おにぎり食堂『そよかぜ』

如月つばさ

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和風グラタン

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 今日はクリスマス。

 子供達は、昨夜はサンタさんからのプレゼントに心踊らせたでしょうか?

 今頃、早起きさんは届いたプレゼントに歓喜しているのかしら。

 そんな事を想像するだけで、何だか私も幸せな気持ちになります。

「ぽんすけ、おいで」

 朝食のご飯が炊けたので、火を止めて棚から小さな箱を取り出します。

「ぽんすけにプレゼントよ」

 駆け寄ってきたぽんすけに見せるようにして、箱を開けました。

 赤色で、お星さまの柄が入った新しい首輪。

 ぽんすけは、お座りをしてそれをクンクンと匂っています。

「ちょっと待ってね。着けてあげる」

 古い首輪を外して、新しいのを着けてあげました。

 ピカピカの可愛い首輪を気に入ってくれたのか、嬉しそうに私の頬を舐めました。

「まぁ。ふふふっ。喜んでくれて良かったわ」

 それからは、葉子さんが起きてくるまでの間、はしゃぐぽんすけと遊んでいました。

「ハルさーん!」

 葉子さんが、パタパタと階段を掛け下りて来ました。

「葉子さん、おはようございます。あら、気付いてくれましたか」

「ありがとうございますー!凄く素敵です。暖かいし」

 葉子さんが好きな、青色の毛糸で作ったカーディガン。

 冬の間こっそりと編んで、何とかクリスマスに間に合ったので、昨夜のうちに枕元に置いておいた物です。

「ふふっ。気に入っていただけて良かったです。さ、朝ごはんも出来てますよ」

「はーいっ」

 葉子さんは上機嫌でお盆を取り出して、私が握ったおにぎりや、お味噌汁を乗せていきました。


「世の中はクリスマスなのねぇ」

 里芋をおすそわけに来てくださった栗原さんの奥様が、お茶の入った湯呑みに口をつけました。

「でも、クリスマスってイブの方が本番な気がしません?25日は、終わった感じがしてしまいますー。不思議ですよね、前夜なのに。あー!目が痛いっ」

 葉子さんが、玉ねぎを切りながら仰いました。

「サンタさんがくれるプレゼントを楽しみに、ドキドキするからかもしれませんね」

 私が言うと、栗原さんは「懐かしいわねぇ」とニコニコしています。

「ハルさん、こっちの具材切れましたよ」

「ありがとうございます」

 里芋と玉ねぎ、しめじと鶏肉も入れて和風のグラタンを作っています。

 鶏肉は皮から焼き目をつけて。

 玉ねぎも、じっくり炒めたら甘味が出ます。

 しめじを加えて炒めたら、小麦粉を馴染ませ、牛乳と茹でて潰した里芋とを合わせて煮ます。

 ソースにはお味噌で味をつけて、とろみが付いたらグラタン皿に。

 チーズをたっぷりと乗せて焼いたら完成。

 オーブンを開けると、こんがりと焼き上がったチーズが食欲をそそります。

 トロリとした里芋、お味噌で和風に仕上がったグラタンは、冬ならではのメニューですね。


「まぁ、ハイカラねぇ。美味しそう。お父さん、早く来ないかしら」

 栗原さんの旦那様は後からいらっしゃるとの事でした。

 ちょうどその時、食堂の扉が開きました。

「こんにちは、ハルさん」

「まぁ、とても良いタイミングで。いらっしゃいませ。ちょうどお料理が出来たところなのですよ。おにぎりは何になさいます?」

 栗原さんの旦那様を席にご案内して、葉子さんにお茶をお願いしました。

「そうだなぁ・・・昆布でお願いできるかな」

「かしこまりました」

 私は奥様の分の梅のおにぎりを作りながら、旦那様のグラタンをオーブンに入れました。

「ハルさん、我が儘言って悪かったね。里芋の料理なんて、困っただろう」

「いえ。煮物以外だなんて、私も滅多に作りませんから楽しかったですよ」

 そうして、奥様のグラタンとおにぎりをテーブルに運びました。

「旦那様の分もすぐに出来ますから」

「ありがとう。じゃあ先にいただこうかしらね」

 奥様はグラタンに興味津々のご様子でした。


「まぁ、美味しい。お父さん、これとても美味しいですよ」

 里芋グラタンを食べて、奥様は笑顔になります。

「食べなれないお料理でしょうから、お口に合うか少し心配でしたけど、そう言っていただけて安心しました。はい、お待たせしました」

 お料理をお持ちすると、旦那様は早速「いただきます」とグラタンを食べ「うん、旨い旨い」と気に入ってくださいました。

「葉子さん、そのカーディガン素敵ねぇ」

 奥様がおにぎりを食べながら、洗い物をする葉子さんを見て言いました。

「あ、気付きましたか!ハルさんが作ってくれたんですよー」

「へぇ、そうなの。編み物は歳とってからは出来てないわねぇ・・・すぐ疲れちゃうの」

 そう言って笑うと、それを見て隣で旦那様も笑いました。

「ハルさん、葉子さん、ごちそうさま。いつも美味しいお料理、ありがとう」

「また食べ飽きた食材があったら持ってくるよ。はははっ」

「もう、お父さんったら・・・あら、ぽんすけも新しい首輪になってるのね」

 見送りに出てきたぽんすけの頭を優しく撫でました。

「クリスマスのプレゼントね。良かったわねぇ、よく似合ってるよ」

 栗原さんの奥様に撫でられたぽんすけは、嬉しそうに体を擦り寄せていました。


「葉子さんは、お部屋のお掃除は済みましたか?」

「えー・・・あははは」

 テーブルを拭きながら、葉子さんは苦笑いをしていました。

「あら、ふふっ。大丈夫ですよ。私もまだ奥の部屋のお掃除が終わってませんから。明日は1日お休みにして、ゆっくりやりましょうか」

「はい!もちろんっ。いやぁ、中々やる気が起こらなくて・・・ハルさんみたいに、自分の部屋くらいは、普段から掃除しておくべきでした。来年からは頑張りますーっ」

「手がまわらなかったら、私もお手伝いしますから。はい、珈琲ここに置いておきますね。お疲れ様でした」

「ありがとうございますー」

 布巾を洗って竿に干した葉子さんが、私が座っているテーブルにやって来ました。


 お客様が帰られてからの、葉子さんとホッと一息つく瞬間。

 寒い冬も、こうして一緒に珈琲を飲んでくれる相手がいると、心まで温まるようです。

 勿論ぽんすけの存在も、私にとってとても大切ですよ。
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