夏物語

如月つばさ

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畑仕事

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「お、来たか。ほら亜子。見てごらん」


「うわぁ!おっきいスイカ!」


おじいちゃんが「そうだろう、そうだろう」と得意気に胸を張って見せる。


力一杯に茂る野菜達の葉の青臭さや、乾いた土の匂い。


おじいちゃんが一生懸命世話をしてきたこの畑は、私にとっても大好きな場所だ。


「あ!茄子も収穫しちゃったの?!私もやりたかったのに・・・」


「暑くなる前に収穫してしまった方が美味しいんだよ。亜子、そっちの茄子の篭を持ってくれるか?じいちゃんはスイカ持って帰るから」


「そっかぁ・・・今度は早起きしよう」


楽しみにしていた分、残念ではあるが仕方ない。


「よいしょっ」


茄子やトマトも入った、私の体の横幅より少し大きい篭を抱え、おじいちゃんと一緒に家まで歩いた。




「ただいまぁ」


「あ、おかえりー。いっぱい採れたんだねぇ」


私とおじいちゃんの持つ篭を覗くおばあちゃんの手には、手紙が1通握られていた。


「おばあちゃん!それ!」


「ん?あぁ、そうそう!亜子ちゃんに来てたよ。お母さんから」


「見せて!」


慌てて靴を脱ぎ、篭を廊下に置いて手紙を受けとり、破るようにして封を開けた。



亜子へ。


お元気ですか?


お友だちは出来ましたか?


そこでの生活が、亜子にとって楽しい毎日であると良いなと思っています。


お母さんもお父さんも、元気ですよ。


一緒にそっちに行けなくてごめんね。


夏休みが終わる頃には、お母さん達もそちらへ引っ越します。


もう少し待っててね。


お母さんより。



「お母さん、今月の終わりにはこっち来られるって!」


喜びのあまり、居間に戻っていたおじいちゃんとおばあちゃんの元へドタドタと廊下を走りながら叫んだ。


「そうかい、そうかい。良かったねぇ。部屋、掃除しておかないといけないね」


おばあちゃんは庭で、汲んできた川の水に野菜やスイカの篭を浸している。


「由里子は足は大丈夫なのかな。マサ君も仕事辞められるのか?」


おじいちゃんが、タオルで体の汗を拭きながら言う。


由里子はお母さん。


マサくんはお父さんの事だ。


「由里子は足が悪くて迷惑も掛けたから、すぐには辞められないって言ってたからねぇ。父ちゃん、マサ君に畑仕事教えてやりなよ」


「当たり前だ。もし、漁業やりたいなら知り合いにも話してやる。何とかなるさ」


「おじいちゃん、ありがとう!」


「はっはっは。じいちゃんに任せておけば大丈夫だ」


おじいちゃんは縁側に新聞を置き、うちわで扇ぎながらあぐらをかいた。




「おいしーねー!」


みずみずしいトマトは丸かじりだ。


口いっぱいに甘酸っぱい汁が溢れる。


「夜は焼きナスにしようね」


「わーい!」


おじいちゃんの畑の野菜は、お日様の優しい味がする。


それはきっと、おじいちゃんが毎日汗をかきながらも、懸命に世話をしてくれるからだと思う。


「そうだ、朝の話だけど。小さな神様って、本当に神様だったの?幽霊じゃなくて?」


トマトで濡れた手を、準備しておいたタオルで拭く。


「さぁねぇ。あれが幽霊だったとしても、ばあちゃんにとっては優しい幽霊だよ。今でも会いたいくらいさ。ただ、神社で出会ったから神様だと思ってるだけだよ」


「山にある神社?あそこ、字が難しくて読めない」


「稜徳神社りょうとくじんじゃって読むんだよ。この島唯一の神社だけど、随分寂れてるね。階段もきついし、年寄りばかりだから、掃除もままならないんだよ」


「そっかぁ・・・ごちそうさま。遊んでくるね」


部屋を出ようとした時、おばあちゃんが「亜子ちゃん」と呼び止めた。


「人間でも、動物でも、それ以外の何かも。見た目はみんな違うけどね。優しい心を持っている者を、自分と違うからって不必要に嫌っちゃいけないよ」


「えっ・・・」


「ばあちゃんは、亜子ちゃんの顔の傷があったってどうとも思わないよ。それにそれは、お母さんが亜子ちゃんを守った印じゃないか。お友達だって、少しずつでもわかってくれるよ」


頬の傷に手をやる。


触っただけでも、そこが傷だというのはわかるくらいだ。


「・・・わかった」


そう言って、居間を出た。

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