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菜の花ごはんのおにぎり
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「あぁ・・・良い匂いねぇ」
土鍋の蓋を開けると、お出汁でほんのりと色付いた艶々のご飯の湯気が、ふわりと立ち上ります。
茹であがった菜の花は、きゅっと絞ってから刻んで少しのお醤油で和えておきます。
あとは、フライパンで卵を炒めます。
炊けたご飯に、それらを混ぜておきます。
お客様にお出しするときは、おにぎりにしようかと思っています。
ですが、本来はお客様の食べたいものを優先しますから、白ご飯も炊いておきましょう。
余ったら、私達の食事にすれば良いだけですからね。
蛸がくつくつと煮たったお湯の中で、みるみる真っ赤に変わっていきます。
食べやすい大きさに切っておきましょう。
青々としたあさつきは、サッと茹でて水気を切ります。
お酢や砂糖、お味噌汁やお酒、あとはカラシを混ぜておきます。
茹でた蛸とあさつきを盛って、カラシ酢味噌を掛けて完成。
あさつきはサッと茹でただけで歯応えもあるので、蛸と一緒になると食感が楽しい、ピリッとカラシの効いた酢味噌和えですよ。
「あら葉子さん、どうしました?」
午前10時30分。
パタパタと2階から駆け下りてきた葉子さんが、慌てた様子で玄関に走って行きました。
食堂の玄関近くにある寝床で丸まっていたぽんすけも、びっくりして立ち上がっています。
「洗濯物が飛んでいっちゃったんですー!」
急いでサンダルを出して履き、玄関を飛び出していきました。
朝、一時間ほど窓を開けていましたが、空気が冷たくて今は閉めています。
とても良いお天気で、きらきらとしたお日様が食堂を優しく照らしていますが、時折吹き付ける風がガタガタと窓を鳴らしていました。
「春一番かしらねぇ」
台所の前でこちらを見上げているぽんすけは、私の言葉に首をかしげるような仕草をしています。
そんな可愛らしいぽんすけの姿に、思わず頬が緩んでしまいました。
「ふふふっ。わかんないわよねぇ。・・・よしっと」
お味噌汁のお鍋に、鰹節をふんわりと入れます。
そうしていると、シャツを抱えた葉子さんが帰ってきました。
「結構飛ばされちゃってました・・・これ、手洗いしてきます。今日は中に干した方が良いですねぇ」
「後で私が洗っておきますよ。お洗濯、いつも任せっぱなしでごめんなさいね」
「いえ!ハルさんは朝早くから、畑仕事やお料理をやってくださっていますから。私はこれくらいしか出来ないので。これは私の仕事です」
葉子さんは、2階へと駆けて行きました。
春一番が吹き荒れる日。
お客様はいらっしゃるでしょうか?
12時。
未だ静かな食堂では、ぽんすけが歩き回る足音が際立ちます。
窓辺のテーブル席に腰掛けて本を読んでいましたが、ゴォッと強く吹く風に、なかなか集中力が続きません。
「まぁ、砂埃・・・」
春一番の風に、砂が高く舞い上げられています。
「流石に、今日は誰もいらっしゃらないかもしれないわね」
お客様の居ない食堂で、ぼんやりと外を眺めているとあっという間に一時間が過ぎようとしていました。
午後1時過ぎ。
「お客さん、来ないわねぇ・・・お昼ごはんにしましょうかね」
2階で本を読んでいる葉子さんを、呼びに行こうとした時、食堂の扉が開きました。
「こんにちは・・・あ、ぽんすけ」
「あら、小田さん!いらっしゃいませ、どうぞ」
ぽんすけの前の飼い主さん、小田 圭織さんです。
嬉しさのあまり後ろ足で立ち上がり、小田さんのズボンに前足をかけようとしたので、私は慌ててぽんすけを呼んでしまいました。
「ぽんすけ駄目よ。ごめんなさいね」
「いえ、こんなに喜んでくれるなんて・・・」
小田さんがしゃがみこんで頭を撫でると、嬉しそうに目を細めています。
「あ!小田さん、こんにちは!」
2階から降りてきた葉子さんは、お茶を淹れる湯飲みを食器棚から取り出しました。
「寒かったでしょう?今日は風が強いですから・・・。今日は誰もいらっしゃらないのかと寂しく感じていましたから、とても嬉しいです。小田さんは、菜の花は苦手ではありませんか?」
「はい。お正月のお雑煮くらいでしか食べたこと無いんですけど、食べられます」
「菜の花でおにぎりも出来るんですが、何かお料理の注文などありますか?」
「いえ、ハルさんのお勧めでお願いします。中々こういうお店って無いので、お勧めの美味しいものが食べたくて」
ちょうど葉子さんがお茶を運び、小田さんは頭を下げて「ありがとうございます」と仰いました。
「休みが取れたので、どうしても来たくて。休日も仕事の電話があったり、会社に行かなきゃいけない事があって・・・」
テーブルから離れた壁際でお座りをして、小田さんを見つめるぽんすけに気がつくと、嬉しそうにニッコリと微笑みました。
「便利な世の中になればなるほど、気付かない所で頑張ってくださる方々がいるんですものね。感謝の気持ちを忘れないようにしたいですね」
卵と菜の花の黄色、茎の緑が何とも春らしく美しいそのご飯を手に取り、おにぎりにしました。
菜の花のおにぎり、蛸とアサツキのカラシ酢味噌和えと、お味噌汁を一緒にお盆に乗せます。
「はい、ゆっくり召し上がってくださいね」
葉子さんに台所の片付けをお願いして、私はテーブルにお食事をお運びしました。
「ありがとうございます。わぁ、綺麗なおにぎり」
色鮮やかなおにぎりに見入っています。 珍しそうにおにぎりを手に取ると、暫く目で楽しんでから召し上がりました。
「ハルさん」
台所に戻ると、洗い物を終えた葉子さんが小声で言いました。
「あの蛸のおかず・・・沢山作ってます?」
「ありますよ。どうしてですか?」
「じゃあ、あとでお昼に食べれますかね・・・?」
「あら。ふふっ、勿論ですよ。蛸、お好きなんですか?」
「大好物ですー!」
突然大きな声でそう言ったので、小田さんとぽんすけは、驚いて私たちを見ていました。
「どうかしましたか?」
「あ、あははっ。すみません。私、蛸が好きで・・・余ってたら食べたいなぁって」
恥ずかしそうに言う葉子さんを見て、小田さんは「なんだ、そうでしたか」と笑っています。
「でしたら、一緒に食べませんか?私も1人で食べるより楽しいですし」
「食べます!うふふーっ、嬉しい!」
「じゃあ私もご一緒しちゃおうかしらね。私、おにぎりを作りますから、葉子さんはおかずをお皿に移しておいてくださいな」
「はーいっ」
葉子さんはそう言うと、上機嫌で食事の用意を始めました。
「葉子さん、如何ですか?」
小田さんと同じテーブルに座り、蛸を頬張る葉子さんに尋ねると、うんうんと、力強く頷いています。
「美味しいです!蛸も美味しいけど、酢味噌が美味しくて・・・これ丸々一匹食べれそう」
それを聞いた小田さんと私は、思わず吹き出すように笑ってしまいました。
春一番の吹き荒れる田舎の食堂から、楽しい笑い声が溢れだしました。
食堂の隅でお座りして見ていたぽんすけも、笑っているような表情でこちらを見ていました。
「来る度に我が儘言ってすみません、見えるところで遊んできます」
「いいえ、ぽんすけも喜びますから。ただ、風が強いので小田さんも怪我だけはしないように気を付けてくださいね」
「はい!では、行ってきます。ぽんすけ行こっか」
玄関のドアを開けてもらうのを、今か今かと待ちわびていたぽんすけが、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねています。
軽く会釈をした小田さんは、ぽんすけを連れて店から出ていきました。
「ハルさん見てください。ぽんすけ、凄いはしゃいでますよっ」
窓から見えるぽんすけと小田さんの姿を見て、葉子さんが嬉しそうに言いました。
「あら、本当。二人とも楽しそうですねぇ」
小田さんが投げるボールを、ぽんすけが全力で走って追いかけています。
そんな楽しい時間を過ごす二人を見ているとき、ふとそばにある梅の木が目に入りました。
「葉子さん、今年はそこの梅の木の下で、お花見でもしましょうか」
「え!お弁当付きで?」
「えぇ。作りましょうか」
「します!お花見ーっ。今日の菜の花のおにぎり、できます?」
「まぁ、あれ気に入って頂けました?」
「はい!華やかだし、お花見にぴったりですよー」
食堂の隣ですが、お外で食べる食事はまた違った特別感を感じられるので、今から楽しみです。
長かった寒い季節ももうすぐ終わり。
寒いながらも、清んだ空気に包まれる1日を満喫しなければなりませんね。
土鍋の蓋を開けると、お出汁でほんのりと色付いた艶々のご飯の湯気が、ふわりと立ち上ります。
茹であがった菜の花は、きゅっと絞ってから刻んで少しのお醤油で和えておきます。
あとは、フライパンで卵を炒めます。
炊けたご飯に、それらを混ぜておきます。
お客様にお出しするときは、おにぎりにしようかと思っています。
ですが、本来はお客様の食べたいものを優先しますから、白ご飯も炊いておきましょう。
余ったら、私達の食事にすれば良いだけですからね。
蛸がくつくつと煮たったお湯の中で、みるみる真っ赤に変わっていきます。
食べやすい大きさに切っておきましょう。
青々としたあさつきは、サッと茹でて水気を切ります。
お酢や砂糖、お味噌汁やお酒、あとはカラシを混ぜておきます。
茹でた蛸とあさつきを盛って、カラシ酢味噌を掛けて完成。
あさつきはサッと茹でただけで歯応えもあるので、蛸と一緒になると食感が楽しい、ピリッとカラシの効いた酢味噌和えですよ。
「あら葉子さん、どうしました?」
午前10時30分。
パタパタと2階から駆け下りてきた葉子さんが、慌てた様子で玄関に走って行きました。
食堂の玄関近くにある寝床で丸まっていたぽんすけも、びっくりして立ち上がっています。
「洗濯物が飛んでいっちゃったんですー!」
急いでサンダルを出して履き、玄関を飛び出していきました。
朝、一時間ほど窓を開けていましたが、空気が冷たくて今は閉めています。
とても良いお天気で、きらきらとしたお日様が食堂を優しく照らしていますが、時折吹き付ける風がガタガタと窓を鳴らしていました。
「春一番かしらねぇ」
台所の前でこちらを見上げているぽんすけは、私の言葉に首をかしげるような仕草をしています。
そんな可愛らしいぽんすけの姿に、思わず頬が緩んでしまいました。
「ふふふっ。わかんないわよねぇ。・・・よしっと」
お味噌汁のお鍋に、鰹節をふんわりと入れます。
そうしていると、シャツを抱えた葉子さんが帰ってきました。
「結構飛ばされちゃってました・・・これ、手洗いしてきます。今日は中に干した方が良いですねぇ」
「後で私が洗っておきますよ。お洗濯、いつも任せっぱなしでごめんなさいね」
「いえ!ハルさんは朝早くから、畑仕事やお料理をやってくださっていますから。私はこれくらいしか出来ないので。これは私の仕事です」
葉子さんは、2階へと駆けて行きました。
春一番が吹き荒れる日。
お客様はいらっしゃるでしょうか?
12時。
未だ静かな食堂では、ぽんすけが歩き回る足音が際立ちます。
窓辺のテーブル席に腰掛けて本を読んでいましたが、ゴォッと強く吹く風に、なかなか集中力が続きません。
「まぁ、砂埃・・・」
春一番の風に、砂が高く舞い上げられています。
「流石に、今日は誰もいらっしゃらないかもしれないわね」
お客様の居ない食堂で、ぼんやりと外を眺めているとあっという間に一時間が過ぎようとしていました。
午後1時過ぎ。
「お客さん、来ないわねぇ・・・お昼ごはんにしましょうかね」
2階で本を読んでいる葉子さんを、呼びに行こうとした時、食堂の扉が開きました。
「こんにちは・・・あ、ぽんすけ」
「あら、小田さん!いらっしゃいませ、どうぞ」
ぽんすけの前の飼い主さん、小田 圭織さんです。
嬉しさのあまり後ろ足で立ち上がり、小田さんのズボンに前足をかけようとしたので、私は慌ててぽんすけを呼んでしまいました。
「ぽんすけ駄目よ。ごめんなさいね」
「いえ、こんなに喜んでくれるなんて・・・」
小田さんがしゃがみこんで頭を撫でると、嬉しそうに目を細めています。
「あ!小田さん、こんにちは!」
2階から降りてきた葉子さんは、お茶を淹れる湯飲みを食器棚から取り出しました。
「寒かったでしょう?今日は風が強いですから・・・。今日は誰もいらっしゃらないのかと寂しく感じていましたから、とても嬉しいです。小田さんは、菜の花は苦手ではありませんか?」
「はい。お正月のお雑煮くらいでしか食べたこと無いんですけど、食べられます」
「菜の花でおにぎりも出来るんですが、何かお料理の注文などありますか?」
「いえ、ハルさんのお勧めでお願いします。中々こういうお店って無いので、お勧めの美味しいものが食べたくて」
ちょうど葉子さんがお茶を運び、小田さんは頭を下げて「ありがとうございます」と仰いました。
「休みが取れたので、どうしても来たくて。休日も仕事の電話があったり、会社に行かなきゃいけない事があって・・・」
テーブルから離れた壁際でお座りをして、小田さんを見つめるぽんすけに気がつくと、嬉しそうにニッコリと微笑みました。
「便利な世の中になればなるほど、気付かない所で頑張ってくださる方々がいるんですものね。感謝の気持ちを忘れないようにしたいですね」
卵と菜の花の黄色、茎の緑が何とも春らしく美しいそのご飯を手に取り、おにぎりにしました。
菜の花のおにぎり、蛸とアサツキのカラシ酢味噌和えと、お味噌汁を一緒にお盆に乗せます。
「はい、ゆっくり召し上がってくださいね」
葉子さんに台所の片付けをお願いして、私はテーブルにお食事をお運びしました。
「ありがとうございます。わぁ、綺麗なおにぎり」
色鮮やかなおにぎりに見入っています。 珍しそうにおにぎりを手に取ると、暫く目で楽しんでから召し上がりました。
「ハルさん」
台所に戻ると、洗い物を終えた葉子さんが小声で言いました。
「あの蛸のおかず・・・沢山作ってます?」
「ありますよ。どうしてですか?」
「じゃあ、あとでお昼に食べれますかね・・・?」
「あら。ふふっ、勿論ですよ。蛸、お好きなんですか?」
「大好物ですー!」
突然大きな声でそう言ったので、小田さんとぽんすけは、驚いて私たちを見ていました。
「どうかしましたか?」
「あ、あははっ。すみません。私、蛸が好きで・・・余ってたら食べたいなぁって」
恥ずかしそうに言う葉子さんを見て、小田さんは「なんだ、そうでしたか」と笑っています。
「でしたら、一緒に食べませんか?私も1人で食べるより楽しいですし」
「食べます!うふふーっ、嬉しい!」
「じゃあ私もご一緒しちゃおうかしらね。私、おにぎりを作りますから、葉子さんはおかずをお皿に移しておいてくださいな」
「はーいっ」
葉子さんはそう言うと、上機嫌で食事の用意を始めました。
「葉子さん、如何ですか?」
小田さんと同じテーブルに座り、蛸を頬張る葉子さんに尋ねると、うんうんと、力強く頷いています。
「美味しいです!蛸も美味しいけど、酢味噌が美味しくて・・・これ丸々一匹食べれそう」
それを聞いた小田さんと私は、思わず吹き出すように笑ってしまいました。
春一番の吹き荒れる田舎の食堂から、楽しい笑い声が溢れだしました。
食堂の隅でお座りして見ていたぽんすけも、笑っているような表情でこちらを見ていました。
「来る度に我が儘言ってすみません、見えるところで遊んできます」
「いいえ、ぽんすけも喜びますから。ただ、風が強いので小田さんも怪我だけはしないように気を付けてくださいね」
「はい!では、行ってきます。ぽんすけ行こっか」
玄関のドアを開けてもらうのを、今か今かと待ちわびていたぽんすけが、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねています。
軽く会釈をした小田さんは、ぽんすけを連れて店から出ていきました。
「ハルさん見てください。ぽんすけ、凄いはしゃいでますよっ」
窓から見えるぽんすけと小田さんの姿を見て、葉子さんが嬉しそうに言いました。
「あら、本当。二人とも楽しそうですねぇ」
小田さんが投げるボールを、ぽんすけが全力で走って追いかけています。
そんな楽しい時間を過ごす二人を見ているとき、ふとそばにある梅の木が目に入りました。
「葉子さん、今年はそこの梅の木の下で、お花見でもしましょうか」
「え!お弁当付きで?」
「えぇ。作りましょうか」
「します!お花見ーっ。今日の菜の花のおにぎり、できます?」
「まぁ、あれ気に入って頂けました?」
「はい!華やかだし、お花見にぴったりですよー」
食堂の隣ですが、お外で食べる食事はまた違った特別感を感じられるので、今から楽しみです。
長かった寒い季節ももうすぐ終わり。
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