い光を放つ満月が浮かんでいます。
月の周りがぼんやりと明るく照らし出されて、何とも幻想的です。
リーンリーン・・・
月見を待っていたかのように、あちらこちらから鈴虫の演奏会も始まりました。
「はい、皆様お席につきましたね」
「はーい!」
私の問いに、葉子さんを筆頭に元気の良い返事を返してくださいました。
「お月見会にご参加くださり本当にありがとうございます。では、ささやかではありますが楽しんでいってくださいませ」
皆様は一斉に「乾杯」と梅酒を注いだ盃を掲げました。
いつもは静かなおにぎり食堂の前も、今夜はとても賑やかです。
優しく、涼しい秋の夜風が頬をそっと撫で、とても心地よいです。
来年もまた、皆様と楽しいお月見が出来ることを願いながら。
私達のあたたかい時間は、こうしてゆっくりと過ぎていきました。
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